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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
59/120

59 聖女と英雄 vs 魔王 ①

すみません、ほんっとうに遅くなりました!

書いてた分が消えてしまって萎えてたせいです。。。


ペースをあげたい今日この頃。

 矢をつがえ、弦を引き絞り、弓を射る。その単調な作業が幾度となく繰り返され、その度に周囲に群がる魔物が肉塊へとその姿を変えていく。

 出発前に限界まで補給していた物質的な矢は既に底を尽き、代わりにいつの間にか習得していたスキル『弓矢供給 lv.1』により自らの魔力もしくは気力によって生成された魔法的な矢へと変わっていた。このスキルによって天理はMPがある限り攻撃手段が無くなるという事は無くなった。弓術士としての大きな欠点を無視できるようになったのだ。


 だが、代償として消費されるMPにより矢を射る度に倦怠感を感じるようになり、気を抜けばそれが即死に繋がるという事態を引き起こしていた。だが、それは今の状況では大したデメリットにはなっていない。元々魔物に囲まれた四面楚歌の状況下だ、倦怠感の有無が生死を分ける状態など既に過ぎ去っている。


「ーーーーシッ!」


 地上にて危機に陥る仲間を見付けては援護射撃を、もしくは手強そうな魔物を見付けた時には遠距離からの強攻撃により一方的に戦闘不能へと持ち込む。


 天理と紫葵に与えられた役割は遊撃だ。それには二つの理由があった。一つは魔法獣による圧倒的な機動力。ケンタウロスの所以たる騎馬というのは伊達ではない。正しく人馬一体であり、その機動力をもって戦況を掻き乱すのに一役買っている。

 二つ目は最高峰の回復士である聖女の運搬だ。言い方は悪いが、こと戦場において聖女の役割の大部分は魔法による治療。紫葵とてそれは承知している。各々には各々の分にあった役割が与えられる。当然のことだ。分相応など戦場に置いて足手まといにしかならない。


「紫葵、残りのMPは大丈夫?」


「大丈夫! さっき『魔力節約』ってスキル習得してたから大分効率良く使えてるよ!」


 次から次へと襲い掛かる魔物のほとんどを倒しているおかげか、二人のレベルはここに来て(たが)が外れたように上昇を続けていた。それに伴い幾つか新しくスキルを習得することもあった。


 スキルには大きく分けて二つの種類がある。常時その効力を発揮し続けるパッシブ系のスキルと、使用者の意思によって発動するアクティブ系のスキルだ。アクティブスキルはその性質上、使用するスキルの習熟度がそのままスキルの威力だったり、技巧だったりに影響するが、パッシブスキルに至ってはその限りではない。


 今の状況でアクティブ系のスキルではなく、パッシブ系のスキルを習得出来たという事実は大きい。あるだけで戦況を有利に運ぶことが出来るため、単純な戦闘能力の底上げが出来るのだ。


 そうして二人で時に紫葵の光魔法による支援を受け、時に天理に滑り落ちそうになった時に支えてもらいながらしばらくの戦闘を繰り返した。


「……紫葵、そろそろ治療に回ろう!」


「分かった! ルーシカちゃんお願い!」


「おう、任せとけチナ!」


 当初の取り決め通り大部分の遊撃は天理が、しばらく経ち紫葵の回復魔法により治療に回る必要が出て来た場合にはルーシカとその役割を変わる。

 ルーシカは見た目は華奢な少女だが、その圧倒的な戦闘センスには目を見張るものがある。それはギルマスも、そして共に行動をしてきた天理にも分かっていた。ルーシカ自身、魔物と闘えることに悦びを見出だしており、身体を震わせて快諾していた。末恐ろしい子だ。


「『回復』、『回復』、『回復』」


 ――――回復、回復、回復、回復。

 翳した手から爆発的に零れ出る聖なる光。その光の大きさはそれすなわち効力の高さだ。紫葵の『回復魔法 lv.9』は伊達ではない。科学による医療技術を超越した魔法による一種の時間遡行。聖女による奇跡の行使。だが所詮は初級の魔法、いくら紫葵が聖女と称されるほどの回復魔法の使い手だとしても階級の壁は容易には越えられない。初級である『回復』によって完治出来る怪我はたかが知れている。


 だが、紫葵とて悪感情からそうしているわけではない。戦場という何が起こるか分からない場所に置いてむやみやたらと魔力を使うのは自殺行為に他ならない。いざというとき時にガス欠になりましたなど笑い話にもならない。待つのは死のみだ。

