4発目 断る時はきちんと断れ。
雨が降る中、杉田義羅は部屋で前回の放課後決闘のこと
を振り替えっていた。
(...参ったな...)
自分が気がかりに思っていることとは、決闘の結果についてではなく、その後に起きたことについてである。
「いや〜やっぱ強いなギラ。あたしあの時から誰にも負けたことなかったのに」
「俺の場合は経験値をズルして上げてるチーターのようなもんだ。はっきり言って俺は強くない、北野の攻撃を一発も喰らわなかったのは運が良かっただけだ。当たっていればそこでthe endだった」
「でもそれを全部避けただろ?そしてちゃんとあたしを倒したから、あんたが強かったんだよ」
その事実を否定するかのように北野は今普通に立っているのだが。
決闘は終わったというのにここにいるということは、まだ彼女は"何か"をするつもりらしい。その"何か"を女性が決闘のあとにするとしたら何なのか?ケジメをつけるかのように始めた決闘のあとにやるとしたら...
「...よし!じゃあ改めてギラ!お、お前に伝えたいことがある!」
北野はそう言いながら赤面し始めていた。
「...何だ?」
「ご、5年前のあの日!初めて見た時から、そ、その...惚れていた!あたしと付き合ってくれ!!」
北野は大勢の見物人がいる運動場で、それはもう大きな声を上げて誠心誠意に俺に告白してきた。
「「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」」」」
うっわマジかよ・・・・。 ここで告白かい! なんだ...ただのリア充かよ...
とんでもなく(色んな意味で)うるさい声が運動場どころか学校中に響き渡った。無理もない、ついさっきまで拳を振り上げていた相手に今度は愛の告白をしているのだから。
今すぐうるさい!と言いたいところだが、自分自身が告白を受けた本人のため何も文句が言えなくて辛い。とにかく北野に対応しようと口を開きかけた。
「北野。俺は」
「私も一目惚れしてた!私と付き合って、ギラ!!」
すぐ近くで見ていた原賀までもが突然の告白。俺は思わず、
「What!?」
英語で驚いてしまった。
そのあとまた見物人たちの声が学校中に響き渡ったのは言うまでもない。
「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」」」」
何これ、告白大会?決闘じゃないよね? おい!入学早々モテてるってどういうことだよ! ふざけんじゃねえ!!リア充死ね!
聞こえてくるどの声も全くごもっともな意見です。はい...でも死ね死ねコールは不謹慎だからやめなさい。
それらをよそに原賀と北野は当然ながら対立していた。
「なんで今告白してんだよお前!ケジメをつけてあたしは告白したのに、そっちは突然過ぎるだろ!」
「だって・・・・最初北野さんがなんでギラに決闘を申し込んだのか理由がわからなかったし・・・。その...女の勘ってやつでだんだん本音に気付いたら焦ってつい...」
「まあとにかく!そもそもあたしは5年前からずう〜っとギラのことばっかり考えてたんだから!あたしの方が絶対に釣り合ってるんだよ!」
「年数なんか関係ないよ!大事なのは想いの強さだよ!」
まさに修羅場、二人が言い争いをしている内に空は雨雲で覆われポツポツと降り始めていた。
「よーし!じゃあ今度はお前と勝負だ!!」
「望むところ!私だって強いんだから!!」
再びというかさっきの決闘よりも激しさがすごい戦闘が勃発してしまった。
