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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第一章 大地の洞
20/120

20 古より来る刺客 前編

遅くなりましたが、更新しましたー。

楽しんで読んでもらえれば幸いです。

 慣れ、というのは一種の防衛機構であると思っていたが、こうして迷宮の奥底に閉じ込められてみて、特にミノットから稽古をつけられるようになってそう感じることが多々ある。

 まず第一に、ここには陽の光が届いていない。人間にとって陽の光を浴びるという行為は、健康を保つ上で欠かせないものだ。まあ、これは俺が吸血鬼になってしまったことにも起因しているかもしれないが。それに、全くと言っていいほど光源がないわけでもないし、仮に全てが暗闇に包まれてしまっていたとしても、吸血鬼の目をもってすれば昼間のように辺りを見渡すこともできる。それゆえに、今の俺にとって陽の光を浴びないということが当たり前のようになってしまっている。


 というかよく考えたら、吸血鬼っていうのは陽の下を歩けないとかいう弱点があったはずだ。そう考えるとこんな場所に転移されたこともありがたく思えてもくる。

 だけど、今のところ俺の最終目的はここから出ることだ。ミノットに聞いた限り、この大地の洞には俺以外の転移人はいない。天理くんたちを探すためにはとにかくここを出ることが必要不可欠。

 つまり将来的には陽を浴びる大地に立たなければいけないということだけど…、ミノットが何も言っていなかったし大丈夫だと信じよう。


 次に何と言っても、怪我への耐性だ。

 これは、身体が強くなったとか、攻撃を見切れるようになっただとかそんな次元にある問題じゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 腕を切られ、腹を貫かれ、他にも色々と身体を傷付けられてきて、結局はすぐに吸血鬼の再生能力によってたちまちのうちに治ってしまう。そんなところを直にまじまじと見せられれば感覚も麻痺するというものだ。




 そんなことを考えながら、俺は錐をもんで穴を開けるかのように回転しながらぴゅーっとばかりに飛んでいく物体を視線で追う。

 何のことはない、ただの腕だったものだ。俺のではあるけど。

 抉られた断面を手で押さえ、飛ぶ腕に向かって力の限り跳躍する。かと思えば、今まさにいた場所を不可視の衝撃が襲いかかる。


 やっとの思いで魔力を、ひいては魔法を使えるようになり大喜びをしたのも束の間に、その次の日からようやく本分を果たせるとばかりに奮起したミノットによって俺はそれはもう大変な目に合っていた。

 そして今回のこれもその一環だ。


『我らが世界に叛き、(あまつさ)え略奪した罪人の末裔が!遂には我が世界すらも奪おうと言うのか!』


「さっきから何を言っているのか分からん…。だいたいミノットのやつこんなのだなんて言ってなかったぞ…」


『我が断罪の神威、その身で受けるがいい!!』


 至るところの空間に破裂寸前の爆弾の如く魔力が蓄積されていくのを見て取り、俺は慌てて周囲に目を向けた。

 だが、魔力の蓄積は俺を中心にして隙間なく空間に敷き詰められている。どう見ても身体を滑り込ませることの出来る隙間などなかった。


万物反転(リェビィ・ロヴァニエ)


 ぱうっと音を立て、蓄積していた魔力溜まりが()()()()

 それは有を無にする神の御技。純然たる力の権化。


 連鎖する必滅の音階はものの一瞬で終わった。

 それと同時に俺を覆っていた赤黒い液体が影の中に溶けるように消えていった。

 吸血鬼の特性である血液操作(ブラッド・サージ)と影魔法の合わせ技、黒朱纏(ダーティ・コート)だ。

 効果は単純。元々影で身を纏い、相手の物理攻撃を吸収するというものに、魔力(マナ)を吸収する吸血鬼の血をコーティングしたものだ。その対物理、魔力のほどは魔法を使ったミノットに『葉切りの影』もとい『影嵐』を放ってみて実感した。


 ミノット曰く、どれほどの堅牢さを誇るかは使い手の技量によるとの事だった。それはまさしくその通りで、俺の使ったものだとせいぜい中級の魔法を凌げるかどうかというところだった。

 しかし、しかしだ。

 今まさに俺は満身創痍の体を晒していた。

 四肢は綺麗な断面を残して消滅し、脇腹からも空いた穴を埋めるかのような勢いで絶え間なく血泉が湧き出ている。

 本当に無事といえるのは身体の()と呼べる部分だけだ。これでもし俺が黒朱纏(ダーティ・コート)を使うことが出来ないでいたら、塵一つ残すことなくこの世から消え去っていたに違いない。


