2発目 一人の戦士が無双する姿って、結構あこがれるよね。
杉田義羅も能力者に違いない。
原賀唯は一緒に帰っていた二人と別れて自宅にたどり着き、自分の部屋に篭もり、今日の出来事を振り返っていた。
自分も能力者であり内容は杉田君に指摘された通り、単純なパワー増強で発現したのは数ヶ月前だ。発現したその力のことを当然家族に伝え、見せてみた。納得はしたけど能力のスピードが速くて目でとらえることができなかったそうだ。だから今日、初めて”動きが見えた”と言われて驚き、そこで杉田君も自分と同じ能力者ではないかという考えが浮かんできた。しかしそこで疑問が出ていた。仮に彼が能力者だとしても、自分の能力のスピードをどうやって見切ったのか?世間での能力の認識は"いたずら程度"のもの。持っていたとしても、あのスピードは理解できないはず。
(もしかして私みたいにすごい力の持ち主なのかも!)
学校でそのことについて杉田君に聞こうと原賀は明日が来るのを待ち望んでいた。
一方その頃、鈴村剛もまた自宅の自分の部屋で今日の出来事を振り返っていた。
趣味が合うと思って声を掛けた相手の一人がまさかの能力者でかなりのパワーの持ち主だったり、もう一人も能力者かもしれない疑いが出てたり、ひったくりに遭遇したりなど、1日の間にいろんなことが起き過ぎて頭の整理ができていなかった。
(まあ、とにかく今日のことは明日二人と一緒に話し合うか・・・・)
鈴村は長く考えるのを、やめた。
そして杉田義羅は、
(明日の朝飯、目玉焼きにすっか・・・)
自宅でそれだけを考えて眠りについた。
しかしこの夜、原賀の姿を思い出しながら考えごとをしている男が、とある豪邸の部屋の椅子に座っていた。
「あの女、もしかしたら使えるかもしれないな...」
と言いながら男は、顔をニヤつかせていた。
次の朝、教室に着いたら先輩方らしき生徒の何人かが餌をねだってるニワトリみたいに入口に集まっていた。お陰で教室に入りづらい。
(邪魔だなぁ・・・・)
「お、おはよう原賀ー」
「あ、おはよう杉田君、ちょうど良かった。昨日のことで聞きたいんだけど・・・・」
「ちょっと待ってくれないか」
昨日の話を原賀としようとしたら、集まっていた先輩方の一人が、急に遮ってきた。
「君が原賀唯なんだね。」
そいつは身だしなみは整っているし、どこからどう見てもイケメンだけど、どことなく偉ぶってるような感じの先輩で印象が良くないな。残念イケメン。っていうか
「はい、そうですけど何か?」
「あーこいつ、昨日俺達をこっそり覗いてた不審者だ」
「「「「はい!?」」」」
私だけじゃなくその場に居合わせていた生徒全員が驚いた。
「この人がいたのか?昨日あそこに?」
そしていつの間に来ていた鈴村君も。
「だ、誰が不審者だ!」
「いや電柱に隠れてこっちを見てたら普通不審者って思うでしょう。何ですか?あなたストーカー?」
「偶然だ偶然!ちょうど門を回ったところでお前たち3人がいて、原賀唯が窃盗の男を吹き飛ばしたのを見たんだ!」
「はい、知ってます」
「おい、なら何で言わせた!そもそも知ってるのなら不審者だなんて呼ぶな!」
「ハッハッハッ。すみません、ほんの冗談ですよ先輩☆」
どうやら昨日の出来事を見て私が能力者だと知った上でここに来たらしい。でもなんでだろう。
「まあ良い。君には用は無いんだ杉田義羅君。俺はそこの彼女に会いに来たんだ」
「私にですか?」
「そうだ。改めて俺は2年の神田財閥の神田利助だ。君、俺の女にならないか?」
この一言に限る。
何を言ってるんだこの男。
頭がショートして、呆けた表情しか出せなかった。
「君のその能力、今後すごく注目の的になりそうだし、社会に役立ちそうだ。だから、俺の実家の会社のために俺の女にならないか?」
そういや、神田ってあの大財閥の一角じゃねーか? それって玉の輿じゃない? 良いなぁ〜。
廊下にいる周りの人たちが口々に言っている。
「いやいやいや、今の話を聞いてると目当ては私の能力だから、先輩の彼女になる必要はないんじゃないですか?どっちも嫌ですけど」
「ついでに可愛いと思ったからさ。どうせなら君の今後の人生も支えようとも思ったからな。で、どうする?悪くない話だろ?」
たぶんこの人は好きとかの感情をまだ理解してないんだろう。そんな軽はずみなことじゃないことも。私はそう思いながら当然の返答を返した。
「ごめんなさい。私はお互いに好きになった上で付き合いたいんです。神田先輩の告白は受け入れられません」
「な!?何故だ!俺と付き合えば、生活に困らないだろう?何が不満なんだ」
「不満以前に、先輩はタイプじゃないってことっすよ」
「さすがにわかるでしょ」
ここで杉田君と鈴村君が入ってきた。ナイス!
