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28 七夕 SS

はい、七夕のSSです。

なんとまさかの間に合わないという…。

くそださいので笑っちゃってください。オチとかも何もなく、この先言う機会ないだろうなぁっていうので主役の関係性を書いとこうかなぁと思って書きました。

 未だにその夢の続きを追いかけてしまうことがあった。

 だがそれは、遠く遠く既に手の届かない場所にあった。だからこそ、未練が募る。


 あったかもしれない今、というものはとてつもなく残酷なものだ。

 人は選択肢を用意された時、どちらを選んでも選ばなかった方を後悔すると聞いたことがある。

 だから、あの時ああしていれば……なんていうのはひどく意味のない仮定だ。


 ―――――それでも、やっぱり想像してしまうのだ。あの時のまま過ごせていれば、どうなっていたのだろうと。






 ◆






「必ず願いの叶う虹色の短冊……?」


「そうそう!琉伊くんのところにあるって婆やが言ってたんだけど」


 窓の外を放課後とは思えないような青空の広がる教室の中で、玉のような瞳を好奇心に輝かせてそう宣うのは琉伊と同じクラスの天理だ。

 琉伊の通っている小学校では二年ごとにクラス替えが行われるため、これで天理と同じクラスになるのは二年目だ。

 小学校以前からの付き合いもあるため、腐れ縁と言っても過言ではないが、こうしていつも通りの面子でいつも通りの日常を過ごす事は嫌いではなかった。


「それ私も知ってるわ!」


 割って入るかのように威勢のいい声が響いた。

 思わず声の方向を振り返る。

 そこには天理と同じくらいに腐れ縁である真彩が腕を組みながら仁王立ちしていた。


 元々真彩は釣り目がちであり、それに加えて地声がかなり大きい。そして止めと言わんばかりに鋭さを感じさせるような美貌の持ち主なために、友達と呼べる友達が琉伊達の他にはいなかった。

 また、髪型も後ろでの一つ縛り、俗にいうポニーテールなため、その釣り目具合に拍車がかかっているのだ。それはもう人も寄り付かない。


 そうやって人見知りと人を寄せ付けない二人と腐れ縁である琉伊。その結果は言わずもがな。

 ほとんどの同年代から遠巻きに眺められているのが現状だ。


「琉伊、私にも見せてよ!」


「真彩もかよ...。いや、俺知らないんだけど」


「嘘よ!」


 琉伊の言葉をたった一言で切り捨てる真彩。ふんすと鼻息荒く詰め寄るその姿は普段の凛とした姿からはかけ離れていた。

 そんな真彩を手で押し返しつつ、琉伊は言葉を紡ぐ。


「本当だって!母さんも父さんもそういうのは全然教えてくれないし、ばあちゃんは最近お清めで見ないし。だいたい短冊なんて嘘っぱちだろ。俺が言うんだから間違いない」


「そんな元も子もない...。僕は好きだけどなこういうの」


 腰かけていた机から飛び降りながら天理が言う。琉伊にとっては意外とも言える答えだった。

 琉伊の印象では、天理も自分と同じように現実主義者だと感じていたからだ。


 そうこうしているうちに下校を促すチャイムが学校に響き渡った。

 琉伊たちは普段はこの後習い事の時間となるが、今日は奇遇にも三人そろって稽古が休日となっていた。そのため、時間に気にする事なく下校出来る。


「とりあえず学校から出ようぜ。また先生に怒られるぞ」


「そうだね、あれは琉伊くんのせいだけどね」


「巻き添えを食らったのは私たちだわ!」


 自ら掘った墓穴により集中砲火を浴びせられる琉伊。それからも三人は言い合いをしながら帰途へと着いたのだった。





 ◆





「本当に家まで来るのかよ」


「だって短冊見たいもの!」


「見たいからね!」


「怒られても知らないからな……」


 頭を掻き上げながら呆れたように言う琉伊に、二人はにんまりと笑って応える。

 勿論、最終的には琉伊も付き合ってくれるだろうとの考えの下での行動だ。

 真綾も天理も、琉伊が口では嫌と言いながら内心では気になってしかたがないというのを見破っている。だからこそ無理矢理にでも迫れば折れると確信していたのだ。


「ただいまー」


「おじゃましまーす!」


 琉伊の後に声を揃えて家へと上がる二人。三つの声に応える者はいない。

 今の時間は参拝客への対応で忙しいからだ。こそこそと動き回るには今の時間が最適。そう考えた三人は学校から直行で琉伊の家へと向かい、こうして短冊を探しに来たのだった。


