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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第一章 大地の洞
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06 衝動

六話目です。




「さて、さすがに何か行動を起こすか」


 ここがどこだか分からないが、首ちょんぱの記憶が夢じゃなかった事が確かになった今推測を立てる事が出来る。


 まず部屋の内装を見ると、シンプルに飾り付けられ一見殺風景とも取れるがその実それぞれがそれぞれを引き立て合うようにさりげなく配置されている事が見て取れた。


「見る目に自信があるわけじゃないけど、うちにあるのとかを参考にすると明らか超一流の職人が手掛けたって感じだな」


 この寝転がっているベッド一つをとってもそうだ。


 極上のシルクのように柔らかく繊細に肌を撫でるこれらの掛け布などもおそらく値段をつけるとしたら諭吉さんが何人も犠牲になることだろう。


「……それにしても嫌味なくらい黒一色だな。確かに俺も黒は好きだけど」


 部屋を一層高貴で厳粛な印象へと引き立てているのがその黒だった。


 そこから連想されるもの、それは今まで見た短い時間のなかで二着ともに共通する、夜のような黒の似合う美女——ミノットの姿だ。


 ここはミノットの寝室と見ていいのではないだろうか。


 使っているのかどうかは別として、あのような現実離れした美女が使うベッドと考えると背徳感ですさまじい事になりそうなので、とりあえずベッドから降りる。匂いとか嗅いでないからねっ!?


 加えて、コロッセオのような所にいた時、彼女は俺とは逆方向の場所から出てきた。あそこに入るための道は俺が来た道とは別にミノットが来た道のみだ。


 予期せぬ来訪者をあの先へ通さないためにミノットが出てきたと仮定すれば、この部屋はあの道の先にあるという事になる。


「という事は、とりあえずあのでかい化け物たちが出る事はないって考えてよさそうだな……」


 コロッセオの入り口に入ろうとしただけで弾けたのだ、恐らく結界的な何かであの先に立ち入れないようになっているのだろう。


 俺がなんで通れたのか分からないが、まあ化け物以外が通れるようになっているとかの認識でたぶん大丈夫だろう。


 いや、もしかすると俺が認識出来なかっただけでミノットが瞬殺したりしたんだろうか。


 そうだとすると空恐ろしいなんてものじゃないな。


 ……もう考えるの止めようか。


 ともかく、本題はここからだ。


「——この先どう動くか」


 ミノットは先ほど邪魔しない限り殺さないと言った。

 正直化け物が出ない今は一番の脅威と言えば、会敵必殺で首ちょんぱしてくるミノットだ。


 どれだけその言葉が信じられるのか分からないのが怖い所だが、こうして介抱してくれたし、割とフレンドリーな話し口だったことから今はまだ大丈夫なんじゃないだろうかと思いたいところだ。


 それで、この先の目標としては二通りある。と言っても最初に目が覚めた時から何一つ変わっていないが。

 

「ここからとりあえず出るという事と、天理くん以下四人を見つけるという事だな」


 どちらにも共通して言えることだが、一番簡単な解決策は恐らくミノットに直接聞く事だ。後者は知らないという可能性は否めないが、前者は高い確率で知っているだろう。


 だが、だが本当にその道は正しいのか。


 目覚めから今この瞬間まで短絡的な思考の下動いた結果、死にそうな目に何度もあってきた。その事実こそが今俺の思考をとどまらせている。


「あー、うだうだ考えても仕方なさそうだなこれ。というか腹はなんとか持つけどさすがに喉が、渇い……て——」


 喉が渇いて?

 ステータスの表記と、そしてミノットの言を信じれば。


 ——俺は吸血鬼に、なったのでは?


 ということはだ、この少しばかり身体の芯にじくじくと響くようなそれは、もしかしなくても吸血衝動というやつなのか?


 いや、まて。吸血鬼だって人間だ。水だって飲むだろう。飲むよね?

 だからそう、これはちょっとしたアレなのだ。アレ。





 ♦





「お前が自分で餌を取れるって言ったのよ」


「あ、はい。デスヨネー」


 誤算だった。全くの誤算。想定の範囲外。


 ちょろっとそのあたりでも見て回って、あわよくば食べ物や飲み物なんかがないかなーと思ったのが運のツキだった。

 部屋にある唯一の扉をくぐり抜け、いざ探さんと意気込んだところで、廊下の向こう側から床を叩く死神の足音が響いたのだ。


 逃げようにもどうやら角部屋だったようで、部屋から出てすぐ左には壁、廊下を挟んだ向かい側も部屋があるという事はなく壁だった。


 つまり詰みというやつである。


「そもそもここに食べ物も飲み物もないのよ。あるのは無駄に多い部屋とかアレとか……。というか何を飲むつもりだったのというの——水? お前、馬鹿なのね」


「いや、こう、人間的な事をしてみたいなぁと……?」


「はぁ、本当に嫌がらせなのかしら。丁度いいわ、付いてきなさい」


「あっはい」


 本気で呆れたように溜息をつく仕草に恐怖を駆られて止まない。


 邪魔はしてない!してないよ!?


 首ちょんぱの時の血で汚れてもいいように場所移すとかじゃないよね?

