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第1章 Part.2

            **********



何故こんな馬鹿な真似をしてしまったのだろうかと今更になって翡翠は思い返す。


こんな勝ち目のない戦いに自分を追い込んでいる。


しかし不思議と後悔はしていなかった。



彼は一面芝生で覆われている広場に1人で立っている。


遠くの方からトレーラーとは違う起動音が聴こえ、次第に近づいてくる。



「・・・来た」



翡翠の額に汗が浮かぶ。


実戦は初めてだ。


敵の兵器が目視できる距離まで来たところで相手も翡翠の存在に気が付いたのか広場に足を踏み入れ近づいて来た。


何か油断しているのか操縦者はすぐに撃つような事はせず、マシンガンを構えたまま翡翠に近づいてきている。



『いける・・・』



翡翠は自分の両足に神経を集中させる。


すると、翡翠の両足にエネルギー体が集中し足元が光り出した。


兵器の操縦者は何が起きてるのか理解出来ていないらしく動かない。


そして次の瞬間、パイロットの視界から翡翠が消えた。


操縦者はカメラ越しに辺りを見回したが翡翠のスピードに着いていけていない。


翡翠が足を付いただろう後の芝生は点々と彼の足跡の形に枯れている。


翡翠は他から生命エネルギーを吸出す為には対象の物と体の一部が触れ合っている必要があり、今の翡翠は足裏で芝生から吸出している。


芝生1本から吸出せるエネルギーは少ないが足が接している範囲の芝生からならば相当の量の運動エネルギーの一歩を踏み出せる。


そして広場は野球場のように広く一度使った場所に注意すれば広場が一面枯れない限り相当な速さで走り続けられるのだ。



『機体についているカメラは3台…』



翡翠は落ちていた木の棒を手に持っている。


そして兵器の懐へ入ると陸上選手顔負けの9メートルを垂直に跳び、事前に腕に溜めていたエネルギーを使って顔に付いていたカメラを木の棒で突き壊す。


当たり前の如く木の棒も粉々に折れる。


これで後、右肩と左肩に付いているのを壊せば視覚が失われる筈である。


機体の操縦者もやっと状況を把握したらしくマシンガンを撃ち続けるが、慣れていないのか、メインのカメラが壊されたのが効いたのか標準が合っていない。



「やっと本気を出してきた・・・」



だが無駄に消費してくれれば翡翠にとっても好都合である。


翡翠は止まる事なく走り続け、マシンガンの弾が無くなるのを確認してから徐々に距離を詰めていき両肩のカメラをも破壊した。


やがて機体は視覚を失われ動かなくなった。


翡翠は動力源を探そうと足音を出さないように近寄り機体を調べようとしたが、他の4機の走行音が近づいて来る。


どうやら他の4機は起動に手間取っていたようだ。



「・・・さて次はどうするか・・・」



今度ばかりは奇襲は効きそうもないだろう。



            *********



『いける・・・』



他の4機とも戦闘を開始し、既に30分近くが経過していた。


広場の芝生の半分近くは枯れている。


4機の頭部も既に破壊済みで各機ともに両肩にあるカメラを破壊してしまえば戦闘不能にできそうである。


4機がマシンガンを放り投げ、武器を刀剣に持ち替えたのを確認してから翡翠は4機と距離をとる。



『ここからは無理に戦わずに相手を撒いた方がいい・・・』



翡翠は自分の残りの体力と残りの芝生の範囲を考える。


今回の戦闘目的はあくまでも自分達の逃げる経路の確保で相手を殲滅する事ではない。


それに相手のカメラも4体の両肩、計8個も残っていて残りの芝生の範囲での戦闘は不利になる一方である。


しかし相手の4機は翡翠の考えがまとまらない内に四方八方から枯れたサイドの芝生に追い込む様に襲い掛かってくる。



「・・・気付かれた!?」



翡翠は枯れたサイドの芝生に追い込まれないよう無理に相手の斬撃を避ける。


これでもう彼らを相手にする理由も手立ても無くなった。



翡翠は逃げに転じる為に、予め想定していた経路を駆け始めるが・・・。



『・・・いない!?!?』



今までカメラを全て壊し戦闘不能にして動けない筈だった1機がその場から消えていた。


ヒスイは咄嗟に周りを見渡す。


すると翡翠の真後ろから認識していた4機以外の1機が刀剣を振り上げながら突進してきていた。



「なっ・・・!!!」


今までフレームに覆われていて見えていなかったのだろう、隠しの予備カメラが胸部に付いていた。


間一髪、その一撃を避けるが反動で一面枯れた芝生の箇所に投げ飛ばされてしまった。


それを好機と見て1機が突っ込んでくる。



『どうする・・・!?!?』



翡翠は周りを見渡し使えそうなものは無いかを探すがやはり辺りは枯れていて何一つ吸出せそうな箇所は無かった。



『・・・こんな所で死ぬのか????』



遠くで誰かが翡翠の名前を叫んでいたが彼にはもう聞こえていなかった。



            **********



『・・・GG-01-ノ発現ヲ開始シマス・・・』



突然、翡翠の頭の中で何かガラス細工が弾け崩れる様な音が鳴り響く。



『・・・なっ』



翡翠の周りが白い光に包まれ、ブレザーの内ポケットの中に入っていた翡翠の石が熱く緑色光を放ち始めた。



その緑色光と共に、翡翠の頭の中に消され去られていた幼い頃の記憶が甦る。



