表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/213

68話:アヴァロン


 せっかくアスーラに来たので、今朝獲れたての魚介類を大量に買い込む事にした。

 港町まじ凄い。王都の半額以下で新鮮な魚介類が買えるじゃん。


 ふへ。なに作ろっかなー。


 折角だしサシミって奴も試してみたいけど、生食はちょっと怖いかなー。

 定番だと焼いたり煮たりだけど。魚や貝だけじゃなくて水棲の魔物とかもあるし、色々作ってみるか。

 干してない魚を料理する機会ってあんまりないから、ちょっと心が弾む。

 しばらくは魚介料理を作り置きしていこう。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 ウキウキしながら帰還中、街道に沿って飛んでると、馬宿の近くでゴブリンの群れを発見。

 数は三匹。ついでなので狩って行くことにした。

 一匹なら特に問題ないけど、群れてるゴブリンは冒険者でも万が一がある。

 見つけ次第狩っておいた方がいい。


 高空で魔力を圧縮して狙撃。

 三発中三発、全て胸を撃ち抜いた。

 よし。今日も良い感じだ。

 着地して、普段使いのナイフでゴブリンの犬歯をゴリゴリと切り折っていく。

 これ、中々大変なんだよね。地味に硬いし。

 三匹目の犬歯にナイフを当てた時、不意に街道沿いの林の中で何かが動いた気がした。

 人間っぽく見えたけど、念のためホルダーから拳銃を抜く。


「リング」

「――魔力反応:偽英雄です。警戒を」

「うわ、久しぶりにでたな」


 黒い英雄の偽物か。

 しっかし、前回に続いてまた街道沿いかー。何か意味あんのかな。


 暗がりの中に一人。

 上から下まで真っ黒なのは前と同じ。

 今回の奴はフードは被ってない。長い髪がだらりと顔を隠していて、隙間から赤い瞳が覗いている。

 服装はブラウスにスカートっぽい何か。

 手には何も持ってない。つまり、レンジュさんでもエイカさんでもないって事だ。

 となるとこれは……カノンさんの偽物、かな?


 うーむ……とりあえず、撃ってみるか。

 拳銃を向けると、偽英雄もこちらに手を(かざ)してきた。

 試しに発砲。しかし、ガキンと半透明の壁に弾かれる。

 うわ、やっば。予感的中だ。

 今のたぶん『堅城(アヴァロン)』だよね。

 あれって魔王の一撃を防いだ盾って言われてるけど……私でどうにかなるんだろうか、これ。


 試しに魔力を最大まで圧縮。

 両銃口を併せ、城ゴーレムの核を貫いた魔弾を撃ち出す。

 しかし私の最大威力の一撃は、偽英雄の障壁にあっけなく弾かれた。


 あー。やっぱりかー。

 んじゃ次は……走ってみるか。


「リング」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」


 桜色を曳いて、体を伏せつつ駆ける。

 樹を蹴り、右に。障壁もそれに合わせて右に移動。

 跳んだ先の枝を蹴り、左に。やや遅れて障壁も左に移動。


 なるほど。障壁の移動に時間がかかるのか。ならば。


 地面、木の幹、枝。

 更にはブースターで加速して、左右に跳ね回る。

 もう少しで障壁を抜けそうだが、まだ速度が足りない。

 幸い襲われることは無さそうだが、放っておいたら何をするか分からない。ここで、仕留めるべきだ


 無言でこちらを見つめてくる黒い英雄。

 知り合いの形をしてる分、差違が気持ち悪い。


 ……仕方ない。ちょっとキツいけど、やってみるか。


「リング。ソウルシフト」

「――OK. SoulShift_Model:Vanguard. Ready?」

「Trigger」


 盾を貫けないなら、盾を躱せばいい。


「さあ、踊ろうか。偽りの英雄サマ?」



 逆手に握った拳銃の引き金を引く。

 瞬間、爆発的な急加速。両腕に引っ張られ、私の体は空に撥ね飛ばされた。


 一瞬だけ、意識が飛んだ。


 くっそ! 相変わらず、出力が、おかしいだろ、これぇ!

 言うことを……聞けぇっ!


 両手の拳銃で微調整、不規則な動きで空を跳ね回る。

 急加速、急停止を秒単位で繰り返す。

 ジグザグに、逆さまに、回転しながら。

 速度を殺さず、軌道を変えて、接近する。

 まるで、黒雲を裂く雷のように。


 こちらに合わせて半透明の盾が動く。

 しかし、次第にタイムラグが出てきた。

 盾の移動より速く、全力で機動を修正し。

 一心不乱に距離を詰める。

 やがて。


「おおおぉぉぉっ! るうぅぁぁぁあああっ!!」


 盾の横を通り抜け、真っ黒な人型の、顔面めがけて。

 拳を振り抜いた。


 衝撃。次いで、突き抜ける感触。


 ぐるぐる回って吹っ飛びながらも、無理矢理足から着地。

 地面を擦りながら勢いを殺す。

 砂埃が舞い、ブーツの裏がザリザリと削れながら。

 十メートルほど地を滑って、ようやく止まった。


 振り返り見ると、カノンさんの偽物はドロリと溶け、黒い塵になって消えていった。

 後に残ったのはやはり、銀色のカード。


「リング。索敵」

「魔力反応消失:周囲に敵性反応無し」

「了解。状況終了」


 桜色を舞わせ、地に膝を着いた。



 ……勝ったー。けど。もう、無理。


 めーがーまーわーるぅぅ……


「――静養を推奨」

「二度とやりたくねーわ、マジで」


 超絶、きもちわるい。

 こんなの毎回やってたとか、やっぱアレイさん、普通じゃないわ。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 一時間ほど休んでようやく立てるようになった。

 アイテムボックスから冷えた水を取り出して喉に流し込む。

 うあー。吐くかと思った。まだふらふらするわー。

 何も食べてなくて良かったわー。


 よろけながらも何とか歩いて行き、銀色のカードを拾う。

 ふむ。やっぱり両面ともなにも書いてないなー。


「リングー。解析頼んだー」

「――了解:大丈夫ですか?」

「ま、なんとかね。まだ気持ち悪いけど、大丈夫」

「――直に日が沈みます:帰還を推奨」

「そだね。帰りましょうか」


 ギルドに報告……は、明日でいいか。

 今日はもう、お風呂入ってさっさと寝たい。


 くそう。料理すんのはまた明日だね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマークや感想はとても励みになるので、是非お願いします。
小説家になろう 勝手にランキング 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