5発目 自力で空を飛ぶのに、何を使いたい?
吹き荒れる煙、飛び交う弾丸、とある荒れ果てた大地で薄気味悪い"何か"と戦う人間の兵士たち。その戦闘の中を銃、手榴弾だけでなく剣、槍、斧、または大鎌など様々な大昔の武器を用い"何か"を倒していく人間が数人。さらにその中には軍刀を振るう人間もいたとか。
「そろそろ聞きたかったんだけどよ。ギラってもしかして帰国子女か?」
学校の昼休み中、俺はギラに質問をしてみた。
「・・・・どうしてそう思うんだ?」
「今まで時々ちらっと英語で叫んだりしてるだろ?もしかしたら生まれが外国なのかなと思ってな」
「う〜ん近いけど少し違うな。生まれはちゃんと日本だ。正確に言うと、ほとんどの生活を海外で過ごしてたってことだけだ」
「さらっとスゲーこと言ってるけど!? なんで海外で生活してたんだ?」
「・・・・悪い、今昔のことはあまり話したくないんだ」
「もしかして、お前があんなに強いワケと関係アリか?」
「アリだ」
「なら聞かないけどよ、せめてどこの国に行ってたか教えてくれよ」
「・・・・一つじゃないぞ?色んな国に行ってたからな」
その言葉に俺は驚いた。一体どんなことがあれば色んな国に行くことになるのだろうか。ギラはまだまだ謎が多い。あの強さは一体どこからきているのか、なぜそこまで強くなったのか。能力者について何かと詳しそうなのはなぜか。高校に入るまで海外でどんな生活を送っていたのか。色々聞きたいことが山程あるが、一番気になるのはギラを見ていると少し大人を目の前にしているような感じがするのだ。彼の言動にも時々20歳どころか60歳も超えているような貫禄を感じさせる。少し前にギラの好きな曲を聞いてみるとスターウォーズをはじめ1980年代の映画曲ばかりでかなり古めの趣味ばかりだった。そしてそれらを踏まえて俺が出した結論、それは、
"ギラは本当に自分と同い年なのだろうか?"
である。
「お前、何か隠してないか?」
単刀直入にギラに質問をしてみた。
「何かはあるぞ。ただ今は説明したくないだけで別に隠してるつもりはない」
「またそうやってはぐらかす。いい加減教えてくれよ、海外でどんな生活してたんだ?」
「...今説明して、それを俺が聞く側だったら絶対にこの一言で終わる。"信じられない"ってな」
少し言葉につまった。ギラの過去は自分が考えているより壮大みたいだ。ますます気になってきた。
「とにかくこの話はここまでだ。大体話すとしても、鈴村だけになんてあの二人に申し訳ないし」
そう言ってギラは立ち上がって教室にあとにした。
恐らく原賀と北野のことを言っているのだろう。確かに一理あった。好意を向けているわけでもない相手だけに教えるのはおかしい。それでも今俺はギラの過去を知りたかった。
「それで?行き着いた先があたしか?」
「是非、ギラの過去を教えてほしいんだ!」
俺は北野奈々がいる1-3組の教室に来ていた。
つい先日ギラと決闘をしたこの北野奈々は、戦いの最中二人は5年前に会っていたことをはっきりと聞いた。その時の状況を詳しく聞こうと北野を訪ねていた。
「じゃあ最初に聞くけど、鈴村は5年前の東シナ海戦は知ってるか?」
「ああ...一応は」
東シナ海戦、ニュースで断片的に聞いていた程度だが、なんでもどこの国にも属してない戦艦同士が戦闘を行っていたという目撃情報のことを指す名前のことだ。ただ目撃者がいるものの写真や動画などの証拠となるものが残っていなかった為、本当に起きていたことなのかはハッキリしないまま人々から忘れられた出来事だと覚えている。
「あの目撃情報は本当なんだ。実際見たことがある戦艦と見たことがない戦艦同士が本当に撃ち合いをしてたからな」
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ。まさか自分はその海戦に参戦してたなんて言うんじゃないだろうな?」
一応聞いてみたが、北野は自分が想像した答えを笑いながら返してきた。
「もちろん、そのまさかだよ」
5年前、とある友人の協力を得てあたしは東シナ海へと向かった。向かった理由は、正体不明の艦隊が日本に向かって進行しているという風の噂を耳にしたからだ。そんなことは起きてほしくない、100年以上も守り続けてきた日本の平和が壊れてしまうなんて嫌だ。今こそ自分が持っているこの力で守るために使おう、その一心で日本を飛び出した。だが向かったその先は、荒れ狂う大海原に撃ち合う艦隊同士の海戦の場だった。それでも覚悟を決めて出てきた身、その戦闘の中にあたしは突っ込んでいった。そんな中、いくつかの船を渡りながら、敵を斬り、そして撃つ一際目立った戦士が一人いた。
「それがギラだったの?」
「そうだよ...ってあんたいつの間に?」
北野に質問したのは俺ではなく、いつからか話の輪に入ってきた原賀だった。
「しかし道理であいつ強いわけだわ。モノホンの戦場にいたからか」
「でも何の理由があってギラは戦場にいたの?」
「それはあたしも気になってる。あんなすごい場所にいた奴がなんで今は普通に高校生をやってるのかも。だから今日の放課後本人に聞いてみようと思う」
「あいつ、ちゃんと教えてくれるかな」
ギラはあまり自分のことは話さなそうな気がする。とにかく今は昼休みの終わり、授業が終わってから俺も聞いてみよう。
昼休みにそう考えたのが甘かったのかも。
現在放課後、くつ箱前にて、ギラは行方不明。
「ギラったら、先生の話が終わったらすぐ教室から出てっちゃったね」
「もしかしたら昼休みの俺たちの会話、どっかで聞いてたのかもな」
「だとしたら本当に自分のこと、あたしたちに話したくないのかもな」
「今日はもう帰ろ。ギラも普通に帰ってるみたいだし」
ギラのくつ箱にも上履きがある、どうやら本当に帰ったみたいだ。仕方なく三人で帰ることになった。しかしギラが自分の過去を隠す理由、気になるところだ。
「他人の過去ってモンはあまり知らない方が身の為だぞ、3人とも」
「あなた程の人の過去なら気になって当然ですよ、ギラ殿」
ようやく諦めて帰っていく3人の姿を校舎の屋上で見届けるのはギラともう一人、他所の高校の制服を着た小柄な女子。
「しかし予想通りモテてますね」
「からかうのはやめてくれ、濃さんよ」
「でも事実じゃないですか。今までも何人も手込めにしてきたんですし」
「手込め言うな。俺にはそんな意志ない」
「そんなあなただからこそですよ」
「...まあいいか、それでそっちの様子はどうなんだ?」
「こっちもまあまあで高校生活始めてますよ。3人とも生徒会に誘われるくらいに」
「おおそうか...ちょい待ち、最後何て言った?」
「とにかく報告は以上です。それでは」
「あ、トラに伝えてくれるか?今度店に行くからその時は飯をよろしくって」
「LUMEで言えばいいのでは?」
「いいからいいから」
「ふふ、わかりました。そのように」
そう言ってその女子高生は空へとジャンプし、屋上を後にした。
背中からコウモリのような羽を広げて。