            **********




研究所に住んでいた頃、彼は研究所を抜け出し裏の森を彷徨っていた事があった。


その森は全然人の手には触られておらず、とても神秘的で童話の世界に入り込んだようだった。


薄暗い森を進んでいくと光が差し込む開けた場所があり、そこには大きな池があった。


そしてそこで彼は同い年くらいの1人の少女と出会っていた。


少女は水色のワンピースにつば広の麦藁帽子を目深に被っていて、風で靡くサラサラな長髪が印象的だった。


その日の後も何度かその少女に会いに抜け出していたが、何故か少女の顔が思い出せない。




『・・・お前は?』



翡翠は光りながら宙を舞う翡翠の石に問い掛けるがそれとは御構い無しにヒスイの石は翡翠の体の中に吸い込まれ消えていった。



            **********



視界が元に戻り翡翠は我に返る。


不思議と白い光に包まれてから今まで1秒も経っていないようだった。



『アナタ、力ガ欲シイノ???』



翡翠の頭の中で少女の声が聞こえる。



「・・・力・・・?」



相手の1機との距離がどんどん縮まっていく。



「・・・・・・・・・にゃあ・・・」


「琥珀・・・???」



いつの間にか那美の下から抜け出してきたのだろう。


琥珀は一面枯れた芝生の中を彷徨っていた。


翡翠は何も考えられずに琥珀に目を向ける。



『琥・・・珀・・・』



そしてその一瞬・・・



『・・・え・・・・・・?』



それに反応するかの様に翡翠の右腕が光り出し、遠くにいる琥珀からもの凄い勢いで生命エネルギーを吸出した。



「・・・止めろ・・・止めろよ・・・止めろって!!!」



翡翠は自分の右腕に何度も怒鳴り続けるが、それにはお構い無しに彼の右腕は琥珀の生命エネルギーを全て吸出していき、1本の長い物体を生成していく。



「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」



『GG-01-・・・生成完了・・・』



翡翠の足元に研磨されていない形だけの石剣が突き刺さっている。


刃渡り1メートル程の長さで、翡翠の原石で出来ているらしく仄かに緑色を佩びている。


翡翠は自分の命の危機にも関わらず、何も考えられずにただ右手が創った石剣をただ呆然と眺めている。



『中学以前の自分は一体何者だったのか?』


『中学以前ノ自分ハタダノ殺戮兵器ダッタ・・・』



『そして今の自分は本当に人間なのだろうか?』


『今ノ自分モ以前ト変ワラズ殺戮兵器・・・』



『そして自分の本当の事を知った時、その友人達は自分を受け入れてくれるのだろうか?』


『タダノ殺戮兵器ヲ受ケ入レル友人ナド、コノ世ニ存在スル訳ガナイ・・・』



翡翠は自分の中で今まで自分が築き上げてきた何かが崩れ去っていく様な感覚に見舞われた。


翡翠が相手に無意識に反応して石剣を切り上げると、襲ってきた刀剣は真っ二つになり宙を飛んでいく。


それに続いて相手の懐に入り込み兵器の胴体を切り刻む。


翡翠はもう何も考えられなかった。


ただただ、右手に握られている石剣を振るい続けていた。


そして気が付いた時には既に戦闘が終わっており、5機とも見る型も無く、無残に破壊されていた。


近くの水道管も衝撃で破損してしまったらしく翡翠の回りは大雨が降っているように水が降り注いでいた。


所々血と燃料が混ざった水溜りもでき、それらが混ざり合った悪臭も立ち込めている。


翡翠は横たわる琥珀に近づいて行き、抱き上げた。


しかし、既に琥珀は息をしておらず体温もなくなっていた。


元の飼い主から捨てられた子猫。


那美から「琥珀」と名付けられ元気にじゃれ付いてきた人懐っこい子猫。


那美の下でこれから幸せに過ごせただろう子猫。



『・・・俺が殺したのか?』



手から石剣が滑り落ち、翡翠は膝を落とし空を仰いだ。


水は容赦なく翡翠の顔に降り注ぐ。


翡翠の目は光を失っていた。



翡翠は今日、改めて自分の存在を思い知ったのだ。


今までの自分はただ人間のふりをしていただけなのだと・・・。


そしてどんなに足掻こうとどんなに成り切ろうとも所詮自分は人間の皮を被った兵器なのだと・・・。



足音が近づき、翡翠のすぐ後ろで誰かが立ち止まった。


翡翠がゆっくりと振り返るとそこには那美が立っていた。


彼女にすべて見られただろうと翡翠は思い、ただ無表情で目線を逸らす。


那美も何も言わずにただ悲しそうな顔で翡翠を見つめている。


どれくらいの時間が経っただろうか。


突然、那美が翡翠に歩み寄り翡翠を抱き締めた。



『・・・那・・・美・・・』



那美の仄かな体温と柑橘の甘酸っぱい香りに包まれる。



「ご・・・・・・い・・・、ご・・・・・・さい・・・、ごめ・・・・・・なさい・・・」



那美は翡翠を抱き締めながら何かを呟いていたが、翡翠の耳には届かず彼の意識は遠退いていった…。






            **********






「・・・こんな所で何してんの?」



まだ翡翠が幼い頃、彼は森の中の池で1人の少女と出会った。


水色のワンピースを着ていて、つば広の麦藁帽子を黒の長髪の上から目深に被っている・・・。


少女は池の岸に構えている大きな岩の上にちょこんと座っていた。



「・・・お友達を待ってるの」



少女は真っ直ぐ池の反対側の岸を見つめている。



