20話:騎士団と訓練
朝イチで冒険者ギルドに顔を出すと、今日も受付嬢のリーザさんが居た。
朝イチで美人さんを見れるのは良いことだ。
今日は強面ギルドマスターのグラッドさんもいないみたいだし。
「リーザさんおはよー」
「あら、おはよう。そろそろかと思ってたんですよ」
「え、なに?」
「指名依頼が入ってまして。はいこれ」
にっこり笑顔で依頼書を渡された。
えーと、なんだ? 依頼内容、戦闘訓練?
依頼元、王立騎士団ってなってんだけど。
……戦闘訓練? え、私指名で?
「……何で私にこんな依頼がくんの?」
「オーガ討伐の一件で名前が広まったからじゃないですかね」
「あー……めっちゃめんどくさそうだし、これ、断っちゃダメ?」
「ギルド的には受けて欲しいんですけど……だめかな?」
う。リーザさん、その悲しそうな顔は反則。
「むぅ。わかった、受けます」
「そう? ありがとう」
おお。花が咲くような笑顔ってこんな感じなんだろうなー。
美人さんはずるい。色々と。
※
そんな流れで。
いま王城にある騎士団の訓練場で、副団長のジオスさんの隣に並んでます。
めっちゃ見られてる。なんだあいつ的な目で。いや気持ちは分かるけどさ。
……あれ、あそこにいるのってキサラギキョウスケさんじゃない?
あ、目があった。手ぇ振ってる。やっぱり本人だ。
うーん。なーんか苦手なんだよね、あの人。イケメンだけど。
「えーと。オウカです。よろしくお願いします」
「今日は現役冒険者との対人訓練だ。キサラギ殿にも来て頂いているので、全力で取り組め」
『時を殺す癒し手』。
時間を巻き戻して怪我を無かった事にする女神の加護を持つ英雄。
キサラギキョウスケさん。
そんな大それた人を呼ばなきゃいけない訓練にするつもりなんだろうか。
嫌な予感がどんどん膨らむんだけど。
「相手は最近有名なオーガキラーだ。集団戦とはいえ、くれぐれも気を抜くなよ」
おい待て。集団戦ってなんだ。
まさかここに居る全員で取り囲む気?
全部で軽く五十人くらい居るんだけど?
「待って待って! 死んじゃうって!」
「大丈夫です。我々も受け身程度なら取れますので」
違うそっちじゃない! 私が死んじゃう!
てか、あんたらもやる気出さないでいいから! マジで!
「大丈夫ですよ。何かあっても僕が治しますから」
いつのまにか隣に居た英雄サマがこっそり呟く。
あ、やっぱこの人、性格悪いわ。分かってて言ってるぽいし。
こうなったらこの人も巻き込んで……あ、くそ、逃げられた。
「では、始め!」
え、ちょ、マジで来んの?
いやいや、正気かアンタら? ただの町娘一人にその数は有り得ないでしょ?
……ああもう! 仕方ない、やってやらぁ!
「リングッ!」
「――Sakura-Drive Ready」
「まとめてかかってこいやぁ! Ignition!」
吐き出したトリガーワードと共に、意識が切り替わる。
ありふれた日常から、馴染みきった非日常へと。
紅白の拳銃を両手に携え、薄紅の魔力光を曳いて戦場を駆ける。
敵は多数。囲まれたら終わる。ならば、常に動いて連携を阻害するしかない。
こんな集団戦は初めてだけど、結局やる事は何も変わらない。
心の内に、既に恐れは無い。あるのはただ、どう立ち回るかの計算と、少しの昂り。
ただの、いつもの通りだ。
「さぁ、踊ろうか」
敵の配置と武器、目線から行動予測。そのイメージ通りに、自然と身体が踊り出す。
正面から来た騎士の両足を撃ち抜き、くるりと回転。
横から迫る剣を銃底で逸らし、体勢を崩して蹴り飛ばす。
次いで前方から一斉に突き出される槍襖。
地に伏せるように倒れ込み、その姿勢のまま、地を蹴り駆ける。
隙間を縫うように体を滑り込ませ、すれ違い様に射撃、次々と足を潰していく。
機動力さえ奪ってしまえば、後はどうとでもなる。
多少の怪我なら問題ないはず。ならば、躊躇うことは無い。
剣の横凪ぎ。
