表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
36/120

36 定期会議

すみません、遅れました…。

亀の歩みのような速度で展開が進んでいっています!

「さて、イレイヤが旅の一員になったことだし、ここでさっそく第一回定期会議を始めたいと思う」


「わー、ぱちぱち」


「ありがとう、ありがとう。で、議題はというと……金がない!」


「え?」


「金が!ない!」


 ギルドでの一騒動の後、シーモスさんとやらから無事ギルドカードを発行してもらい、迷宮で拾ったギルドカードも届けたところで、イレイヤから彼女が使っている宿へと案内された。

 そこは中堅のホテルといった具合で、イレイヤに聞いたところ相応の金額を払えば相応の暮らしが出来るくらいだという。


 イレイヤに案内され、一階にある食堂へと入り、簡単なものを注文してそして先の発言に至ったというわけだ。


「あー、でも確かに今まで流浪人してたんだっけ。そりゃお金もないよね」


 それだけじゃなくて、貨幣の価値とかもよく知らないけどな。


 最初は一人で旅をしながら天理くんたちを探す予定だったから、食事はいらないし、宿も最悪野宿で良かった。お金を使う予定がなかったのだ。

 それが突然一人拾うことになってしまった。吸血鬼ということを隠すためには、人間に扮した行動を取らなければならない。つまり、お金がいるのだ。


 何も大富豪になりたいと言っているわけではない。ただ違和感を感じない程度に誤魔化せればそれでいい。


「そこでイレイヤの知恵を借りたいと思ってね」


 知恵がないなら、ある人から借りればいい。

 イレイヤは割と面倒見のいい方だ。俺がギルドで困っていた時も助け船を出そうとしていた。


 まあ、ちょっと天然……というかバカが入っているかもしれないが、そこはそれ、この場合では誤魔化す必要がないということで。


「ほうほう、ほうほう。そういうことならわたしにまっかせなさい!」


「お、何かいい方法があったり?」


「まず、お金を稼ぐ方法はいっぱいあります。商業しかり、農業しかりその他様々。たくさんお金を稼ぎたいなら、それにみあうだけの時間と資源、人材が必要となってきます。お兄さんにはそういうのはなさそうなので、短期間で大量には無理。なら、短期的に少しずつ稼ぐことの出来るのがいいと思います。そこでお兄さんが取得したギルドカードが有効活用出来るようになります。このカードは魔物狩りのギルドとも互換性があり、受けられる任務なんかには制限がかかりますが、討伐した魔物の部位なんかは魔物狩りのギルドに買い取りをお願いできるようになります。わたしもギルドカードを持っている関係と、近年魔物が増加傾向にある関係から、お兄さんの目的通り人探しをしながら道中魔物を適宜討伐しながら、立ち寄ったギルドにて売却を繰り返していくのが効率的ではないかなと思います」


「待って待って」


 な、なんだ?どんな豹変だ?

 イレイヤが賢く見えるんだけど、どんな錯覚?ありもしない眼鏡すら見えてきそうだ。この世界にあるのかは知らないけど。


 いや、さすがというべきなのだろう。

 イレイヤは元々流浪の民だったという。その時に得た知識から、こうした情報なんかがすらすらと出てくるのだろう。


「……何か?」


「いや、俺が悪かった。もっとふんわりした答えが返ってくるもんだと思ってたからさ」


「お兄さんもしかしてわたしのこと馬鹿にしてる?!わたしはすっごく頼りになるんだぞー!」


「いや、その通りだ。イレイヤは…いや、イレイヤさんにはもうお世話になりっぱなしでして」


「あっ、ちょっ」


「なんで今までタメ口なんて生意気なことしてたんすかね俺。これからは決して生言わないんで。あ、なんなら土下座でもしましょうか?」


「敬語ダメー!!」


 我慢の限界が来たのか、イレイヤがぷんすこと怒り始める。


 ダメだな。イレイヤの人柄的に、話しやすい分絶対に一回はふざけてしまいそうだ。

 そういう部分に安らぎのようなものを感じてしまう自分に自覚する。やはり人は一人では生きていけないようにでもなっているのだろうか。


「まあ、冗談はさておき。要約すると、とりあえず探しながら魔物を討伐する。ある程度貯まったら最寄りのギルドで売却する。それを繰り返すってことでいい?」


「色々言いたいことはあるけど大人しく飲み込みます。女神のように寛大だからネ!……それで結構生きていけるよー。まあ時期とか地域によっちゃあとんでもない目に遭ったりもするけどね」


