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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第二章 星の聖女
32/120

32 外の世界

いつもよりちょっと早めに書けました!その分ちょっと短いですケド……。

 案ずるより産むが易し。

 物事をあれこれと深く考えるよりもひとたび実行してみれば案外と簡単だ、という意味のことわざだ。

 

 実際このことわざの通りの体験をした人も多いのではないだろうか。どんな人であれ、何らかの行動をしようとすれば、必ず『その先』を見据えるものだ。

 何事かに挑戦する時が特に顕著だろう。


 俺の場合、迷宮から脱出するというのが直近の目標だった。

 遠い異世界の地で、自分という個が書き換えられた。そしてその不安や不満をぶつけようにも、ぶつける相手すらいない異境だ。むしろ魔物からは殺意や敵意をぶつけられて止まない。


 そんな場所に転移し、数か月が経った。言葉にしてみると長いが、体感ではそうも思えないのはそれだけ密度が高かったという事だろう。


「色々あったし、死にそうにもなった……たぶん死なないけど。理不尽な目にもあったし、やっぱり死にそうにもなった。でもミノットとローズちゃんに助けられて俺は今こうしてここに立ってる。なんだか感慨深いなぁ……」


「――――ん!―――――ぃさん!」


「これは偉大な一歩だ。うん。天理くんは何だかんだ死なないだろうし、真彩は持ち前の負けん気で何とかするだろ。紗菜は……(しもべ)とかでも作ってそうだな。問題は紫葵ちゃんかなぁ」


「あれ?もしかして聞こえてない?おにいさーん?」


「なんかこう勝手なイメージだけど紫葵ちゃんは天然ぽいところあるし、とんでもないことに巻き込まれてそうな――――――」


「聞けぇえええぇえええぇ!」


「ぶべら!?」


 いきなりなんだ!?とんでもなく捻りの効いた右ストレートが飛んできたぞ!?


 俺がもといた位置に吹っ飛んだ距離分だけ離れて目を向ける。

 驚きつつ腫れた頬をさする俺を見下ろすのは仁王立ちをする少女だ。腰まで届く三つ編みにされた長髪が、少女がふんぞり返ったことでぴょこぴょこと跳ねる。

 

 今まさに迷宮から出てきた、といったところか。その服装は動きやすさを重視してか、上下ともに軽装であり、申し訳程度に急所を守るための金属プレートが付けられていた。

 

「お兄さん、邪魔。ここは迷宮の出口だよ?ふさいでどうするの」


「いつつ……。ああ、それは悪かった。悪かったけど、何も殴り飛ばす事はないだろうに……」


「お兄さんが話聞かないからでしょ!」


 ふんすとばかりに鼻息を荒くして怒りをぶつけてくる少女。動くたびにピコピコ動く三つ編みについ視線向く。


「……じゃなくて、えーっと。なんとかここから出れて感慨に浸ってたんだ。邪魔してしまったようだし、俺はもう行くよ」


「あっ、いえ!わたしもちょっとやりすぎちゃったかなーって。まあ謝らないけどね」


「いいよいいよ。じゃあ、俺はこれで」


 申し訳程度に言葉を残し、そそくさとその場を足早に去る。この身体になってしまった関係でどうも他人と交流することに忌避感を感じる。

 少し考えすぎかもしれないが、ミノットがあれだけ言うくらいだ。教会というものは実に厄介なものなのだろう。人と関わり合えば、それだけで指数関数的に正体がバレやすくなっていく。

 それに吸血の問題もある。今は大丈夫だが、もし仮に飢餓状態にあった場合、間違いなく被害に遭うのはもっとも近くにいる女性だ。モリーがいるからその過程はあまり現実的ではないといえ、備えあれば憂いなしともいう。極力憂いは無くしていった方が精神的にいいだろう。


