プロローグ
『おはよー! 朝だよ!』
一日の始まりを告げるのは、大好きなヒロインの目覚ましボイスアラーム。
「…………」
最初の『お』が鼓膜を優しく揺らすのと同時に、俺は意識を覚醒させ、カナリアのような彼女の可愛らしい声音で発せられる言葉を最後まで聞き届けてから、アラームを止める。
スマホの画面に映る彼女の美貌を存分に拝めることで、聴覚に続いて視覚も解放する。時刻はちょうど午前七時。
「いつもより一時間早いな。アラーム間違えてセットしたかな?」
上体を起こし、両手を天井に向け、ぐっと伸びをする。変な声が出た。
カーテンを開けると、春の暖かい日差しが部屋に溶け込み、たいへん心地が良い。
洗面所へ行き、冷たい水を顔いっぱいにあびる。鏡の前で一つ、キラーンという効果音がつきそうなキレの良さで決め顔を作る。……なんだか悲しくなった。
リビングへ向かい、残り僅かなスポーツドリンクを冷蔵庫から取り、飲み干す。空となったペットボトルのラベルを剥がし、そのまま二メートルほど離れたゴミ袋へシュート。外れた。ペットボトルが床を叩く音だけがリビングに虚しく響いた。
両親は既に仕事に向かい、明日香もまだ寝ている。
いつもは時刻寸前ギリギリセーフもしくはギリギリアウトの登校だが、目覚ましのセットを間違えたので、今日は時間に余裕がある。
「よし。朝ごはんを作ろう」
トースターに食パンを入れ、その間に目玉焼き作りに取り掛かる。
冷蔵庫から卵を取り出し、それをフライパンの縁に一回バウンド。そのまま片手で華麗に卵を割りフライパンに落とす。
絶妙な焼き加減で皿に移し、トースターから香ばしく焼けた食パンを取り出す。うまそうだ。
できたてほやほやの朝食は、自分で作ったという達成感から余計に美味しく感じられ、俺はそれらを優雅に食した。目玉焼きには卵の殻が入ってた。普通に両手で割ればよかった。
少し早いが、することもないので学校へ行くとしよう。
制服に着替え、荷物の支度を済ませる。
そして、靴を履き替えドアを開けた。
「行ってきます」
いつも通り、今日も問題なし。
これは俺の、須坂大河のパーフェクトライフである。