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隠し通路の先へ

 ラースは僕が見ていることに気づいたらしく、その顔を僕に向けてきた。

 最初は自信に溢れた強気な男性に見えたイリアスも、よくよく見るとそれだけではないな、と思う。

 何となく、この二人は見かけ通りの人間ではないかもしれない。根拠はないけど。

 僕はすぐにラースから視線を逸らし、皆の会話に集中した。

 気づけば辺りには僅かに風が吹いていた。

 そして、周りにいる人間の声はほとんど聞こえてこない。

 ジーンの魔術だろうか。

「地下に通じる隠し通路があります。もし、王女様たちが地下に監禁されているなら、そこにいる見張りの人数は増えているはずです」

 イリアスが言う。「隠し通路は、いざという時の脱出口です。王族だけが知っているもので、通常は誰も使いません。しかし、私がイスガルドに寝返ったと兄は考えているかもしれませんので、早くしないと塞がれる可能性があります」

「しかし、我々全員が忍び込むのは目立つかもしれないな」

 父が鼻を鳴らした。

「忍び込むにしても、見張りはどうする?」

 アイザックが訊くと、ジーンが唇を歪めるようにして笑った。

「珍しい毒草を手に入れたわ。どんなことになるのか、調合の結果を試してみたいの」

「実験かよ!」

 アイザックが突っ込んだが、ジーンは怪しげな笑みを浮かべたままだ。

「研究心への探求と言って」

「あの」

 僕は何とか口を挟む。「鎮静剤的な薬なら持ってます。酒に入れて飲ませれば、睡眠薬としても使えますが」

「そっちが安全そうだなあ」

 アイザックがため息混じりに言い、他の騎士たちも頷く。ジーンは明らかにがっかりしたようだったが、すぐに頷いて見せた。

 クリスティアナ様に言われて調合だけしていた薬。使うとは考えてなかったけど、役に立ちそうだ。

「いつ忍び込む?」

 アイザックがさらに訊いたが、ジーンは少し慎重に言葉を選んだ。

「今すぐにでもと言いたいけど、悩むわね」

「どうしてだ」

「王女様たちだけ連れ帰るなら、すぐにいくべきだと思うけど、多分追っ手がかかるわよ? この国の兵士、魔術師たちと戦うには、こちらは分が悪いとしか言えない」

「確かにそうだが、情報が欲しい」

 父が静かに言った。「クランツの兵力、それからどこを攻めたらいいか、つまり弱点探しだ。先に俺が様子を見てくるか……」

 父は言葉の途中で結論を出したらしい。僕は少しだけ慌てた。

「じゃあ僕もいくよ。クリスティアナ様たちが無事なのを確認したいし」

「んー……」

 父の反応は芳しくない。心配そうな視線が僕へと向けられた。

「彼女もついてきてくれるだろうし、無茶はしない」

 と、門番を見ながら言うと、父がため息をつくのが聞こえた。

「仕方ない、慎重に行動しろ」

「解った」

 僕が頷くと、父がジーンに目をやった。

「君の毒薬は俺が試そう。城から脱出する前に、厩舎にばらまいてくる。追っ手の足止めにはなるかもしれないしな」

「じゃあ私もいくわよ。効果を見たいもの」

 ジーンが楽しげに笑う。

「じゃ、俺も」

 アイザックが僕の肩を叩きながら言った。「こいつより剣は得意」

「俺もいきます。剣ならアイザックに負けません」

 と、コンラッド。

 他の騎士たちもそれぞれ意思表示をして、気がつけば全員で城に忍び込むことになっていた。

 ただし、できるだけ目立たぬよう、二手に別れることになった。


「効き目すげえな」

 アイザックが呆れたように囁くのが聞こえた。

 今、目の前には薄暗い廊下で眠り込んでいる兵士たちの姿がある。散らかった食器と、酒の匂い。

 酒の入った大瓶に薬を投入したのは、ラースだ。目は見えなくても確かに優秀だと言わざるを得ない。

「ここまでは成功ですね」

 僕は緊張しながら応えた。

 その夜、僕らはイリアスに案内されて城の地下へと続く隠し通路を通った。

 通路は土埃が気になったものの、しっかりと整備されていて歩くのには苦労しなかった。

 地下への扉は金属製で、鍵がかけられている。さらに、扉はただの壁に見えるように向こう側から装飾されているようだった。

 扉の向こう側は兵士たちの控え室みたいな場所で、テーブルと椅子があり、交代で食事を取るところのようだ。

 運がいいことに、兵士たちは食事を前に気を抜いていたらしい。僕らが隠し通路の扉を隔てて息を殺していることに気づかず、和気藹々とそれぞれ会話をし、食事と酒を口にしたのだった。

 そして、ラースが魔術で鍵を開け、扉を開けた。

「じゃあ、俺たちは上に出る」

 父は真剣な表情でそう言うと、ジーンと騎士たち三人を連れてその部屋を出た。しかも、寝ている兵士たちから装備を奪って、身につけてから。

 ――慣れてる。

 僕はそんな父を見て、少しだけ安心した。多分、父は大丈夫。そんな確信にも似た感情。

 問題は残った僕たちだろう。

 イリアスにラース、僕と門番、アイザックにコンラッド。

 この面子でクリスティアナ様の監禁場所を探すのだ。

 アイザックとコンラッドは、父がやったのと同じように、眠り込んだ兵士たちから装備を奪って身につけている。クランツの兵士を装って、この地下の見張りをしている振りをするらしい。

 誰もこなければいいんだけど。

「牢屋は奥だ」

 イリアスは僕に向かって小さく囁いた。

 僕は緊張しながらも頷き、兵士たちの控え室から頭を出して廊下を覗いてみた。

 誰もいない。

「魔術師、いる」

 ふと、門番が静かに言った。僕が振り返って彼女を見ると、そこには困った表情があった。

「変。魔術師、何か身体にいる」

 どういう意味だ?

 僕は彼女よりも困惑した表情をしただろう。しかし、イリアスは納得したように頷き、さらに声を潜めた。

「魔術師がここにいるなら、間違いない。王女はこの先の牢屋にいる」

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