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異界にて揺蕩え、デア ヴァンピール  作者: 葦原 聖
第一章 大地の洞
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01 プロローグ 身食いの廃墟

新しく始めました!一人称です!

毎日ないし二日に一話のペースで限界に挑戦してみたいと思います。よろしければ楽しんでいってください。




 ——その廃墟、近付くことなかれ。


 この街にはそんな忠告じみた噂が流されている廃墟がある。

 やれ人が消えた、やれ殺人事件があったなどその詳細は様々な臆測が飛び交っているが、その真実は誰も知らないでいる。


 そして、俺、葉桐琉伊(はぎりるい)はクラスメイトたちとともに(くだん)の廃墟を訪れていた。





♦♦♦





「ここが例の廃墟か……。想像以上に物々しいな」


 クラスの人気者、蓮花寺天理(れんげじてんり)くんが廃墟を仰ぎ見ながら呟く。


 いや、そうでしょうよと言いたい。彼もこの廃墟の噂を知らないでいるはずがないのだ。老若男女誰しもが近寄らないでいる場所がそんな何にもない場所であるわけがない。そもそもそんな場所ならこうして肝試しの舞台に選ばれることもなかったのだが。


 一度きりの高校二年生、俺たちのクラスは神懸った確率によって他のクラスから羨ましがられる程の内訳となった。

 その筆頭たる天理くんが夏休み突入前に唐突にクラスの皆に向かって言ったのだ。折角こうして良いクラスなのだから、思い出作りのために夏休みクラス皆で一緒に遊ぶのはどうかと。


 その時のクラスの雰囲気はもう狂喜乱舞と言った風で、何事かと他のクラスから人が見に来ていたほどだった。事情を聞いた彼らも参加したがってはいたのだが、天理くんが今回は自分たちのクラスだけで、次回は君たちと、と言ったところすんなりと下がっていった。天理くん恐るべしである。


 まあそれでも押し掛けてくる人がただ一人いたのだが。


 そんな経緯で夏休みクラス皆で集合し、海水浴やBBQなど夏を満喫し切ったところで、誰かがぽつりと悪魔の言葉を呟いたのだ。そうだ、肝試ししね?と。


 「断固反対!」とつい俺が反対の意見を上げる前になんと天理くんが一足先に賛成してしまったため、夏休みのクラス会のオオトリは肝試しが担うこととなったのだ。


 そして選ばれた先がこの廃墟というわけだ。正直おどろおどろしすぎて帰りたい。


「じゃあ、ここから先は五人一組で、出来れば男女が混ざってた方がいいかな。その中から一人が順番決めるくじを引きに来て」


「よっし来た!キノ兄一緒に組もうぜ!」


「おうとも山ちゃん!」


 クラス一の仲良し組と名高い木下くんと山田くんが真っ先に組み始め、それに釣られるように他の人たちもめいめいに会話を交わし始める。


 ほどなくしてほとんどの組のメンバーが決まった。決まったのだが……。


「これはおかしい絶対におかしい」


「えっと、よろしくね?葉桐くん」


「あ、はいよろしくです。有栖川さん」


 なんとなくぼやっとしていて出遅れた俺は、ひとまず腐れ縁と言っても過言ではない奴、在原和也(ありわらかずや)に声をかけようとした。しかしその矢先に、和也は他の仲の良いクラスメイトへと話しかけに行ってしまった。何気にコミュニケーション能力の高い和也ならすんなり輪に入れるだろうが、俺は出来ない。


 それが分かっている和也のことだから恐らくわざと。クラスメイトと俺が馴染めるようにという配慮かなんてちょっとうるって来ないこともなかったが、周りを見渡して自分がどういう状況に置かれているのかを悟った。


 ほとんどの人はもう組み終わっていて、残った面子がなんと天理くんと有栖川紫葵(ありすがわちな)ちゃん、そして篠枝真彩(しのえだまあや)というクラスカーストの頂点たちだったのだ。


 さらにそれだけではなく、一個下ながら何故か当日に割り込み参加してきた水茎紗菜(みなぐきさな)もだなんてもうおかしいどころじゃない。


 今一度、和也に目を向ける。舌をぺろっと出し、ウインクをしながらのサムズアップが返ってきた。

 こうなることを予測していたのかッ……!!!