「あ、そういえばギルドカード届けに行かないとなのか」


「あっ、ギルドならわたしも行くよー」


「ギルドってどこにあるんだろな。探しがてらぶらぶらと歩こ―――――」


「話を聞けって!!」


「ばるん!?」


 跳び蹴り、だと……。なんて女の子だ。世界を狙える。

 というか、どうして俺の周りにはこう気の強い女の子ばっかりいるんだろうか。真彩しかり紗菜しかり。このままじゃ何かに目覚めちまうよ……。


「わたし!ギルド!行きますけど!?」


「キーコーエーテールー」


「ならちゃんと反応してよ!わたしが変な人みたいに見られるじゃん!」


「いや、これには事情があって……」


「事情があれば女の子の言う事を無視していいの?最低ー」


 いや、そういうわけじゃ……。

 

 少女のジト目が俺の背に突き刺さるのを感じる。確かに無視し続けるのも心苦しい。だけど、人と一緒に行動するのもな。


 俺が悩んでいる間にも少女は律儀に待ってくれているのか、背後に残る気配は動こうとはしていない。代わりに怒りのオーラのようなものがじりじりと高まっていっているような気がするが気のせいだろう、うん。気のせいと思いたい。


「おにいさーん?」


「ああ、もう分かった。分かったからそんな低い声を出さないでくれよ」


「やだぁ、こんなに可愛い声してるのにぃ?」


「…………」


「あっ、ちょっと冗談だってば。変な人を見るような目で見ないで置いてかないで」


 一体何なんだこの子は。一緒にいて疲れそうってレベルじゃないぞ……?

 俺がそんな事を思っているとは知らずに当の本人は何も分かっていないような顔で小首をかしげるのみだ。


 本当に一緒に行って大丈夫なんだろうか?


 だけど、よく考えてみればこの子は一人だ。普通の迷宮がどうなのか知らないが、仮にも大地の洞(ここ)を一人で攻略できる程度には実力があるという事なのだろうか。そういう事なら素直にすごいと思う。見たところ俺とそう年齢も変わらない。

 俺が一人でいけたのは第一に吸血鬼の特性、第二にミノットの教えがあったからだ。残念な事は確かだが、もしかするとこの子はなかなかすごい子なのかもしれない。


 縁を作っておいて無駄になるという事もない、か?


「あのー、本当に行かないの?わたし、一人なんだけど。さみしくて死んじゃうかも」


「人はさみしくても死なないって。別に行きたくないとかじゃないからそんな泣きそうにならないでくれよ。今度は俺が変な目で見られるじゃないか」


「も、ってわたし別に変な目で見られてないから!」


「そう?割かし普通に見てたけど、俺」


「お兄さんのはノーカンでしょぉ!」


 騒がしい子だ。騒がしいのは嫌いじゃない。だけどこれ以上やると本当に変な目で見られそうだ。

 ちょっとくらいなら大丈夫、と考えるのは楽観的過ぎるだろう。


 ―――――いや、彼女とこうして足を止めて呑気に会話している時点で分かり切っていた事か。飢えているのだ、他人とのコミュニケーションに。

 意地を張るのはもうやめにしよう。


「お?ようやくお兄さんがその気になった?わたしのど下手と言われ続けてきた泣き落としの才能がここにきて本領発揮か?」


「目の前で言うなんていい根性してんな」


「や、やだなー。お茶目なジョークじゃないですか、ジョーク。いちいち揚げ足とってばっかりだと嫌われちゃうぞ」


 星マークが零れ落ちそうなほど見事なウインクを添えながら、彼女が宣う。

 

 なんだか釈然としないが、どうやら俺は今叱られたらしい。いや、そもそも揚げ足すら取っていないか?……気にしたら負けか。


「さぁ、ギルドに行くよー!ほら、お兄さん、付いてきて」


 まあ、正直願ったり叶ったりだし、感謝しこそすれ文句を言う権利は俺にはないな。大人しく案内されよう、この心優しき少女に。


「……ところでお兄さんって、ぼっちさんなの?」


 ちょっと馬鹿にしたように告げられたその言葉。にやにや笑いというおまけつきだ。


 よろしいならば戦争だ。正々堂々受けて立とう。

 その言葉を吐いた事を心の底から後悔させて差し上げよう。そしてブーメランという言葉の意味を教えてやる。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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