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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第一章 大地の洞
10/120

10 水面の花、英雄の星 ②

再び天理に焦点を当てた三人称の話です。

展開が遅い気もしますがおおむねこんな感じで進んでいきます。





 樹木の生い茂る森の中、疾走する影が二つあった。

 一つは四足を持ち、その全身の筋肉を最大限に活用し捕らわれるまいと懸命に駆けている姿だ。

 そしてもう一つの影が逃げる獲物を追って悪路をひた走っていた。


 後ろから追う影——天理は手に持つ木製の弓に軽く矢をつがえ、目の前を逃げる兎のような生き物——魔獣に狙いを付けようと試みる。


 だが、森というのは木の根や石ころ、葉やつたなど様々な障害物がある。それに加えて魔獣も必死な逃走ゆえに左右に動き、狙いを定めさせまいとしていた。


 中々に捉えきれないことに焦ったのか、天理は徐々に走る速度を緩め、やがてその場で立ち止まり弓を引き絞った。

 その間に魔獣の姿はだんだんと樹木の向こう側へと消えていく。


 それにも関わらず、天理は最後に一拍置いて矢を放った。

 弓道に身を置き、そこでかなりの腕前を誇っている天理にしてはお粗末とも言えるその一射は申し訳程度に魔獣の薄皮一枚だけを裂いて森の向こうへと消えた。


「くそっ……、逃げられた。僕もまだまだってことか」


 平時なら——弓道のように止まっている的を射者自身も止まって射るのならば、必ず的中させられる自信があった。


 加えてこの弓と矢も天理の愛弓とは違い、弦もその弓身も重かった。まるで今のような小さなものではなく、もっと大きなものとの戦うことを想定して作られているかのようなそれは、天理の手には余る上に、あのような小さな魔獣を仕留めるには相応の技術が必要だった。


「苦戦しとるな」


「リランドさん。これでも弓の腕には自信があったんですけど……」


「そう落ち込むな。腕前だけならこの集落の誰よりも上だろうよ。だが、どこかわしらとは違う型ゆえに獲物が合っとらんだけよ」


 森で気を失っていた天理を見つけたという少女リララ——その父親であるリランドが慰めるように言う。

 だが、それで心が安らぐことはなかった。


 十年以上の歳月を弓と共に歩んできたのだ。それを無くしてしまえば、天理の人生の半分以上は無に帰すこととなる。そんなこと、何があろうと許容するわけにはいかなかった。


 天理がこのように未だケンタウロスの集落、ケンタウルに滞在しているのは理由があった。


 リランドから空に輝いた謎の光の話を聞いた後、天理はすぐさまケンタウルを出ようとリランドやその妻デリーに話をつけようと試みた。数日も世話になった挙句、何も言わずに立ち去るのは主義に反するからだ。


 だが、実際話してみると当然の如く怒られた。天理は数日前に森で気を失っていたところを保護されたのだ。その上天理には荷物と言える荷物がまったくと言っていいほどなかった。元々来ていた服のポケットにはスマホが入ってはいたものの、充電できる環境ではないため早々のうちに電池が切れてしまい役に立たないものとして封印されている。


 また、荷物がないという事は、跋扈する魔獣への対抗策がないという事でもある。ケンタウルにある武具だって一つとして余っているものはない。集落の周囲の魔獣を定期的に間引く必要のあるケンタウルでは武具というものは必需品なのだ。

 

 それでも天理とてそう簡単に退くわけにはいかなかった。

 責任感と不安感がうねりにうねって焦燥感となり、逐一天理の身を苛んでいた。


 ——自分のせいだ、何とかしないと。早く行動を起こさないと。


 だからこそ粘って粘って、リランドやデリーへの説得を繰り返した。場を放り投げてすぐさま出立しなかったのは良くしてくれた夫妻への敬意ゆえだった。


 結局、どちらも一歩も譲る事はなく、最終的な提案として数日後に来る行商から色々と物資を購入するまではケンタウルで滞在、その間リランドから様々な知識を教わるというところに落ち着いた。まあ、天理はかなり渋々であったのだが。


 そしてその夜から三日経った現在、天理はリランドの教鞭の下ケンタウロスの戦い方というものを教わっていた。


 ケンタウロスという種族は日本に居た時に聞き及んでいたものとおおよそ同じ特性を持っていた。弓や槍をよく用いたり、大半が知識人であったりなどだ。


 だがたった一点。それもかなり大きく食い違っている箇所があった。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()


