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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
38/120

38 新天地へ

毎日更新……向いてないかも……。


まぁ、頑張りますけどネ!

出来なくても暖かい目で見守ってください。

「おやっさーん、ちょっと世界旅してくるから色々融通してよー」


 俺が獣人と出会うという衝撃から立ち直れないでいる間に、イレイヤがその男性に駆け寄り、交渉に入っていた。

 目がもう既にまけろと語りかけている。がめつい。金がない俺が言うことじゃないけど。


 でも、そうか。吸血鬼がいるくらいだ、人狼(ウェアウルフ)やもしかしたら牛頭人(ミノタウロス)なんて言うのもいるかもしれない。初の出会いがたぬきっぽい動物の獣人というのは何とも言えなさが残るけれど。


「おう、イレイヤ。大地の洞はもうやめたのか?いつもの兄ちゃんたちがいないようだが」


「あー、うん。ここは、もういいんだ。それに皆もどっか行っちゃったから」


「……あいつら。イレイヤにおんぶにだっこだったくせしてそれか!今度会ったらただじゃおかんぞ!」


「あーあー!おやっさんが制裁を下したら骨も残んないって!わたしは大丈夫だから、ね?今はお兄さんが一緒にいてくれるから」


 イレイヤがそこまで言ったところでようやく俺の存在に気付いたのか、おやっさんが俺にその鋭い目を向ける。イレイヤから話を聞いたばかりだからか、その目には疑念がありありと浮かんでいた。俺を推し量るような目だ。


 別にイレイヤを害しようだなんてまったく思っていない。ただ放っておけなかっただけだ。だからそんな目で見ないでほしい。そういう目はあまり、好きじゃない。


「……お前さん、名前は」


「ルイです。ルイ・ハギリ」


 初対面でこうやって名前を聞いてくる人はこれで何が分かるんだろう。相手の名前は分かるかもしれないけれど、その相手からは自分の名前を言わずに相手のは聞く不躾なやつという烙印を押されるだけだと思うのだが。

 第一印象は大事だ。その時の印象が後々にまで響くことが多々ある。だけど、このおやっさんは悪気があってやっているわけではないのだろう。彼からはただただイレイヤを案ずる気持ちだけが伝わってくる。


「ルイよ。儂はここでしがない万事屋をやっとる爺よ。それももう四十年になるか。色々な輩を見てきたよ。仲間を仲間とも思わない輩、平気で人を蹴落とす輩、そして殺しを愉しむ輩。いいか、全員に共通していたのはその本性を隠していたってことだ。見たところお前さんも何か―――――」


