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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第三章 揺れる世界
109/120

109 火種の予感

なんか久しぶりに出て来たキャラの過去なんてあんまり需要がないかなと思いましてさらっと流しました。本編をがんがん進めます。

「もう天理くんたちも気が付いてると思うけど、念のため。ここは地球とは違う――と言っても鏡みたいな裏表の関係にある世界、らしい。科学の代わりに魔法が発展したって感じだね」


「鏡……? じゃあ、ここは地球の平行世界とか、そんな位置にあるって事かな?」


「それはどうなんだろね。ただ時間とか諸々はあっちと変わらないし、認識としてはそんな感じでいいような気もする。まあ、それは全然大事じゃないんだけどさ」


 「それで、オレと真彩さんの話なんだけどさ」、と前置きをして、和也はちらりと真彩に視線を向ける。釣られて見てみれば真彩は腕を組み、目を瞑っていた。言葉通り和也に任せるという事なのだろう。今一度それだけを確認してから、和也は再び話し始める。


「見ての通り……って言っても真彩さんくらいかもだけど、オレも真彩さんと一緒で魔族なんだよね。天理くんたちも知っての通り、この世界だと魔族は言っちゃなんだけど迫害されてるからさ、住んでるとこももう大陸の隅っこも隅っこ。それに何というか、現状に対する不満かな? そんなのがあってオレが転移したとこの近くの集落はよそ者にかなり厳しくてね。……ちょっとグロいけど、ほら」


 和也が袖をまくり上げてみればそこから見えるのはやけどによって爛れたであろう肌だった。それも一か所だけではない。見せた範囲だけでもいくつか、それもやけどの傷だけではなく、裂傷や擦過傷なんかもある。話の流れから考えて事故か何かでついたものでもないのだろう。


「ひどい……。ちょっとわたしに見せてみて」


「有栖川さん……? あ、ちょっと真彩さん……!?」


「言う通りにしなさいよ、ほら」


「真彩ちゃん、そんなに強引にしなくても……」


 紫葵が苦笑しつつも、真彩が強引に引っ張り渡した和也の腕を受け取り、恐る恐ると言った風に腕に指を這わせる。それに対して最初はわざとらしく変な反応を見せていた和也だったが、真彩に一睨みされれば直ぐにでも直立不動になる。本当に仲が良くなった。


「処置が適切にされてなかったから、こうして跡が残っちゃってるけど、大丈夫。わたしの回復魔法ならなんとか跡も消せるはず」


「おおっ、さすが『星の聖女』って呼ばれるだけある!」


「ちょっ……、それはやめて! もう慣れちゃってたけど、こうして改めて言われると恥ずかしいって言うか……!」


 あわあわと顔を隠すようにして両手を振る紫葵。それなりにこの世界に染まっていたところだったが、久し振りに懐かしい面々に再会した影響か、元の世界の感覚がぶり返してきたようだった。


「おおっ、ほんとに治った!」


「ふぅ……、これでもう大丈夫だと思うけど……」


「いやぁ、ありがとう、有栖川さん! 古傷でナイスミドルを醸すのもよかったけど、やっぱり普通のがいいね!」


「ないすみどる……?」


 お互いの認識不和はどうあれ、改めて紫葵の回復魔法のすごさを思い知った。紫葵の技量があればある程度の外傷なんかはたちまちの内に完治するだろう。


 しばらく喜んでいた和也だったが、やがて「話を戻そうか」と再び表情をまともなものへと戻した。


「そこから、なんやかんやあって真彩さんと合流したってわけ。丁度その時真彩さんもいざこざが解決した時だったって言うのも大きかったかな」


「ーー! 真彩ちゃんのとこも酷かったの……?」


「ちょっ……?! 私は大丈夫よ! だから脱がせようとしないで……?!」


 はやとちった紫葵が真彩に飛び付くも、顔を真っ赤にした彼女によって押し留められる。何しろ、真彩が来ているのは和服に似た着物だ。下に襦袢も着ているとは言え、それでも乱れればそれなりに肌色が見える可能性がある。


 天理はそこから目を反らし、同じようにさりげなく目を反らした和也に問い掛ける。


「和也も真彩も、一人で魔族の集落から飛び出してきたのか? それともここの人たちに助けてもらって?」


「オレは勝手に抜け出してきただけだからね。一人でも行けたんだけど、真彩さんは虐げられてたオレとは逆も逆。巫女やら何やらってことで半ば軟禁されてたんだよね。オレが逃げた先の街でそんなことになってて、その時はたまげたもんだよ」


 軟禁。当時どのような背景があったのかは分からないが、和也の顔を見る限りとてもじゃないがいいと言えるようなものではなかったのだろう。


 立場だけ見てみれば、紫葵もまた真彩と同じような立ち位置にあると言ってもいい。しかし、紫葵にはある程度の自由が与えられているし、何より『聖女』としての立場を利用するべく思い立ったのは彼女自身の意思によるものだ。真彩のものとは明確な差があるだろう。


「和也たちの立場は分かった。無事にこうして会えた事も心から嬉しいと言える。だけど、分からない。どうして君たちは、『影の国(ここ)』に……?」


 正直、こうして真彩たちと出会った事で、天理の中での魔族という存在に対する認識はがらりと変わったと言っていい。元々の様々な人たちから伝え聞いていた事に加えて、天理の前には魔族の、そして魔王としての誠二が現れていた。


 それらを加味した上で、天理の魔族に対する認識は、人族の敵となり得る、というものだった。

 天理は魔族というものを見たのは誠二が初めてだ。だからこそ、魔族=誠二=悪という図式が出来てしまっていたのだろう。


 しかし、こうして真彩と和也と会ってみて、そしてその見た目が人族とほとんど変わっていない——そもそも和也は日本に居た時にまま、真彩は少し変化が見られるものの、大きく変わっているのは獣耳としっぽがついているくらいだ。


 つまるところ、天理は魔族というものを一括りにしていたのだろう。魔族は敵だ、誠二は多くの人を殺した。だからこそ、魔族の——吸血鬼の治めているという影の国には相応の対策を取らなければならない。そんな風な固定観念的な思考回路が確立してしまっていたのだ。


「今の話からもそうだけど、きっと君たちにだって理由があるんだろうってのは分かる。でも、今まで姿を隠してた『影の国』が現れたって事は……それも、この聖ルプストリコに現れたって事が、僕には嫌な予感がしてならないんだよ」


「まあ、やっぱりそうなるよな。こんな空飛ぶ魔王城みたいなもん引っ提げて急に現れればそりゃあ警戒したくもなる。結局、本題はそこだ」


 そう言って和也はちらりと玉座に目を向ける。そこには先ほどと変わらずにエリザが座っており、横には銀の少女が控えている。


「ん? どうした? 話は終わったのか?」


「いいや、これからですね。言っちゃっていいんすよね?」


「おお、どちらにせよ言わねばならんじゃろな。こちらに懐柔するにせよ、伝言役にするにしても」


「懐柔……? 伝言……? それは、一体……」


 天理の首筋に悪寒のようなものが走る。目が違うのだ。和也の目、そして真彩の目が、だ。それは覚悟を終えた目。その道に障害があれば何をしてでも取り除くという決意に満ちた瞳だ。


 思わず、身震いをする。目の前の級友が唐突に見知らぬ他人になったかのような、そんな奇妙なズレに身を竦ませる天理に向かって一言、和也が投げつけた。


「――戦争だよ。それも聖ルプストリコと……、いや、もしかしたら人族と、オレたちの、な」

最後まで読んでくださってありがとうございます。

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