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呪い

 その日の夜は、とても強い吹雪でした。

 空には星も月も見えなくなり、村の人たちはみんな、家へ閉じこもり誰一人外へ出ようとはしません。

 がたがたと風が窓をゆらす音が聞こえる中、クリスとイブは抱き合うようにベッドの中にもぐりこんでいました。


「クリス、こわいわ。風でお家の屋根がとんでしまわないかしら?」

「だいじょうぶさ、イブ。村長さんの家は、村で一番りっぱなんだから」

「お父さんは、一人でだいじょうぶかな?」

「それもだいじょうぶさ。お父さんは強いから、吹雪なんかに負けない」


 クリスはイブの手をとり、お父さんからもらったペンダントを握らせました。クリスも自分のペンダントを握り、イブを元気づけるように笑います。

 ペンダントはひんやりとしていましたが、握っていると不思議と胸がぽかぽかとしてくるのです。

 ですが、ゴウッと強い風が二人の勇気をとばしてしまおうと、なんども窓を揺らしました。


「クリス……わたし、お父さんに会いたい」

「バカ、泣くなよ」


 まだまだ甘えん坊のイブは、目に涙を浮かべていました。クリスは必死になってイブをなだめようとしましたが、一度流れてしまった涙は止まりませんでした。


「父さんに言われただろ。泣くなって」

「でも……さみしいよ」

「なんだよ……ずるいぞ、一人だけ……」


 クリスはイブの頭を抱えて、泣き顔を見ないようにしました。そうしないと、とても我慢できそうになかったからです。

 どうしてお父さんは一人で森に残ったのか。

 どうして村長さんは何も教えてくれないのか。

 何も教えてくれない大人たちに、クリスの頭の中は「どうして?」でいっぱいになりました。

 そして、「どうして?」は、やがてクリスの胸の中でむかむかとした気持ちに変わっていきました。


「……イブ。父さんに会いに行こう」

「……え?」

「それで、お願いしよう。いっしょにいようって」

「でも、それじゃあ約束をやぶることになるわ」

「かまうもんか。それに、お前もう泣いちゃったじゃないか。一つも、二つも同じだよ」

「でも……」

「お前は、お父さんに会いたくないのか?」


 強くきかれて、イブは激しく首を横に振りました。


「そんなことないわ……!」

「なら、決まりだ。明日、まだ誰も起きていないころに村を抜け出そう」

「へいきかな……?」

「ああ。お父さんも僕たちに会えたら、きっとよろこんでくれるさ!」


 そう決めてしまうと、クリスとイブは少しだけ勇気を取り戻していました。

 風の音も気にならなくなった二人は、明日の朝を待ち遠しく思いながら、眠りについたのでした。





 まだ空が青色にならないほどの早い時間に、クリスとイブは村長さんの家をこっそりと抜け出しました。

 昨夜の吹雪はうそのように晴れてはいましたが、地面が見えなくなるほど雪は高く積もっています。

 体を震えさせ、なんども鼻をすすり、手をこすりながら、二人はようやく森の入口までたどり着きました。


 お日様がのぼりきっていない森の中は静かなもので、二人は少し不安になります。

 ですが、森を進むにつれて、少しずつ見覚えのある景色になってくると、自然と足は早まっていきました。

 雪に足をとられながらも、二人は手をつないで、ほとんど駆け足で、ぐんぐん先へと進みます。

 そして、とうとうお父さんと暮らしていた小屋を見つけました。


「あ!」

「え……!?」


 ですが、小屋を見た二人は驚きのあまり、大きく口を開けて叫んでいました。

 小屋は真っ白にそまり、凍り付いていたのです。

 屋根からはまるで木の枝のように細い氷がいくつも飛び出し、まわりの木々に張り付いていました。地面は凍った池のようになっていて、おそるおそるクリスが歩くと、パキリと高い音を立てます。

