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青春は雲の上で  作者: たけゾー
7/12

山に登るための授業

ええ?山でこんなことしなければならないの?


そんなことを思ってしまった。



土曜日の放課後、先輩に言われ大会の準備の一部を見せてもらえることになった。


僕の高校はそこまでの進学校でもないはずなのに、土曜日まで授業がある。平日とは違い、4限で放課になるのだが…。


昼食を友達と食べ終わってから、生物室へと向かった。暇な友達は今からカラオケに行くらしい。いいなぁ。


「よし、お前らついてこい」


部長に言われ、僕たち一年生二人は着替えさせられて、校庭のはじっこに連れていかれた。先輩たちは背負っていた大きなザックを真ん中に集めた。


「今からテントを立てる。テントは3人で立てるが、大会は4人で出場する。部員が多い高校でも少ない高校でもだ。チームワークがなっていないと何もできない。団体戦なんだ!ちゃんとみてろよ、五十貝、神崎!」


「いいか、いくぞ」


部長は他のメンバー三人に確認すると、


「おう」


「大丈夫だ」


「オーケー」


他の先輩たちが答えた。近藤先輩、田島先輩、そしてもう一人は新井先輩だった。新井先輩は背が高い。


「よーいスタート」


部長が時計を確認し、合図をした。部長はテントを立てないらしい。


そのとたん、メンバー二人がザックを移動しだし、一人が小石を退けだした。

ザックを退けた先輩がザックから大きな袋と細長い袋を取り出した。

細長い袋を小石を退けた先輩に渡すとすぐに棒のようなものを二本組み立てた。

ザックを退けた先輩二人が大きな袋からテントの本体を取り出し、それを広げた。

そして、テントの端にハンマーで杭のようなものを打ち込んだと思うと、すぐさま反対側からテント本体の穴の中にさっき組み立てた棒を滑り込ませた。


「いっせいのーせ!」


端にでてきた棒を固定し、先輩が力強くはみ出ている棒を押すと…あっという間にテントの形になった。


僕も神崎くんも唖然としていた。

ここまで目にも留まらぬ速さだ。

先輩の動きに無駄がない。


テントの上にカバーを被せ、骨組みとなった棒の下の所に固定すると、そこからは杭を打ったり打ち直したりしていた。


「本体打つぞー」


「いいよー、せーの!」


掛け声が飛び交いテントがどんどん完成してゆく。


カンカンカンカン…


ハンマーで杭を打ち込む音が響く。

一人がテントのなかに入り、銀色のマットを広げ、みんなのザックを入れた。


テントの横に垂れたヒモを張り、杭で固定すると、あとは3人で周りをまわりながら確認をしていた。


最後にテントの中に道具をしまい、入り口を締めて


「完成です」


とテントを立てた先輩たちが言うと、部長が時計を確認した。


「9分20秒、この前より早くなったけどまだまだ早くできるな」


部長がテントを確認し始める。


「ここちょっとずれてないか」


「ここ歪んでるな」


「お、ここはまっすぐだ。いいねー」


とテントの杭のずれ、ヒモのずれなどを手を使って確かめだした。


「うん、大目にみれば上出来かな」


「そうだ、田島、張り綱をまたいでたぞ、今度から気をつけろ」


「分かりました」


部長が一通りの講評を終えると僕たちに話しかけてきた。


「ちゃんと見てたか!これを山でやるんだぞ!まあ最初はこんな早くなくていいけど」


「すいません、速すぎて頭が追いつきませんでした」


神崎くんが固い表情で答えた。


「そうか、まあ仕方ない。こっちにきな」


と部長がテントに案内してくれる。


「まずはテントの部位の名前を教えるよ」


部長は僕がさっき、棒だ、杭だ、ヒモだ、と思っていたものを説明してくれた。


「このテントの骨組みになってる棒はポール、ハンマーで打ち込んだピンがペグ、テントから張ってあるこのヒモは張り綱、そしてテントに被さっている雨よけカバーをフライシートって呼ぶんだ。大会では忙しいから採点の後敷くけど、テントの下にはグランドシートっていうブルーシートも敷く」


部長は丁寧に教えてくれた。


「簡単に手順を説明すると、まずテントを広げる、ペグで仮どめをする、ポールを組み立てる、ポールを中に通して固定、そしてテントを持って押し込む、そうするとテントが立ち上がるんだ。そしたらフライシートをかける。ペグは本体を固定するときは直角、フライと張り綱を固定するときは45度くらいに打ち込むんだ。この時は、ずれないよう足で固定してね」


テントは踏んじゃダメ、張り綱はまたいじゃダメ、テントから離れるときはかならずテントを締める…などテントに関する注意を受けてからテントの撤収となった。


「あ、あとザックをテントに入れるときはちゃんと土を払わないとテントの中がめっちゃザラザラするぞ~」


と近藤先輩が笑って付け足した。


撤収も早かった。

元通りに袋に閉まって部室にしまった。

すると、部長が思いついたように言った。


「よし、ついでだからこのまま走りに行こう!今日は短めで5キロ!」


結局そうなるんかい。

段丘の上と下には道が走っていて、上る坂を変えれば自由に走る距離を変えられた。


ああ、5キロの坂を上るのか、あそこ短いけど急なんだよな。


そんなこと考えてもどうせ走るのだ。意を決した。


やっぱり走るって慣れない。疲れる、そして先輩は速い。また坂で疲れてしまって歩いてしまった。神崎くんは最初はめんどくさがっていたが、走れば僕より速い。

部活に入りたての頃は心配してくれていた彼だが、愛想が尽きたのか僕を置いていって走っていった。


やっとのことで、学校に戻るとまた筋トレ回数増加のオマケを貰った。

笑う神崎くんの顔が本当に憎らしい。


なんだ、なんだよ運動部だったからって!調子にのりやがって!


