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片思い、通学列車♡

作者: 渡辺 ゆき

毎日、前の日の夜、目覚ましをセットする。


6時に必ず、セットして、起きて、支度を始めて、7時には、家を出る。


そして、駅まで、自転車を漕ぐ。


苺ジャムが塗られた食パンを加えながら。


息をはあはあさせながらも、7時23分という時間の電車に乗るために。


7時23分の電車に乗ると、電車の席は、まだ、それほど、人はいない。


毎回、3両のところから、私は、乗り込む。


全ては、君に会うために。


いや、君に会いたいから。


私は、その人を見つけると、すぐ側のところに座る。


そこが空いてない場合は、座るところが空いていても、電車のドアのところに立つ。


その男の人は、いつも、本を読んでいる。


話しかけたい…


でも、話しかけられない。


そんな勇気なんてない。


どこの駅から乗って来るかも、名前も、学校名さえもわからない。


何も知らない。彼のことを何一つ。


制服を見ても、大体、そんなに、男子のは、変わらない。


何の本を読んでいるのだろう…


気になる。あまり、本を読まない私は、気になる。


ただ、密かに、見つからないように、見ているだけ。


サラサラとしてそうな短い黒髪。


白い、きれいな肌。優しい瞳。


細い腕、きれいな手。長い指。


何よりも、顔立ちは、整っている。一般的には、イケメンという。


君の横顔は、優しい。


私以外にも、気になっている女子は、いるようだ。


電車に乗れば、女子から、


「おはよう…」


そう声をかけられており、


「…おはよう…」


そう答える彼。


そして、目線を本に戻す。


挨拶を返された女子は、


「してくれた!」


そうはしゃぐ。その一緒にいた女子は、


「いいなー!」


羨ましそうにその会話に乗る。


そんな会話は、電車に乗る度に、よく聞く。


女子の中で彼の存在は、盛り上がりを見せる。


いいなって思う。


私は、先に学校からの最寄駅に降りる。


電車のドアが開き、降りる。


いつも、電車のドアを出て、足が立ち止まる。


そして、振り返る。


電車のドアは閉まり、ゆっくりとだんだんとスピードが上がって、電車は、その場から去って行ってしまう。


私は、いつもその時に、後悔をする。


今日も話しかけられなかったって。


「明日こそ…」


いつも、そう呟きながら、学校の通学路まで、歩き出す。



私が、彼に出会ったのは、学校帰りのことだった。


駅で、電車を待っていた時だった。


付き合っていた彼氏と電話のやり取りをしていた。


「ごめん!」


「…」


「本当にごめん!」


「え?急にどうして?」


暫く、間が空く。


「なんで?なんか、私した?」


やばい…迫り過ぎてしまった…



「那月、ごめん!本当にごめん!別れてほしい…」


言葉を失った。


「那月?ねえ、那月?」


即座に携帯を切った。


失恋した。


下を俯きながら歩いていた。


ちょうど、その時、道路の真ん中を通っていた。


車が左側から来る。


気付かない私。


とぼとぼと歩いていた。


すると、突然、その時、腕を掴まれた。そして、強く引っ張られ、


「あっ!あっぶない!」


一瞬のことだった。



「痛っ!」


そう言うと、男の人が、痛そうにしていた。


我が返った私は、振り返る。


「すいません!大丈夫ですか?」


そう声をかける。


「大丈夫…君は、大丈夫だった?」


「私は…全然…」


彼の腕から、赤いものが流れていた。


「だっだっ大丈夫ですか?」


少し間が空いてから、そう言い、慌てて、私は、鞄から、テッシュを出す。血を吐き、


「ちょっ…ちょっと!」


私は、彼の手を掴み、コンビニの横にある水道のところまで、連れて行き、彼の腕に水を当てた。


「しっ染みる…」


「すいません!ちょっと、我慢して貰っても….」


そう言い、鞄から再び、絆創膏を出し、彼に付けた。


落ち着いた頃、


「本当にごめんなさい!すいませんでした!」


頭を深く90度近く、下げ、誤まった。


「大丈夫ですから!顔を上げて下さい」


その彼の言葉に、私は、顔を上げた時、初めて、ちゃんと、彼の顔を見た。


微笑みながら、


「何もなくて、良かったですよ!」


そう言った。


私の勝手な一目惚れだった。



それから、電車で7時23分の電車で、見つけるようになった。


今まで視界さえ、入っていなかったのに。


ただの知らない、どこにでもいそうな感じの人だったのに。


輝いて見えた。キラキラと。


翌日、声をかけようとした。


しかし、帰りの電車の時、友達といた彼は、友達と話しており、話しかけずらく、声をかけられなかった。


そのまま、彼に話しかけることが出来ずにいた。


"ありがとう"と感謝を伝えたいだけなのに。


電車で本を読んでいる彼に私は、見惚れてしまう。


気が付くと、ニヤニヤとした顔になりながら、彼を見ていた。


朝、彼がこの時間に乗ることを知ったのは、バスケ部である私は、朝練があった。


7時23分という時間に乗らないと遅れてしまう。


その時に、いた。見つけたのだ。彼が3両の席のところに座っていたのだ。


それに合わせるように、乗り始めた。



しかし、それから、1ヶ月が経った時である。


朝、6時に起きて、いつも通り支度をして、家を飛び出し、自転車をわくわくとした気持ちで漕ぎながら、7時23分の電車に向かう。


どきどき


胸が高鳴る。


今日こそは…


電車のドアが開き、乗り込む。


彼を探す。


3両の席のところに彼はいた。いつも通り。


いつもと違うのは、彼の右隣には、女の人。


かわいらしい雰囲気、さらさらとした長い髪。二重のくりっとした目。折って短くした制服のスカート。


その人と微笑みながら、楽しそうに話していた。


「隼人くん….」


名前?


