13話:美味しいオーク肉
手持ちのナイフでオーガの角を切り取ろうとしても歯が立たず、結局拳銃の魔弾で削り折った。
改めて大きい。角だけで私の背の半分以上ある。
めちゃんこ硬いし、なんか武器になりそうだ。いや、私の腕力じゃ振り回せないけどね。
て言うかまあ、王都までズリズリと引きずって持って帰るので精一杯だったし。
「で、これがその角」
「……お前って奴は。連日やらかしてくれるな」
それをグラッドさんに提出したところ、眉間に皺を寄せられた。
「あによ。報告しろって言ったじゃん」
「まさか連日とは思わんだろうが、普通」
「仕方無いじゃん。ほっとく訳にもいかなかったし」
王都の周りにも村や町はあるし、あの森は薬草が採れると有名なのだ。
放置してたらいつ何が起こったか分からない。
……まあ、ほんとに狩れるとはあまり思ってなかったけど。
頑張ってみればなんとかなるもんだね、うん。
「それはそうだが……まあいい。他にはいなかったんだな?」
「こいつだけだったよ。後はゴブリンを少々」
「七匹の群れを少々で片付けるな……」
額を手で覆って唸るギルマス。なんか、ごめん。
「とにかく、ギルドから調査員を出す。しばらくはあの森に入るな」
「ええ……近場の討伐依頼あそこしかないんだけど」
「大人しく別の場所で採取でもしてろ……いや、お前は採取依頼でも前科があるのか」
前科って。自分からトラブルに巻き込まれたわけじゃない。
……と思いたかったけど、結構自分から首突っ込んでるわ、私。
うーん。でもまー、仕方なかったと言うか、ね。
「とにかく、しばらく森に近付くなよ。他の奴が真似したらシャレにならん」
「え。私の心配はないの?」
「心配してほしいならもう少し弁えろ。そろそろ二つ名付けられるぞ」
二つ名かぁ。有名な冒険者に贈られる奴だっけ。
カッコいい奴ならいいかもしんないかなー。
……いやいや待て待て。ずっと冒険者続ける訳じゃないんだし、さすがにそれは無い。
二つ名持ちの町娘とか、もう意味分かんないし。
「まあ、お前が悪い奴じゃねぇってのは俺が保証してやるが、数日は大人しくしとけ。オーガの報償金もあるしな」
「え、あんの?」
「オーガの討伐部位は角か牙のどちらかだ。緊急依頼扱いで報償が出せる」
まじか。らっきー。
頑張って持って帰ったかいがあったわ。
「おおー。気前いいのね」
「新しいトラブルを持って来られるよりマシだからな……リーザ。報償金渡してやれ」
「はい。オウカちゃん、どうぞ」
そっと包みを渡してくれる。
重っ! え、こんなに⁉
中を確認すると銀貨が二十枚入ってた。普通の人が一ヶ月かけて稼ぐ額なんだけど、これ。
いや、それより教会に仕送り……は、途中で盗まれるかもしれないから危ないか。
うわわ、どうしよう! 取っておいて帰ったときに渡そうかな⁉
「うわー……冒険者って凄い稼げんのね」
「まあ、普通はこれをパーティで山分けなんだけどね」
「んー……それでも多くない?」
「あのね、オウカちゃん。オーガって普通、十人くらいで討伐する魔物だからね? しかも普通は魔法で倒しちゃうから、こんな綺麗に角が残ることなんて滅多に無いし」
呆れ顔でリーザさんが教えてくれた。
……あー。あはは、なるほど。
倒した時に角も牙も傷一つ無かったことは黙っておこう。うん。
「これだけ立派なら武器の素材にも使えるし、それを踏まえての金額なのよ」
「……ん。じゃあ遠慮なくもらっとく。ありがとー」
「こちらも助かってるけど、あんまり危ないことはしないようにね?」
「う……はい。了解です」
どうもリーザさんには強く出れないと言うか。
あれだ、雰囲気がシスター・ナリアに似てるんだ。
……お母さんっぽいとか言ったら怒られそうだけど。リーザさん、めっちゃ若いし。
「あ、そだ。宿屋教えてくれてありがとう。ご飯めっちゃ美味しいよ」
「あら、良かった。私も昔よく使ってた所なの」
「あ、そうなんだ。リーザさん、ギルドの受付の前って何してたの?」
「……ナイショ。オウカちゃんにはまだ早いわ」
ニコリと笑って誤魔化された。
良く分かんないけど、触れてはいけない事だったらしい。
そっとしておこう。笑顔が怖いし。
「えーと。とりあえず、私帰るね」
「ああ、ご苦労さん。あんまり無茶すんなよ」
「グラッドさんまで……はーい」
なんか納得行かないけど……まあいいや。
今日の晩ご飯はなんだろう。楽しみだ。
∞∞∞∞
「お、帰ったね。お疲れさん」
「ただいまおばちゃん」
宿に帰って晩ご飯を頼みにいくと、おばちゃんが人のいい笑い方で出迎えてくれた。
「あんた、今日も大活躍だってね。夕飯サービスしとくよ」
「まじで⁉ あんがと」
やった。美味しい物がたくさん食べられる!
ウキウキしながら待ってると、すぐにおばちゃんが夕食を運んでくれた。
夕飯は牛肉のシチューにサラダ、パンが2つ。そしてなんと、念願のオーク肉のソテーがおまけで着いている。
すごい。私の心を読んだんだろうか。
ありがたく、頂きます。
まずはサラダ。昼と同じ葉野菜に特性の甘めなドレッシングがかかってる。
口に運ぶ度、シャキシャキした歯ごたえがして、その後に優しい甘酸っぱさが広がる。
次はシチュー。旨味がすんごい。
何種類かの野菜を一緒に煮込んだんだろう、奥が深い味になっている。
後味が残っている内にパンを千切って食べる。
小麦の味と微かな甘味。ふっかふかで嬉しくなる。
そして、待ちに待ったオークソテー。
香ばしい香り。フォークで刺しただけで脂がじゅわっと出てくる。
一口大に切って、ソースを絡めて食べる。
柔らかい。噛めば噛むほど溢れる肉汁と、それを引き立てる辛めのソース。
ああ、これだ。これが食べたかったのだ。
一日の疲れが癒されていく……うまうま。
一口、また一口と口に運び、気づけば全部食べ終えていた。
結構ボリュームあったと思うけど……余裕で入っちゃったわ。
女子としてあまり大丈夫じゃないような気がするけど、まあ、美味しかったので良しとする。
美味しいは正義だからね。
言い訳完了。さてさて。お腹いっぱいになった事だし、眠くならない内にお風呂にはいっちゃいますか。





