リリーとの会話
俺がリリーと出会ってから3日後、俺の新居となる郊外の城やそこに持ち込む生活に必要な道具が準備できたらしく、俺とリリーは馬車でそちらへ引っ越すことになった。
『郊外とはいえ王都からは近いところに位置しているのでそこまで御不便はかけないと思います。それとこちらの都合で何度かお呼び立てすることがございますがご了承ください』
アイラさんはそう言った後城を出るところまで見送ってくれた。
こうして現在、俺とリリーは馬車で移動中だ。
今まで外は城の中庭にしか出たことないからわからなかったが王都はとても立派なものだ。TMOの世界も賑やかな市場が広がっていたがやはり本物を目の当たりにすると活気が溢れていることがわかる。大通りから離れた道を通っている馬車の中にまでも人々の声が届いてくる。
「やっぱり王都は活気が凄いなあ……ん?」
感心していると正面に座るリリーが少し震えていた。
「リリー…?大丈夫?」
「は、はい!大丈夫です!」
急に声をかけたから驚いた様子で勢いよく背筋を伸ばし返答した。
「…もしかして人混み苦手?」
「あ…うぅ…はい…」
どうやら指摘されて恥ずかしかったのか、リリーは頬を少し赤らめて俯きながら返答をする。
そういえば俺はリリーのことをあまり知らない。せっかく城に着くまで時間があるわけだし、彼女と話してみようか。
「………」
…と思ったが何から話しかけていいのかわからない。
なんとか話題を探そうとしていると、
「………さまは…」
「うん?」
小さな声でリリーが呟いた。
「御主人さまは…なんで私を選んだのですか…?」
そんな質問をされた。
確かにあの時に明確な理由を言ってはいないしリリーみたいな子なら疑問に思っても当然かもしれない。
「…俺にもリリーみたいな内気な妹がいたんだ。顔は全然違うんだけどリリーを昔の妹みたいに思えてそれで放っておけなかったんだ」
「………」
俺には仲の良い妹がいた。だが俺が高校に上がると同時に離れ離れになってしまい一人寂しい思いをしていた。
「それに妹みたいな子が側にいてくれたら嬉しいなあ…って思って…え?」
そんな風に俺がリリーを選んだ経緯を話して正面のリリーの顔を見てみると、彼女は泣いていた。
「御主人…さまぁ…」
「ど、どうしたの?リリー?」
「そんな風にっ…考えてくださって…ありがとうございます…」
どうやら感動して泣いていたらしく、リリーは何度も感謝の言葉を伝えた。
「う、うん。リリーの感謝の気持ちは十分伝わったから泣き止んでくれるかな?」
「は、はい。すみません…」
まだしゃっくりが止まらない彼女を宥めながらなんとか落ち着かせる。
「それと、俺のことは名前で呼んでくれる嬉しいな」
「…ジン様?」
「うん、それでいいよ」
そう言って彼女に優しく微笑みかけた。
この馬車での会話で俺とリリーの仲は深まったように思えた。