「そういえば、真綾ちゃん。今日はちーちゃんはどうしたの?」


「あの子は今日は来れないって言ってたわ!」


「それは残念だな。天理こそ紗奈はどうしたんだ?」


「紗奈ちゃんもなんかお父さんに呼ばれてて無理だったんだよね。なんかすごいピリピリした雰囲気だったけど何の話なんだろ」


 話しながら向かうのは葉桐家の中でも奥まった場所にある一室だ。そこに三人が求める人物がいた。


 蓮花寺家に連なる中でも異物中の異物と言える人物がそこにはいた。

 ずぼらに伸ばしっぱなしの髪を後ろで無造作に一つ縛りにし、曇った丸メガネがその細い眼を隠している。

 その身を包むのは深緑の甚兵衛だ。が、やはりそれもつぎはぎがあったり、乱れていたりと、おおよそ葉桐家に立ち入ってもいいような存在には思えないだろう。


「おー、少年たち。どうかしたのかい?」


「おじさん!」


 弾んだ声が三つ揃う。そこからどれだけ部屋の真ん中で寝転び、扇風機に当たっている中年の男が三人から慕われている事が分かる。


「虎おじさん!また母さんに何か言われたの?」


「ああ、麻美は悪くないよ。おじさんが大体悪いからね」


「虎!私が来たわ!」


「おおー、真綾ちゃんもますます女の子っぽくなってきたなぁ」


「虎次郎さん、こんにちは。今回もお世話になります」


「天理くんは礼儀がいいなぁ。将来大物になるぞぉ」


 各々が各々で虎次郎へと挨拶を口にする。

 三人にとって虎次郎というのはいつでもこの部屋にいて、しかし必要な時にはいないという矛盾の孕んだものだった。

 それでもやはり相談が出来る大人というのは三人にとって貴重なもので、いくら見た目がずぼらに見えていても慕う気持ちが芽生えるというものだ。


「それで、今日は何用で?」


「天理と真綾が、うちに絶対に願いが叶う短冊があるっていうんだよ。だからおじさんなら知ってるかなって」


「んー?ああ、それならあのことだね」


「あのこと?」


「ちょうどいい。おじさんについてくるといいよ」


 そう言って虎次郎はゆっくり立ち上がった。





 ♦︎





 先導する虎次郎が向かったのは家の奥庭だった。ここは行事がある時に一般公開される場所で、それ以外では琉伊ですら足を踏み入れた事のない場所だった。


「ほら、着いたよ」


「何よ、ただの木じゃない」


「ところがどっこい、そうでもない。ほら、ここの短冊があるだろ?」


 そう言って虎次郎は木の根元に取り付けられていた小箱から三枚の小さな紙片を取り出した。虎次郎の言う通り何の変哲も無い短冊だ。それぞれ赤、青、黄のものを三人へ一枚ずつ渡す。


「あるけど...ただの短冊なんじゃないの?」


「そう見えるかい?それなら節見家の技術もやっぱり捨てたものじゃないということだね」


「どういうこと?」


「まあまあ、そう慌てないで。とりあえず、短冊もあることだし、少年たちの若い願いでも書いてみてはどうだい?」


 不満や疑問はあるものの、それらを飲み込んで虎次郎の言う通りにする。幸いペンも小箱に短冊と同じようにいくつも入れてあった。


 各々がそれぞれ少し離れたところで短冊に願いを込める。

 別に見られたところでどうということでもないが、やはりこういうものは恥ずかしいものがある。


 書くこと自体はすぐに終わった。

 そこで虎次郎に促され三人は他の人に見えないように虎次郎へ自分が書いた短冊を渡す。

 それを見て虎次郎はしばしうんうんとにやけながら短冊の願い事を眺めていたが、刺すような視線を送る真綾に圧されるようにそそくさと木のもとへと歩み寄った。


「いいかい、みんな。ちゃんと見てるんだよ」


 一言告げて、虎次郎は三人の短冊を一つずつ木に結んでいく。

 やがてやり遂げた顔をして額を拭った虎次郎が三人へと向き直る。


「……何も起きないじゃない」


「ーーーーー待って!真綾ちゃん!」


 落胆するように溢した真綾の言葉に被せる勢いで天理が叫ぶ。


 その光景を三人は忘れることはないだろう。


 その指さす先、つまりはただの木だったはずのそれが淡く輝いていた。

 そしてその光に当てられ、三人が書いた短冊もまた燦然とした輝きを放っていた。


「これが君たちの見たかったものだよ」


 風によって小さく靡く短冊が、光の加減によって様々な色を放っていた。

 それは願いが形を成したかのようで、ひどく幻想的だ。見るものを虜にする魔法のような魅力がそこにはあった。










 幼い夏。未だ自分の世界の中で周りを見ていた淡い記憶。

 その奥底でいつまでも光り輝く思い出。

 そんな七夕の小さな一幕。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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