39話:黒い英雄
高空を飛びながらリングに魔物を検索してもらい、ゴブリンを片っ端から狩ってみた。
高速機動で接近しての一撃離脱。
随分と慣れてきたものだ。
仕留めたら一旦地上に降り、犬歯を切り折ってアイテムボックスに収納する。
数はあえて数えていないので、精算時が楽しみだ。
ただ、空を飛ぶのはちょっと疲れる。
魔法が使えないから今まで経験したことは無かったけど、魔力が一定量以上減ると疲労感が出てくるっぽい。
ちゃんと休憩を挟みながらの方が安全かもしんないなー。
周りに何もいないのを確認して、一旦下に降りる
ちょい疲れた。あと何気に飛んでると寒いんだよね。
冬用のマントとか買った方がいいかなー。
大きめの岩に腰かけて、常備している干し芋を少しかじる。
甘い。アイテムボックスが使えるならそっちに食べ物入れておくのもありかもなー。
そう言や生き物はダメらしいけど、どの程度までいけるんだろ。
血抜きした獣がいけるかどうかは大きいと思う。
て言うか、お肉を買うんじゃなくて狩る方向で考えてる辺り、私も大分染まってきてるなーとは思うけど。
「――魔力反応:接近中」
「お。またゴブリン?」
「――肯定:二匹です」
「はいよー。ちゃっちゃと片付けちゃおうか」
干し芋の残りを口に入れ、ホルダーから拳銃を抜く。
マップを確認し、方角を確認。森の方か。
まー二匹くらいなら飛ぶ必要もないよね。
拳銃を構え、マップに目をやる。
ん? あれ?
赤い点が二つ寄ってきてるけど、その後ろから緑の点が追いかけてるっぽい?
あー。誰かが先に目をつけてたのかな?
それなら、まだ遠いしほっとくか。
他にこちらに近寄る反応もないので、拳銃をホルダーに戻し、岩に腰掛ける。
少しのび。もうちょいしたら帰ろうかなー。
とか、思ってると。
視線を向けた先の森の木々が、一薙ぎでざっくり断ち斬られた。
……ふぁっ⁉
え、何いまの。剣? にしちゃ長すぎるよね? 何かの魔法?
「――警告:魔力パターン、オウカに類似」
「え、それって、遺跡の?」
「――否定:ですが、似ています」
あの黒い私みたいな奴の仲間ってこと?
やば。とりあえず、戦闘態勢取るか。
「リング!」
「――Sakura-Drive Ready.」
「Ignition!」
立ち上る薄紅色。前よりも魔力光の量が増えていってる気がする。
まあ、今はそんな事言ってる場合じゃないか。
森の中、見晴らしが良くなったその先に、一つの人影があった。
頭からローブを被った長身。右手に抜き身の剣をぶら下げている。
ローブの隙間から覗く長髪は、黒。
英雄、にしては様子がおかしい。
こちらが見えているはずなのに、無言でゆらゆら近付いてくる。
不意に、そいつの右手が揺れた。
嫌な予感に屈み込むと、遅れ毛が数本切り飛ばされる。
こいつ、いきなり攻撃してきた。
やばい。攻撃されたのに、何をされたかよく分からない。
それに、人の形をしてる癖に、気配が人間っぽくない。
一先ず距離を詰めて制圧する。考えるのはそれからだ。
薄紅を曳き、駆ける。
ジグザグに。狙いを絞らせないように。
近接。銃口を向け、発砲。しかし、ついっと首を傾げるだけで避けられた。
弾丸が見えてんのか、こいつ。どんな目してんだ。
ならばと、両手で乱射。
あえて狙いはつけず、周囲を巻き込んでぶっ放す。
次の瞬間、黒い奴の右手の剣が形を変えた。
その伸びた刀身で自分に当たりそうな弾だけ叩き落とされる。
なるほど。さっきの木を斬ったの、これか。
こちらに向かって振るわれた右手。退くのはまずい。
斜め下に倒れるように回避、地に手を着き、それを支えに前進。
もっと距離を詰めないとまずい。こいつ、私よりリーチが長い。
しかも切れ味が良すぎる。下手に受けたら銃底ごと斬られるかもしれない。
近接。互いの息を感じられる程近くから、右のインフェルノで腹に射撃。
しかし、素早く身を引いて避けられた。そのまま回転、左の拳銃を叩きつける。
当たった。でも、浅い。
血のような赤い目と視線が交差する。
そして歪んだ三日月のように裂けた笑み。
こいつ、嘲笑ってやがる。
改めて構える。腰を落とし、左手を前に右手は逆手に顔の横に。
突き出された長剣を回って避け、続く横薙ぎを下から銃底で叩き上げる。
隙だらけの腹に銃口を押し付け、銃撃。貫通を確認。
蹴り飛ばし、両肩を撃ち抜く。ヒット。仰け反った隙に顎を蹴り上げ、空いた喉に射撃。
そのまま回転、飛び上がり、胸を蹴り飛ばした。
構えたまま見据える。しかし黒い魔物は地面に打ち付けられ、そのままピクリとも動かなくなった。
しかし、前回の奴みたいに、塵になりはしない。
構えを解かず、そのまま警戒する。
五秒。十秒。そして不意に。
バネ仕掛けのように起き上がり、剣を伸ばしての斬り降ろし。
予想出来ていた攻撃を、地を蹴って躱す。
だと思った。
意識して魔力を最大まで圧縮、撃ち出す。
風を裂く音を残し、黒い人型の頭を吹っ飛ばした。
黒い塵となって消えていく影。
よし。終わったか?
「リング、周囲の索敵」
「――周囲に魔力反応無し」
「了解。状況終了を確認」
薄紅色の魔力光の残滓を散らしながら、拳銃をホルダーにした。
あーもーびっくりしたー。なんだったんだ、今の。
知能は高そうに見えたけど、魔物も人間も関係なく襲ってきたしなー。
それに、あの遺跡にいた奴と似てたな。何か関係があるんだろうか。
ふと。さっきの奴が倒れてた場所に、銀色のカードが落ちているのを見つけた。
あ。これ、遺跡の奴も持ってたな。
拾い上げて翳してみる。
……お? 前の奴と、少し文字が違うのかな? いくつか種類があんのかもしれないな、これ。
「リング。これも解析お願い」
「――承知:前回のカードと平行して解析します」
「お願いね」
んー。しかしこれは、ちょい対応に困るな。
とりあえずギルドでグラッドさんに相談してみるか。