「なんだお前ら!?用は無いって言ったはずだぞ!」
「こっちには用ができたんでね」
「友達が困ってるのは見過ごせないので」
いいぞ、もっと言ってやれ...ん?
「あ、あの二人とも、私たちってもう友達で良いのかな?」
「「当たり前だろ?」」
即答だった。なんか二人がものすごく眩しく見えた。眩しい、眩しいよ~。
「仕方ないか、なら・・・」
「教室に戻りましょう、じゃないと先生が怒りますよ?」
神田先輩が何かを言いかけたが、杉田君が群がっている生徒たちの後ろで仁王立ちしている怒りの形相の先生のことを言いながら、教室に入っていった。
「ホームルーム始めるぞ。さっさと教室に戻れ」
「「「「Sir, yes, sir!!」」」」
一瞬、私を含めたその場にいる生徒たちの心が一つになり、何故か英語で先生に返事をした。
「何だったんだろうな、あの先輩」
「これからの時代は超人社会だとか考えちゃってる人なのかもな。力が物を言う的な」
「とにかくあんな理由での告白なんて全然嬉しくない!絶対断るよ!」
あの後、ホームルームで担任の宮田先生に朝の事で「たるむのが早すぎる!」と、俺と杉田と原賀どころかクラス全員が注意を受けてしまった。もともとは神田とかいう先輩が起こしたことなのに。今はそれが終わって授業前の5分間休憩中だ。
「まあ二人とも気を付けた方が良いぞ。たぶんあの先輩、断っただけじゃ諦めないと思う」
確かにそうだ。
「おまけに大財閥の息子らしいし、金使って何かしてくる展開だな絶対」
「う〜ん、それを考えると断らなかった方が良かったかなあ」
「おいおいそんなこと無いって!あんなの断って正解だよ大正解!」
「でも、それで二人に迷惑かけたら私やだよ。私の・・・・友達なんだから!」
結構嬉しかったらしい。
「Don't worry!そんなの俺達は気にしねえって」
「その通り!あと杉田なんで英語?」
「あ!そうだ!杉田君!」
「ん?なんだ?」
原賀が何かを思い出したようで、杉田に顔を向けた。
「杉田君って実は能力者なのかな?」
「そうだけど?」
「「あっさり!」」
「別に隠してるわけじゃないしな。でもよく気付いたな原賀」
「そりゃだって、私が能力を使って窃盗犯を平手で叩いたことが分かってたじゃん。今まであの速さが見切った人なんていなかったのに」
「じゃあ、杉田の能力ってもしかして眼力か何かか?」
「いや、違うぞ?それに見切れたのは能力のおかげじゃない。それは単純にもっと速いモノを見たことがあって慣れてるからだ」
「え?それってどういう」
「そういや、鈴村はどうなんだ?能力アリか?」
「俺は無いんだよな、これが」
言った通り、俺は特殊な能力がない無能力者の人間だ。だけど別に能力があって欲しくかったわけじゃなかった。「進化の世紀」なんて呼ばれてる今の時代に生まれたって、他人を傷つけてしまうかもしれない能力なんて無い方が良いとさえ思っている。
「でもあの神田先輩、お金使って何を仕掛けるんだろう」
「まあ、断られた場合の対応も考えてたみたいだしな。どう思う?杉田」
