41話:料理のお時間
帰り際、ギルドに寄って今日狩ったゴブリンの精算をしてもらった。
うーむ。やっぱなかなか良い稼ぎなんだよなー。
冒険者稼業も有りなんだろうか……いや、ないな。怖いし、危ないし。
私はパン屋とか食堂の方が向いてると思うし、どこまで行っても町娘根性が抜けない。
今でもこう、大量のご飯が作りたくて仕方がないのだ。
使っても汚れを気にしないで済む調理器具に、切れ味抜群の包丁、更には様々な食材が並ぶ王都の大通り。
実に腕が疼く。
宿で毎日美味しいご飯を食べてるけど、そろそろ何か作りたいんだよね。
町に居た時には見たことも無かったような食材が、今なら大量に買えるし。
こんな調理法はどうだろうか、あんな味付けがいいかもしれない。
そんな事を考えてしまう。
いっそ宿を出て家を借りるのもいいかもしれないなー。
「とか思うんですけど、いい物件知りませんか?」
とりあえず、困った時の頼れるお姉さん、リーザさんに相談してみた。
「うーん……家かぁ。探してみましょうか?」
「あ、お願いします。急ぎではないので」
「分かりました。あと、料理したいなら奥使ってもいいわよ? 私たちも食事当番で使ってるし」
そうなんだ。ギルドの人も大変だなー。
「なるほどー。ちなみに、何人分作るんですか?」
「私とギルマス合わせて二十人ね。かなりの大仕事になっちゃうの」
「……ほほう。今日の当番は?」
「私よ。なに作ろうか悩んじゃうのよね」
頬に手を当てて悩ましげなリーザさん。
ほう。それはそれは。
「ふむ。リーザさん。ちょっと提案が」
「ん? なぁに?」
「ちょっとキッチン、借りていいですか?」
〇〇〇〇〇〇〇〇
まずは材料を確認。
……おぉ、旬の野菜がこんなに。
肉は毎回買って来るんだっけか。ならあの肉屋さんでー……予算はこんだけなのね。
なら豚肉と……いや、グリフォン肉買えるなこれ。
じゃあそっちと……ふむ、立派なキノコがあんじゃん。
あれとこれと。よし。大体決めた。
じゃあ次は、買い出しだ。
〇〇〇〇〇〇〇〇
大通りにある肉屋さん。
ここで売ってるコロッケは絶品で何度か買い食いをした事がある。
でも今日のお目当ては別だ。
「こんちゃーす」
「おう、らっしゃい。コロッケか?」
いつもの調子でおっちゃんが笑いかけてきた。
相変わらず人の良さそうな笑顔で、見ててほっとする。
「や、今日はお肉買いに。グリフォンある?」
「グリフォンかい。量はどのくらいだい?」
「二十人前。塊でもバラでもいいけど」
「あー、冒険者ギルドか? それならちっと安くしとくぜ」
ニッカリ笑顔で親指を立てる。
おお。さすがおっちゃん。
「やったー。おっちゃんイケメン!」
「はは、裏に出しとくよ。ほら、こいつはオマケだ」
「ソーセージ!? ありがとっ! ……うわ、これうっま!」
その後、裏手に回ってお肉を回収。アイテムボックスさん、超便利。
ついでに足りない調味料を購入してギルドに戻った。
つーか何で塩が切れてんのよ。塩だけは切らしちゃならんでしょうが。
ついでに香草もいくつか。グリフォン肉は旨味が強いけど匂いに癖があるからね。
一緒に煮込んで臭みを抜いてやれば食べやすいでしょ。
さて。では、はじめますか。
「リング、やるよ」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition! まずは包丁!」
「――了解」
拳銃の先に魔力の刃を作り出す。
芋や根菜の皮をむいて、一口大に切って水場の籠に並べていく。
ただし芋は二ヶ所に分けて、片方だけ水に浸しておく。
キノコは適当な大きさに切り揃えて同じく水場へ。
次に肉。包丁の峰で叩いて筋を切り、柔らかくしてから大きめの一口大に分割。
こっちはミルクを入れた鍋に香草と一緒に漬け込む。
「炒め鍋」
「――了解」
魔力で大きめの炒め鍋を作成、ゴマから採った油を引く。
根菜に焼き色が着くまで炒め、一旦取り出しておいて、次はお肉だ。
同じように焼き色が着くまで火を通し、分けておいた芋を投入。
芋が柔らかくなったら普通の鍋に移して、根菜とキノコと水を入れて煮込む。
調味料は塩だけ。香辛料は高いので今回は使わない。
代わりに、香草をふんだんに使う。
こっちは森でいくらでも採れるからね。
爽やかな香りが広がってきたら一旦火を弱め、深めの炒め鍋を作成。
油をたっぷり注ぎ、温める。
適温になったら残しておいた芋を静かに沈める。
一気に入れると油が冷めるので少しずつ。
カリッと揚がったら籠に移して上から塩を軽く散らす。
ふふふ。これぞ必殺の揚げ芋だ。
安くて手軽で腹にたまる。
教会でも一番人気のメニューだった。
よっしゃ。グリフォンのミルクスープも出来上がり。
あとはパンを出して……ん?
「うわっ⁉ え、なに⁉」
気がついたらギルド職員達にめっちゃ見られてた。
え、なに、こわっ!
「おう、こりゃいったい何の騒ぎだ?」
「あ、グラッドさん。晩御飯作ってたんだけど」
「……あぁん? なんでオウカが?」
怪訝な表情でこちらを伺うように覗き込んできた。
いや、その顔を近付けるのやめて。割と怖いから。
「久々に作りたくなって、リーザさんに無理言ったの」
「そりゃありがたいが……あー。こいつら、そういう事か」
「ちょうど出来たとこ。食べてく?」
「おう、だがここじゃ全員は無理だな。ギルドの広間使うか」
「え。交代制とかじゃないの?」
「お前な。こいつらが聞くと思うか?」
あー。めっちゃいい匂いしてっからね。
仕方ない。鍋ごと移動すっか。
「グラッドさん、芋の籠もってきてー」
「馬鹿野郎。俺が鍋だろうが普通。重いだろそれ」
「あー確かに。じゃあ鍋よろしくね」
「ああ。手の空いてる奴等は皿持ってこいよ」
とりあえず、冷める前に運んじゃおうか。
〇〇〇〇〇〇〇〇
突然だが、冒険者ギルドの職員は、冒険者同士の揉め事を解決する仕事もしている。
相手が相手だから職員もかなり鍛えていて、腕が立つ人が多いらしい。
事務仕事もさながら、何気に肉体労働も多い職場なのだ。
いや、まぁ、何が言いたいかというと。
多めに三十人分作った筈なんだけど、一瞬で食べ尽くされた。
まるで戦争でも始まったかのような光景だったわ。
うちの元気盛りの男の子達くらい食べてるわね、これ。
途中で追加の炒め物と芋サラダ作りにいったけど、それも含めて全部食べられちゃったし。
うん。ま、料理人冥利に尽きるってもんね。
自分の分、取り置きしとけば良かったなーとか、大量の洗い物を済ませながら思ったけど。
尚、宿に戻っておばちゃんの美味しいご飯を食べられたので、まぁ良しとする。





