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「ムカつくわあ」

 ジーンは笑顔を崩さない。そして、イリアスも表情を凍らせたまま。

 二人の相性悪そうだな、と僕がぼんやりと考えていると、ジーンがちらりと僕に視線を走らせた。

「もしかしたら、この子がガラムの子孫かしら、とも思ったのよ」

 とんでもないことを言われて、僕はその場で固まる。

「まあ、ガラムの子には身体のどこかに『印』が顕れるみたいだけど、この子にはないからね」

 僕は慌てて首を縦に振った。僕は普通すぎるくらいに人間だと思う。

「印ね……」

 イリアスはあまり興味はなさそうだった。確かに、もう存在しないものについて聞くのは無駄かもしれない。

 多分、ジーンにもそれが伝わったのだろう、話を変えた。

「それで、今現在、うちの陛下に挨拶してるのはあなたのお兄様かしら。舞踏会に出席するみたいだけど」

「はい」

 ――兄がいるのか。

 僕はクランツ王国のことをほとんど知らない。

 どうやらその彼はもう客室に迎え入れらているようだ。何だか不安になる。イリアスの瞳に陰が落ちたのが見えたから。

「兄……アストールは多分、何か問題を起こすでしょう」

「あら、確信してるの?」

「アストールは父によく似ています。悪い意味で」


 どうやら、イリアスの話によると、彼の兄であるアストール・クランツは、とても好戦的なようだった。

 舞踏会があると聞いて国を出たが、アストールはクランツ王国の第一王子であり、どこかの国に婿入りするはずもない。

 ただの冷やかしか、冷やかしでないのなら何か企んでいる――と、考えたのだそうだ。

「随分信用がないこと」

 ジーンが短く言う。

 すると、イリアスは無表情で頷いた。

「彼を信用する人間はいないでしょう」

 僅かな沈黙の後、ジーンが訊く。

「……何故?」

「彼が欲しいのは権力です。そのためには何でもする」

「それは仕方ないわね。誰でも力は欲しいでしょう。残念ながら、そういう人間は多いわ」

「彼は恐怖を以て人々を制圧します。アストールは簡単に人を殺す。殺さなくてもいい無力な相手でも。そして父は、そんな兄を寛容してきました」


 少しだけ沈黙が降りる。

「了解、解ったわ」

 やがてジーンは疲れたように手を振った。「あなたの情報に感謝する。私はこれから陛下に会って、話をしなくてはならない。あなたたちには部屋を用意させるわ」

「いえ、結構です」

 イリアスは間髪入れずに応えた。ジーンが怪訝そうに彼を見やると、イリアスは静かに続ける。

「私は兄に姿を見られたくありません。見たら彼は警戒するでしょう」

「そう?」

「兄に嫌われてますから、私は」

 ジーンの片眉が跳ね上がる。

「その理由は?」

「色々あります」

 イリアスの表情は動かない。

 ジーンはしばらく彼の言葉を待ったが、それがないと解ると口を開いた。

「こちらは警備を強化するわ。そうそう城門を通らせることもできなくなる。そっちの魔術師の腕はよさそうだけど、あまり何回も魔術を使われるとこの場の空気が乱れるから困るのよ。魔術なしで城内に忍び込める?」

「……それは難しいでしょうね」

 イリアスはそこでやっと表情を曇らせ、少し考え込む。

「もうすでに、来客の中には側近として魔術師を連れてきている人間もいるし、私は彼らの動向も見張らなくてはならない。ただでさえ、街中に魔術師の人数が多すぎる」

 イリアスは応えず、魔術師ラースも静かに立っているだけだ。

「部屋を用意させるわ。あなたのお兄様の部屋から遠い場所に」

 そう言ったジーンに、イリアスは今度は拒否の台詞を言わなかった。


「何だかもう疲れたわ」

 難しい話は終わり、とばかりにジーンはひらひらと手を振って、椅子に深く腰を下ろした。「大体、さっきから寒気が止まらないのよ」

 やっぱり風邪なんじゃないだろうか。僕がぼんやり考えていると、ジーンが僕に視線を投げてきた。

「原因はあなただと思うけどね」

 内心を読まれたようなタイミングで、僕は目を白黒させただろう。そして、彼はイリアスに視線を戻す。

「それと、私の態度が悪くてごめんなさいね。私、あなたの父親が嫌いなの」

「解ってます」

「あなたはどうなの? 自分の父親のことどう思う?」

「難しい質問ですね」

 イリアスは眉を顰めた。「ただ、父が亡くなって兄が王となれば、私の立場が危うい。だから、死なれては困るというだけで、他の感情はないでしょうね」

 他人事のように言うんだな、と僕が彼の横顔を見つめていると、ジーンが苦笑した。

「色々複雑なのかしら」

「いいえ、単純です」

「まあいいわ。とりあえず、後でまた打ち合わせしましょ」


 どうやら、僕の役目もここまでだろうか。

 街で起きたことをジーンに話し、後の処理は彼の役目。

 もう、僕にできることはない。

 城内には充分な花が飾られているし、庭師としても後は見守るだけかもしれない。

 ジーンは二人を連れて部屋を出ていった。僕は魔術師の部屋でぼんやりしている。

 何だか急に色々ありすぎて、思考が追いついていけなかった。

 僕はやがて、いつものように棚に近づき、石を手に取った。

 僕に魔術がかけられているのだという。じゃあ誰がかけたのだろう?

 父は魔術師じゃない。

 じゃあ、誰が、いつ?

 そして、どんな魔術?

 その時、僕の意識は自分の疑問に向いていて、他には何も考えていなかった。

 気づけば、僕の手の中の石はじんわりと熱を帯びていた。

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