「・・・友達・・・か」



当時の翡翠には友達と言える存在が1人もいなかった為に彼にとって少女の事がとても羨ましかった。



「うん、なっちゃんと、りっちゃんって言うの」


「・・・ふ~ん」



途中で会話が途切れ、2人とも何も言わずに池の水面を見つめている。


暫くの間、池の漣と鳴き止まない蝉の声を聴いた後、翡翠が研究所に戻る為に少女に背中を向けたところを少女に止められる。



「・・・行っちゃうの?」


「ここにいたって邪魔になるだけだろ?」


「・・・なんで?」


「なんでって・・・」



翡翠は何も言えずにポカンと岩の上に座っている少女を見上げる。



「・・・んじゃあさ、お友達になろ?」



少女は満面の笑みを翡翠に向けてきた。



「・・・とも・・・・・・だち?」






            **********



「目が覚めたようね」


「・・・ここは?」



翡翠が目を覚ますとそこは見覚えのない部屋の天井が広がっていた。


翡翠の左目には眼帯が付けられている。


横では1人の30代前半の女性が座っていた。


女性は翡翠のすぐ横で新聞を読んでいる。



「・・・あんたはこの前のストーカー・・・」


「・・・助けてやったってのにそれは無いんじゃない?」



女性は読んでいた新聞を閉じるとイラッっとした顔をして翡翠の頭を軽く新聞紙で叩く。


どうやら悪い人では無さそうである。


研究所に戻されなかっただけでも幸運と言えるだろう。



「・・・一緒にいた女の子は?」


「あぁ、那美ちゃんなら隣の部屋で休んでるわ。2日間も寝ないで看病してたんだから」


「・・・2日間も」


「えぇ、倒れてから今日で3日目よ」



女性は窓を開けるとタバコを1本取り出し火を付ける。



「・・・それで、あんたはどれくらい知ってる?」



病人を配慮してなのか窓から身を乗り出しながらタバコを吸っている。



「翡翠君の事なら大体はね・・・。今は全く関係ないけど、昔はあの研究所にいたから」


「・・・あの研究所に?」



翡翠は少しだけだが彼女に不信感を抱いた。


今の形はどうあれあの研究所との繋がりがある以上、やはり油断は出来そうもないと考えたのだろう。


そんな翡翠の反応に気が付いたようだが、彼女は話を続ける。



「その昔、研究所のお偉いさん達と揉めちゃってね・・・追放されて今はこうして作家をしてるって訳よ。あっでもちゃんと医療の資格も持ってるからね」



彼女は思い出したように壁に掛かっている資格書を指差す。


しかし翡翠が反応したのはそこじゃなかった。



「・・・追放された・・・?」


「翡翠君が生まれて間もない頃、GG計画の立案者達の間で派閥争いが起きたのよ。そして最終的に権力を手にしたのは今の研究所の連中ね・・・」


「・・・GG計画・・・」



翡翠はポツリと呟く。


彼にとって初めて聞く単語である。



「・・・えぇ、最初の立案者は森本一進。派閥争い後、その計画の方向性は根本的なところからガラッと変わっちゃったけどね」



彼女は煙を吐くと指に挟んでいたタバコを窓のレールの上で揉み消す。



「・・・森本一進」


「・・・えぇ、翡翠君の父親よ」



            **********



「森本君!!!」



部屋のドアが突然開き、那美が飛び込んできた。



「・・・那美・・・」



那美に対してどのように接したらいいか分からず、翡翠はただ黙って目線を逸らす。


那美も途中で歩みを止め、悲しげな表情になってしまう。



「・・・え~と・・・、もうそろそろ12時だし、お昼にしましょ?」



2人の間の空気に危険を察知したのか女性は両手をパンッと打ち鳴らす。



「・・・ありがとうございます、夏樹さん・・・」



那美は顔を伏せ、翡翠と夏樹に背を向けるとトボトボと部屋を出て行った。


那美が部屋を出てドアを閉めるのを確認してから夏樹は溜め息を付いた。



「・・・これからは一緒に過ごすんだから、少しは彼女の気持ちも考えなさいよ」



夏樹と呼ばれた女性は部屋に置いてある机から過去3日分の新聞やら週刊雑誌を手に取ると翡翠に投げ渡した。






『米軍、来日中の米国務長官を狙ったテロを阻止。事態は最小限で収まる』


『出動した米軍隊員、4人死亡、1人重傷』


『中国のアメリカに対しての陰謀か!?』


『首謀者と見られる在日中国人10名を逮捕』







「・・・これは」



翡翠は愕然とする。


こんな小さな町で起きた出来事が既に今日まで連続で新聞の表紙を大きく飾っていた。



「アメリカの十八番、事実の捏造よ」


「・・・まさかアメリカは最初からこれが狙いだったのか」



アメリカは中国に対して、今の中国との関係を大きく揺るがす様な大きな事件が必要だった。


無論、戦争を始める為にだ。


理由も無いのに戦争を仕掛けるという行為は現代においても暗黙のタブーである。


その為、日本に国務長官を派遣、最新兵器を投入して翡翠と接触した。


一般世間は常識として米軍の最新兵器を破壊できるのはアメリカと同等の経済力を持つ国、即ち中国の仕業だと思うことだろう。



「例の最新兵器の破壊ってのが無ければ初歩的なやり方なんだけどね・・・」



今の日本国内は情報が乱雑しているのに加えて、日本政府も日本国民から信頼されていないので、アメリカとしても日本国内で事を起こせば、情報の隠蔽、捏造など容易に出来る事だろう。



