13 葉桐の出来損ない 後編
予約投稿してたつもりがミスっててこの時間に手動投稿!
ちょっと短いですが更新です!
ダメなところを探して探して自分を嫌いになるより、たった一つでも良いところを見つける、か。
ローズに言われた言葉がすごく身にしみる。
本当にその言葉の通りだ。
そんな事を考えていて、周囲の状況に目がいっていなかったせいか、気付くとローズはいなくなり、彼女の背を追って行ったミノットが踵を返してこちらへと戻ってくるところだった。
その渋柿でも食べたかのような表情を見れば分かる。ローズに俺の事を任せられ、なんとかそれを取り下げようと説得しに行き、見事に失敗したのだろう。可哀想に。
戻ってきたミノットはその豪奢なドレスのすそを揺らしながら、胸元で腕を組み、これでもかとそっぽを向きながら俺へと告げる。
「……まあ、ローズが言うからには少しくらいはお前の導になってやってもいいのよ。でもお前が何かやらかしたら次は容赦なく殺すから」
「いや、あの、はい。頑張ります……」
とてつもなくツンデレみたいな対応だな。ただしデレてるのはローズに対してだけど。
でも、教えてもらう立場からかなり不遜だけど、ミノットって人に教える事が出来るのか?
今までの素振りを見た感じ、何か一つでも言う事を出来なかったら即首ちょんぱされそうなんだけど。
まあさすがにそれはないよね!
......ないよね?
「さしあたっての問題は、お前の吸血欲求ね。今は一時的に収まっているようだけど、またすぐ波が来るのよ。それまでに血を吸わなければならない訳だけど——」
そう、結局この問題に関しては何の進展もない。
血を吸うにしてもどの血が吸えるのかが分からないのだ。
また魔物の血のようにげろげろやるのは御免被りたい。
どうせなら匂いとかで判別がつけばいいのにな。
……ん?今何か引っかかったぞ?
匂い?匂いで判別って——そうか!
「この匂い!」
「きゃっ!? ……お、お前、何なのよ! 急に大きな声を出すんじゃないのよ!」
痛い痛い!
タイキックはやめてください!
謝りますから許してー!
「えっと、その、今は結構薄れたんですけど、さっきの意識が朦朧としてるときに、すごくいい匂いがしたんですよ。それも二つ。その内の特に美味しそうな方を辿ってここに着いた経緯でして」
「——ということは、やっぱりお前も妾と同じで女からしか吸血出来ないようね。ローズに反応したからそうじゃないかと思ってたのよ」
まじですか。
「はぁ……。ローズにやらせるわけにはいかないし、仕方ないかしら。お前が弱すぎるのが全部悪いのよ」
「ええっ?! そう言われても…」
「お前がちゃんとここから出られる力があればこの方法を取らなくてすんだのよ」
「この方法……? いや、それよりも、えっとミノットさんが送ってくれたりしてくれると、嬉しいんですけど。あはは」
「出る気なんてさらさらないのよ。寝言は寝ていいなさい。そんなに死にたいのかしら」
すぐ死にたいとか殺すとか言う!
よくないよそういうの!
聞いたのはダメ元だったけど、やはりミノットやローズの力を借りてここから出ることは難しいらしい。
どういう理由でここに引きこもっているのかは分からないが、相応の理由や意味があるのだろう。だが、今ばかりはそれが残念でならない。
ミノット曰く激弱な俺がどうやってここから出てなおかつ女性に血を吸わせてくださいなんて頼み込むんだ。無理ゲーにもほどがあるだろ。
「お前、死ぬのと死ぬほど苦しいの、どっちが好き?」
「最悪の二択!? ……ええっと、死なないし、それほど苦しくない方?」
「……お前、やっぱり妾を舐めてるのかしら?」
「ごめんなさいごめんなさい! 死なない奴で!」
ちょっとした場を和ませる冗談じゃないですかー。
それにしてもその二択を持ってくるってやっぱこの人頭おかしいな。
「——そ。お前の覚悟はよくわかったのよ」
「え?」
俺が疑問の声を上げるのと同時にミノットが、正確に言えば彼女の影が騒めいた。
爆発的な勢いで肥大した彼女の足元の影が、蛇が絡みつくようにとぐろを巻き、俺の四肢をきつく拘束する。
その束縛は、影という非実体的なものとは思えないほど強固でいくら抜け出ようともがいたところで一向に緩まる気配を見せなかった。
明らかに魔法の類だ。それが直感的にも体感的にも理解出来た。
俺は拘束を外す事をあきらめて、愕然とした気持ちでもってミノットを見つめた。
さっきまでの和やかな空気はどこにいったんだ、まさかローズがいなくなったからってやっぱり俺を殺そうと?
「別にそんなに警戒しなくてもいいのよ。これはただの保険。お前に暴れられるのがただ面倒ってだけなのよ」
「暴れる……? 一体どういう」
「これからお前にする事は吸血鬼の世界において禁忌に当たる事よ。ちょっとばかり苦しいと思うけど、我慢するのよ。悪いのは全部お前の弱さかしら」
そう言ってミノットは思い切り自分の右の手のひらを切り裂いた。
泉のようにそこから湧き出る赤い生命の源。それを目の当たりにしたことで湧き上がるように暗い欲求が頭をもたげ始める。
ミノットは見せつけるかのように俺の目の前に手をかざした。
丁度拘束された俺では首を伸ばしても届かない距離だ。鼻先をかすめる甘い匂いが酷くもどかしく、精神が音を立ててすり減っていくのを感じる。
「そんなに焦らなくても飲ませてあげるのよ」
そう言ってミノットは白く、闇の中では輝かんばかりのキメ細かい肌をした細腕を俺の顔の少し上に動かし、手を軽く握った。
少なくない出血をしている上にそんなことをすれば、無作為に流れ出ていた血液が確かな方向を持って落ちていくのは当然のことで。
親鳥に餌を強請る小鳥のように、パクパクと開閉する俺の口の中へと真っ直ぐに注ぎ込まれていった。
——瞬間、俺の身体を激痛が貫いた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。