プロローグ 少年少女の賑やかな秘密
【鈴鳴京平view】
神楽木学園『呪い部』。
その活動内容は、いわゆる超常現象や胡散臭い話など、オカルトと呼ばれるようなものを調べることと、それに関連して、超常現象などで困っている生徒の相談を受ける事だ。超常現象に関連がなくても生徒の悩みは聞くが。
しかしそれは表向きの活動だ。
「キョーヘイ!何本なんか読んでるのよ!」
「あ、悪い。何か活動あったか」
「私がヒマでしょうが!」
「おい」
そんな目の前の女の自己中な理由で読書を中断された俺、神楽木学園2年一組、鈴鳴京平は仕方なく目の前の女生徒に向き直る。
美人ではあるが、目付きと態度の悪さで周りから距離を置かれている女の子。
頭に巻いたリボンは焦げ茶色の髪によく似合っている。
神楽木学園2年一組、更式奈月。
俺のクラスメイトであり、学年一の有名人。
しかし、それは美人だからという理由ではない。
『彼女は周りに無関心で、態度が悪い』というのが、彼女が有名な理由だ。
彼女が周りに悪態をついているのには、ちょっとした理由がある。
「キョーヘイ、ここにたまたまコーラが二本あるんだけど、片方飲みなさい」
「命令形かよ!」
「いいじゃない。どうせ飲むんでしょ?アンタ付き合いいいもの」
「何人のことお人好しみたいに言ってるんだ。片方って、お前が選んだ方飲まされるのか?」
「いいえ、どっちを飲むかはキョーヘイが決めなさい」
なぜかニヤニヤとする奈月。
こいつの思い通りになるのは癪なので、真剣に缶を吟味する。
どっちか選んでいい、ということはつまり、どちらか、もしくは両方に何か細工がしてあるということだ。
「もう片方はどうするんだ?」
「私が飲むに決まってるじゃない」
「なるほど…………」
ということは、どちらにも細工してある可能性はない。
わざわざ自分が飲むものに細工をする意味がない。
そして、コイツの性格からして、細工が分かるように目印がしてあるはずだ。
してある方にならまるでしてないような、してない方にならまるで細工してあるような、そんな目印が。
俺は2つのコーラをくまなくチェックする。
すると思った通り、片方のコーラに小さな文字で『振った方』と書いてある。
つまり、こっちが細工していない方、振ってないコーラだ。
「ふっ…………」
勝利を確信し微笑んだ俺は振ってない方のコーラを手に取り、そのコーラを開けーーーーーーーーー
顔がコーラまみれになった。
「ブフォッゴホォッ‼︎ゲホッ!」
「あははははははははは‼︎今のドヤ顔からの、いーっ、ぶっ!あははは!サイッコー!」
奈月はコーラまみれの俺を腹を抱えて笑いやがった。
悔しい。
(ということはもう片方が振ってないコーラか…………)
どうやら俺は深く考え過ぎたらしい。
もしくは、俺の思考を読んであえて素直な目印をつけたのかもしれない。
そんな思考をしていると、ふと視界にスプーンで缶をトントンと叩いている奈月の姿が見えた。
「………………何やってるんだ?」
「コーラ2つとも振ったから、私が飲む方を泡を落として吹き出ない様にしてるに決まってるじゃない」
「…………コーラの缶ってそうすると振っても大丈夫なのか?」
「この前テレビでやってたわ」
……………………そうか………………。
振っても大丈夫なのか…………。
俺はハメられた事への悔しさでいっぱいになった。
「それにしても、他の皆遅いわね。キョーヘイで遊ぶのも飽きたわ」
「その言い方は俺に大変失礼なのはともかくとして、まぁ、確かに遅いな」
呪い部には全員で5人の部員がいる。
その内2人は俺とそこの自己中女なので、あと3人の部員が部活に来ていないことになる。
……まぁ、とはいえ、この部活はそもそも依頼が来ないと活動がない。
ということで今の時間帯2人でも構わない。
それに、まだ下校時刻というわけでもないので、そこまで心配することもないだろう。
なのに、なんで遅刻を気にしているのかというと、ちょっとした心当たりがあるからだ。
「あの……」
「「‼︎⁉︎」」
いきなり声をかけられて驚いた。