 見た目はほとんど人間と変わりがない。平均して人間より少々上背があったり、力が強かったりはするが一見しただけでは両者に違いはほとんど見出せない。


 ならば、ケンタウロスという種族はどういった種族なのか。その疑問はリランドによって氷解させられた。


「よし、んならお前さんの馬を出してみな」


 リランドの促しにこくりと頷き、右手を水平に身体の前に翳す。


 それを見てリランドは気持ち天理から距離を取った。

 これから行う事は、ケンタウロスがケンタウロスである所以、そして全てのケンタウロスが生まれ持つ生来の友との語らい。


 ——騎馬招来(サモン・ソウル)だ。


「来てくれ——『天雷』」


 天理の詠唱の下、掲げた手から眩い光が迸る。


 その光の源は中指から手の甲にかけて走る印紋(エンブレム)だ。黄金に近い色合いで輝きを放つそれは、最後にひと際強く光ると中心から光の玉を吐き出した。


 光の玉はゆっくりと天理の前を漂い、その形を変形させる。

 現れ出たのは印紋(エンブレム)と同じ黄金色の体毛を持った雄々しい馬だった。短く嘶き、その蹄で地を掻きながら、天理の胸元に甘えるようにすり寄った。

 

「いつ見てもいい馬だ。まあわしの友も負けとらんがな。——なぁ、『ローラン』よ」


 リランドの呼び声に従い、指先から新たな馬が召喚される。リランドに似たこげ茶色をしたがっしりとした体躯の壮馬だ。

 鞍も(あぶみ)も手綱だってついていないにも関わらず、リランドは羽のような軽やかさでローランへと飛び乗る。


 天理もまたそれに続き、自身の馬にややぎこちなさを残しながらも飛び乗った。不思議なまでの一体感だ。ここから落馬するとは天理には到底思えなかった。


 リランド曰く、これこそがケンタウロスの所以なのだという。自身の心の内に住まう友を呼び出し、それを駆って人馬一体となり逃げるものを撃つ。そうした狩猟民族なのだそうだ。


 古くはこの先があったというが、その方法は失伝してしまったという。


「どうじゃ、晩飯のメインディッシュを競わんか? お互い一匹だけ獲物を狩り合うんじゃ。大物を取った方が今晩の食事の主役よ。負けた方は腐らすわけにはいかんから長にでも貢ぐとするか」


「いいですね。僕だって大物取りなら負けませんよ」


「よう言うわ。——それじゃあ、始めるか」


 その一声で天理、リランドはほとんど同時に馬へと意思疎通を図る。


 ケンタウロスに手綱などは必要ない。意図を込めて友の首筋を撫でるだけで伝わる。

 地を揺るがすほどの蹄の音が、周囲に響き渡った。


 そうして遅くまでこれこそはという獲物を探していた二人は帰宅後デリーに怒られた。

 余談だが、二人の取った獲物はどちらも森の主級であり、デリー、村長ともに大いに喜んだとか。








「どうしても行ってしまうのか」


「はい、僕にはやらなきゃいけないことがありますので」


「寂しくなるのう。リララなんてほれ、泣きわめいとる」


「な、泣いてないし!」


 王都から来た行商から旅道具を一式買いそろえた後、天理は遅くなった分を取り返そうとさっそく出立することにした。


 見送りに来たリランドやデリー、リララ、他にも世話になった集落の皆に向かい今一度頭を下げる。


「皆さん、本当にお世話になりました。もし、もしやる事が終わってここにもう一度訪れる事が出来たなら——」


 それは叶わない望みかもしれない。


 転移の原因などは何も分からないが、もしかしたらクラスメイトを探す過程で何か方法が見つかるかもしれない。


 それでも、それでももしここをもう一度訪れる事が出来たなら。


「その時は宴でもしましょう! 前みたいに主でも狩って!」


「おう、最高の獲物を取ってきてやる! だから、テンリお前さんもそれまで元気でな!」


 見送りの言葉を背に聞きながら、天理は集落を後にする。


 旅道具を買うための資金、出先で困らないための路銀。天理が集落で手伝いをして稼いだ分だ。恐らく多めに貰っているその厚意を天理は一生忘れないだろう。

 

 リランドは次の行き先の情報すらくれた。


 光の行き先、その一つとして王都があったというのだ。王都まで行けばもしかしたらクラスメイトの誰か、そうでなくとも人がいるところならば少なくない情報があるだろう。


 使命感を胸に灯し、天理は愛馬の天雷とともに目的地——王都へと旅立った。







蓮花寺 天理(テンリ レンゲジ)/ケンタウロス/男

LEV:17

HP:510/E+

MP:510/E+

ATK:680/E+

DEF:195/E

MAK:425/E

MDF:425/E

AGL:680/E+

LUC:55/EX

SP:170

スキル;

・千里眼・天

騎馬招来(サモン・ソウル)

・弓術 LEV:4

・騎乗 LEV:4

最後まで読んでくださりありがとうございます。


体調を崩してしまったので少し更新速度が落ちます…。

次の更新は25日です。

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