後編
「私はサハラ第三騎士団長ギル=バークレーだ。その赤ん坊を渡して貰おう。」
一番階級の高そうな男が言った。
騎士だかなんだか知らないが、こんな横暴で乱暴な奴等に赤ん坊は渡せない。
「この子はこのキャベツ畑でコウノトリに託された、大事な子なのよ。あんたたちみたいな不審者に渡せる訳ないでしょ!」
「あくまで自分が産んだと言い張るか。」
産んでないっつーの。
「お嬢さん!こいつら子拐いですか?」
騒ぎを聞き付けて、祖母と小作人達が駆け付けてきた。
皆手に収穫用の鎌を構えて、交戦の構えだ。
ありがとうみんな!
(ジョシュ)「俺とお嬢さんの子供をどうする気だ!」
(私)「違う、あんたとの子じゃない。」
(ダン)「その子は俺の子だ!女房もいいって言ってくれた!」
(私)「気持ちは嬉しいけど、今その話はやめて。」
(騎士)「父親は既婚者なのか?不倫か!」
(私)「だから違うって!余計ややこしくなった!」
……やっぱりいない方が良かったかもしれない。
オギャー!と赤ん坊が泣き出したので、とりあえず我が家に行くことになった。
ちなみにコウノトリは、既に飛び立った後である。
家には長兄がいた。
「この子は誘拐された、さる高貴な方のお子様である可能性が高いです。王都に連れ帰っても宜しいか。」
騎士の言葉に、兄が無言で立ち上がる。
そうだ兄貴、こいつらを追い返せ!
「ではこれも一緒に持っていって下さい。妹の荷物です。リサ、気を付けて帰れよ。ガレルには手紙書いといたから。帰り賃が浮いて良かったな。」
鬼畜兄!
王都への帰り道、私は赤ん坊の世話係であった。
なんせ、私以外が世話しようとすると泣くのである。
私は遠慮なく、騎士らをこきつかった。
特に、最初に剣を突きつけてきた団長には、湯を沸かさせたりオムツを洗わせたりと、様々な用事を頼んだ。
「あの団長を顎で使ってる……。」
恐っ!と言う声が、団員達から度々聞こえたが、失礼な話である。
久々の王都、というか王宮で私達を出迎えたのは、次兄ガレルと次期大公夫妻であった。
次期大公妃ハスカ様が、赤ん坊に駆け寄る。
「リアム!私の可愛い息子!」
なんとこの赤ん坊、次期大公夫妻の息子であったようだ。
……ここの警備は大丈夫か?
「あの、私、誘拐犯じゃないんですけど。」
私が休暇を取った時は、まだ赤ん坊は王宮に居た筈なので、アリバイはあるんだけど。
すると次期大公ベルン様は、
「わかっている。というか実行犯はもう捕まってる。この子の乳母なんだ。」
と困った顔で仰った。
ハスカ様が、続けて仰る。
「だからこの子には、乳母が居なくなってしまったの。リアムは貴女に随分なついたのね。リサ、貴女この子の養育係になってくれないかしら?ガレルの妹なら安心だわ。」
なんと私は、将来の国家元首様の養育係になったようだ。
まさかの大出世。
……結婚が遠退いてしまった。
こうして、結婚してもいないのに、子育ての日々が始まった。
リアム様は可愛い。確かに可愛い。
が、私はいつ婚活すればよいのだろうか。
一連の騒動により失恋の傷が癒えた今、できれば婿探しをしたいんだが。
責任ある地位に就いたせいか、あのにっくき騎士団長ギル=バークレーとやらと顔を合わせる機会が増えた。
彼のせいでこうなったと思うと、つい顔を見る度文句が口から出る。
「あんたのせいで私、いつまでも結婚出来ないじゃない。どうしてくれるのよ。」
「すまなかった。責任は取る。」
責任は取る。この意味をもっと深く考えるべきであった。
今、私の隣には、正装したギル=バークレーがいる。
「汝、病めるときも健やかなるときも、その者を愛する事を誓いますか?」
神父様のお決まりの問いに、ギル=バークレーが答える。
「誓います。」
そう、私はギル=バークレーの妻となったのだ。
式には親族や同僚達の他、可愛い可愛いリアム様(3歳になった。天使!)も参加してくださった。
ギル=バークレーに抱えられて教会を出ると、上空を大きな白い鳥が飛んでいった。
コウノトリだ。
さて、その後はというと、私達夫婦は三人の子宝に恵まれた。
子供達に「子供ってどうやってできるの?」と聞かれた時は、こう答えることにしている。
「キャベツ畑にコウノトリが、運んでくるのよ。」
少なくとも、我が家においては真実である。
本編は以上で終わりです。
この後1話ありますが、短い蛇足な話です。