しかもドア付近からではなく、俺の真横から。
「僕は更式さんが部室に入る前からいましたよ?」
「い、いたんなら声掛けなさいよ!」
奈月は息を整えながら物凄い形相で俺の真横にいるイケメンを怒鳴りつける。
しかしそれも無理のないことだろう。
奈月も、奈月の後に部室に入った俺も、ずっとその席にいたんだろうに気が付かなかったのだから。
まだ心臓がばくばくいっている。
真横にいる少年を見る。
肌は色素が薄く色白で透き通る様だ。
顔立ちは端正で、切れ長の目は優しそうに微笑んでいる。髪は薄い茶色で、毛先は緩いカーブを描いて四方八方に広がっているものの纏まっている様にも見える。
全体的に見てかなりの男前である。
雰囲気も優しそうだし。
更に、聞いたところによると彼は成績も優秀、スポーツも万能らしい。
だけど誰も彼を見つけられない。
声を掛けられれば気付くのだが、それまでどれだけ近くに、むしろ目の前至近距離にいようと、誰も気が付くことができない。
顔を思い出そうとしてもみんな本人を見ないと思い出せないほど印象が薄い。
それが彼、神楽木学園3年四組、灰岡良刀だ。
「いやぁ、すみません。更式さんと鈴鳴くんのやり取りが面白くて、見入ってしまいました」
「ず、ずっと見てたの……?」
「声くらい掛けてくれてもいいのに」
相変わらずのマイペースさに俺は呆れて苦笑いしてしまう。
年上だから敬語を使うべきだとは思うけど、対等で話したいというのが彼の要望だ。
それに、良刀さんのことを何故か目上の人として見れないのも確かだ。
「あとは……ハルナとしのっちゃんね」
奈月が呟いた瞬間、いきなり悲鳴が聞こえる。
『きゃぁぁぁぁああああああああ‼︎』
「この声…………尊島⁉︎」
俺は思わず駆け出そうとソファから立ち上がる。
するとーーー
「ひゃぁあっ!」
小柄な後輩が勢い良く入ってきた。
あられもない姿で。
彩度の高い、オレンジ気味の茶色の髪を腰まで伸ばした少女。
顔つきは身長に似合って子供っぽく、端正でとても可愛らしい。
まさにザ・女の子といった感じだ。
しかしその体つきは小さな身長には似つかわしくなく、肉付きが良く、しかし引っ込むところは引っ込んでて、グラマラスといった感じだ。
特に胸については、彼女の顔と同じくらいのサイズはあるのではないかというくらいの大ボリュームだ。
彼女の名前は尊島詩乃莉。
神楽木学園1年六組、俺達の後輩で、奈月は彼女のことをしのっちゃんと呼んで可愛がっている。
まぁ、遊んでるとも言えるだろうが。
そんな彼女は今、とんでもない状態だ。
制服がなぜかはだけ、肩が出ているのは勿論、その大きな胸まで丸々見えてしまっている(下着はちゃんとつけている)。
スカートも片足に引っかかっているだけで、その身長に似つかわしくないほどの色気を放つ太もももお尻も惜しげも無く披露されている。
「尊島⁉︎大丈夫か⁉︎」
「ふぇっ?せんぱーーー」
尊島が俺に気付いた瞬間、それは起こった。
尊島はつま先を何かに引っ掛け、そのまま俺に向かって倒れて来たのだ。
「きゃっ」
「うわっ」
ドタバタッ!と盛大な音を上げ俺達は倒れてしまう。
幸い頭は打たなかったが俺は背中全体に鈍い痛みを感じる。
「いつつ…………大丈夫か、みーーー」
目の前に広がっている光景は、夢の様な、むしろ夢であって欲しい様なものだった。
「うぅっ……」
俺の上には尊島が乗っかっていた。
別にその事自体には問題はない。
俺が尊島を庇えたって事だから。
問題は尊島の状態だ。
尊島は完全に服を着ておらず、下着姿だった。
しかも下着まで微妙にズレている。
幸い大事なところは見えていないが、その深い谷間とか、パンツが少しズレて見える、可愛らしいお尻とか、健康的な白い肌とか、むっちりした柔らかそうな太ももとか、とても目のやり場に困る。
更に困る事と言えば、そんな尊島が俺にぴったり密着している事だ。
俺の腹部にはその瑞々しい柔らかそうな2つの球体が乗っかってしまっている。
(うぉッ!……柔らかっ……じゃない!何考えてるんだ俺!相手は部活の後輩だぞ!)