 とんでもない目、というのが気にはなるが、元々一筋縄で行く旅だとは思っていない。

 見付からなければ見付けるまで。その国にいなければ、その世界まで。どれだけ行こうと、どれだけ経とうと見付け出す所存だ。むしろ何も無い方がおかしい。


 とにもかくにも、イレイヤのおかげでやるべきことは分かった。次に決めるべきことは、行き先だろうか。


「お兄さん、お兄さん。その探し人ってどんな人なの?」


「ん?ああ、そもそも一人じゃなくて、四人なんだ。紫葵ちゃん、天理くん、真綾、紗奈って言うんだけど。そうだなぁ、紫葵ちゃんは………」


 改めて聞かれると表現に困ったが、なんとかつっかえつっかえ、身ぶり手振りを交えて、一人ずつの特徴を伝えていく。

 その間、イレイヤは黙ってふんふんと頷くばかりだ。


 一緒に探すにあたって、イレイヤとの情報共有は確かに必須だ。今まで完全に失念していた。


「うーん、絵でも描ければまだ楽になるかもしれないけど……。いっそ教会に掛け合う?でもあそこはそんな人探しなんてしてくれるとも思わないし……」


「教会、はちょっとなぁ……」


 行ったら粛清されちゃうよ。


 警察みたいな組織はあったりしないのだろうか。いや、あっても普通は快く人探しを引き受けてくれたりはしないのかもな。


 やはり、地道に聞き込みをしていくのが一番いいのだろう。


「人の多いところに行って聞き込みをするのがいいんじゃないか?」


「まあそうだけど……。お兄さんってやっぱりマゾなの?お兄さんってぼっちなんでしょ?」


「うん、ちゃんと話し合う必要がありそうだな。俺はまちろんマゾではないし、ぼっちでもない。ただあれだ、ちょっと人の目を引きたくないだけだ」


「もぉ~、ぼっちの人はみんなそう言うぅ~。ていうか、それやっぱりぼっちでーーーーーいたたたたた」


 涙目で頬をさするイレイヤ。無駄に柔らかかった。


 そりゃあ、なるべく人とは関わりたくはないけど、この場合は別だ。聞き込みもなにもせずに人探しするのはさすがに無謀すぎる。


「あっ、人が多いと言えば、今の時期的に南大陸が一番かも!」


「南大陸?」


「東西南北に位置する四つの大陸の中で一番獣人が多くてね、その関係で毎年この辺りの時期に大会を開くの。拳闘大会みたいなの。知らない?」


「はぁー……。いや、南大陸には行ったことがなくてな」


「まあ有名って言っても国外だと全然話とか聞かないかもね。その道の人なら絶対に一回は名前を聞くだろうけど」


 なるほど。

 とりあえずこの世界の立地が分かった。東西南北に一つずつか。


 それに拳闘大会か。色々な国から人が集まるなら、それだけ多くの情報を得られる可能性が高い。高いのだが、やはりそれだけで人を見付けるのは厳しいか。


「とにかく他に行くところなんてないし、イレイヤの言うとおり南大陸に行こうと思う」


「あいあいさー!どこまでもついていきやすぜ、兄貴!」


「どんなノリだよ」


 会議を終え、食堂の支払いを済ませたところでイレイヤから同じ宿に泊まる事を提案された。


 確かに宿のことなんて何にも考えていなかった。ギルドカードを届けたことで一応手元には幾ばくかの資金は貯まっている。イレイヤにそれとなく確認したところ、一応一泊は出来るみたいだが……。


