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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第三章 揺れる世界
73/120

73 予感

遅れましたが、更新です。

「じゃあちょっと依頼を見に行きがてら情報を仕入れてくる」



「……お兄さん、やっぱりわたしが行こうか?」



「いや、いいよ。何時まで経っても逃げてばっかりじゃいられなさそうだからな。ルネを頼むよ」



「っ、頼まれました!!」



 結った長髪を跳ねさせながら元気よく返事をするイレイヤを宿屋に残し、俺は西大陸の港町、『サウスポートランド』の裏通りに出る。

 本当はルネの体調を考えると、表の大通りにある宿屋を取りたかったところだが、如何せん旅の路銀には限りがある。俺とイレイヤが交互に魔物狩りの依頼を受諾するにせよ、その収入はたかがしれている。


 ギルドのシステムは、ランク制であり、討伐ランクが高ければ高いほどそれに見合っただけの高額な報酬が返ってくる。だが、厳密には俺は違うのだが、俺とイレイヤは元は魔物狩りではなく、探索者として登録していた。

 その登録証を用いて魔物狩りギルドでも依頼は受けられるが、低ランク帯のものがほとんどだったため、教会本部への旅の道中では贅沢は厳禁だった。


 周囲に人は……どうやらいなさそうだ。

 それを確認した後に俺は深くフードを被る。見るからに怪しげな服装ではあるが、怪我隠しのためかこうした格好のものは少なくない。



「こうでもしないと教会が怖くてやってられないな……。なんでどの町にも当たり前みたいに支部があるんだよ……」



 ミノットから人族最大の派閥とは聞いてはいたものの、正直予想以上だった。ここまで教会の勢力がはびこっているならば、ミノットのように魔族は隠れ住む事になってしまうのも頷ける。実際俺が魔族として、吸血鬼としてではなく、何の力も持たない一般人としてこの世界に来ていたとしたら、何一つ疑問に思う事なく教会に従い一方的に魔族に対して敵意を抱いていただろう。それくらい多数派というのは影響力が強いものだ。それはどこの世界だろうと全く変わる事はない。


 そんな事を考えながらギルドへと向かっていると、いつの間にか入り込んでいたのかミノットから譲り受けたコウモリの使い魔、モリーがキイキイと鳴きながら服の中から姿を現した。

 何度経験してもいつ入ったのか、そしてなぜ着ている俺ですら気が付けないのかが分からない自然っぷりだ。



「あっ、おい! どこ行くんだよ!」



 ぴゅーんと自由気ままに飛んでいくモリー。それで一度魔物狩りに摑まって討伐されかけた事を完全に忘れているなあれは。

 狭い路地裏を器用に飛ぶモリーを追うのは思いのほか難しく、見失ったりまた見つけたりを繰り返し俺は大通りの方へと足を進めていった。


 やがて路地裏から大通りへと出る細道を抜ける。そこでようやくモリーが止まったのを見て取ったので、再びどこかへ飛んでいく事のないように俺はしっかり彼女を確保した。



「一体どうしたんだ? お前が突拍子もない行動するのは確かに慣れてはいるけど―――――」



「キィキィ! キィ!」



「何だ? あっちを見ろって―――――」



 瞬間、息を呑んだ。

 珍しく騒ぎ立てるモリーの示す先、大通りを挟んだ向こう側。人混みの間を縫うようにして見えたその場所には一人の少女が立っている。

 髪の色は透き通った水色。小柄な体躯を質素な衣服で包み、少し俯きがちにこちらに視線を向けるあの少女は俺が、いや俺たちがよく知っているはずの少女だった。



「ッ―――――おい、ルネ!」



 堪らず声を出し、届かないと分かっていても手を伸ばしてしまう。たびたび見えなくなる反対側に目を凝らしながら、右から左へ、そしてその逆へと歩を進める町の住人をかき分け、大通りを横切っていく。


