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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第一章 大地の洞
19/120

19 水面の花、英雄の星 ④

すみません、かなり予約詐欺してしまいました...。

これからはないようにしたいです。


「星の雨が降ってから何日も経ったが、どの国も真相にちっともたどり着けちゃいねえんだ。東国(あずまごく)でも、教会でも、この国だってそうさ」


 そう宣うルイドの後ろを天理は声もなくついていく。

 魔物狩りの王都支部はすでにもう遠く離れてしまった。ルイドに言われるがままに天理が付いていったためだ。

 もちろん懐疑心はある。星の雨というタイムリーな話題で気を引き、こうして連れ出すことが目的なのかもしれない。だが、だからといって、少しでも可能性があるならば、今に天理には縋らないという手はなかった。


 人混みで賑わう大通りを抜け、王都の中枢へと足を運んで行っているのが天理にはなんとなく分かった。

 どこへ連れていこうというのか。そも、天理は魔物狩りの登録に足を運んだというのに、それすらも出来ていないままこうして見知らぬ誰かの後を素直に追っているというのがひどく現実離れしたことのように思う。

 だが、その現実というのは地球にいたころに培った常識の上に成り立つそれだ。今こうして常識の埒外にある異世界ではそのようなもの何ら役に立たない。


「魔物狩りの登録なら心配しなくていいぜ。そんないつでも出来ることより、いましかできないことの方が重要だろうよ」


「ルイドさんは―――――」


「ああ、ルイドでいいぜ。この面がさん付けで呼ばれて嬉しくなるように見えるか?敬語だっていらないくらいだぜ」


「…分かったよ、ルイド。でも目上の人に敬語無しで話すのはあんまり慣れていないんだ。だからちょっとくらいの変でも見逃してくれると嬉しい」


「何だ、良いところの坊ちゃんだったのか?よほど箱入りに育てられたんだな。低い階級の貴族様だと半ば強制的に魔物狩りの登録に行かされるお坊ちゃんもいるしな」


「いや、どこにでもいるしがない人げ...ケンタウロスだよ」


 人間と言いかけて、慌てて今はケンタウロスという種族になっていることを思い出し、言い直す。

 別にだからといってどうということはないが、けじめのようなものだ。今は地球とこの異世界を切り離し、その上で行動するべきだろう。


 その判断を早くから出来ていたからこそ、天理は何度か救われてきた場面もあった。

 魔物と初めて相対したときもそうだ。あの普通の獣にはない独特の敵意と悪意を入り交えたような濁った瞳は、目にするだけで何の耐性もない者なら気圧されてしまうものだ。この世界で魔物が忌み嫌われ、淘汰対象とされているのも分かるというものだ。

 高位の魔物だと、この世界で生きてきた大の大人でさえ敵わないというのだ。もしここに転移してきた天理たちの中に、なかなかここを現実だと認めようとしない者がいたならば、そこらにいる魔物にすら敵うことなく、その身を餌と窶すだろう。


「お?おおお!?あんちゃん、ケンタウロスなのか!ああ、そのでっかい獲物は弓か!それに手の印紋も...。こりゃあいい人材が見つけたようだな」


「いい人材...?人を集めてるってこと?」


「そうだ。詳しい事は、もう少し待ってくれ。―――――着いたぞ」


「ついたって...ここは...」


「―――――ようこそ、星の雨事件調査隊へ」


 未だ事情もよく呑み込めていない天理を歓迎するかのように両手を伸ばして、ルイドは朗らかにそういった。








 ルイドによって案内された場所、それはこの王都の中で最も豪奢で、都市自身を象徴する建物の前だった。


 つまるところ、トルケーン王国の王城前広場だ。

 そこには天理の他にも何百人もの人々が集まっていた。王城前の広場だ、それこそドーム球場並みの広さ誇っている。その場所を埋めるほどの人混みだ。王都の街並みを行く人の数もすごかったが、ここの人口密度はその比ではない。


 集まっている人の多くに共通する事柄は総じてむき出しの獲物を引っ提げているということだ。


「ここに集められた人はみんなあんちゃんと同じように見込まれて調査隊の隊員候補となってるやつらだぜ。有名な魔物狩りから、無名の新人まで、俺みたいなスカウトの目にかなったやつらばっかりがこうして集められたってわけだ」


「そんな大がかりな...。国中を上げての企画ってこと?」


「ああ、そうだ。王はこれ以上市民に根も葉もないうわさが広がる事を危惧しているんだよ。だから早急に原因なんかを究明して安心させてやりたいんだとよ。ほんとに出来たお方だよ。―――――ああ、話をすればだ」


 そう言ってルイドは王城の方へと目を向け、頭を少し下げ、胸に手を置いた。それとなく周りを見渡してみると、どうやら全ての人がそのようにしているようだった。天理もそれに倣い、同じように頭を下げ、胸に手を置いた。


「皆、よく集まってくれました。調査隊総括責任者であらせられる国王より、労いの言葉を贈るとのことです」


「―――――まずは礼を。そしてこうして未知に対して恐れる事なく奮起した者たちに称賛を。そなたらは間違いなく今代の英雄を担うにふさわしき器の持ち主たちだ」


 それは間違いなく王だった。

 顔を伏せていても分かる。目に入れずとも分かる。

 その気配。その漂う雰囲気。言葉に籠る重み。


 聞いているだけで無条件にひれ伏してしまいそうになるほど、その声は威厳と覇気に満ち満ちていた。


「だが、そんなそなたらに礼を失する事を承知で伝える事がある。星の雨より怪物が舞い降りたという噂だが、それは真実だ」


「なッ...!?」


 思わず声が漏れる。不敬だとかなど気にしている余裕もない。

 考え得る中で最悪の事実だった。


 国王の放った言葉の衝撃は天理を打つだけにとどまらず、さざ波のように集まった全ての人間に伝播していった。


「であるから、これを聞いてこの場から去るものがいたとしても余は、トルケーンはその者をとがめる事は一切ない。己の力量に合わなければ退く、それもまた英断だ。余はその英雄の決断を尊重する」


「国王よ、発言をいいか?」


 凪いだ海のように静かな静寂の中、伏せられた頭の一つから声が上がった。

 だが、その発言が悪かったのだろう。注意すべく一人の大臣が身を乗り出した。


「―――――よかろう。この場における全ての不敬を許す」


 しかし、その大臣の行動を国王は視線一つでとどまらせ、その上で発言者に話を促した。


「敬語も使えない無教養な輩ゆえありがたい。それで、調査隊に参加する上でのデメリットは既に提示された通り、命の危険があるという事だと受け取ったが、それならメリットの方はいかほどか?」


「なるほど、確かに先に言っておく事だったな。まずは名誉。国を挙げての調査だ、まず間違いなく英雄と謳われることになる。次に大金だ。今調査任務はSランクという事で話が進んでいる。ゆえに、全員にSランクと同等の報奨金を出そう」


「まさしく富と名誉というわけか」


「不服か?」


「まさか。吾輩に不服などはないよ」


 結局、その発言者の影響もあったのか、国王の言う通りにこの場を離れる者は誰一人といなかった。


 この場にいる全526人が調査隊へと入隊することが決定した。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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