「おいギラ!あの二人止めてくれよ!」
「よ!エピソードをまたいで空気になってた鈴村君」
「メタい!そしてひどい!じゃなくて当事者ぁ!早くあの二人の喧嘩止めてくれよ!なんか衝撃波が起きてすんごいことになってるぞ!」
「お前...あれ見てよく喧嘩だなんて言えるな…」
もはや二人のぶつかり合いは怪獣同士の戦闘規模になっていた。砲弾でも落ちたような音が何度も響き、運動場に何個ものクレーターが次々とできていた。そして案の定、数名の教師たちが傘をさしてやってきた。また注意されてしまうようだ。
「おい!お前たち何やってるんだ!もうすぐ門限だぞ!!」
げ、すっかり忘れてた。よく見たら見物人もすでにいなかった。あかん。
「おーい二人共!急いで学校出ないとペナルティになっちまう!もう決闘なんかやめて行くぞ!」
鈴村が先立って彼女たちを説得しようとしたが、
「「うるさい!あんたは黙ってて!!」」
「…はい」
返り討ちにあった。あの二人からすれば鈴村は部外者、当然の結果だ。だからこそ関係者である俺がなんとかしなければならない。
「すいません先生方。今止めてきますんで」
「いや待て。そもそもお前たちこれはどういう状況なんだ?何なんだあの二人…あ、おい!」
教師の質問をよそに、原賀と北野の拳一つ一つがぶつかる衝撃が遠くでもわかるほど伝わってくる。そんな状況でも決闘を続けている二人に向かって俺は歩き始めながら話した。
「二人共、そこまでだ。納得いかないなら場所を変えてやるんだ」
「っ!?ギラ!でもここでやめるわけには」
「私も!勢いで始めちゃって後でなんかできないよ!これは私たちの戦いなんだから!」
「いーや、俺もれっきとした関係者として言わせてもらう。そもそも拳で決めようとするな!この惨劇を見ろ!」
二人は運動場の様を見て、ようやく冷静になった。
「でも…」
「俺は二人に生活指導の対象になって欲しくない。さあ今すぐ、一緒に帰ろう」
「…わかった」
「ギラが言うならあたしも」
なんとか二人を説得でき、鈴村も入れて四人揃って教師たちに謝って、門限ギリギリに学校を出た。
帰り道、
「二人共とにかく家帰ったら風呂にすぐ入れよ。そのままだと明日確実に風邪ひくぞ」
「ありがとう、ギラ。でも私たちまだ帰らないから」
「なぬ!?」
「あたしたちは自分が納得するまで決闘をしたいの」
「ギラの言うとおり場所を変えてやるから」
どうやら原賀と北野はまださっきのケジメをつけたいそうだ。
「ならもう俺は止めないからな。そのかわり!絶対にお互い傷跡が残るようなことはするなよ。傷だらけの二人は見たくないしな」
「「ありがとう」」
そう言って二人とは別れた。しばらくは鈴村と帰り道を歩いた。
その道中、鈴村が聞いてきた。
「ギラって、なんか言い回しがおっさんぽくないか?」
「HAHAHA、ヨクイワレルナ」
「なぜカタコト?」
おっさんどころか天寿を全うしたじいさんだからです。
という出来事であった。
帰宅した時よりも激しく降り続く雨の音を聞きながら俺は、あの二人の告白の返事についてベットに横になりながら考えていた。
どう返事するかはもう決めていた。考えているのはその返事をした後のことだ。
(どうなっても仕方ないことだな…)
そして翌日、朝のホームルームにて、
「よし、今日は風邪で休みの原賀を除いて、他は出席だな。では解散!」
そう言って担任が教室をあとにした。
「昨日よぉ。夜ズンズン音が鳴ってるの聞いたか?」