「・・・この一連の事件に対してアメリカは中国政府に対し謝罪と賠償を要求・・・か」



『これで両国とも・・・いや、世界が大きく動く』



「でも、まだ気になる事が・・・」



一体アメリカはもし翡翠が何も抵抗せず、そのままやられていたらどうしていたのだろうか。



『もしかしたら、最初っから俺が5機とも全て破壊するのを分かっていた・・・?』



それに、今回の件に爺のいる組織が絡んでいる事は明らかだった。



『・・・もう、奴らは信用できない・・・か』


「・・・そんな訳だから。暫くは翡翠君と那美ちゃんは外出禁止という事で」



幾ら世間で中国の仕業だと騒がれていても、翡翠の仕業だという事は紛れもない事実であり、アメリカや研究所の連中がその場にいた2人を放って置く訳がないだろう。


もしかしたら中国も翡翠の存在に気が付いているかもしれない。



「・・・そう・・・だな」



1人で悩んでいる翡翠を置いて夏樹は部屋を後にする。


翡翠は軽く溜め息を付くとその女性の背中を見えなくなるまでジッと見つめる。



『・・・なっちゃん・・・』



翡翠は夢の中での会話を思い出す。



「・・・まさか・・・な」



            **********



夏樹は冷蔵庫を開けるが、中は見事に空だった。



「・・・何か買いに行くしかないか」



しかも、これからは自分の分の他に翡翠と那美の分まで負担しなくてはいけない。



『べ・・・別に今まで作ってあげる相手がいなかったって訳じゃ・・・』



夏樹はリビングに財布と鞄を取りに行こうと向かって行く。


リビングのソファでは那美が俯いたまま何もせずに座っていた。


夏樹がリビングに近づくと気配を感じたのか顔を上げ夏樹と目を合わせる。



「何をそんなに辛気臭い顔をしてんのよ」


「あの・・・」


「・・・安心しなさい、まだ何も話してないわよ」



夏樹は軽く溜め息を付くと那美の向かいの1人掛けソファに腰を下ろす。



「・・・でも、貴方の体の事も含めて彼に言わないつもり・・・?瑪・・・」


「那美です」


那美の睨みつける眼つきで夏樹は言葉を途中で濁らせる。


「・・・ごめんなさいね」


「・・・それに、言える訳ないじゃないですか・・・」


「「・・・」」



暫くの沈黙、時間だけが過ぎていく。


2人は互いに聞きたい事や言いたい事もあるのだろうが誰も会話を切り出せない。



「・・・それじゃ、私は当面の間の生活の買出しに行ってくるわね」



突然、夏樹は立ち上がり、外出の準備をし始める。



「・・・後、この際だから言っておくけど貴方、時間が無いわよ」


「・・・」


夏樹のこの一言で何についての事なのか理解したのだろう。


那美は軽く溜め息を付いた。



「・・・それじゃ、帰ってくるまで翡翠君の事、よろしく」



玄関で靴を履き終わったところで夏樹は那美へと振り返り、那美に微笑み掛ける。



「・・・あの頃と立場が逆になっちゃいましたね」



外を出て行く夏樹を那美は笑顔で見送った。



            **********



『あの子は一体・・・』



ベッドの上で翡翠は天井の一点を見つめていた。


どうやら夢の中の事を考えているようだ。


長い黒髪に麦藁帽子を被っていて、会う度にいつも同じ水色のワンピースを着ていたのを覚えている。


顔だけは何故か薄いフィルターを被せられているようにぼやけていて思い出せない。


いや、多分思い出したくないだけなのかも知れない。


翡翠が忘れていたにせよ、外部から強制的に消されていたにせよ、彼にとって、その消えていた記憶からは負の嫌な予感しかしなかったのだ。


翡翠はベッドから立ち上がり窓から外を眺める。


外は雲一つなく、綺麗に晴れ上がっていた。


8月も終盤を迎えたというのに、蝉の声は一向に鳴り止む気配もなく、時々、室内に吹き込んでくる風も秋風と呼ぶには程遠かった。


今、翡翠達のいるマンションは翡翠達の住んでいた市内の外れにあるらしく、ベランダから翡翠の高校を微かに目視する事ができた。


然程遠くに来た訳ではないようである。



ふと左目が疼くのを感じ、翡翠は眼帯の上から左目を押さえた。


しかしそこで翡翠はあの夜、自分が左目を負傷した覚えの無い事を思い出す。


恐る恐る左目の眼帯を取り外し、窓に映った自分の顔を覗き込む。



「・・・なんだよこれ・・・」



翡翠は今、自分の身の現状を思い知った。


最早、どんどん人間離れをしているというレベルではない。


