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80話:武術大会準決勝戦


 ちょっと時間があるなーとか思って闘技場の周りの屋台を巡っていたら、結構ギリギリの時間になってしまっていた。

 慌てて買い込んだものをアイテムボックスに突っ込んで場内に走り込むと、既に相手の人がスタンバイしている。

 うわ。ちょいガラの悪い兄ちゃんがめっちゃ睨んできてる。


「ええと……お待たせ」

「こっちも来たばかりだ。気にすんな」

「そりゃどうも……あれ?」


 なーんかこの金髪、どっかで見たことあるような。


「……前に会ったことある?」

「お前……覚えてねえのかよ」

「ええと。ごめん、なんとなく覚えてるような」

「前に、路地裏で」

「……あ。あの時の兄ちゃんか」


 思い出した。

 拳銃入れるホルダー探してたとき、路地裏でエリーちゃんと居た奴だ。

 革鎧に短剣なんか持ってるし、冒険者になったのかな。


「ずっと謝りたかったんだ。あの時はその……悪かったな」

「ふむ。とりあえず、謝罪は受け取ったわ」

「ありがとよ……そんでよ、お前に勝ったら言いたいことがある。

 その為に今日、ここまで来たんだ」


 ……は? 私と話すためにわざわざ武術大会出たの?

 いや、普通にお店に来てくれたら居たんだけど。


「いやいや、今言いなさいよ」

「まだ覚悟が決まってねぇんだよ。お前に勝てたら、自信がつくと思う」


 なんだそれ。ちょっと意味がわからないんだけど。

 なんか半笑いだし……ん? 若干耳が赤いか?


「……よく分かんないけど、分かった」

「おう。全力で頼むぜ」

「ん。了解」


 なんとなく笑いあって、開始戦へ下がった。


『皆様、長らくお待たせ致しました。これより、準決勝第二試合の選手を紹介します』

『白門側、新人冒険者リュート。一回戦では見事な剣技を披露してくれました。

 準決勝でもその技の冴えを見せてくれるのでしょうか。


 そして赤門側、『夜桜幻想(トリガーハッピー)』オウカ。

 射撃と格闘の両方をこなす実力派。一回戦は衝撃的な圧勝でしたが、準決勝はどうなるのか、期待が高まります』


 あ、今日もカノンさんとアレイさんだ。連日ご苦労様です。

 でもその二つ名は止めて。頼むから人前でその名を広めないで。


『それでは準決勝二試合目、開始!』


 合図と同時にホルダーから拳銃を抜き放つ。


「リング」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition!」


 迸る桜色を纏い、構える。

 左手を前に、右手は逆手に顔の横。

 重心を落とし、前を見据える。


「全力で踊ってあげる。着いてきてね」


 無意識に、微笑んだ。


「非殺傷弾」

「――装填済です」

「上出来だ、相棒」


 すかさず頭部に照準、それに反応して右に跳ばれた。

 おや。これはまさか、理解してるのか?


 再度照準するも、身を低くして狙いを外された。

 そのまま左右に動きながら駆け寄って来る。斬り付けられた短剣は、銃底で受け止めた。

 鍔迫り合いのように押し合い、すぐに後ろに飛んで離れる。

 さすがに力比べになると分が悪すぎる。


 て言うか、これはまた。


「最初から対策されてるなんて、初体験だわ」

「は。お前の戦い方は見てたからな。直線上に居なけりゃどうってこと無い」

「凄いね、よく見てる。拳銃なんて他に使ってる人いないのに」

「お前に勝つために今日まで鍛えてきたからな」


 いや、ちょっと意味が分からない。

 私に勝つためにわざわざ対策してきたってことか?


「俺はお前に勝って、前に進むんだ!」


 再度身を低くして駆けるリュート。

 瞬きをする間に距離を詰め、逆手で短剣が振るわれる。

 左から右へ。軌跡を確認して、跳んで躱す。

 続けて放たれた蹴り、これは銃底で打ち落とした。

 再度短剣が迫る。くるりと回転、迫り来る刃を躱し、肩に銃底を叩き付けた。

 ヒット。衝撃によろめく体。

 そのまま胸に発砲するも、薄紅の魔弾が彼を撃ち抜く時、ガンっと異質な音と共に弾かれた。


 オーエンさんの時と似ているな。魔法障壁か?