「俺も聞いた!もしかして昨日みたいな本格的な能力者同士の戦いだったりして!」
「なあ杉田!どうなんだ?なんかあの北野って女も休みみたいだけど、原賀とどっち選ぶんだ?」
「「「あはははははは!!」」」
大いにはしゃぐクラスメイトたちが昨日のことでからかってきた。
(だからあの時、風邪を引かないようにって言ったのに…)
「どうするんだ?ギラ。まさか返事をはぐらかすなんてことはしないよな?決められないからって」
「いや、それ依然の問題があってな。だから返事はもう決めてるさ」
「問題?問題って何の?」
「さあ、1時限は移動教室だ。さっさと行こう」
「あ、ちょ、おい!」
「やっちゃった...」
北野奈々はそう呟きながら、自分の部屋の天井を見つめてベッドに横たわっていた。
昨日、原賀唯と"女のケジメ"を場所を変えて続けた結果、お互い倒れずびしょ濡れで帰ったにも関わらず疲れて風呂に入らないまますぐベッドに横になり寝てしまい、そして翌朝風邪を引いてしまった。
ついさっき目を覚ましたばかりだかもうその時には午後の4時を過ぎていた。学校では授業が終わって皆帰り始めている頃だろう。原賀は出席しているのだろうか、もし自分よりも先にギラから返事をもらって付き合い始めたらと思うとモヤモヤしてしまう。
「あたしが先に告白したのに...あの泥棒猫め」
ピンポーン。
家のインターホンが鳴った。誰かが訪ねてきたんだろう。体は寝ていたから大分よくなっているので、窓から玄関の前の訪問者を確認しようと体を起こした。
「え、なんで!?」
なんとそこには学校から帰ったであろう学校制服姿の杉田義羅がそこに立っていた。
しばらくすると、二人分の階段を上がる音がしてきて、部屋のドアが開けられ、
「奈々、学校の同級生が資料の届けと見舞いに来たってさ」
「お邪魔します。具合はどうだ?北野」
母さんとギラが入ってきた。
「ふーん、じゃあ原賀の奴も風邪になったのか。ギラはどうだったんだ?学校で昨日のこと冷やかされただろ?絶対」
「誰のせいだと...まあな。モテ男だのどっちの女を選ぶんだだの、どっちとも付き合うのかだなんて聞かれてばっかだったよ」
「・・・・・とりあえず、改めて見舞いに来てくれてありがとな。それで、原賀とはどうする気なんだ?返事はどうなんだ?OKなら今すぐ一つになろう!」
「待て待て。原賀とはこのあと見舞いに行くからその時に...おい!いきなりとんでも発言するな!この小説を18禁にする気か!?」
「でも付き合う男女っていずれは...そうなるだろ?それぐらいあたしは覚悟決めてるんだから!」
顔を赤らめながらそう言う北野。それは先のことを考えすぎだ。
「それで…どうなんだ?ギラ」
…何度も言うが、返事はもう決まっている。
原賀の家にて、
「フラレたかな…私」
昨日の”女のケジメ”で雨に濡れて、風邪になり学校を休むことになってしまった原賀唯もまた、自分のベットに横になり天井を見ていた。
タイミングがとても悪かった。気になってた男子が他の女子に告白されているのを見て、つい焦ってしまい気づいたら自分も彼に告白していた。しかしこういう状況で告白すれば大体後者の方がフラれてしまう可能性が高いのではないかと現在不安の思いでいっぱいなのだ。
「...でも取られたくなかった...」
今はただそんな独り言を口にするしかやることがなかった。気付いたら自分は昨日の制服を着たままだった。
(着替えよ...)
気分転換にもなると考えセーラー服をぬ
コンコンッ!