翡翠は彼の左目から見える異様な世界に吐き気を覚え、よろめきながらゴミ箱に寄り付き、顔を埋める。



『まだ翡翠君は小さかったから分からないかも知れないけど、GG計画の立案者達の間で派閥争いが起きたのよ』



ふと夏樹との会話が頭を過ぎる。



「・・・GG計画・・・」


『最初の立案者は森本一進。派閥争い後、その計画の方向性は根本的なところからガラッと変わっちゃったけどね・・・』


「・・・森本一進」



頭の中で翡翠はもう一度、夏樹の会話を思い出し、彼の父親、森本一進という名を呟く。


何故、父親は自分の息子を使ったのだろうか。


そして、自分の息子を使ってまで一体何を成し遂げようとしたのだろうか。


だが、翡翠は考えるのを止め、ベッドの側面に寄りかかる様に床に腰を下ろす。


どんなに考えても分からないものは分からないし、理由はどうあれ、彼は自分をこの様な体にした父親をそうも簡単に許せなかった。



「・・・俺は・・・」



翡翠は突然ゆらりと立ち上がると何も言わずに玄関の方へと静かに歩いていく。


そして数十分後、那美が翡翠のいる部屋を覗いた時には既に翡翠の姿はどこにもなかった。



            **********






まだ、翡翠が研究所で暮らしていたある夏の日の昼時、翡翠はいつも通り研究所から抜け出し、今日もいるだろう少女達のいる森まで急いで走っていく。


しかし、翡翠がいつもの場所に着いた時にはまだ誰もいなかった。


いつもは鬱陶しい程に自己主張をしている蝉も不思議と1匹も鳴いておらず、周囲はとても静かだった。


翡翠は水色のワンピースを着た少女の特等席とも言える岩の上に座り、いつもはその少女が見ているであろう風景をぼんやりと見つめていた。



「・・・ひっくん・・・?」



突然、後ろから声を掛けられる。


振り向くと、3人の少女達の中でも一番背が低い、小柄の少女が翡翠を見上げていた。



「りっちゃん・・・他の2人は?」


「今日は、少し遅れるみたい・・・」



翡翠は「そっか」とだけ答える。


りっちゃんと呼ばれた少女は重度の恥かしがり屋であり、翡翠が初めて会った時なんかはずっと翡翠から距離を置き、他の2人の少女の背中から一切離れようとしなかった。


未だに多少の違和感はあるが、こうして彼女と話せる様になったのもつい数日前の事である。


翡翠はこの少女の事は少しだけ苦手だった。


理由は分からないが、少女は翡翠の前ではいつもおどおどしていたし、声も掛けづらかったのだ。


現在も翡翠はこの少女とどう接すれば良いか分からず、2人の間には妙な空気が流れている。


しかし、この小柄の少女は視線を自分の足元に落としていたが、ついに何か意を決した様に顔を上げると赤面しながら翡翠を見上げる。



「あ・・・あの、ひっくんの・・・隣・・・座って・・・いい?」


「え・・・ああ・・・別に良いけど」



翡翠はいきなりの彼女の発言にどぎまぎと返答をする。


彼女の方から声を掛けてくるとは思わなかったのだ。


当の少女は翡翠の返答に一瞬だがパッと笑顔になる。


少女は岩に登ろうとするが小柄なせいか足が上まで届かなく、登るのに四苦八苦していた。


翡翠は暫く少女を見つめていたが、少女の表情が段々と泣き顔に変わっていくのを見て少女に手を差し伸べた。



「ほら・・・」



少女は差し出された手をポカンと見つめていたが、急にまた赤面しながら肩を竦める。



「・・・あり・・・がと・・・」



少女は顔を伏せながら翡翠の手を取り、岩の上に上がってくる。



「わあ・・・」



少女にとってこの岩に登ったのは始めてだったらしく、ここからの風景に目を奪われているようだ。


しかし、翡翠にとってはそれほど眺めが良い訳でもないのだが・・・。


2人は岩の上に腰を降ろすと何も言わずに、ただ池の水面を見つめている。


翡翠の横に寄り添うように座っている少女は仄かに頬を紅潮させながら視線を少し下に落としている。


横目で一瞬だけチラッと見た翡翠には少女が微笑んでいる様に見えた。



「・・・皆、来ないな」


「・・・そう・・・だね・・・」



どれ程の時間が経ったのだろうか。


遠くで少女と翡翠を呼ぶ声が聞こえた。



「・・・来た、なっちゃんだ」



翡翠は立ち上がると岩から飛び降りる。


そして、まだ岩の上にいる少女に向かって手を差し伸べた。



「降りよう、いつまでもその岩にいると○○○がまた怒り出す」

     