 いったい何が起こっているのか、二人にはまるでわかりませんでした。


「クリス……お父さんは!?」


 顔をまっさおにしたイブが叫びました。クリスも同じことを思い、二人は小屋の前まで転びそうになりながらも急ぎました。

 凍ったドアはとても冷たく、少し押しただけではびくともしません。冷たさに手が痛くなりましたが、クリスは思い切りドアを押しました。イブも、クリスの背中を押して手伝います。

 すると、ドアは勢いよく開き、二人は転がるように小屋の中に入りました。小屋の中は外よりも寒く真っ白で、あちこちにつららが出来ていました。

 お父さんはいったいどこにいるのだろう。二人は白い息を吐きながらきょろきょろと首をまわします。


 そして、ベッドの上で横たわるお父さんを見つけました。

 なんと、お父さんはベッドごと、大きな氷の中に閉じ込められていたのです。


「クリス! イブ! さわってはいかん!」


 二人はあわててお父さんに駆け寄ろうとしました。ですが、二人を止める怒鳴り声がしました。

 振り返ると、顔を真っ青にした村長さんがすぐ近くまで来ており、二人の肩をつかんでいました。


「二人とも、こっちに来なさい。それにさわってしまうと、お前たちも氷漬けになってしまう」


 背中を押され、追い出されるように二人は小屋を出ました。ドアを閉めた村長さんは、怖い顔で二人をにらみました。


「なんてバカなことをしたんだ。どうしてお父さんの言いつけを守れなかった!」

「村長さん、どういうことなの!?」

「お父さんはどうなってしまったの!?」


 ですが、そんなことは関係ありませんでした。二人は村長さんの腰にしがみつき、叫びます。

 すると、村長さんは怖い顔を引っ込めて、急に悲しそうな顔になりました。しゃがんで二人を胸に抱き寄せると、とても小さな声で言いました。


「お父さんは、呪いにかかったのだよ」


 そうして、村長さんは今まで話さなかったことをあやまり、話してくれました。


 お父さんは昔、クリスとイブが生まれる前は、冒険者でした。

 世界の色々な場所をめぐり、様々な冒険をし、この国へとたどり着いたのだそうです。

 そして、お父さんは竜が住むと言われる北の山から、ある宝を持ち去りました。

 それ以来、竜は怒り、山には誰も寄せ付けない吹雪が起きるようになったのです。

 いつしかお父さんは宝を持ち去ったことを後悔し、竜へと宝を返すため、もう一度山へと向かいました。

 ですが、宝を返しても竜の怒りはおさまらず、逆にお父さんには呪いが与えられたのです。


「だが、竜は呪いがふりかかるまで時間を与えた。クリス、イブ、お前たちたちが成長するまでの時間をね」

「村長さん、お父さんは死んでしまったの?」

「いいや、お父さんは生きている。ただ……竜の怒りがおさまらないかぎり、二度と目を覚ますことはない。そういう呪いなのだそうだ」


 二人はさっき見たお父さんを思い出します。お父さんは氷漬けになっている以外は、本当に眠っているだけのように見えました。


「わかっただろう? お父さんは、二人にも呪いがかからないようにするため、村へ行くように言ったんだ」

「じゃあ、わたしたちを嫌いになったわけじゃないの?」

「当たり前だ。その逆だよ。クリスとイブが大好きだから、そうしたんだ」

「村長さん。お父さんは、僕たちを迎えに来るって言ってくれた。冬が終われば、お父さんは目を覚ますの?」

「それは……わからない」


 悲しそうにうつむく村長さんの顔を見て、クリスはぎゅっと手の平を握りました。


「イブ、村に戻ろう」

「クリス……でも、お父さんが」

「お父さんは、僕たちにウソをついたんだ」


 イブの手をとり、クリスはもと来た道を引き返し始めました。

 イブは何度も小屋を振り返りましたが、ついにクリスが振り返ることはありませんでした。

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