部屋のドアを叩く音がして次の瞬間、
「唯ー?クラスメイトの杉田君が見舞いに...あら」
「「あ」」
突然入ってきた母となぜか自分の家に来ていたギラと目が合い、上半身裸という恥ずかしい姿を見せてしまった。ギラはすぐさま身を引っ込めて、
「ナニモ見ナカッタゼ…」
「カタコトで言っても意味無いよ!」
私は顔を赤らめ羞恥の心いっぱいでそう叫んだ。
「さっきのラッキースケベだよなぁ。ありがたや、ありがたや」
「忘れて忘れて!ていうかなんかそれジジくさいよ!」
「男にとってはあの瞬間は尊いものなんだよ。もう忘れられないし忘れたくない!」
「あーもう分かったから!拝まないで!」
どうやらギラは女子の下着を見ただけでは動じないらしい。漫画や小説とかでよく見るこれに似た状況で恥ずかしがる主人公とは違い、むしろ逆に拝んでくるもので戸惑ってしまった。
「今日北野も風邪で休んでたぞ」
「え!?じゃああの告白の返事はまだしてないの?」
「いや。さっき北野の家に見舞いに行った時にもう済ませた」
一瞬ホッとしてしまった自分が憎い。しかし返事をしたにしてはギラは随分と淡々としている。
「俺は二人に言いたい。これはさっき北野にも言ったけどちゃんと風呂に入れって昨日言っただろ、でないと風邪を引くって」
「う…本当にごめん。あの後疲れちゃって。それであの…昨日の返事はどうかな?」
そう言うとギラは私をまっすぐ見てしばらく黙り、そして意を決したように正座をして口を開いた。
「二人には悪いけどごめん。俺は今、誰とも付き合うつもりはない」
その時、5秒間時間が止まったように沈黙が流れた。ワールドなスタンド攻撃を受けているわけではないけど。
「・・・誰とも、付き合わない・・・・。なんで!?」
「一番の理由として俺は去年失恋してからまだ気持ちの整理ができていないんだ。だから俺は誰からの告白も受け入れるつもりはない」
予想外な返事。それはどちらも選ばない。それがギラの答えだった。
「自分勝手な答えと取ってもいい。嫌いになってもいい。ただ俺はこれからも、原賀と北野と友達として関わりたいと強く願ってるんだ」
そう言ってギラは立ち上がってドアを開け、閉めようとして
「体、大事にしなよ」
と言い残して部屋から出ていった。
複雑な気持ちになってしまった。こういう時怒ればいいのか、悲しめばいいのか分からない自分がいた。ほぼ同じ時刻、原賀唯と北野奈々はそれぞれの家の風呂でシャワーを浴びながら明日の学校での対応を考えていた。
(北野・原賀はどう受け止めたんだろう…)
と。
また翌日、学校の教室にて
「二人共フッたぁ!?」
「大声で叫ぶなよ…」
「いや!それ程とんでもないことなんだぞ。なんでどちらかじゃなくどっちも断ったんだ?」
「色々と事情があってな。とにかく俺は、今は誰とも付き合わない!それが答えだ」
「そんな返事であの二人が納得すると思うのか?」
「嫌われたかもな・・・・いや、どうかな」
ギラはそう言って教室の出入り口に目をやっていた。噂をすれば原賀と北野がちょうどそこに来ていた。そしてクラスメイトを含む大勢の生徒たちが見る中、二人揃って教室に入り、ギラの席のところまで来た。
少し沈黙が流れてから原賀が先に口を開いた。
「・・・・・私たちね、さっき・・・二人で話し合ってきたんだけど」
「・・・・・やっぱりあんたのこと・・・・・嫌いになれない。だから」
そして2人そろって宣言した。
「「どっちが先にギラを墜とすか勝負することに決めた!!」」
二人の宣言にその場にいる生徒全員がどよめいた。
「いいのか?フラれたのにそれで…」
俺がそう聞くと、
「いいの!ギラは昨日私たちをフッてもなお友達でいたいって言ってくれた!」
「そんな男、嫌いになんかなれない。むしろ惚れ直した!だから絶対あたしに惚れてもらう!」
「!じゃなくて私に!」
その光景を見て俺は、どことなく懐かしいと感じていた。
なんか、ますますギラが羨ましく思えてきた。当の本人はずっと驚いた表情で黙ってたが、何かを思い出したかのように笑って左目を閉じて口を開いた。
「ありがとな二人共。じゃあまず友達として、これからもよろしくな」
「その余裕、すぐに焦りに変えてみせるからね!」
「覚悟しろよな、ギラ!」
なんだか自分が置いてけぼりになっているように感じてきた。