跳び、肩を足場に再跳躍。
逆さまになって頭上から発砲。
狙いは腕、全弾命中を確認。
身を捻って着地、即座に跳ねる。
突き刺された槍を足場に駆け、顔面を蹴り飛ばす。
けど、浅い。くそ、銃撃の狙いが限定されるのが辛いな。
「リング。殺さない弾、作れる?」
「――受領:作成に成功。弾倉変更、撃てます」
「でかした、相棒」
即座にトリガーを引く。
騎士剣を振りかぶった腕にヒット、凄い勢いで跳ね飛ばされたけど、血は出ていない。
よし、これならいける。
駆ける。右に走りながら射撃。頭に命中、そのまま吹っ飛んで後ろ向きに倒れた
跳ねる。真下に弾丸を撃ち込みながら飛び越える。
廻る。遠心力を込めて銃底を振るう。槍を弾き飛ばす。
そのまま発砲、撃破。次へ。
回る、廻る、回転する。
地上で、空中で、くるくる回る。
殴り、蹴り、撃ち抜く。
押し寄せる鉄を避け、往なし、躱す。
周りの全てを巻き込んで、銃撃を浴びせる。
反動に腕が痺れる。
銃声に心が弾む。
激音が世界を彩る。
さぁ、ぶっ放せ。
斬り下ろされた剣をくるりと回避。
腕を掴んでそこを軸に逆立ち、後頭部を踵で蹴り飛ばす。
その勢いで跳躍、次の奴の胸元を蹴り付け、よろめいた所を狙い撃つ。
空中で回転、射撃、着地。
屈み、足を蹴り払い、跳び退りながら撃つ。
着地、疾走、跳躍、打撃、銃撃。
観劇のように、戯れ言のように。
当たりはしない。外しはしない。
世界が薄紅色に染まる。
ここは、私の舞台上だ。
「…そこまでだ」
しかし、不意に後ろから腕を取られた。反射的に銃口を向け。
凄い勢いで宙に投げ飛ばされた。
「……は?」
風を切る音。凄まじい勢いで地面が遠ざかる。
さらに、身に纏っていた桜色が、途切れる。
…………おー。お城の屋根が見える。地面が遠いなー。
はは……これ、やばくね……?
「ぎゃああああああ! リングゥゥゥゥ⁉」
「――飛行機構展開」
拳銃型魔道具からブースターを吹かし、墜落寸前で減速、転がりながら着地した。
あっっっっっっぶなっ! 死ぬかと思った!
「…おぉ。飛べるんだ」
「ちょっと! いきなり何すんのよあんた!」
「…何って、騎士団と乱闘してる不審者を投げた」
「はあっ⁉」
「…不審者」
眠そうな目付きの背の高い青年がこちらを指差して言う。
帽子を被っているせいか、表情が読みにくい。
て言うか、なんだこいつ。何か、ヤバい。怖い。
言ってることも分かんないけど、それ以上に、全く勝てる気がしない。
めっちゃ逃げたい、けど、ここ王城だもんなぁ。
逃げたらお城の人がヤバいよね。とりあえず、時間稼ぐしかないのかな。
「あんた、何者?」
「…え、何者と聞かれても」
「どこの誰さんよ」
「…トオノツカサ。住所不定無職」
「住所不定無職がお城に居るとか怪しさ大爆発じゃないのよ!」
「…確かに、否定できる要素が無い」
いや、肯定すんな。腕組んで頷くな。
なんなんだ、この人。
「オウカさんオウカさん。勇者です」
またいつのまにか隣に居たキサラギキョウスケさんが言う。
は? 勇者? なにが?
「トオノツカサ。世界最強の勇者ですよ。ご存じないですか?」
「……え。『神魔滅殺』の?
おとぎ話で魔王を素手で殴り飛ばした人?」
「はい。本人です」
「……あの。帽子を取って貰ってもいいですか?」
「…え、うん」
私に言われて素直に帽子を取ってくれた。
ツンツン頭の黒髪。それに、黒眼。
あー、うん。なるほど?
この色は確かに英雄だわ。
とりあえず、拳銃をホルダーに戻す。
やばい。不審者どころか超有名人だったわ。
ごめんなさい、しとこう。
「彼女はオウカさん。騎士団との戦闘訓練を依頼された冒険者です」
「…あれ。俺、間違えた?」
こてんと首を横に倒して、自分の顔を指さす勇者。
「はい。それはもう盛大に」
「…ごめんなさい」
私が謝るより先に、
黒髪の勇者は地に膝を着き、背筋を正して頭を下げてきた。





