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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
33/120

33 それは小さな願いで

昨日は寝落ちしてしまって更新できませんでした……。

とりあえず一話更新です。もし余力があればもう一話いきたいところ…!

 名をイレイヤと名乗った少女に連れられて、夕暮れに赤く染まる道をギルドへと向かう。


 聞いたところここは孤島であり、一応町のようなものはあると言ってもそれを構成する建物もそれほど多いというわけではないらしい。

 つまり別にイレイヤに付いていかずとも、街までたどり着くことさえ出来ればギルドを探す事はそれほど難しくはなかったという事だ。


 俺にそう告げた後、しまったという顔をしたイレイヤ。しかしすぐに気を取り直し、街にはいいお店もあるんですよー、と違うアプローチをかけてきた。別に興味はないが。

 元々食事に対する興味は少なかったが、吸血鬼となったことでさらに薄れていった。食事をする必要がなくなったからだろうか。


 なんにせよ、ギルドに行き、ギルドカードを渡す事だ。それさえやってしまえば、もうギルドには用はなくなる。この少女ともおさらばすることになるだろう。


「世界広しと言えどもここだけ!なんと魔物の肉が出る!なんという食への冒涜!だがそれがいい!」


「あ、俺魔物アレルギーだから」


「なにそれ!?そんなのあるの!?え、じゃあ、かの有名店にはわたし一人で行けと!?」


「どうやらそうらしい」


「他人事ッ!!」


 他人事だからね。

 魔物アレルギーというのも本当だし。


 驚くほどに打ちひしがれるイレイヤ。と思うと、すぐに表情を明るくし、次の話題へと移る。


 迷宮の出口かつ入り口からゆっくりとイレイヤのペースに合わせて歩いてきたが、その間何度となく繰り返された流れだ。

 その小さい身体のどこから湧き上がってくるのだろうというほどにこの少女は様々な物ごとを知っていた。

 この孤島の事ばかりではない。どこどこの国には偉く別嬪な姫様がいるだとか、北の国には恐ろしい魔王がかつていたのだとか。


 それぞれにつながりはないが、零れる知識の深さと年齢がどうにも一致しない。もしかしたらミノットたちのように見た目と年齢が一致しなかったりしてな。


「―――――さあ、ようやっと到着!大地の洞に挑戦したいがために過去の探索者が興した、探索者の、探索者による、探索者のための町!その名も……」


「ニーペイア、ね」


「言わさせてくれないッ!ちなみに由来は興した人の名前だよー」


 そう言って、とててててーと町を囲む壁のもとへと走っていく。


 迷宮というものは、周期に基づいて『大氾濫』というものを起こす。中に潜む魔物が、迷宮の外へと雪崩出るのだ。大地の洞が大氾濫を起こしたという記録はないらしいが、ここニーペイアは万一に備えて強固なつくりの壁に覆われているのだという。

 一応出入口近くに警備人が待機してはいるが、魔物じゃなければ誰でも出入り可能で、特に検問などもされていないのだそうだ。


 俺にとっては朗報に他ならない。

 現代の身分証明書に当たるものを持っていないのだ。検問があるとそういうものが必要にもなってくるだろう。この先天理くんたちを探すに当たってもしかすると必要になってくるかもしれない。

 ギルドカードというのは身分証明書のように使えるのだろうか。


「何してるのお兄さーん。行きますよー」


「はいはーい」


 促され、町へと足を進める。異世界に来て初めての人類の居住圏だ。迷宮からこの町までの一本道でも何人かの人とすれ違った。どうも強面が多く、加えてすれ違いざまにじろじろと値踏みの視線を送られたように感じる。

 イレイヤは気付いていないのか、それともこれが日常茶飯事なのかまったくと反応を示していなかった。俺は前者である説を熱心に唱えたいものだ。


「こほん。―――――ようこそ、探索者の町『ニーペイア』へ。あれ、よく考えたらお兄さんこの町に来てるはずでは?あれれ?それなのになんでギルドの場所……。まあいいか!」