 回転し、胸を蹴り飛ばす。何か堅いものを蹴った感触。

 やはり障壁か何かを張っている。

 しかし、肩の打撃が通ったあたり、全身ではないようだ。

 恐らくは、急所の頭と胸だけ守っているのだろう。


 ああ。ちょっとだけ、楽しいかもしんない。

 

 私をよく理解してくれている。それがなんだか、とても嬉しい。

 さて。じゃあ、これはどうかな。


「リング。アヴァロン」

「――SoulShift_Model:Avalon. Ready?」

「Trigger」


 そう言えば、ソウルシフトって対人戦だと初めて使うかもしれない。

 胸が高鳴る。ドキドキする。

 ああ、どうしよう。これはもう、止められない。


 左右に障壁を展開、角度を調整し、目を向ける事無く即座に魔弾を撃ち込む。

 障壁に反射され、跳弾がリュートに向い飛んでいく。

 しかしこれは、短剣で辛うじて受けられた。


 ふふ。凄い、反応した。

 ああ駄目だ。サクラドライブが効きすぎてる。

 昔一度だけ、間違えてお酒を飲んだときに似てる。

 楽しくて仕方がない。


 駆ける。真っ直ぐに、敵を捕捉する。

 左右に連続で発砲、障壁に弾かれた四発の跳弾が彼に迫る。それが、視界の隅に見える。

 速度を殺さず小さく跳ね、横回転。

 跳弾がヒット。体勢が少し崩れ、そこに銃底を振り抜く。

 打撃が障壁に止められた。知ったことか。


 更に射撃。右手は真っ直ぐ顔に、左手は横に。

 直接射撃は障壁に止められ、跳弾が真横から肩を穿(うが)つ。

 屈み込み、回転。右の銃底で足を払いつつ左手で射撃。

 跳弾、浮いた足を撃ち抜き、大きく体勢を崩した。


 さあ、行くよ。準備は良い?


 連続して聞こえる発砲音。障壁の跳弾で音が流れ、同時に正面から乱射する。

 次第に音階が上がる。メロディとなって流れ出す。

 あらゆる角度から、風より速い速度で。

 私の想いをぶつけていく。


 当たる、当たる、弾かれる、躱す、当たる、受けられる。

 降り注ぐ魔弾の全てに反応し、致命となる攻撃だけを対処しているように見える。

 しかし。


 視線が、私から外れた。


 気付いた時には既に懐に。

 右の拳銃を手放し、剥き出しのお腹にそっと(てのひら)を当てる。


 反応する猶予を与えずに、後ろ足で地面を踏み抜く。

 腰を回転、脇腹から肩、肘を伝って加速。

 掌に到達した力を、左の拳銃と背部のデバイスでブースターで加速。そのまま掌を撃ち出した。


 会場内に轟音が響く。

 流れ込む力の奔流に、リュートの背中が爆ぜた。


 そのまま無言で膝を折り、倒れてくる。

 その無防備な頭を優しく抱き止めた


 ああ、楽しかった。まだドキドキしている。

 私の事だけを思って鍛えられた刃。

 それは一途で真っ直ぐで。どこか、嬉しかった。


『勝者、オウカ! 救護班を!』

『中々えげつない試合内容だったな、今の』


 場内にアレイさん達の声が響き、次の瞬間に喝采が巻き起こる。

 近くにスタンバイしてた治療院の人に彼を引き渡し、拳銃をホルダーに差し込む。

 薄れゆく魔力光。その中で、振り返った。

 運ばれて行くリュートを目にし、胸を抑える。

 

 まだ胸がドキドキしてる。

 なのに不思議と嫌な気分じゃない。

 もっともっと、一緒に踊っていたかった。そんな想いが心を満たしている。


 とりあえず周りに手を振りながら、そのまま会場を後にした。

 もし機会があればまた戦ってみるのも良いかもしれない。

 今度はもう少し危険のない状態で。

 

 ……しっかし、用ってなんだったのかな。今度会った時に聞いてみるか。


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