彼の名前?


スキンシップが多い彼女。


聞こえた声に見る方向に私の心のガラスにヒビが割れたような、気持ちだった。


下を俯く私。


彼の微笑み顔を目で追ってしまう。


その姿を見て、胸が痛かった。



その日は続いた。1週間経っても2週間経っても…1ヶ月がさらに経っても…


付き合い始めたのだろうか。


うらやましい…


でも、一度だけ…一度だけでも、もう一度、彼と話したい…


だけど…


やはり、勇気が出ない。


悩んだ。悩み続けた。


朝の7時23分の電車がチャンスの限り。


日常化してしまった7時23分の電車に乗ること。


話したい…


ただ、それだけの想いが強まっていく毎日。


私は、覚悟を決めた。決めた。



さらに、2週間が経った時である。


いつも通り、朝、7時23分の電車に乗るために、いつも通り、前の日の夜に目覚ましを6時にセットして、布団に潜った。


ドキドキ


緊張する。


ドキドキ


「明日こそ….」


一人で、呪文でも唱えているかのように、呟きながら、布団に潜っている。


「明日こそ…絶対に!」


ドキドキ


何度も、起き上がり、布団から、離れたり、机に向かって、勉強してみたり…


結局、一睡も眠ることが出来ず、いつも通り、朝は来てしまった。


ドキドキ、ドキドキ


緊張だけが残る。


「今日こそ…今日こそ…」


鏡の前で、呟きながら、言い、自分の顔をパンと叩いた。


ドキドキ、ドキドキ、


言える気がしない。


はーぁ


鏡の前でため息。


鏡に映った自分を見て、


「よし!」


再び、覚悟を決め、7時23分の電車に乗るために、支度をし始め、家を出た。


ドキドキ、ドキドキ


自転車をこぎ続ける。


たんだんと、スピードが上がっていく。


ドキドキ、ドキドキ


心臓の音が響いているかのようである。



駅に着き、電車を待っていた。


ドキドキ、ドキドキ


電車は、少しして来た。乗り込む。


いつもの場所、3両のところに乗っていた彼。


ドキドキ、ドキドキ


言えない…勇気が…


一瞬だけ、目が合ったような気がした。


気のせいである。


そして、息を大きく吸った。


思い切って、まだ、電車が動いている時、彼の座っている前に立った。


それに気付いた彼は、


「なんでしょうか?」


間が空く。


なかなか、言い出せない私。


「どうしましたか?」


そう言われ、


「あっ…あの…」


切り出そうと口を開いた。そして、目を閉じながら、


「あの…こないだは、すいませんでした!ありがとうございました!」


そう言い、深々と頭を下げる私。


それだけを言えばいいと思っていたのに、


「こないだ?」


「あっ…あの…助けてくださって…私のせいで、怪我をさせてしまって…すいませんでした!」


再び、深々と頭を下げた。


「あー…あの時の…」


思い出したかのように、言った彼。


「大丈夫ですよ、治りましたし」


「…本当にすいませんでした!」


深々と頭を下げる。


顔を上げるが、下を俯きながら、顔を真っ赤にしながら、


「あと…あの…その時に…私!」


そう言い、顔を上げる。彼の目線に合い、彼の微笑んだ顔を見て、


「好きです…」


自然と言葉に出た。


彼は、戸惑う。


それを見て、私も困惑する。


「あっ…あの…突然….」


言い終える前に、彼は、口を開いた。


「ごめんなさい!」


即座に誤る彼。


「俺….彼女いるんです….」


その言葉に思わず、


「知ってます….」


下を再び俯く。再び、口を開いた。


「帰りの電車の時に、女の人といるのを見ました…」


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」


ただ、誤る彼。


終わった。


即座に、そう思った。振られた。失恋だ….


だけど、心の中には、まだ、君は、いた。


もう、諦めないと…


3両の席に座ることも彼と話したい気持ちも全部。


日々、悩んだ。



それでも、さらに、2週間経っても1ヶ月が経っても、私は、まだ、7時23分の電車に乗って、3両の彼がいるところの側に座ってしまう。


いつも通り、本を読んでいる彼。


私には、気付かない。


多分、あまり、顔も覚えられてない。


それでも、まだ、ここにある、"好き"。


まだまだ、続く、君への恋心。


"そっと、この想いが消えるまで、好きでいさせて下さい"


今日も、そんな想いを抱えながら、7時23分の電車に乗り、3両の席のところに座る。


電車から降りた時、足は、立ち止まり、私は、そう空を見上げながら、願った。


私は、勝手に、彼に、片想いをすることにした。


この想いが消えるまで。


この想いを空に載せて。


優しく吹く春の風が、春の太陽の日差しの光が、私を照らし、包み込んだ。


今日も青く透き通った空がいつもより遥かに、優しくきれいに見えた。


"君が好きです"


通学列車は、私の後ろを去って行った。


そして、片想い、通学列車は、まだまだ、続いた。


季節は、春が終わりを告げ、夏を迎えようとしていた。

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