68話:アヴァロン
せっかくアスーラに来たので、今朝獲れたての魚介類を大量に買い込む事にした。
港町まじ凄い。王都の半額以下で新鮮な魚介類が買えるじゃん。
ふへ。なに作ろっかなー。
折角だしサシミって奴も試してみたいけど、生食はちょっと怖いかなー。
定番だと焼いたり煮たりだけど。魚や貝だけじゃなくて水棲の魔物とかもあるし、色々作ってみるか。
干してない魚を料理する機会ってあんまりないから、ちょっと心が弾む。
しばらくは魚介料理を作り置きしていこう。
〇〇〇〇〇〇〇〇
ウキウキしながら帰還中、街道に沿って飛んでると、馬宿の近くでゴブリンの群れを発見。
数は三匹。ついでなので狩って行くことにした。
一匹なら特に問題ないけど、群れてるゴブリンは冒険者でも万が一がある。
見つけ次第狩っておいた方がいい。
高空で魔力を圧縮して狙撃。
三発中三発、全て胸を撃ち抜いた。
よし。今日も良い感じだ。
着地して、普段使いのナイフでゴブリンの犬歯をゴリゴリと切り折っていく。
これ、中々大変なんだよね。地味に硬いし。
三匹目の犬歯にナイフを当てた時、不意に街道沿いの林の中で何かが動いた気がした。
人間っぽく見えたけど、念のためホルダーから拳銃を抜く。
「リング」
「――魔力反応:偽英雄です。警戒を」
「うわ、久しぶりにでたな」
黒い英雄の偽物か。
しっかし、前回に続いてまた街道沿いかー。何か意味あんのかな。
暗がりの中に一人。
上から下まで真っ黒なのは前と同じ。
今回の奴はフードは被ってない。長い髪がだらりと顔を隠していて、隙間から赤い瞳が覗いている。
服装はブラウスにスカートっぽい何か。
手には何も持ってない。つまり、レンジュさんでもエイカさんでもないって事だ。
となるとこれは……カノンさんの偽物、かな?
うーむ……とりあえず、撃ってみるか。
拳銃を向けると、偽英雄もこちらに手を翳してきた。
試しに発砲。しかし、ガキンと半透明の壁に弾かれる。
うわ、やっば。予感的中だ。
今のたぶん『堅城』だよね。
あれって魔王の一撃を防いだ盾って言われてるけど……私でどうにかなるんだろうか、これ。
試しに魔力を最大まで圧縮。
両銃口を併せ、城ゴーレムの核を貫いた魔弾を撃ち出す。
しかし私の最大威力の一撃は、偽英雄の障壁にあっけなく弾かれた。
あー。やっぱりかー。
んじゃ次は……走ってみるか。
「リング」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition」
桜色を曳いて、体を伏せつつ駆ける。
樹を蹴り、右に。障壁もそれに合わせて右に移動。
跳んだ先の枝を蹴り、左に。やや遅れて障壁も左に移動。
なるほど。障壁の移動に時間がかかるのか。ならば。
地面、木の幹、枝。
更にはブースターで加速して、左右に跳ね回る。
もう少しで障壁を抜けそうだが、まだ速度が足りない。
幸い襲われることは無さそうだが、放っておいたら何をするか分からない。ここで、仕留めるべきだ
無言でこちらを見つめてくる黒い英雄。
知り合いの形をしてる分、差違が気持ち悪い。
……仕方ない。ちょっとキツいけど、やってみるか。
「リング。ソウルシフト」
「――OK. SoulShift_Model:Vanguard. Ready?」
「Trigger」
盾を貫けないなら、盾を躱せばいい。
「さあ、踊ろうか。偽りの英雄サマ?」
逆手に握った拳銃の引き金を引く。
瞬間、爆発的な急加速。両腕に引っ張られ、私の体は空に撥ね飛ばされた。
一瞬だけ、意識が飛んだ。
くっそ! 相変わらず、出力が、おかしいだろ、これぇ!
言うことを……聞けぇっ!
両手の拳銃で微調整、不規則な動きで空を跳ね回る。
急加速、急停止を秒単位で繰り返す。
ジグザグに、逆さまに、回転しながら。
速度を殺さず、軌道を変えて、接近する。
まるで、黒雲を裂く雷のように。
こちらに合わせて半透明の盾が動く。
しかし、次第にタイムラグが出てきた。
盾の移動より速く、全力で機動を修正し。
一心不乱に距離を詰める。
やがて。
「おおおぉぉぉっ! るうぅぁぁぁあああっ!!」
盾の横を通り抜け、真っ黒な人型の、顔面めがけて。
拳を振り抜いた。
衝撃。次いで、突き抜ける感触。
ぐるぐる回って吹っ飛びながらも、無理矢理足から着地。
地面を擦りながら勢いを殺す。
砂埃が舞い、ブーツの裏がザリザリと削れながら。
十メートルほど地を滑って、ようやく止まった。
振り返り見ると、カノンさんの偽物はドロリと溶け、黒い塵になって消えていった。
後に残ったのはやはり、銀色のカード。
「リング。索敵」
「魔力反応消失:周囲に敵性反応無し」
「了解。状況終了」
桜色を舞わせ、地に膝を着いた。
……勝ったー。けど。もう、無理。
めーがーまーわーるぅぅ……
「――静養を推奨」
「二度とやりたくねーわ、マジで」
超絶、きもちわるい。
こんなの毎回やってたとか、やっぱアレイさん、普通じゃないわ。
〇〇〇〇〇〇〇〇
一時間ほど休んでようやく立てるようになった。
アイテムボックスから冷えた水を取り出して喉に流し込む。
うあー。吐くかと思った。まだふらふらするわー。
何も食べてなくて良かったわー。
よろけながらも何とか歩いて行き、銀色のカードを拾う。
ふむ。やっぱり両面ともなにも書いてないなー。
「リングー。解析頼んだー」
「――了解:大丈夫ですか?」
「ま、なんとかね。まだ気持ち悪いけど、大丈夫」
「――直に日が沈みます:帰還を推奨」
「そだね。帰りましょうか」
ギルドに報告……は、明日でいいか。
今日はもう、お風呂入ってさっさと寝たい。
くそう。料理すんのはまた明日だね。