岩の上の少女はキョトンとした顔をしていたが、すぐに笑顔になる。



「・・・うん!!!」






            **********



翡翠は自分の中の忘れられていた昔の記憶を辿り、研究所近くの森の前に立っていた。


森は記憶の中とは違い、侵入者を防ぐかの様に3メートル近くの高さのフェンスで囲まれている。


翡翠はフェンスに穴を開けると、何かに引き付けられているかの様に森の奥へと進んで行った。


しかし、奥へと進むに連れて、森の様子がおかしい事に気が付く。


森の中心に向かって行く程、周りの木々が弱々しくなっていく。


そして記憶の中の池のある場所に着くと翡翠は思わず息を呑む。



「・・・これは」



この場所は昔の面影が多少は残っていたが、池があっただろう場所の水は完全に枯渇していて、その池を中心に全ての植物が枯れ果てていた。


池があった場所に近い程、特に酷くなっている。


見るからに、それらが自然に枯れ果てたと思えなかった。



『ここで何があったのか・・・』



翡翠は思い出そうと試みるが、途端に激しい頭痛に見舞われる。


まるで翡翠自身の力で思い出す事を拒絶している様である。


翡翠は無理に思い出すのをやめ、記憶の中の水色のワンピースの少女が座っていた岩に登り、腰を掛ける。



『・・・そういえば、りっちゃんが初めて此処に登った時、凄く嬉しそうだったな』



翡翠は記憶の中のワンシーンを思い出し、当時りっちゃんが眺めていた方角を見つめてみるが、やはり大して眺めがいい訳でもなかった。


一体、何故そんなにも嬉しかったのだろうか。



『・・・ひっくん・・・』



突然、翡翠の頭の中で少女の声が聞こえた様な感じがした。


咄嗟に辺りを見回すが、何の陰さえも見えない。


翡翠は軽く溜め息を付くと、池が残っていれば対岸に当たる方向をジッと見据える。


暫くして、翡翠の背後から足音が聞こえてくる。


とても聞き覚えのあるテンポの足取りであったが、今は何だが焦っているようである。


そこでふと翡翠は、彼女とは出会ったばかりなのに何故自分はこんなにも彼女の事が良く分かるのだろうかと思った。


また何故、彼女はこの場所が分かるのかも疑問に思ったが、それは途中で考えるのをやめる。


翡翠はいつもと違って神経を集中させるのでは無く、自然に体を預け、体全体で生命エネルギーを感じ取ろうとした。



『この森は既に死に掛けている・・・』



それは翡翠に関係のある事なのは間違いないが、今の翡翠にはまだ記憶にない。


足音が近づくにつれて、この場所には場違いな包み込まれる様な心地の良い生命エネルギーも強く感じられるようになってくる。



「・・・那美・・・か・・・」



            **********



「・・・外出禁止じゃ無かったか?」



翡翠は振り返らずに、自分の後ろに立っている那美に声を掛ける。



「・・・森本君にだけは言われたくない」



後ろから那美の不機嫌そうな声が聞こえた。



「それは・・・そうだな・・・」


「本当に昔から何も変わってない・・・ひっくんは自分の事は棚に上げて何時も先に何処かへ行っちゃう・・・!!!」



自分の中へ仕舞い込んでいた感情が抑えられなくなり、那美は口を開き続けるが途中で我に返り口を噤んだ。



「やっぱり・・・・・・」



翡翠は岩の上から飛び降り、那美と向き合った。


那美は一瞬だけ翡翠と目が合うが慌てて目を逸らす。


翡翠の眼帯は外されていて、彼の左目は翡翠色に輝いていた。



「・・・いつから?」


「始めは少しだけ疑ってたけど、この目で那美を視て確信がついた」



翡翠はまだその左目には慣れていない様で、左目を押さえながら顰めっ面を浮かべる。



「・・・ごめんなさい」



那美は俯き、無言で立ち竦んでいる。



「・・・なっちゃん・・・なのか?」


「・・・いいえ、私は彼女の記憶を持っているだけの紛い物・・・彼女の第73番目のレプリカ・・・」





『 GG-02 Alpha-・・・ 』



            **********



『 GG Numbers 』



それはGG計画に必要不可欠とされる、云わば鍵であり、-01-から-03-まで完璧に創造されるはずだった。



だが、実際に成功体として生み出されたのは森本一進により創造されたGG-01-、ただ一体のみであった。



後に計画の半ばで組織は分裂、森本一進は追放される。



しかし、彼が去った後の研究所には存在する筈の彼の計画データも消え去っており、以後、計画は難航し計画そのものの見直しを余儀なくされた。



「・・・計画の見直し後、GG Numbersは一応-03-まで創造された・・・・・・・・・けれど」



誰一人、GG Numbersの成功体を作り出す事が出来なかったのだった。



-01-以外のNumbersが幾度もの暴走を引き起こしたが為に、組織は彼女達の使用を諦め、-02-は永久凍結、-03-は廃棄処分とした。


そして、彼らが次にとった処置は、同質の固体を複数創造する事であった。


-02-と-03-の暴走の原因は一固体の潜在能力が一固体そのものに制御できる容量ではなかった為であるとし、同質の固体を複数創造する事により一固体に掛かる負担を軽減しようとしたのである。