 えっと、ミノットさん、そっちは壁ですが……。


「『開け』」


 うっそだろ。


 一瞬前まであった壁がその言葉とともに目の前から消え去った。

 その先に現れたのは、長く続く一本道だ。その壁の材質は今やちょっと懐かしく思える堅そうな黒色のものだった。


 何かを言うことも後ろを振り返る事もなく歩いていくミノットの後を慌てて追う。


 ちょっと言葉が足りなさすぎるんじゃないかと思うんですよ。

 コミュニケーション、大切。この考え、大事。


「この迷宮は多層構造で成っているの。原則層を経ていくごとに魔物はより強くなっていく。深いところは魔力が濃いせいなのよ」


「はぁ」


「気のない返事ね。お前だって己の分を弁えていればここまで来れるはずがなかったのよ。今のお前だったら本来一層を踏破することすらままならないのだから」


 まじか。迷宮ってまじか。

 魔物ってまじか。

 その衝撃が大きすぎて話がぜんぜん頭に入ってこない。


 話をしながら、長い廊下を歩いていく。

 じきに見覚えのあるところが見え始めてきた。首ちょんぱで思い出深い場所、コロッセオだ。


「魔物は放っておいたらより大きく純粋な魔力を求め、より迷宮の深いところへ潜っていく。そうやって(わたし)たちの所まで来ることも少なくなかったのよ。だから、区切りを付けた」


「あ、それがあのコロッセオの入り口にあった……」


「そこだけではないわ。他にも数個区切りを付けてその上でたまにお前みたいに身の程知らずにも乗り越えてくる奴らを間引いているのよ」


 ミノットがコロッセオの反対側の入り口へと向かい、歩いていく。


 どの仕草を取ってもどこか気品を感じられるのは何故だろうか。


 その後ろ姿をまじまじと見ながら、ミノットの後に続く。


「それで、こんなこと聞くのもあれなんですけどね、ここって何処なんですかね」


「——? ああ、もしかしてお前ここに直接飛ばされたの? ふふん、エリザの奴徹底しているのね」


「え? あ、はい、まあそんな感じで」


 聞いてしまった。流れでいけるかなと思ったのだ。

 地雷を踏み抜いていませんように。


「ん、まあいいか。ここは世に点在する迷宮のうち、最難関に位置する現世の地獄よ。ニンゲンなんかには立ち入り禁止指定なんかされている魔境中の魔境——大地の(うろ)、と呼ばれているわ」


「へ、へぇ~。ち、ちなみにここで俺以外に誰かって見ましたかね……?」


「お前以外? 変なことを聞くのね。そうね——見つけたわ」


「へ?」


 この場所のおどろおどろしい肩書きに唖然としている暇もなく、唐突にミノットが呟く。


 見つけた、とは何をだろうか。もしかして俺以外の誰か、か?


 だとしたら幸運半分、不運半分だ。

 この人は即殺未遂の前科がある。せっかく会った相手の首がないとかあの値がごりごり減ってしまう。


 ここは一つ進言して。なんだかんだ今の流れなら行ける気がする……!


「えっとあの、出来れば——」


「黙ってるのよ」


「あっはい」


 ひぃっ!首はやめてぇ! 


 首を竦めて、その上で両手で己の首をがっちりガード。それでもまだ全然安心出来ないので気持ちミノットから距離を取る。


 これで振り向いたらダッシュで逃走だ。

 巨大蜘蛛から逃げ仰せた俺の俊足を見せてやる!


「シキキキキキキキキキキッ」


 そうして身構えていた俺の耳が、明らかな異音を捉えた。

 擦過音というのだろうか、酷く耳障りなそれが聴覚からじわじわと全身を犯していく。


 思わず首をガードしていた両手で耳を塞ぐ。

 首ががら空きだ!


 そんな中だがミノットはちっとも動じていない。そしてその彼女の向こう側に異音の発生源がいた。


 特徴的なのはその頭だ。


 バッタのような虫がベースであることはなんとなく分かるが、某ライダーさんみたいな子供受けもするような見た目では決してなく、グロテスクさが表に出ていた。

 そして、不快音の出所はその口だ。乱杭歯のような大きな上下の口顎が微細に振動することによってただただ聞くものを不快にさせる音を撒き散らしている。


 そのくせ、その身体はまるで人間のもののようにすらりとした体躯に細身ながらしっかりと引き締まった四肢が伸びていた。


 だが、その四肢の先、そこは人とはあまりにもかけ離れている。肘や膝から先で二股に分離しているのだ。そのせいでその怪人は八足四手のキテレツな化け物と相成って——。


「うるさい。死ね」


 初動が見えなかった。

 俺の時とまったく同じで、気が付くとミノットが怪人の目前に立ち、その右腕を引き絞っていた。


 言葉の後で、右腕がぶれる。

 目で捉えることも難しいほどの速度で放たれた横凪ぎの手刀が、狙い済ましたように怪人の首元へ吸い込まれていく。

 そしてそのまま、まるで豆腐を切るかのような容易さをもってグロテスクな頭部を身体から切り離した。


 そう思うと、おもむろにミノットは未だ痙攣している怪人の首から下を持ち上げると俺の下へとぶん投げた。


 どさりと鈍い音を立てて俺の足下へと首無し死体が転がってくる。

 丁度目の前で止まったかと思うと、最後に大きく痙攣して、その最後の活動を終えた。


 何これグロい。

 え?ほんとなんですかこれ?


 意図がつかめず、死体から目をそらして口許に軽く手を添えながら、ミノットへと視線を向ける。

 彼女はそんな俺の思いが伝わったのか、小さな口を開いた。


「——飲みなさい」


「は?」


 は?




最後まで読んでくださりありがとうございます。

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