 ましてや今のように部隊規模での戦闘、加えて紫葵は回復士。各々で最低限の治療道具を持ってはいるものの、回復士の魔力が切れてしまえば結局じり貧となってしまう。


「――――これでよし!」


「ありがとうごぜえやす、聖女さま。これでまだまたま戦えまさあ」


「無理はしないでくださいね」


 今にも平伏しそうなほどに畏まる魔物狩りの一人を尻目に、紫葵は民家を出る。思い切り不法侵入ではあるが、まさか道路のど真ん中で治療をおっ始める訳にはいかない。幸い、と言っていいのか今の状況ではわざわざ家に鍵をかけてから逃げ出す住民はほとんどおらず、ほぼ全ての家屋が開け放しの状態だ。

 ゆえにこれ幸いと戦線の移動とともに幾つかの家屋を利用してきた。


 門番のように家の入り口に立ち、魔物の侵入を警戒していた天理が紫葵に気付く。


「首尾は?」


「一応一通りは終わったよ。ただ今のペースだとちょっと厳しいかも」


「確かにそうだよな、僕もそう思っていた。でもそろそろ魔物の群れを抜けてもおかしくはない頃合いでもある。――――ほら、さすがルーシカだ」


 天理が視線を向ける先、そこは人の姿が重なりあったり魔物が重なりあったりと混沌としており、とてもルーシカを見付ける事は出来ないが、紫葵にはすぐに思い至る事があった。天理が習得しているスキル『千里眼・天』だ。あらゆる視覚に関する能力が強化されるらしく、それを用いて数キロと離れた距離から小さな魔物を射抜いていた様を紫葵は見たことがあった。今もそれによってルーシカの様子を確認していたようだ。


「向こうで何か動きがあったの?」


「ルーシカがかなりの数を凪ぎ払って大きなスペースが出来た。そこを埋めようとしないところを見るとそろそろ数が打ち止めなのかも。どこから、それもどうやって湧いてるか知らないけど、今の一瞬だけでも空白が出来たならチャンスだ。行こう、紫葵」


 そう言って天理は紫葵の手を取り、前線で快進撃を続けるルーシカの下へと合流した。天理たちが魔物の群れを抜け出したのはその直ぐ後だった。








 ♦








 何度か魔物たちに囲まれては撃退を繰り返していた天理たちは、やがてその包囲網を突破し王城を目の前にするまで来る事が出来ていた。


「いやに静かだな……」


「王城の周りだけぐるっと魔物がいないね。罠か何かかな……?」


 『天雷』の背に跨り空を駆け、偵察のために王城を見下ろしながらその周囲を一回りしたが魔物の姿は見られなかった。それまでの大群が嘘のように、王城の周りだけは奇妙な静けさで満ちており、そのギャップがある種の薄気味悪さを醸し出していた。

 だが天理たちはここで立ち止まっていられない。魔物がいないという事がどうした。これから王城に乗り込み魔王を討つのだ。無駄な戦闘が無くなるという意味では好都合でしかない。


「罠なんて張る意味がない。わざわざ罠を張って待ち構えて、来たやつを根こそぎ倒すなんて考えの持ち主ならそもそもこんな行き当たりばったりで一国の王都の、ましてや王城なんかを襲撃しないよ」


 罠ではない。それはほぼ断言できる。

 だとするならば……魔王には絶対の自信があるのかもしれない。自分は逃げずにここにいる。倒せるものなら倒してみろというような、それこそゲームに出てくる魔王のような絶対の自信が。


 偵察の報告をギルマスにし、ギルマスの意見も聞いてみると天理と同じく罠の可能性は低いとの事だった。ギルマスが下手を打った魔物を未だ見ていない事に若干の不安を覚えるが、ギルマスが見た際も魔王のすぐ近くにいたという事で、魔王の奥の手的なものだろうとの結論に至った。どのみち避けては通れない道だ、ギルマスが共有する情報を頭に叩き込む。ぶっつけだがやらなければやられるのはこちらだ。学校の試験問題への対策を暗記するのとはわけが違う。


 今一度体勢を整え、出来得る限りの準備をした後に堂々と王城の正門から中へと足を踏み入れる。豪奢に聳え立つ正門の内側も王城の周囲と同じく人気も魔物の影もなく静けさだけが漂うのみだ。普段であれば守衛や王族の側仕え、庭師や訪問客などで賑わうはずの場所だ。そこが無人となっているという事実は天理たちに嫌な想像を掻き立ててやまない。


「分かってはいたけど、護衛も守衛も見当たらないね。この分だと王城に勤めていた人たちや、王族達も……」


「――――ギルマスッ!」


 王城の構造に疎い天理たちに代わり、何度か足を踏み入れたことがあるギルマスの先導の下曲がりくねった城へと続く細道を歩いていく。


 ―――――と、その時警戒しながらも進んでいたギルマスに上から影が降りかかり、それに気付いたら天理が危険を知らせる声を上げた。とほとんど同時にギルマスもその影に気付きその場から大きく飛び退く。


 ギルマスがいた丁度その場所を抉りながら着地した二体の影。立ち上る土煙から現れたその姿は酷く人間に近しく、それでいて魔物特有の気持ち悪さも併せ持つ生き物だった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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