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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
43/120

43 ロモリ村

更新です!

評価が上がっててほくほく。

「お兄さん、後ろに行ったよ!」


「おっけい、任せろ。―――――『影楔』」


 群がる魔物を影魔法で一掃する。手のひらから放たれた黒の魔弾は唸りを上げながら魔物の肢体を貫き、それだけに留まらず地面までを抉っていく。


 放たれた後のそれはさらに楔となって魔物たちの影を縫い止め、動きが止まったところに追撃の『影嵐』だ。確実に広範囲の敵を薙ぎ倒せるため、今のところ俺のお気に入りのコンボだ。

 イレイヤが対応出来なかった数体の魔物を処理し終え、前のイレイヤの様子はどうかと目を向けると、丁度同じタイミングでイレイヤも最後の魔物に刃を突き立てている所だった。


 血飛沫が掛からないように気を付けてか少し体を反らしているイレイヤ。その体から薄く立ち上っていた靄のようなものが引っ込む。これが所謂気力、又は闘気と言われる代物で、戦士が身に纏う魔力のようなものだとミノットから聞いた。

 なにやら戦士として技を磨いている内に魔力が形質変化を起こし気力へと変遷していくらしい。故に魔力と気力を同時に操ることは例外を除いて不可能だという。その例外にまでは触れなかったが。


「いやぁ、さすが探索者様ですなぁ。この老いぼれ、いよいよ頭がイカれちまったのかと思いましたよ」


「お爺ちゃん、ずっとわたしたちの事心配してくれてたもんね。だから何回も心配いらないよって言ってたのに」


「いやぁ、申し訳ない。こんなに若い探索者というものを見たことがございませんでねぇ」


 御者のじいちゃんが頭を掻きながらふがふがと言う。どうも俺たちの強さがじいちゃんの想像以上だったようだ。


 今、俺たちは海辺の街を出て大陸中央のゾード帝国へと向かっていた。カイザースからゾード帝国へは一応列車が繋がっているらしいが、国を経由することと安全性の面からやはり今は運行していないらしい。というかもしかしたら世界全土で列車は止まっているのかもしれない。


 そういうわけで俺たちはカイザースから繋がる街道を地道に辿っていく道を選んだ。街道は整備されており、定期的な間引きや、魔物対策の魔道具などが設置されており、完全にとはいかずとも安全性は高い。だがそれでも魔物が襲撃をかけてくることはあるため、商人などがギルドに護衛依頼を出すのだ。

 カイザースには近場に迷宮がないため、探索者ギルドはなかったが、代わりに魔物狩りギルドがある。探索者ギルドと魔物狩りギルドには互換性があり、それぞれどちらかのカードを待っていれば異なる方のギルドでも限定的に依頼を受けることが出来る。


 そうして俺たちはカイザースから次の街、モロヘモへと向かう商人の護衛依頼を受けたのだった。


「いやぁ、お兄さんやっぱ強いねぇ。魔力見えないけど、たぶんすっごい出てるんだろうなぁ」


「まあこの方面にかけてはみっちりしごかれたからな……。てか戦いながらよくこっちの状況見れたな」


「ふふん。まあお兄さんの戦いが見たかったからわざとそっち側に通したしね。お爺ちゃんには内緒だけど」


「おいコラ。いらん事をするな。もし俺が対応出来なかったらどうするんだよ」


「お兄さんなら出来るって信じてたの!実際出来たから良き良き」


 はいはい、信頼されていて嬉しいことで。


 馬車の荷台で商品とともに揺られながら雑談を交わす。

 カイザースを出てさっきのが初めての戦闘だった。海では船酔いで何も出来なかったため、どうにかして俺の力を確認しておきたかったのだろう。イレイヤからしてみるとこれからどれだけかかるか分からない旅路を共に過ごす相手だ。一応大地の洞の中層まで行ける実力があるとは伝えてあるが、それだけでは不確実だからな。


「モリーちゃんも面倒なご主人を持って大変だねぇ~。なんならわたしのところに来たらいいのに」


 モリーに頬擦りしながら、目にハートを浮かべてイレイヤが言う。モリーはとてつもなく嫌そうな顔でこっちに助けを求めるような視線を寄越すが俺にはどうすることもできない。耐えてくれ。


 モリーの事をイレイヤに話したのはカイザースから出る直前だ。子供の頃に親を亡くしてからきょうだいのように育った使い魔と話すと涙ぐみながら胸に抱え込んだ。モリーをだ。設定とは言えおかしい。

 それからイレイヤはモリーの虜となったようで、片時も離さずにぴったりと密着している。モリーは迷惑そうにしているが、イレイヤは気づく気配もない。


「街道って言ってもあんまり他の馬車とか人はいないんだな」


「ん?まあ、大体一つか二つの馬車で一塊で動くしね。それに道もいくつかあるし」


「そういうもんか。流浪人や商人でもないとあんまり自分の街からは動かないのかもな」


「まあ普通の職業の人が移動するときにいちいち護衛なんて雇えないしね。無償にするわけにもいかないし」


 一応護衛時に倒した魔物なんかは自分のものになるが、そもそも毎回出るわけでもないし、魔物狩りにとっては命懸けだ。それを無償に行うなんて聖人のそれだ。


 他愛もない話をしつつ、馬車越しに外の景色に目を向ける。カイザースから出て、徐々に山を登っていっているようだ。生活圏から外れ、辺りを緑が支配していく。

 あっちで見たことがあるような植物や、まったくと見たことがないような植物が入り交じっている。中には明らかに魔力を放っているものもあった。


「ここは薬草が取れるんでさぁ、って言っても等級の低いやつばっかりですが。そいでこの森を抜けると小さい村があるんですが、今日はそこに泊まりましょうや」


 カイザースを出て既に野営を三回行っていた。さすがにそろそろベッドで寝たい頃だ。

 中央島で買った野営セットが早速仕事をしてくれたが、所詮野営時の不快さを無くすだけで、快適にしてくれるには程遠い。無いよりは十分ましなため、おやっさんへの感謝は尽きないが。


 御者歴三十年というこの道のベテランであるじいちゃんの手によって、整備された山道を快適に進んでいく。

 本当ならば暗い茂みなんかを警戒しなくてはいけないが、こちらにはモリーがいる。例のごとく俺の魔力視は役には立たないが、先の戦闘にてその有能さを示した我が使い魔には馬車の乗員一同が全幅の信頼を寄せている。奇襲されることはないと言ってよかった。


「この先の村ですがね、ロモリ村といってそれはもういい村なんですわ。最近はこの辺で商ってなかったもんで、かれこれ十数年ぶりになりますがねぇ。わしの事を覚えておいてくれるとありがてぇんですが……」


 そう言い、続けてロモリ村での思い出をつらつらと話すじいちゃん。余程その村がお気に入りだったようだ。聞いている俺たちまで期待が膨らんできた。


 おいしい料理に、綺麗な娘さん。豪放で親しみやすい男衆。立ち寄ったときにはほぼ毎回宴じみたことをしていたようだ。楽しそう。


「……おかしいですね。前は森の終わりくらいに狩人を立たせていたんですが……」


 暫く馬車を走らせ、もうそろそろ森の終わりが見え始めるところでじいちゃんが不穏なことを呟く。

 馬車の窓から顔を覗かせ先の道を確認しようにも、傾斜が邪魔をし満足に見通せない。


 心なしか馬車の足を速くし、一息に森を抜ける。






 そこに待っていたのは完膚なきまでに倒壊した村の姿だった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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