それらが『 GG Extra Numbers 』であり、媒体として使われたのがGG-02-だった。


しかし、その処置も多少の進歩があったものの、完全には GG Numbers の潜在能力を掌握する事が出来なかった。


数多の失敗の末、オリジナルには及ばないにしろ『 GG Extra Numbers 』は生み出された。それが



GG Extra Numbers の制御機構、綾瀬那美である GG-02 Alpha-


そして…


GG Extra Numbers の防衛機構、GG-02 Beta- であった。



            **********



「・・・なっちゃんは永久凍結、りっちゃんは廃棄処分・・・か」



翡翠は那美の紡ぐ言葉に、ジッっと耳を澄ませる様に黙って聞き入っていた。


今回やっとだが、なっちゃんに関しての記憶を多少だが思い出す事が出来た。


なっちゃんこと『GG-02-』、鳴瀬瑪瑙は4人組の中でも一番しっかり者で姉的存在だった。


3人が何かを仕出かした時にはいつも彼女に怒られていたのを覚えている。


でも、最後には笑顔で迎えてくれるとても優しい女の子だった。



そして、なっちゃんとりっちゃんの処遇を聞いた時も至って冷静に受け止められた。


『自分は人間ではなく、兵器だ』と一度認めてしまえば、自分達の処遇を受け入れるのは楽だった。


そして戦闘において信頼性の欠ける兵器など処分されて当然である事も教えられていたという事もある。


那美は暫く後方で、無言のままで翡翠の後ろ姿を見据えている。



「・・・GG-02 Beta-は?」


「一度だけ会った事があるけど・・・」



那美は目を伏せ、ポツリと呟く。



「彼女は戦闘のみに特化するよう創造されたから・・・」



那美曰く、『GG-02Beta-』は戦闘のみに特化していて、思考回路が常人とは懸け離れているが為に、表に出す事が出来ず、今は一時凍結状態であるという。



「所謂、戦闘狂ってヤツか・・・」



翡翠は軽く溜め息を付く。


流石に組織の連中も重度の戦闘狂を安易に外に出す様な事はしないだろう。



「・・・恨んでないの?」


「・・・恨むって・・・誰を?」



翡翠が振り向くと、那美が涙を流していた。


その姿を見て翡翠は一瞬だけうろたえる。



「もし、私がひっくんと出会ってなければひっくんが覚醒する事も無かった・・・」


「何を今更・・・、それに那美だって記憶が無かったんだろ?」



翡翠は呆れ顔で那美の顔を覗き込む。


顔と顔の距離が急接近した為に那美は驚いた様に目を丸くさせた。


実際、那美も翡翠が米軍の機動兵器に追い込まれるまで記憶が無かったのだ。


だとしたら、那美に非は無い。


寧ろ、そんな事より何故、奴らが自分と那美を接触させたのかが気になっている。



「・・・ひっくん・・・・・・」


「そのひっくんっての・・・止めてくれるか?」


「えっ・・・」


「・・・お前は瑪瑙じゃない」



翡翠はキッパリと言い放つ。


那美は翡翠の言葉に俯いてしまう。



『お前は瑪瑙じゃない』



その言葉が那美に突き刺さる。


実際には彼女自身も、記憶が戻った後から芽生え始めた翡翠への思いに戸惑っていた。


この感情は那美ではなく瑪瑙の感情である事は理解しているが、那美としてこの行き場の無い感情にどう対処したらいいのかが分からないのだ。


瑪瑙は翡翠に対して好意を寄せていたのは分かる。


でも那美としてはどうだろうか。


分からない。


自分は瑪瑙の紛い物である。


という事は自分は那美としても紛い物なのではないのか。



『もう、何も考えない方がいいのかもしれない・・・』



那美は心の中で呟く。


どうせ自分は永くない・・・。



「・・・ごめ」



しかし、那美の謝罪を翡翠が言葉で遮った。



「・・・お前は綾瀬那美であって鳴瀬瑪瑙じゃない。なら、綾瀬那美として俺を呼んで欲しいんだよ」



翡翠の予想外の言葉に那美も息を呑んでいる。


翡翠に至っては、那美に背を向けていて表情は見えないが、多分、照れているのだろう。


那美は泣き笑いを浮かべる。



「分かったわ・・・翡翠・・・」



暫くの沈黙の後、翡翠は那美に向き直る。



「・・・最後に一つ、聞きたい事があるんだけど」


「・・・何?」


「俺、なっちゃん、りっちゃんの3人はGG Numbers。でも、記憶の中にもう1人いる」