「お兄さんは君の将来がとても心配でならないよ」


 どうやら疑問をいちいち解決へと持っていくタイプの人ではないらしい。ありがたいが、ここまで何も考えずにいると心配になってくる。ほんとに大丈夫かこの子。


 ともあれ、目的のギルドまではすぐだろう。町というよりは規模的には村と言った方が近い。字面の格好良さを追求してせめて町にしようとかで決まったんじゃないだろうな。

 建物は見た感じで十五前後。そしてそのほとんどを宿屋が占めているようだ。

 入ってすぐのこの時点で目の前に宿屋らしき建物がいくつも乱立しているのが見える。


「ギルドはねー、こっちこっち」


 俺の手を引き、イレイヤが先導する。

 迷いのない足取り。まあそんなに広くもないし、すぐに覚えられるか。


「探索者ってのは思いの他少ないんだな。大地の洞だからか?」


「んー?お兄さんも、流浪の人かな?最近魔王の動きが活発になったからって自分の国に戻っていった人がほとんどなの」


「魔王、ね」


 不穏な単語だ。魔王、魔の王。魔族の王?それとも魔物の王?

 知らない事が多すぎる。おいそれと聞くわけにもいかないだろう。イレイヤ相手ならそんなに心配することもないだろうが。


 ローズちゃんはこれを見越して俺に魔道具を渡したのか?懐にしまってある魔道具に手を這わせる。

 『全知全能の書』。何の冗談なのか、そう題されていた知識の書庫。言葉の奔流。これさえあれば、この先人に聞くということはなくなる。すなわち人と接触する機会が減るということだ。


「ほら、お兄さん、ここがギルド。探索者の庭だよ」


 考え事をしている間にどうやら目的地へとたどり着いてしまっていたらしい。イレイヤの声ではっと我に返る。

 案内されたその建物は町の出入り口から最も遠いところに立地していた。『大氾濫』が起こったときに最後の砦として機能させるためだろうか。独特の光沢を持つ石のようなもので作られた武骨な建物だった。


 その建物へとイレイヤが何のためらいもなく入っていく。―――――と、ちょうどその時に両開きの扉を開け一人の巨漢がギルドから出てきた。背に身体の幅ほどもある両刃の斧を抱えた偉丈夫だ。衣服から覗く四肢もまたそれを振るうに値するはちきれんばかりの筋肉。

 巨漢はイレイヤを一瞥し、そして少し離れたところにいる俺にもまた視線を送る。ただそれだけ。俺たちに注意を払ったのはそれだけだった。それ以降どこかに視線を走らせることなく、ただ一心に迷宮だけを見据えて、大男は去っていった。


 強い。それだけが直感的に分かった。


「あ、あれは『壊潰王』ギャベランですよ……。はわわ、なんでこんな所に……」


「有名な人なのか?」


「有名も何も!伝説に近い人だよ!見た?あの大斧!あれでどんな敵でも一振りで肉塊へと変わる……。だから『壊潰王』。三大迷宮には挑戦しないって言ってたのに……」


 何かよく分らんがすごい人だという事は伝わってきた。

 

 イレイヤの興奮振りからもどれだけすごい人なのかが分かる。元々話始めたらめったに止まらないのに、今はもう氾濫した川の水のような勢いで喋る喋る。よくここまで口が回って噛まないものだ。

 あっ、ほら見ろ噛んだ。痛そう。涙目。


「えうー……。と、とにかく行こっか」


「イレイヤのせいで立ち止まってたんだけどな」


「おとっつぁん、それは言わない約束でしょ!」


 誰がおとっつぁんだ誰が。


 気を取り直して、イレイヤとともにギルドへと足を踏み入れる。

 扉のきしむ音がいやに大きく聞こえる。緊張しているのだろうか。

 それも仕方がない。異世界に来て初めての多人数との交流だ。吸血鬼はさほど人と見た目が変わらない。飢餓状態にならない限りはそうバレる事もないとは思うが。


 ここでの反応によって、この先どれだけ影に潜みながら天理くんたちを探さないといけないかが決まる。少しでも違和感を持たれたならばそれまでだ。天理くんたちを探すのに人を使うという事が出来ない。聞き込みをすることすら出来ずただひたすらに己の力のみで見つけ出さなければならない。

 その覚悟もある。どちらに転んでも構わない。


 ―――――ただ、ただ今だけは。

 俺の中の人の部分だけを見てくれ。


 そんな願望じみた思いを抱いて、俺はイレイヤに続きギルドの喧噪の中へと入っていった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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