しかし俺の理性とは関係なく、俺の全神経は俺を誘惑してくるその柔らかな球体に集中してしまっている。
「み、尊島…………。悪いけど、どいてもらえないか?」
「ふぇ?はわっ!す、すみみゃせん、せんぱーーーきゃふッ!」
尊島は慌てて状態を起こすが、足を滑らせ、勢い良く俺の懐に飛び込んでくる。
ふにょんっ。と俺の腹の上で尊島の胸がその形を盛大に変える。
「〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎」
尊島本人は俺の胸に顔を埋める。
「〜ッ‼︎〜ッ‼︎〜ッ‼︎〜ッ‼︎」
俺も尊島も顔を真っ赤にする。
ヤバい。
これ以上は理性がーーー。
「ちょっと‼︎しのっちゃんになにしてんのよこのへんたい‼︎」
奈月からの怒号が飛んだ。
「はぁ⁉︎誰が変態だ誰が………………」
俺は絶句した。
「おい奈月!なってるぞ!」
「へ?あっ!」
奈月も俺の指摘でようやく気付く。
目の前にいるのは確かに奈月だった。
しかしその奈月にはさっきまでとは明確な違いがあった。
その服は体からずり落ち、ソファの上に落ちている。
しかし、それは尊島の様に着崩れたというわけではない。
奈月の体の方に問題があるのだ。
そう、奈月の体は縮んでしまっていた。
正確に言うと、子供の姿になっていた。4〜6歳ほどの姿に。
これが、奈月が周りと距離を取っている理由だ。
「べっ!べつにいいでしょ⁉︎いまはぶがいしゃいないんだし」
滑舌が子供レベルになった奈月は言葉では強がっているが慌てている事がバレバレだ。
まぁ、確かに誰かに見られる心配はないのかもしれない。
「あのー…………すみません」
部員じゃない学生の声が聞こえた。
「わー!わー!わー!どうしました⁉︎」
今中を見られる訳にはいかない。
俺は覆い隠すように見知らぬ生徒の前に立ち大袈裟に身振り手振りをして奈月を隠す。
「えっと……お邪魔でした?」
「いえ!そんなことは!それで、呪い部に何かご用ですか?」
「あ、はい。実は…………」
どうやら何か依頼が入った様だ。
……と、思ったんだけど。
「起こすのも迷惑かなって思ったんですけど、流石にこの時間まで部活に出ないのもまずいんじゃないかなって思ったので」
見ると、その生徒の背中には別の生徒がいた。
腰まで伸びた綺麗な黒髪に、可愛いというより綺麗やかっこいいという言葉の方が似合いそうな顔立ち。
その顔はヨダレやら鼻ちょうちんやらで台無しになっているけれど。
その背中に背負われている人はまさに、神楽木学園3年一組、千歳川遥那。
呪い部のメンバーの最後の1人だ。
「じゃあ、ルナちゃんのことよろしくお願いします」
「あ、はい」
そう言うと生徒は千歳川先輩を俺に押し付けそのまま行ってしまった。
「zzz〜」
「きょーへい!ぼさっとしてないでさっさと……ぎゃん!」
奈月がブカブカの服につまづいてソファから落ちる。
「だっ大丈夫ですか先輩⁉︎」
「まず尊島は服を着ようか」
「あっきゃあッ!」
「zzz〜」
「ハハハッ」
もう、色々と意味不明な事態に陥っていた。
なぜこんな事になっているのか、1から説明するべきだろう。