そんなことは言わなかったが。


部活に戻ると、

じゃあここにあるものを説明する、部長がおもむろに段ボールを引き出した。


「これらは団体装備、共同で使うやつ」


といくつかの段ボールの中から色んなものを取り出した。


「まずはコッヘル、これで米を炊いたり食事を作る。使い終わったらトイレットペーパーで拭くんだ。」


小さな鍋のようなものの中に、さらに小さな鍋が入っている。折り畳み式の取っ手がついていた。


「次に、コンロとガス、コンロはバーナーとも言うかな。コンロはこう小さくしまってあるから、これを広げてチューブをガスの頭に取り付ける。そしたら、点火装置を押すと火がつく。火がつかないときはライターでつける。」


そう言って実際に火をつけて見せた。

コンロは家にあるガスコンロの上の部分のような形だ。ガスはガスボンベの小さいやつだった。どちらも片手に乗るくらいコンパクトだ。


「燃えているときに火が消えないよう、風防っていう風避けも持っていく。火がついているときはガスをひっくり返しちゃダメ」


他には、ザイルという長くて太いロープ、小さなケースに入ったケガや調子が悪くなった時に使う医療用具と登山道具を直す時に使う補修用具…

など説明してくれた。


次に小さな黄色い袋を取り出した。


「これはツェルトって言って、緊急用のテントみたいなものだ。これを被さるんだよ、大きく広げられて雨風から防げる。こんなん滅多に使わないけど、一応持っていくからね。とりあえずこのぐらいかな」


その直後、後ろから声がした。


「そうだ、緊急で思い出したけど、山は何が起こるか分からないよ。泊まりであれば非常食は必ず持っていくし、誰か一人に問題があればみんなの命に関わる。昔、ヘリコプターを呼んだことがあるらしい。あと雨は上から降ってくるものだと思うなよ」


そんな怖い話を後ろで見ていた近藤先輩が笑いながら言ってきた。


「やめとけよ、一年生が怖がるようなこというのは」


部長が苦笑いして返した。


緊急時って何が起こるんだろう。

でもこの前登ったときはそんなこと起こりそうもなかったけどなぁ。

ま、今考えても仕方ない。


僕はまだ山の怖さを知らなかった。



着替えて生物室に戻り一息ついた。


「お、そろそろ時間だ」


と部長がラジオを戸棚から取り出した。


そして経線、緯線が書かれた白地図のようなものを用意した。


「これはな、天気図と言って今から放送される気象通報をこれに書くんだ、書くものは風向風力、天気記号、気圧、気温、それが終わったら次に低気圧、前線、高気圧、と書いていくんだ。それで最後に言われる基準となる等圧線を引いて、自分で想像しながら等圧線を増やしていくんだ。最後に自分で予想した明日の天気を書いて完了だ」


うーん、難しい。


まあ、とりあえず見ててみな。

という事で、放送が始まるのを待った。


16時になった。

放送が切り替わり、時報がなった。その前の英会話番組の明るい雰囲気から一転、単調な男の人の声が流れてきた。


「…気象庁予報部発表の今日正午の気象通報をお伝えします。始めに各地の天気です…石垣島では…」


次々と気象の情報が読み上げられていく。

生物室の空気も変わり、集中した部長のペンの音だけが響く。


風向、風力、天気、気圧、気温と順番に書いていく。


日本だけじゃない、ロシアや中国、フィリピンなど地図に載っている都市の天気も書く。

書き方は風を矢羽根で書き、根もとの◯に言われた天気の天気記号をかく。


すべての都市の天気を言い終わると低気圧の情報を言い始める。部長はペンを持ち替え、低気圧は赤、高気圧なら青のペンで書いていく。北緯何度、東経何度と地図中で場所を探し、そこに低気圧、高気圧の強さと進行方向、スピードを書いていく。前線があればいくつも座標を言われ、それをなぞって前線を書く。


最後に基準の等圧線の座標を言われ、今度はシャーペンに持ち替えて言われた座標にバツ印を書いていく。


放送が終わった。ここまで20分かかった。


ここからは部長がつじつまが合うように等圧線を増やしていく。


うねったり、戻ったり、狭まったり、広くなったり…


そんな等高線を沢山書いていった。


最後に〈明日の大会山域は~〉と天気図に予報を書いた。

すべて書き終わるのに計40分かかった。


「疲れた。これを放送が終わってから20分で書かなくちゃならない。分かった?」


「すいません書いてる所を見てても難しかったです。」


「はははは、まあだんだんと分かってくるよ」


部長が笑うと神崎くんが言った。


「俺はムリだな」


まあまだ書いたことないんだし、今度教わって書いてみよう。


「今日はテントと天気図をやったけど大会じゃ、他にもやることはいっぱいあるんだよ。山の知識も知らなきゃだし、山の成り立ちや、動植物の勉強もしなければならない。それは山をいっぱい登っていくうちに分かってくるよ」


部長はそう言いながら、生物室の棚の中からスナック菓子を持ってきて僕たちに差し出した。


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