「―――――おやっさん!」


「ム……。いいか、言いたい事は分かったな?イレイヤの怒りを買いたくないからこれ以上は言わんが、心に留めておけよ」


 ドスの効いた低い声で俺に忠告するおやっさん。

 俺だって好きで隠し事をしているわけではない。隠し事をするのには相応の理由があるのだ。理解してほしいとは言わないが、せめて放っておいてほしいものだ。


 それにしてもやっぱり見る人が見ればすぐに分かってしまうか……。イレイヤはいいとして、これからはもっと対応を案が得ないといけないかもしれないな。

 モリーについてもそうだ。使い魔として晒していいものなのか。機を見てイレイヤに聞いてみるか。


 魔道具で調べたところ、使い魔というのは動物が、とりわけ人に好意的なものが選ばれるのだそうだ。だから鳥や犬なんかが多いらしい。

 そう考えると俺の使い魔であるモリーはどうなんだろうな。コウモリだし。吸血鬼を連想するからって理由で嫌われてそうなんだけど。


「おやっさん、とにかく商品見せてよ。今日にはもうここを発つ予定だからさ。この後ギルドに行って許可証発行してもらわないとだし」


「随分急だな。何が必要だ?」


「とりあえず野営道具一式と、後新しい装備見繕ってくれる?ちょうど気持ちを一新したいし。あ、あと精霊石ある?水のやつ。保存食もあったらください」


「お、おいイレイヤ」


 たまらず手招きし、小声でイレイヤに話しかける。

 イレイヤはおやっさんを一瞥した後に、ぴょこぴょことその三つ編みを跳ねさせながらこちらに歩み寄って来た。


「どうしたの?お兄さん。あ、お兄さんも何か買いたかったらおやっさんに言っていーよー」


「いや、俺は何もいらな―――――じゃなくて。必要なのは分かるんだけど、そんなに買う金あるのか?俺ほんとにもう金ないぞ?」


「ああ。ここは融通してくれるって言ったでしょー。それに今持ってるもので売れるものとか売るし。アクセサリーとか、服も何着か持ってるし」


 も、元々持っていたものを売ってまで俺の人探しのための費用にするって?そんな事をさせられるわけがない。ヒモになるためにイレイヤと行動を共にしようと思ったわけでは決してないのだ。


 とは言っても俺には金なんてないし……。これならもっとミノットからお金をもらっておくべきだった。いやだめか。ヒモの相手がイレイヤからミノットに変わるだけか。


「あっ、そうだ。俺迷宮で倒した魔物持ってるよ。これ売れない?」


 影魔法は様々な用途で使える。広く浅くが基本の魔法ゆえにその道に秀でた魔法には勝てはしないが。


 『影出づる宵闇の箱(パンドラ・ボックス)』も同様だ。体系としては収納系に分類されるが、同じ収納系の頂点に立つ空間魔法にはその収納出来る体積や質量、保存期間などは全く及びもしない。

 ちなみに俺が使える収納系の魔法は『影出づる宵闇の箱』だなんて大層なものじゃない。それが使えるのはミノットくらいのものだろう。

 俺はせいぜい『小さな黒い箱』くらいだ。命名は俺自身だけど。


「わお、収納系の魔法だ!お兄さん、やっぱり魔法使いなんだねー。属性は……よく分かんないけど」


「あー、俺のはちょっと特殊らしくてな。俺も分かんない」


 『小さな黒い箱』から魔物を二体取り出した俺を見て、イレイヤが感嘆の声を上げる。収納系は珍しいそうで、探索者や魔物狩りでも重宝されるそうだ。やはり魔物を倒してから解体して一番価値の高いものだけを収納袋に詰め込んで持ち帰るよりも、丸々を収納系の魔法に入れて持ち帰る方が効率がいい。魔物討伐や迷宮探索に持ち込める収納袋の程度なんて知れている。精々魔物二、三体分の部位だけだろう。


 今の俺の魔法で若干優位が取れるくらいだ。重宝もされるだろう。


「これは……、中層の魔物か。確かギルドに許可証貰いに行くって言っておったな。なら素材の一部を残して二体とも丸ごと貰うがいいか?一応ギルドにごねられた時用に一筆(したた)めるのもいいが」


「そうですね。俺のこれは二体が限度なので、そうしてもらえるとありがたいです」


「ならちょっと待ってろ」


 そう言い残し、おやっさんは店の奥へと消えていく。品物と書状を準備しに行ったのだろう。

 その間の時間、イレイヤを倣って店の商品に目を向ける。


 魔道具、装備品、よく分からないもの、ベッド、よく分からないもの、石、本、よく分からないもの。

 目に入るものの半分近くがよく分からないものなのは俺の知識不足なのか、それとも単にここがそういう怪しげな物を売る店なのか。


「あ、これ可愛い」


 そう言ってイレイヤがよく分からないものを手に取る。全然理解できない。女の人の可愛いってなんでこうも理解できないんだろうな。ただ俺にセンスがないだけか、そうか。








 さんざんイレイヤからかわいいかわいいと聞かされ続けて数十分。気疲れしてへとへとになっていたところにようやくおやっさんが荷台のようなものを転がしながら戻ってきた。


「待たせたな。荷台もサービスしようかと思ったが、ルイの魔法でなんとかなるだろう」


 確かに思っていたよりも量が少ないようだ。野営道具一式もどうやら魔道具のようで、電子レンジくらいの大きさの箱を起動させると、テントや簡単な調理道具、ランタンなどなど野営するに当たって必要なものが出てくるもののようだ。魔法ってすごい。