「今日中には何かするだろうな。まあさすがに授業中はないだろうけど、昼休みはあるかもしれないな。使用人使って俺たちを囲むとか」
「使用人を?そんなベタなことするか?普通」
昼休み。
トイレを済ませて出たところを、サングラスに黒スーツといったいわゆる黒服の男達に囲まれた。少し考えた上で、とりあえず俺は大声で叫んでみた。
「ベタかよ!!」
ツッコミを。
「あの~神田先輩。なんで私を運動場に?」
「ここなら君でも十分暴れられると思ったからさ。どうだい?」
昼休みに突然、神田先輩と黒服の人たちに連れてこられたのは学校の運動場だった。
「それは暴れることができたらの話です!ここ教室から丸見えですし、そんなこと理由も無しにしません!」
「いーや、君にはここで暴れてもらう。そうでもしないと君は俺に従わないからな」
「…やっぱり断って正解でした。今の先輩みたいな人、私嫌いです」
「いいねえ!その真っ直ぐな目!その勢いでここにいる俺の使用人を倒してみてよ」
「しません!今ここで攻撃したら自分の立場が悪くなることぐらいわかってます!」
そうなれば、学校問題になってそれをうやむやにしてやれるのは俺だけだと言ってくるに違いない。その勢いで私と付き合わせるつもりだ。
「あれでもかな?」
神田先輩が指刺した先に、数人の別の黒服の人たちとロープで引きずられている
「鈴村君!?」
よく見たら少し殴られたような傷が顔にある。本人もぐったりしたような感じだ。まさかこんなことまでするなんて。
「・・・・どういうつもりですか、先輩」
「君の強さがどれ程か知りたい。まずは自衛隊から引き抜いた使用人50名相手をどれくらいで倒すか見せてもらいたい。また断るならお友達が痛い目に遭うぞ。こんなふうに」
「っ!・・・・最低・・・・!」
「そうよそうよ!その男、最低ね!」
「仕方ない。じゃあもう一人のお友達もさらに痛い目に・・・・・って!?」
神田先輩がすっとんきょうな声を出して目を見開いた。私も驚いた。鈴村君みたいにボロボロで自分の使用人である黒服に連れてこられるはずだと思っていた杉田が、五体満足どころか何十名かのボロボロの黒服をリヤカーに乗せて引いていたからだ。しかも何故か女口調で会話に入り込んできていた。
「「杉田(君)!?」」
「お、お前、そいつらどうした?」
「殴りかかってきたから、正当防衛で返り討ちにしただけですよ。しかしやり方がベタ過ぎますよ、先輩。たかが一人の女を堕とすために黒服使うとか、脅しで後輩を傷つけるなんて。人とのコミュニケーション大事にしないと、先の人生ダメになりますよ。あと二人を解放して下さい」
「そ、そんなこと今は良い!それよりお前俺の使用人たちを倒すなんて、お前も能力者か?あるならどんな能力だ?もし良かったら」
「良くないです。今すぐ二人を放してください」
杉田君は真っ直ぐな目で見ながら神田先輩を威圧している。神田先輩もその目に一瞬たじろいた。
「よ、よーし。ならここで見せてもらおうじゃないか。おいお前たち!こいつをボコボコにしてやれ!」
黒服たちの何人かが身構えて、一斉に杉田君に向かって突撃した。
ドガバキャッ!!!