「組み分けは決まったみたいだな。じゃあ、順番のくじ引きだ。1から8書いてあるから適当に引いていって。残ったのが僕たちのにするから」


 俺の内心はなんのそのと天理くんが進行を進めていく。


 帰りたい。とても帰りたい。


 天理くんと真彩、そして紗菜がいるなんてもう無理です……。


 俺の中のイメージはそれぞれ壁、悪魔、小悪魔って感じだぞ……。


 紫葵ちゃん?紫葵ちゃんは天使。


「わぁ~、やっぱりどきどきする!番組で見るのもおもしろいけど、こうして自分で体験してみるのもわくわくするね!」


「あ、うん、そうだね。俺はあんまりそういうの見ないから分かんないけど」


 何が不思議って、紫葵ちゃんがすごく俺に話しかけてくるんだよ。


 別に真彩と仲が険悪ってわけでもないし、どちらかといえば天理くんとつるんでいるためよく話す場面を見るほどだ。


 いや、別に嫌ってわけじゃないしむしろうれしい。このクラスには真彩や、他にも顔が整っている人が多いせいか目立たないけど、紫葵ちゃん自身顔はいい方だ。


 それに加えて行動がいちいちいやに可愛い。狙っているとかではなく素でだ。


 正直、今回のこの企画に参加したのは紫葵ちゃんを見に来るためというのが大きい。冗談だけど。


「ふん、どうせ怖いんでしょ。なんで来たの、さっさと帰れば」


「ちょ、真彩ちゃんそんな事言っちゃだめだよ!」


 紫葵ちゃんがこっちに話しかけていれば、手持ち無沙汰になった真彩もこっちに来るのが当然ってもので。

 開口一番に罵声を飛ばしてくるのにももう慣れました。


「お兄ちゃーん! 紗菜と一緒に頑張るですよぉー! あ、葉桐のくそ野郎はどっか行ってくださいね」


 いや、おい。

 俺年上、あなた年下。おーけー?

 おーけーおーけー、そんな睨まないでくれ俺が悪かった。


 というか紗菜が腕に抱き付いて頬擦りしてるのに天理くん眉ひとつ動かさないのすごい。

 まあいつも通りの事だし、たぶん慣れたのだろう。羨まし...くはないな。


「僕たちは最後か。じゃあ、一番から順番に廃墟に入って、ここの部屋で写真を撮って裏口から出る。そこには人が用意してあるから、終わったらそこで待機して。花火とかいろいろ用意してあるから、最後は皆で楽しもう」


「おっしゃあ、一番!キノ兄行こうぜ!」


「よしきた、俺たちについてこい!」


 木下くんと山田くんはなんであんなに元気なんだよ。


 ともあれ、天理くんがどこからか持ってきた見取り図によると、写真を撮ってくる部屋は四階の奥の部屋だ。正直上の階に上るのはアホなんじゃないかと思うが、盛り上がりに欠けるとかだろう。怖いわけじゃないが、俺は一階で十分だと思う。怖いわけじゃないが。