 他にも気になるのはイレイヤが言っていた精霊石だろうか。昨日読んでいた限りではこの世界には精霊は存在しないということだったが。


「火の精霊石、水の精霊石がそれぜれ二個ずつだ。どれだけの期間旅するのかは分からんが、足りなくなったら出先で補給してくれ」


「ありがと、おやっさん!これがないと綺麗な水も飲めないし、火起こしも面倒なんだよねー。装備の方はどう?」


「ここから出た短剣のうち、おもしろい能力を持ったやつがちょうど入ってきていてな、それを用意した。扱いは難しかろうが、お前さんなら出来るだろう」


「何からなにまでありがとね、おやっさん」


「……ふん、死ぬんじゃないぞ。いくら『渡り鳥』の一族といえど、死ぬときは死ぬ。お前さんも知っての通りな」


 その言葉にぴくりと反応するイレイヤ。だが、目に見える反応はそれだけだ。どこか寂し気な笑みを浮かべておやっさんに差し出された短剣を受け取り、腰に帯びる。

 それを見て、俺も野営道具一式などを収納した。これでもう一杯一杯だ。発動中は魔力も使う。無理しなければ大分持つだろう。


 これでこの島でやる事の大半は終わった。後はギルドに行き航海の許可証を発行してもらうだけだ。


「じゃ、またね、おやっさん」


「ルイが嫌になればいつでも帰ってきていいからな。儂の店で働かせてやる」


「あはは、何回も言ってるけどわたしに売り子は合ってないと思うんだけどなぁ」


「―――――ルイ。イレイヤを頼むぞ」


 言われずともだ。責任は取れる人になりたい。途中でほっぽりだすような事は絶対にしない。


 おやっさんと男の誓いを交わす。相手を男と見込んでのものだ。必要以上の言葉はいらない。そこにあるのはただ信頼のみだ。

 出会ってすぐの相手に対してどれほどの信頼を抱けるのだ、と思われるかもしれないが、この人なら大丈夫と思わせる何かをおやっさんは持っている。おやっさんから見て俺もそうでありたいと思う。


 別れの挨拶は直ぐに終わった。店を去り、振り返る事もなくギルドへと向かう。親しい相手との別れにしてはやけにあっさりしている。死が近い世界ならではなのだろうか。

 いや、並び立つイレイヤにそれとなく視線を向けると、涙を堪えるように少しばかり天を仰いでいた。そりゃそうか、かなり親しくして貰ったみたいだ。俺が一緒に行こうと言わなかったら、おやっさんとともにあの店で働く未来があったのではないか。


「……良かったのか?本当に俺に付いてきて」


「一緒に来るかって言ったのお兄さんでしょー」


「そうだけど……」


「おやっさん、言ってたでしょ。わたしは『渡り鳥』。一ヶ所に留まるのはあんまり性に合ってないみたい。今回はパーティーの人に言われて長くここにいたから、こんな事になっちゃったしね」


「……そうか、ならいい」


 その会話を区切りに、しばし静寂が漂う。

 イレイヤと共に過ごした短い時間の中では初めての事だ。イレイヤにも何か思うところがあるのだろう。


 そろそろ頂点に差し掛かるかといったところの太陽に照らされながら、ギルドへの道を進んでいく。出会う人それぞれが忙しなく、道を行き交っていく。


 生があった。作り物なんかじゃない、ただ日々を懸命に生きようともがく生が。

 その事実が、今のこの現実を夢物語じゃないと訴えかけてくる。


「ーーーーーお兄さん?」


「ん。いや、何でもないよ」


 ギルドに入る手前で急に立ち止まった俺を訝しみ、イレイヤが声を掛けてきた。はっと我に返り、手をパタパタと振り答える。


 早く皆を見つけないとな。そのためにはまずこの島から出ないとだ。

 そう決意を新たにし、イレイヤとともにギルドへと入る。








 こうして俺たちは天理くんたちを探すために島を飛び出した。

 この先にどのような障害が待ち受けているのかを知らないままに。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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