「ミノットのやつ…ごっ、ぼ…!これなら付いてきてくれたって良いだろッ…!」


 俺は悪態を吐きながらこのような経緯になった原因の女性を思い浮かべた。





 ◆





「お前に朗報があるのよ」


 導入はそんな言葉だった。

 こうして恐らく体感で数ヶ月ともに過ごしてきて、ある程度以上にその人となりが分かるようになってきたが、その勘が俺に告げていた。これは間違いなく朗報じゃあないなと。


「えっと、一応聞きます」


「お前に魔法を教え始めてからこれで大分経ったのよ。無駄に筋が良かったおかげでお前も随分魔法が使えるようになったわ。だから、ちょっとお前にお使いを頼んでみるのよ」


「お使い…?それのどこが朗報なんですか?」


「なら分かりやすいように言い換えるわ。お前に(わたし)にとっての朗報があるのよ」


「あっはい」


 分かっていましたとも。えぇ、それはもう。

 この人とくれば来る日も来る日も無理難題から始まって無理難題で終わるようなことばかり。

 今だって無駄な言葉遊びをして楽しんでいるに違いない。


「言っておくけど、お前に拒否権なんてないのよ」


 すぐこれですよ。

 ちなみにこういうの一回断ったことがあるんだけど、なまじ俺が戦えるようになったからって本当にボコボコに叩きのめされた。

 それで俺がもう拒否することはないって分かってて言っている。質が悪いったらありゃしない。


「はいはい、次は何をすればいいんですか?巨雷蜘蛛(テオ・スパルドム)の雷菅ですか?新月虫(パルム・ドーガ)の芯核ですか?」


 どちらも同じような流れで無茶振りされたお使いだ。

 前者は名前の通り巨大な蜘蛛だ。それだけではなく、歩くだけで周囲に雷をまき散らすというはた迷惑な魔物だった。その時は結局半殺しにされ、何も出来ないでいた所をどこからともなく現れたミノットによって助けられた形となって終わった。

 後者はなんとか自分一人で採取に成功したけれど、そこからが大変だった。

 新月虫は驚くほど仲間意識が強かったようで、一匹から採取しただけでそこら中から溢れかえってきては俺の身体をかじり始めた。最後には自分に『影嵐』を使って一匹残らず駆逐は出来た。出来たがもう一生やりたくはない。


「そんな警戒しなくとも今回は何てことないのよ。ここが四層からなっているのは言ったかしら?」


「あぁ、はい。確か上層、中層、下層、最下層だったっけ?まだ俺って確か最下層のさわりくらいまでしか言ったことないですよね」


「そう、最下層は四層の中で一倍広いのよ。だから(わたし)たちも全部は把握していないの。そこで、前ちらっと見かけた部屋にいい魔道具があったとかで、ローズが欲しいって言ってたのを聞いたのよ」


「ほうほう、ローズさんが」


「だからお前、取ってくるのよ」


 あれー?なんでこの流れで俺が取ってくることになるんだー?

 どう考えてもミノットに取ってきてほしいみたいなニュアンスとかじゃないのかそれ。


「ミノットさんが取ってくればいいのでは...?」


「ローズがちゃんと起きてくるまでそばにいるのが(わたし)の役目よ」


 片時も離れたくないから代わりに行ってこいと。

 どうせ行かなかったらまた身体で分からせられるんだろう。行くしかないじゃない。





 ――――――ということで行った結果がこれだ。

 詐欺にも程がある。何が魔道具だよ。かけらもない。ただのいかつい巨人のおっさんがいただけだった。

 しかも目に入った途端有無を言わさずに襲い掛かってくる始末だ。


 正直このおっさんの攻撃は今まで受けてきた中で二番目に痛い。身体の芯まで響いてくるような痛みだ。

 一番目はもちろんミノットさんです。あれはもう存在が削られるくらい痛い。


 それでも、さっきの攻撃もそうだが、油断したら死すら垣間見えるほどの相手だ。

 それを相手して俺は打倒する事が出来るのか。いや、それ以前に生きて帰る事は出来るのか。


 俺は今一度気を引き締め、巨人と向き直った。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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