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前編

※このお話はフィクションです。実際には、コウノトリは赤ん坊を運んできません。

※キャベツ畑に赤ん坊ができるということも、現実には無いと聞いております。

「男なんて大っ嫌い!騎士なんてみんな浮気者なのよー!」

キャベツ畑の中心で私は叫んだ。

リサ=グラマン21歳。

恋人に浮気されて捨てられ、ただいま実家で農業に勤しんでおります。


私の職業は、王宮侍女である。

難関を勝ち抜いて手にした職業だ。まぁコネも多分にあることは認めるが。

王宮侍女は女性達の人気職である。何故なら国軍の騎士や高級官僚との出会いのチャンスが、あちこちに転がっているからだ。

かくいう私も、職場で出会った騎士と恋仲になった。

付き合って4年、私も20代となり、そろそろ結婚かしらと思っていた。

あの人ったら照れ屋さん、自分からは言い出せないのね、私からそれとなく話題をふってみようかしら。などと浮かれていた自分を殴りたい。

元恋人は、あろうことか遠征先で女の子を引っかけた挙げ句、子供まで作りやがった。

元恋人の家に乗り込み、土下座するそいつをフルボッコにしただけで済ませた私は、世界一優しい女だろう。

傷心のため次兄夫婦の家に入り浸っては兄貴をサンドバックにしていたら、ついにその兄が次期大公殿下に、しばらく私に暇を出すよう進言してくれた。

「殿下。妹が鬱陶しいんで、しばらく実家に押し込めてもいいですか。」

そんな訳で、傷心を癒すため、私は実家に帰ってきたのだ。


グラマン家は大きな農場を経営している。

突然里帰りした娘を、両親も後を継いだ長兄夫婦も歓迎してくれた。

「ちょうど良かった。今は春蒔きキャベツの収穫期で、猫の手も借りたいと思っていたんだ。明日から頼んだぞ。」

優しい家族に涙が堪えきれない。


今朝も私はキャベツ畑で、祖母と共に大量のキャベツを収穫している。

このキャベツ達は、これから馬車で都市まで運ばれ、都会人達の食卓に並ぶのだ。

順調にキャベツを収穫していたのだが、突如カタカタカタカタ……と謎の音が聞こえてきた。

何事かと思い見に行くと、そこにはクチバシをカタカタと鳴らす大きな鳥がいた。

コウノトリである。

「なんだ鳥か~。仲間を呼んでるの?私は人間だよ~。」

鳥に話し掛ける寂しいやつだと思わないでほしい。鳥がやたらと私に向かってクラッタリングしてくるのだ。

様子を見に近付くと、そこにはなんと。

赤ん坊がいたのだ。

人間の。


キャベツ畑に、コウノトリが、赤ん坊を運んできた!


「ばあちゃーん!大変だー!キャベツ畑に赤ちゃんが!コウノトリが連れてきた!どうしよう!?」

「なんじゃって?お前さん、いつの間に子供さ産んだんね?都会に行かせたんが間違いやったか!」

「違うよ比喩じゃない!」

「オギャー!」


コウノトリは、役目を果たしたと言わんばかりに飛び立っていった。

祖母は完全に勘違いしている。

赤ん坊は泣き出すし、最早カオスである。

「なんだどうした?」

我が家の小作人達も、騒ぎを聞き付けて集まってきた。

「お嬢さんの子供か?」

先程と同様のやり取りがあったが、割愛させて頂く。


「まずは乳だな。とりあえずウチの女房に頼んできますわ。」

そう言って、小作人その1であるダンが子供を家に連れていった。

ダンの家は最近、第二子が産まれたばかりである。

「俺、家にある服とオシメ持ってきます!」

小作人その2ことバートが言った。

バートの子供は上から7歳、5歳、3歳だ。

「早目に町に粉ミルク買いに行きましょう。」

これは小作人その3、ジョシュの発言である。

ジョシュは独身だが、姪っ子がいたはずだ。

皆頼りになる。

子育て初心者の私でも何とかなりそうで、ほっとした。

コウノトリに託された子供である。然るべき時まで私が育てるしかあるまい。


「ギャー!オシッコかけられた!」

「夜泣きで寝れない……。」

「暴れないで!湯船に落ちるから!」

などと怒涛の一週間であったが、育児にも少しは慣れてきた。

ダンが、

「お嬢さん、なんならウチで引き取りましょうか?」

と言ってくれるのを断る程度には、愛着も湧いている。

「いやぁ、本当に俺とお嬢さんの子供みたいですね。」

何言ってんだジョシュ。お前たまに来て抱っこしてるだけだろうが。


今日も私は背中に赤ん坊をおんぶしながら、キャベツの収穫に精を出していた。

すると、カタカタカタカタ……と聞き覚えのある音が聞こえてくる。

「あれ、またコウノトリ。赤ちゃんを迎えに来たの?」

その途端、

「いたぞ!あそこだ、確保!」

という声と共に、10人程の騎士達がやってきたかと思うと、私に剣を突きつけた。

「大人しく赤ん坊を渡せ!」

コウノトリが次に連れてきたのは、私が今最も嫌いな生き物、騎士であった。

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