 一組、また一組と廃墟の中へと消えていき、最後は俺たちの番となった。


 紫葵ちゃんは相変わらずわくわくしてるし、真彩はツンとそっぽを向いている。天理くんとはさっきから目すら合わない。紗菜もまた天理くん以外眼中にないという感じだ。


 なんかもう終わってる。


 そんな俺の感想を置き去りに、誰からともなく歩き出し、肝試しの締めが始まった。





♦♦♦





 道中は驚くほど何事もなく進んだ。と言っても肝試し自体元々こういうものなのかもしれない。

 十分時間を空けてから開始していたためか、先発の組と鉢合わせるという事もなく四階へとたどり着くことが出来た。


「あとは写真を撮るだけね。なんだか拍子抜けだわ」


「そう言うなよ真彩。元々思い出作りなんだし何かがある方が僕は嫌だよ」


「それもそうね」


 元も子もないことを言いながら、目的の部屋へと向かう。

 階段を上って一直線に進んだ所にある部屋だ。迷う心配もなく、見取り図も複数必要ない。

 にしても、噂のわりに中身はそうでもないものだ。正直本物が出てくる事を覚悟で来たんだが、杞憂に過ぎなかったようだ。


 真彩はもう飽きたのか、ずいぶんとご機嫌斜めになっているように見える。紫葵ちゃんも期待が現実に見合わなかったせいか、心なし意気消沈している。


 天理くんの表情は全然読めないが、まあ天理くんに限ってビビってるとかはないだろう。俺じゃあるまいし。

 紗菜は知らん。とにかく天理くんにべたべたしてる。


「葉桐のくそ野郎!もっと速く歩けってぇんですよぉ、まったく!」


 うす。がれきで足をくじき掛けたんです。ごめんなさい。


 それにしても紗菜さんちょっと口悪すぎない?将来がとても心配。

 天理くんにしてる口調を俺にもしてください。


 ほどなくして部屋に着いたはいいものの、そこで誰が写真を撮るかでひと悶着があった。


 リーダーということで撮る事を提案した天理くんに、とりあえずこういうのはやりたい真彩、そして最初からずっとわくわくしていた紫葵ちゃんが名乗りを上げ、最終的にじゃんけんで紫葵ちゃんが勝って不承不承ながら撮影者が決まった。俺?もちろん撮りたくない。ここだけは紗菜と気が合う。


「じゃあ開けるよ?」


「いつでもいいよ!」


 紫葵ちゃん、妙に気合入ってんなあ。ガッツポーズ可愛いなあ。なんてぼんやり考えていた頭が、扉を開けたことでやや遅れて切り替わった。


 ——やばい、ここはとにかくやばい。

 体内の血すべてが沸騰しているかのような危機感にうなじが逆立つのを感じる。

 こんな所はめったにない。あってたまるか。

 

 廃墟全体じゃない。この部屋だけだ。

 なぜだかこの部屋だけが、世界から切り離されているかのようなひりつくような空気を孕んでいる。

 その感覚が、訴えかけるようにして俺に降りかかった。


「あっ、あの部屋の隅とかどうだろ。真彩ちゃんと撮ってあげようか?」


「いいわね!最高の心霊写真にしてあげるわ!」


 だめだ。だめだ。だめだ。

 反応が遅すぎた。女子たちはもう既に部屋の中に入ってしまっている。

 天理くんは...、違和感は感じているものの、顔をしかめるにとどまっている。その横で何も考えていないようなほんわかした顔で天理くんにすり寄っている紗菜は言うまでもない。


 ——気付いているのは、俺だけなのか。


 そう考えた瞬間、身体が勝手に動き出した。


「真彩! 天理! 紗菜! ()()()()()()! 有栖川さんも!」


「え?」


 だめだ。遅い。何もかもが遅い。

 突然大声を出した俺に驚いているのか、天理くんも、真彩も、紫葵ちゃんも動きを止めてこっちに向き直った。

 部屋に駆け込み、三人の手を引いて出ようとしたところで。


 ——空間が炸裂した。








『————輪廻環照合。該当無し。

 特別対象個体(以下個体)の全ての構成情報を初期化、最適化を開始。

 種族……十三の項目の一致と八の項目の近似を確認。最適化先を決定。

 性別……変更の必要性無し。

 年齢……変更の必要性無し。

 言語……現存する言語の中で最も使用されている言語を確認。最適化先を決定。

 外見……現存する同種族から無作為に数人を選択し、個体との平均化を実施。最適化先を決定。

 性格……変更の必要性保留。

 趣味……変更の必要性……。

 嗜好……変更の……。

 能力値………。

 ……。


 個体の最適化完了。続いて最適化個体の迎合場所の決定。

 現存する同種族に近い座標を選択。迎合先を決定。


 全ての作業の終了を確認。


 転送を開始します。』




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