「まあまあ、いいでしょ?こんな可愛い女の子を一人で泊まらせる気なの?ごっつい男の人だって泊まってるんだよ?」


「今までも一人で泊まってたんじゃなかったのか?」


「今までは、ほら。前のパーティーが……」


 そこまで言って、弱々しい表情でこちらを見るイレイヤ。そんな表情をされるとこちらも困ってしまう。


 お金は確かに大事だけど、いずれ稼ぐことが出来る。だけど、人の心は一度ひび割れると元に戻るのは難しい、か。


「まあ、泊まるくらいなら……」


 さっきに気付いたのだが、迷宮から出て来てから喉の渇く速度が心なしか速くなった気がする。道行く人々がほとんど全員怪我をし、血を流していたりするせいかもしれない。

 だから、なるべくせめて夜の間は町から離れようと思っていたのだけどな。


 だけど、イレイヤに寄り添うと決めたのは俺自身だ。それを曲げるなんて事はしたくはない。


「やっぱりお兄さんは優しいね。隣の部屋が確か空いてたから、取ってくるね!」


 そう言ってパタパタと受付に走っていくイレイヤ。振り返る寸前に目の縁に光った涙は見なかったことにしておこう。


 少し経ってからイレイヤを追い、受付で言われるがままに覚束ない手で料金を払い、代わりに部屋の鍵を受け取った。手持ちのお金がほとんど消えてなくなってしまった。また稼げばいいか。


 部屋までを雑談を交わしながら歩いていく。

 南大陸へと向かうのは明日以降と取り決めた。早いに越したことはないが、旅と言うものは何かと準備が必要だ。俺は最大限ミノットの血があればいいが、イレイヤはそういうわけにはいかない。


 ゆえに今日はとりあえずここで解散し、明日の朝から準備をして南大陸へと発つという事に決まった。


「じゃ、お兄さん、おやすみなさい」


「ああ、今日はありがとうな。おやすみ、イレイヤ」


 挨拶を交わし、部屋へと入る。

 きれいな部屋だ。長く石造りの迷宮にいたからか、より良く見える。地球のホテルと遜色ないんじゃないかと思えるほどだ。


 壁際のベッドに身を投げる。同時にモリーが出て来た。迷宮から出るときに服の内側に隠してから、ずっと隠したままだった。よく鳴きもせずにいたものだ。


「ごめんな、モリー。お前がどう思われるか分からなかったからさ」


「キィキィ」


 気にするな、とでも言うようにモリーが短く鳴く。そういえば、使い魔っていうものは餌とかあげた方がいいんだろうか。


 ローズに貰った魔道具でも眺めてるか。どうせ寝る必要もないし。イレイヤに色々聞けるとは言え、さすがに最低限の知識は持っていないといけない。


 懐から魔道具を取り出し、寝転びながら広げる。何度見てもすごい情報量だ。

 読書することは嫌いじゃない。祖父が古物の収集家で、色々集めている中に少なくないほどの本もあった。そうしたものを眺めているうちに、俺も一時期収集家の真似をしていたものだ。その時に一番手っ取り早かったのが、本の収集だった。






 時間を忘れて、知識の吸収に勤しむ。


 どれだけ時間が経ったころなのか、吸血鬼として転生した人間離れした聴力が微かに音を捉える。

 泣き声だ。それも隣室からの。


 イレイヤの置かれた状況は分からない。聞こうと思ったりもしたが、俺が聞いたところで何が出来るでもない。元々こうしてイレイヤに寄り添うことを決めたのだって、悪く言えば気まぐれにしか過ぎないのだと思う。


 結局どうすることも出来ないまま時間が過ぎていき、しばらくして泣き疲れたのか音が止んだ。

 どうしようもないやるせなさを抱えたまま、俺は再び本に目を落とした。

 その傍らで、長かった一日の終わりを告げる音が聞こえた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