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交渉

「今ひとつよく解らないんですが」

 騎士の一人、コンラッドがテーブルに少しだけ乗り出して、小声で言う。「あの、我々と一緒にきてた人がそうですよね。ここの……」

「そう、あのクソ……男の弟」

 食堂にいる他の客のことを気にして、ジーンも小声だ。

「立場が弱そうですけど、何故ですかね?」

「あなたたちはあの場所にいなかったから聞いてないわね」

「あの場所?」

「クソ男が弟を『妾腹』って呼んでたのよ」

「あ、なるほど」

 コンラッドが納得したように頷く。

 ジーンはそこでニヤリと笑い、こう続けた。

「クソが死ねば弟が第一継承者ね」

 その目は笑ってはいなかった。

「あの」

 僕は恐る恐る口を開く。「妾腹って……つまり、他に女性がいるってことですよね。ここの……ええと、彼の母親は?」

「どっちの母親?」

 ジーンは少し困ったように眉根を寄せた。「クソ男の母親は知ってるけど、弟のほうは知らないわよ」

「じゃあ、クソのほう」

 と、言ったのはアイザックだ。

「クソの母親ね」

 ジーンも形だけの笑みを消した。「早い話が巨乳」

「あの」

 僕が少しだけ手を上げて文句を言おうとしたら、ジーンはそれを視線で押し留めた。

「そして横のほうへ豊満」

「早い話がデ」

 コンラッドが言いかけるのをさらに彼は遮る。

「政略結婚ですもの。ちょっと相手が残念でも我慢しなきゃね」

「我慢か……」

 ウェルズが唸る。

「まあ、昔はそこそこ豊満だったみたいだけど、今はかなり豊満だとか」

「……」

 騎士たちは微妙な表情で沈黙している。

「あのクソの母親だから、あまり性格的には期待できないかもね」

 僕も言葉がなかった。

 ジーンはふと僕たちに目配せしてきた。

 何かあったのかと皆が眉を顰めた時、食堂の入り口にイリアスとラースの姿があった。イリアスは一応変装のつもりなのか、ラースと同じようなフード付きのマントで顔を隠していた。

「すみません、時間がかかりました」

 イリアスは我々のテーブルに近づいてくると、小声で話しかけてきた。それから、カウンターで会話している父と宿屋の主人を怪訝そうに見つめる。

「盗み聞きしてたのよ」

 ジーンはそう言いながら二人に椅子を勧めた。

 イリアスは軽く会釈をしてから椅子に座り、ラースは隣りのテーブルの椅子に腰掛けた。その僅かな距離感は、イリアスとの立場を気にしているのかもしれない。

「最近、治安が悪いとかで、この宿の主人も心配してるみたいね。あなたの父親は何をやっているの?」

「ああ……、返す言葉もないですね」

 イリアスは眉間に皺を寄せた。「今はほとんど兄が取り仕切っているので」

「あなたは何もしないの?」

「できるだけのことはしています。ただ、限界があるのですよ。あなたは事情をご存知でしょうね」

 そこでイリアスがにこやかに笑った。どこか牽制するかのような、強い笑みだ。

「さて、本題に入りましょう」

 彼は言葉を続ける。「彼女たちのいる場所についてです」

 僕たちの間に緊張が走った。皆、真剣な表情でイリアスを見つめた。

「彼女たちが監禁されているのは、地下の牢屋である可能性が高いです。あの城の中で、一番警備が強い場所です」

 そこまで言った時、父が空いている椅子に座ってきた。見れば宿屋の主人は厨房のほうへ歩いていくところだ。

「自分の目で確認は?」

 父がイリアスに訊いたが、彼は苦々しい表情で首を横に振った。

「私はイスガルドで兄に姿を見られているので、今、城に戻るのは危険です。しかし、可能性的には」

「君の言葉を疑ってるわけじゃない」

 父は片手を上げて苦笑した。「戻れないだろうとは思っていたし、それは不思議じゃない。ただ、内通者がいるのかと思ってな」

「……ラースの友人の魔術師がいます」

 イリアスは肩の力を抜いた。「魔術師の中には、現状の生活から逃げ出したいと思っている人間も少なくありません。交渉次第では寝返ってくれるはずです」

「交渉ね」

「命の安全の確保です」

 イリアスの声は暗い。「誰もが皆、殺されないために必死です。最初は皆、法外な報酬に釣られて城に入るんですがね……」

「魔術を使って逃げられないのか?」

 父は少し不思議そうに言った。

「つなぎ止めるために、色々手段がありますから」

 イリアスがそこまで言って言葉を区切る。

 しばらく彼は何事か考え込んだ後、その視線をジーンに向けた。

「今回のことで、私の立場が危なくなりました。もし、私に何かあったら、ラースをイスガルドに連れていってもらえますか」

「え」

 ジーンは目を見開いた。そして、ラースも少し慌てたように小さく声を上げる。

「目は見えませんが、充分役に立つはずです。一応、私に仕えているたった一人の魔術師ですから、その命を守る責任は私にあります」

「……あらあ」

 ジーンは冗談めかして言う。「まるで、遺言ね」

「そう取っていただいて間違いはありません」

 イリアスは苦笑した。「あなたは見かけによらず真面目な人だと思ってます。期待してますよ」

「解ったわ、引き受ける」

 ジーンは意味深に笑った。「でも、そう簡単にあなたに死んでもらうわけにはいかない」

「もちろん」

 イリアスは安堵したように息を吐いた。「とりあえず城への侵入経路でも話し合いましょうか」

 そしてイリアスは表情を引き締めて城の構造やら警備について話し始めたのだけれど、僕はラースの気まずげな表情に気を取られていた。

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