次の瞬間、私が昨日窃盗犯を吹き飛ばしたように黒服たちが後ろに吹き飛んでいた。杉田君が返り討ちにしたらしく、その右手には木刀らしき棒が握られていた。
「んな!?」
「・・・・!?」
「「「「こいつは一体・・・」」」」
神田先輩、鈴村君、そして残った黒服たちは何が起きたか分からなかったみたいだけど、私には見えた。
杉田君は黒服たちの突撃の際、右手を剣を抜くかのように左に構えて、黒服たちの拳が触れるかもしれない距離で右手を横一閃に振っていた。その振る瞬間にその木刀が右手に出現していたのだ。
「なんだお前、その・・・・木刀は!」
神田先輩が言葉に詰まるのもわかる。何故なら杉田君が持っている木刀が少し変わっているからだ。普通の木刀と違ってそれは柄が片手ほどで、大昔の海賊が使っていたカットラスのような手をカバーする部分が付いている。
「こいつは旧日本軍の軍刀を模して作った俺オリジナルの木刀ですよ」
「それはどうでもいい!お前はその木刀を今、どこから出したんだ!」
確かに、杉田君が木刀をどうやって出現させたのかは分からない。能力によるものか、あるいは隠し持っていたのか。
「そこまでは言えませんよ。手の内晒すなんてバカのやることですから」
「っ!・・・・そうかよ。おいお前たち!手加減無しだ!全員で掻かれ!そいつを病院送りにしろ!」
黒服たち全員が杉田君に集中して突撃し始めたが、杉田君はその変わった木刀で一人また一人と切り伏せ、まるで戦場を駆っているかのように立ち回っていった。しかし、私はあることを思い出してしまった。
「杉田君!戦っちゃだめ!神田先輩は学校の生徒にこの場を見せて、私を追い込もうとしてたの!」
「そうだ!今さらもう遅いけどな!ほらほら見物してるやつが窓にいるぞ〜」
見上げてみると、校舎の窓から顔を覗かせている生徒がたくさんいた。これではもう言い逃れはできない。そしたら杉田君は、
「原賀!心配するなって。これくらいあの言葉で万事解決よ」
「?」
あの言葉とはなんだろう? すると杉田君は校舎に振り向いて、
「お騒がせしてすいませーん!ただいま撮影中なので、ご了承下さーい!」
と大声で生徒に説明した。いやそれは無理があるんじゃないかな。
あ、何だそうか! 映研かな? なんのための映像だろう?
なんだかんだで納得できているようだ。それでいいの?
「これで脅しは無しだ。さて、まだやりますか?先輩」
「くそ、構うもんか!数で押し切れ、お前たち!」
私はもう悟った。
杉田君の言う通り、大丈夫だなと。
数分後、
最後の黒服が倒され、杉田君だけが立っていた。
杉田君の戦う姿を振り返ると、まさに圧倒的な無双であった。
50名と鈴村君を引き連れてた数名も含めた黒服たちの鍛え上げたであろう拳、蹴り、体当たり、連携、体術などのすべての攻撃を避け、いなして、自らの木刀と左手での拳と手刀で倒していた。
その太刀筋や腰の構えからして相当の鍛錬を積んでいることが伺えた。
いまだに息切れすらせず余裕があるようにも見える。
そしてなによりもその時の目がとても鋭く、そしてより真っ直ぐ前を見ていた。
「それで?まだそこらに隠れている黒服使って自分に戦ってもらうつもりですか、先輩?」
「ち、違う!あいつらは倒された使用人を運ぶためだけにいるんだ!それにそんな気はない!こんなのやったってつまらないだけだ!おいお前ら!みんなを回収しろ!」
神田先輩の命令で、本当に隠れていた黒服たちが倒れた黒服たちを運び始めた。
「じゃあ俺たちはこれで」
「あ、おい!お前も手伝えよ!お前がしたことだろうが!」
「嫌です。昼飯食えなくなるので。それじゃ」
戻ってきた杉田君はまず、鈴村君のところに。
「鈴村、大丈夫か?立てるか?」
「ああ大丈夫、立てるさ。それより杉田、薄々気付いてたけど、お前強いんだな・・・」
「まあな。原賀も一応聞くけど大丈夫だよな?」
「もちろん。・・・それより杉田君、その木刀ってどうやって出したの?やっぱり能力で?」
「That's light.」
「何で英語?でもその木刀を出すことだけが、杉田の能力ってわけじゃないだろ?」
「そ。俺の能力は、ある程度自分が考えた通りの物を作り出す、簡単に言えば"創造"だ。例えば この木刀なんかは、こんな形、質だと頭の中で考えながら出現させることができる」
「それってつまり、考えるだけで無限に作り出すことができるってこと?」
「正確には、能力を使うって考えることから始めるけどな」
「おいおい、それかなりすごい能力じゃねえか!」
「鈴村いいか。残念だがこれよりももっとすごい能力を持っている人間を俺は知っているからな。さあ教室に戻って昼飯食おうぜー」
サラッとすごいことを言いながら校舎に行こうとする杉田君を
「待って杉田君!さっきの戦いぶり、なんであんなに強いの?」
と呼び止めた。杉田の創造能力の説明だけではそれは納得できない。
呼び止められた杉田は、振り向きざまに左目を閉じ、笑顔でこう言った。
「それはまた今度話すさ、あともう友達なんだから名前で呼んでくれないか?俺はギラって呼んで欲しいな」
杉田義羅。
彼はまだ謎が多い。




