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大団円?

 イスガルドへの帰路は、どこか空気が軽く感じた。

 もちろん、兵士たちに死者は少なくない。やることもたくさんあった。

 でも、ジュリエッタ様を無事に連れ戻し、クランツの新国王は亡くなり、脅威は去った。

 イスガルドはかなりの民を失ったし、まだ門番に壊された城の修復も終わってはいない。

 それでも、皆、あまり疲れた様子もなく働き、日が過ぎていくと少しずつ日常を取り戻していった。


 クランツ王国はその後、色々問題があったらしい。

 王妃様がとうとう病気のために亡くなった。これで、クランツ前国王、前王妃、アストールの三人が一気に死んだことになる。

 軍事国家であり、敵国が多いクランツは、新しい国王が急いで必要となった。そこでイリアスに白羽の矢が立ったわけだ。

 聞くところによると、イリアスは王となるための教育を受けてきていないから、適任者がいれば譲ると言っているらしいが、魔術師たちに盛大な反対を食らっているとか。

 アストールに酷い目に遭わされた魔術師たちは、自分たちを助けてくれたイリアスに恩義を感じているらしい。もしイリアスが王位につくことを拒否して、また厄介な人間が王位に……などと危機感を覚え、イリアスに王たる者の心構えとは――なんて教育が進んでいるとかいないとか。

 おそらくイリアスなら大丈夫だと思うけど、どうなんだろう。


 やがて、イスガルドの中が落ち着いてくると、父は陛下に今の仕事をやめたいと伝えたらしい。

 まだそんな歳ではないだろう、と陛下は驚かれたそうだ。

 しかし、父は「門を壊す時に王妃様がおっしゃいまして」とか言ったら、陛下は慌てて認めたらしい。おそらく、シルウィア様の未来を見る力のことを考えたからだろう。

 どんな腕の立つ騎士や傭兵であろうと、安全な仕事なんて何一つないのだ。

 しかし陛下に口説き落とされたのか、完全な引退を希望していた父だったが、いつの間にか騎士団の教育係に任命された、と嘆きながら帰ってきた。

 まあ、予想の範囲内かなあ。


 そして、僕は庭師でありながらも騎士の見習いとして訓練を受けることになった。

 やっぱり剣は使えたほうがいい。何があるか世の中は解らないのだし。

 破壊の力とやらはまだ使えるし、便利だとは思う。

 でも、あまりにも強力すぎて扱いに困るのだ。できれば使わずに暮らしていきたいと思う。

 ジーンは何で騎士見習いなのか、と憤慨していた。

「あなたは忘れてるかもしれないけど、私の弟子でしょ! 宮廷魔術師狙いなさいよ!」

 とか言うけど、今さら魔術師になるとか言われても現実味がない。しかも宮廷魔術師。無理だな。


 門番は僕らと一緒に暮らし始めている。

 彼女にはユーリと名付けた。ユーリは最初のうちはあらゆることに戸惑っていたけれど、日がたつに連れて僕らとの生活に馴染んでいった。

 異形の姿になることもなく、服を着て生活することに慣れると、少しずつ僕の庭師としての仕事も手伝ってくれるようにもなった。

 自分が育てた花が咲いた時、彼女は初めて笑った。

 うん、可愛い。

 最初は僕は彼女のことを妹みたいに思っていたけれど、やがて彼女が字を覚え、本を読むようになる頃には姉みたいな存在になる。

 過保護。

 そう、それが問題だ。

 ガラムの子供を守る役目は終わったはずなのに、何だか彼女は相変わらず僕を守ろうとする。

 危険なことはしないように、とことあるごとに言うのだ。

 さすがに父も笑っていた。


 ジュリエッタ様の様子がおかしいらしい。

 庭の手入れをしていると、クリスティアナ様が僕のところに顔を出して言った。

「話しかけてもため息ばかりだし、キャロラインお姉さまは恋わずらいだろうって笑ってるだけだし」

「恋わずらい?」

 僕は庭石に座って足をぶらぶらさせている彼女を見つめた。

「そう。それも、相手はイリアスらしいのよ」

「え!?」

 僕は驚いたけれども、納得もしていた。人質になった時に何かあったのかもしれない。感謝の言葉を口にしていたし――。

「でも、相手はクランツ国王よ。ジュリエッタお姉さまは長女。結婚となったら少し問題でしょ」

「いきなり話を結婚まで飛ばしましたね」

 僕は唸る。

「話は早いほうがいいのよ。最悪、ジュリエッタお姉さまがクランツに嫁いだとしても、キャロラインお姉さまがいるし。それに、わたしとあなたが結婚して、この国に残るのは確定なんだし」

「け」

 僕は頭を抱えた。「いや、あの。クリスティアナ様」

「わたしはあなたのことが好きよ。あなたは?」

 酷く真剣に彼女は言う。

 僕は身体を硬直させた。

 そして恐る恐る彼女を見つめる。

 うう、真っ直ぐな瞳。

「僕も好きです」

 やがて観念した。

 もうどうにでもなるといいや。


 騎士団の寄宿舎の前の庭で、剣の稽古が行われている。

 任務は皆がそれぞれ交代でついているから、時間の空いている人間が入れ替わり立ち替わりここで訓練をするのだ。

 父は昼間のほとんどを城で過ごし、騎士の皆ともかなり打ち解けている。

 そして僕も、今日は朝から父に剣を習ってここにいた。

 休憩時間にはアイザックやコンラッドたちも姿を見せ、父と剣を合わせる。

 時折、騎士団長もその様子を見にくることもある。

「そのうち手合わせを」

 と騎士団長が父に言っているのを聞いたことがあるけど、父は少し嫌がっていた。

「あれは厄介だ」

 と言いながら。

 騎士団長は優しげな風貌だけど、関わりたくない気配を持っているとか言う。

 まだ僕には解らない。

 剣の稽古の休憩中に、ユーリが飲み物を手に宿舎から出てきた。

 すっかり彼女の存在も城に馴染んでいる。

 ジーンも相変わらず僕らの様子を見に来ては、ユーリを口説きつつ笑う。

 しかし、この時は少しだけユーリの反応が違った。

 いつもはジーンの言葉を聞き流すユーリだったけれど、飲み物の入ったグラスをその場にいる皆に配った後で言ったのだ。

「子供、作ってもいいよ」

 彼女は少しだけ笑っていた。「あなた、わたしにはいつも優しいから。悪い人じゃないの解ったし」

「……え」

 ジーンがグラスを手にしたまま固まった。

 そして、僕と父も。

「ちょっ……」

 僕は我に返って何か言おうとしたけれど、ユーリは冗談を言う性格ではないと知っている。

 いや、でも。

 やっぱり、それは。

「泣くなよ」

 アイザックがジーンに呆れたような声をかけていた。

 ジーンはいつの間にかユーリの手を握りしめ、何かの冗談かと言いたくなるくらい満面の笑みを浮かべ、そして泣いている。

「その言葉、二人きりの場所でもう一度」

「却下!」

 僕は慌ててジーンの頭を左手で叩いたけれど、彼は肩をすくめながら振り向いて言うのだ。しかも、凄まじいまでの笑顔で。ムカつく。

「身体の関係から始まる恋愛があってもいいじゃない?」

「始まらせないから!」


 何だかんだと色々あるけれど、平和だな、と思う。

 少なくとも、笑いながら過ごせるというのが一番なのだから。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


また縁がありましたら、別作品でお会いできたらと思います。

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