水色のワンピースを着ていて、長い黒髪に麦藁帽子をのせていた少女。


顔はおろか、彼女の事が全く思い出せない。



「・・・」



翡翠の問いに那美は急に顔色を変えた。



「・・・・・・彼女は・・・」


「止めておけ、今はまだ知るべきじゃない」



那美が翡翠の問いに答えようとした時、森の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


翡翠は咄嗟に那美を背後に庇う様に立ち、声の聞こえてきた方向を睨み付ける。


那美は自分達意外の人型の生命体のエネルギーを感知する事ができなかった為に息を呑む。



「・・・爺・・・・・・!!!」



森の中から翡翠達が良く知る白衣を着た初老の男が歩み寄ってきた。



「久しぶり・・・でもないか。翡翠・・・」



            **********



あれからどれ程の時間が経っただろうか。


初老の男は一人で、池があった場所を眺めている。


もう、その場には翡翠と那美はいない。



『流石に血には抗えないか・・・、馬鹿息子に似てきたな』



初老の男は突然、糸が切れた様に大声で笑い出す。


GG計画の初生・・・。


GG Numbersの能力の根源・・・。


それらの全てに興味を示さず、翡翠は彼に向かってこう言った。



『森本一進の居場所を教えろ』



周囲の現状に執着せず、ただ、自分の目的の為だけに行動する。


かつて、森本一進はその性格と科学者としての能力故に周囲に畏怖され、追放されたのだ。



「・・・それで、いつまでそこに隠れているつもりだ」



初老の男は森の中の茂みの一点を見つめる。



「・・・」



すると、茂みの中から夏樹が出てくる。


彼女は一度、溜め息を付くと初老の男を睨みつける。



「・・・何を企んでるのかしら、森本右京・・・」


「神童の小娘か・・・」


「もう神童とか小娘とか言われるような歳じゃないわよ」



岸本夏樹・・・


組織内最年少の齢10歳前後で組織に入る。


当時、生命エネルギーと並行して小規模で研究されていた、精神エネルギーの分野で様々な成果を挙げ、神童と呼ばれていた時期もあった。


しかし、森本一進と同様に組織を脱退し、現在に至っている。



「全く・・・義兄さんも含めて森本家ってのは変わり者ばかりね」


「そういうお前の姉もワシの馬鹿息子と結ばれた時点で変わり者だったがな」



右京はまたしても大声を出して笑う。


そんな彼を夏樹は胡散臭そうに睨む。


どうやら、否定はしないらしい。



「・・・GG-01-に機密事項を教えようとする時点で疑わしいわね・・・。貴方、組織とは別に個人で動いてるんじゃないかしら」



夏樹の問いに右京は鼻で笑う。



「・・・だとしたら、何だ?」



夏樹は懐から拳銃を取り出し、右京に銃口を向ける。



「・・・翡翠は私の姉さんが命を懸けて産み落とした子よ。何を考えているか知らないけど、もう彼を巻き込むのは止して欲しいものね」



現段階でGG Numbersで活きているのは翡翠ただ一人である。


GG計画の見直しが行われた以上、翡翠が駆り出される事はないだろう。


現に生命エネルギーという規格外の産物を支持する学者も少数派になりつつある。



「・・・今更、お前に何が出来る?一度、自ら足を踏み外したお前に?」


「私は私なりに抗ってみせるわよ」



夏樹が拳銃の引き金を引こうとした瞬間、拳銃を構えている右手に礫を投げ付けられた様な衝撃が走り、拳銃が手から弾き飛ばされる。



「なっ・・・」



咄嗟に森の中を見回すと右京の背後の辺りの木の陰に人影が見える。



「・・・今のは、まさか・・・」



次の瞬間、黒く輝く半透明の何かが夏樹の頬を掠める。



「ちっ・・・」



夏樹は近くの木の陰に隠れると、背後を取られないように茂みの中に潜り込み、森の外へと消え去っていった。



「・・・もういい、曜」



曜と呼ばれた長身の20代前半の男が隠れていた木の陰から姿を現す。


彼の目は人工的な黒みを帯びていた。



「・・・右京、本部から召集が掛かった」



曜は無機質な口調で右京に伝える。



「・・・そうか」



右京は踵を返すと、森の出口の方へと歩き去っていく。



「さて・・・、世界の行く末は滅亡か・・・繁栄か・・・」






~第2章に続く・・・~

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