だが、ようやくたどり着いたそこには人の姿はなく、閑散とした細道が続いているのみだった。その事実が信じられず、暫く周辺をさ迷っていたが結局それらしい人影を見付けることは出来ないでいた。



「見間違い、だったのか……? いや例えそうにしても」



 ――――――俺から逃げる理由にはならない。ならば幻覚か何かか……? 確かにルネの事は心配ではあるが、そんな幻覚を見るほどだとすれば俺もまた病気だ。速やかに回復士に罹る診てもらう必要があるだろう。


 いや、今はそんな事を考えるよりももっと簡単な方法がある。

 頭を振って今までの邪魔な思考を追いやって、俺は元来た道を戻り始めた。









 考えられるだけの最高速度で俺は宿屋に戻った。とは言っても別に屋根の上を走ったりしたわけではないが。そんな事をすれば憲兵にでも摑まって事情聴取待ったなしだ。そんな事をしている時間なんてどこにもない。


 宿屋の入り口に駆け込み、窓口の女将への挨拶もそこそこに俺は階段を駆け上がった。

 階段を上り終えたところで目の前に見知った背中を見つける。イレイヤだ。彼女ならルネの事を知っているはず。

 


「ッ、イレイヤか!? ルネは今どうしてる!?」



「ふぇ!? お兄さん!? 依頼を見に行ったんじゃ―――――」



「それどころじゃなくなった! ルネは!?」



「え、え? 部屋にいるはずだけど……」



 その言葉を聞き終わるより先に割り当てられた部屋の扉へと駆け込む。そしてそのままの勢いで俺は部屋の扉を大きく開け放った。



「―――――ルネッ!!」



 もし本当に大通りで見た少女がルネならば、部屋はも抜けの殻のはず。

 どうやってイレイヤの目を盗んで抜け出せたのか分からない。それに俺たちに何も言わずにああして出てきた理由も分からない。何か理由があるのか、それとも―――――。


 そうして思考を巡らせながら俺はルネが臥せていたであろうベッドに目を向けた。


 だが、そこには俺が出ていく時と変わらずに眠ったままのルネが横たわっているだけだった。



「……そん、な。じゃあ一体、俺が見たのは……? ただの見間違え、だったのか……?」



「も~、お兄さんってばそんなに怖い顔でどうしたっていうの~?」



「……イレイヤ、お前、俺が出てから何してた?」



「え? 何してたも何も、お兄さんに言われた通りルネの看病だよ? 何、なんかあったの?」



 答えるイレイヤの顔は嘘をついているようにはとても見えない。

 だとするならば、やはり気のせいだという事か。



「……いや、なんでもない。気のせいだったみたいだ」



「……そう? 疲れてるなら、わたしが変わりにギルドに行ってこようか? お兄さんだって一応ちょっと前までけが人だったわけだし」



「いや、それには及ばない。改めて、行ってくるよ。飯も外で食べてくるから、イレイヤも好きに食べてくれ」



「ほ、ほんと!? じゃ、じゃあ町の入り口にあったあの海鮮ピザ食べてもいい!? わたし、あれずっと気になってたんだよねー!!」



 途端に表情を綻ばせるイレイヤ。見てるとなんというか、気持ちが落ち着くな。


 だけど、そう簡単に楽観視していいものなのか。俺がルネらしき人物を見た事と、こうしてルネがいつまでも目を覚まさない事。この二つには何らかの関係があるのかもしれない。

 だが、それは今の俺ではどうすることも出来ない。四六時中彼女を見張っている事は出来るがそんな事は出来ないししたくない。

 教会本部に辿り着くまでに何もないといいけどな。


 そんな事を考えながら、俺は再びギルドへと向かうために宿屋を出たのだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


余談ですが、黒い砂漠とてもおもしろいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラがみな個性的で戦闘シーンなどが丁寧で面白いです。頑張ってください。 [気になる点] モリーのことをイレイヤにばらしたシーンが二回出てきています。
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