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門番は笑わない

 何故そう感じるのだろう?

 僕はふと考える。


 自分の部屋に入り、僕がベッドに腰を下ろすと、彼女は部屋の隅に立って窓の外を見つめた。

 そして、そのまま身じろぎひとつしない。

 このまま僕もベッドに横になろうと思ってたのに、これじゃ落ち着かない。

「寝ないの?」

 僕が尋ねると、彼女はこちらを見ずに応える。

「あなたが、寝たら寝る」

「何となく、君が僕を守る理由は知ってるけど」

 僕は続けた。「何でいきなり来たの? 僕の居場所はどうやって知った?」

「少し前から感じた」

 彼女の瞳は薄い茶色。髪の色は僅かに目の色よりも明るい。

 とても綺麗な顔をしているから、笑えば魅力的だろう。

 しかし、感情というものを欠落させているのか、人形のようにすら見える。

「ずっと感じたことなかった。だから、必死に探した」

「何で急に……」

 と、僕は自分の右腕を左手で撫でた。包帯の上からでも感じる異常な硬さ。

「封印が解けたから」

「封印?」

「あなたの身を守るため、魔術がかけられた。それが解けたから」

 僕は唸る。

 何故魔術が解けたのだろう?

 ジーンとラースのせいだろうか。ラースは魔術に傷があるとか言っていたし。

「門番は魔術使う。あなたを守るのが役目」

 また僕は唸る。

 守る守ると言われても、簡単に納得はできない。

 だいたい、僕は今でも、普通の人間と何も変わらないじゃないか。腕の印とやら以外は。

 守られる理由は、ただガラムという種族の怒りを買いたくないから?

 僕が沈黙していると、彼女はまた視線を窓の外に向けた。

 そんな彼女の横顔を見つつ、ふと思う。


 女性に守られるのって、情けない。


 確かに彼女は『門番』だけど。

 今の彼女は人間そのものの風貌をしているから、余計にそう感じるのかもしれない。

 自分がもし、剣の達人だったら?

 凄い力を持った魔術師だったら?

 きっと、クリスティアナ様を守ることだってできたはずなんだ。


「寝ないの?」

 ふと、門番が僕に訊いた。

「君が寝たら寝るよ」

 彼女と同じように言葉を選んで返事をしたら、彼女は眉間に皺を寄せた。

 凄く困っているようだ。僕は小さく声を上げて笑った。つい、からかいたくなって言ってしまう。

「ベッドは一つしかないから、一緒に寝る?」

 しかし、門番には冗談が通じなかったようだ。

「それが希望なら」

 と、真面目な顔で言われて、僕は慌てた。

「ごめん、ちょっとふざけただけだから!」

「そう」

「でも、本当に君の寝る場所がない。君がベッドを使うといいよ」

 僕は椅子でも充分だし、と考えて立ち上がると、彼女は不思議そうに首を傾げて見せた。

「必要ない」

「必要だろ」

「使ったことない」

「ないの?」

 と僕は言いながら、そうか、と思った。

 ガラムの子供のそばでしか人型になれないなら、今までずっとあの姿だったんだ。

 だから、ベッドも服も必要なかった。

 でも――今までずっと独りで?

 誰とも触れ合わず?

「今まで、誰か人間と話したことは?」

「ない。誰も門に近づかない」

「そう、か」

 僕は彼女を見つめ直す。

 彼女は寂しいという感情を知らないのかもしれない。

「とりあえず、これからよろしく。色々話そう」

 僕がそう言うと、彼女はさらに眉間の皺を深くさせた。

「言葉、難しい」

「教えるよ」

 彼女は少しだけ僕を困惑したように見つめた後、ぎこちなく頭を下げた。

 そして、僕はふと思う。

 自分ができることをしよう。皆に迷惑をかけないようにしよう。

 僕は剣もまともに使えない。取り柄なんて何もない。

 だからせめて、皆の足を引っ張らないようにしないと。

 何か、僕でもできることを探すんだ。


「薬草もらってもいいかしら」

 ジーンは僕の姿を見るなり口を開いた。

 僕は結局眠ることができないまま、門番と一緒に部屋で話をして、時間が過ぎていた。

 まだ空は暗い。

 でも、父が起き出した気配を感じて部屋を出ると、ジーンがそわそわしながら玄関のそばでうろうろしていたのだった。

「いいですけど」

 と応えつつ、僕は釘を刺した。「毒草もあるので気をつけて下さい」

「そっちが欲しいのよ。色々試したくて」

 ――変態に凶器を与えるようなものだよな。

 と内心は思ったけど、とりあえず放置することにした。

「そろそろ行こう」

 父がそう声をかけてきたからだ。

 ジーンは出かける準備万端な父に気がついて、慌てたように庭に出ていった。

「まともに話をしたのはこれが初めてだが、変わってるなあ」

 父は薬草と毒草の生えている辺りで上機嫌に動き回る彼を見て、感心したように言う。

「変わってるというか、変態」

 僕がぽつりと呟くと、父は笑った。


 城は騒がしい雰囲気だった。

 多分、召使いたちも騎士団の人間も、寝ずに働いていたに違いない。

 まだ血の匂いがする空気。

 大広間にいくと、陛下と騎士団の人間の数名が何か話をしていた。以前見たことのある騎士団の団長の姿、アイザックもいる。

 そして、陛下が我々の姿に気がついてこちらを見た。

「騎士団の人間も同行させよう」

 陛下は言う。

「何名ほどでしょうか」

 父は陛下のそばで足をとめ、挨拶などそこそこに口を開く。「あまり大人数だと目立ちます」

 そんな会話を、僕は少し離れた場所で聞いていた。

 門番は僕の隣に立っていて、ジーンは父と一緒に陛下のそばにいる。

 騎士団の団長は難しい表情で陛下や父の話を聞いていたけれど、他の騎士団の人間は時折僕たちをちらちらと見ていた。

 正確には、門番を、だろうか。

 警戒したような、僅かに不安を映し出した彼らの目の色。

 まあ、それは仕方ないだろうな。

 僕が隣にいる門番を見ると、彼女も僕を見つめ返してきた。

 無表情。

 いつか笑う日はくるのだろうか。

 そんなことを考えつつ、僕は陛下たちへ視線を戻した。

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