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子供たち

「何もないわね」

 結局、僕は服を自分で脱ぐことになった。ヤバい意味で彼が変態なのかとも考えて怖くなったが、どうやら彼は本当に女の子が好きらしい。少し安心した。

 ジーンは僕の周りを歩いて観察し、やがて大きく息を吐く。

「さすがにそれはないかしら。ちょっと疑っちゃったけど」

「何がですか」

 僕は服をまた身につけながら眉を顰める。

「ちょっとね、魔術がかけられているって話だったから。まあ、考えてみれば有り得ないかもね」

「だから、何がですか」

 しかしジーンは僕の言葉を無視して、イリアスに視線を投げた。

「とりあえず、あなたが知っている情報は、さっきこの子が説明した通り。そうなのね?」

「はい。他に何かあるなら教えて欲しいですが」

 イリアスの口調は丁寧だ。考えてみれば、少し変な気もする。

 イリアスはクランツ王国の王子に間違いないのだろうし、たとえ他国の宮廷魔術師相手とはいえ、もう少し高圧的になってもよさそうなものだ。それとも、それは僕の偏見だろうか?

「どこを説明したらいいのか解らないわ」

 ジーンは肩をすくめる。「ただ、『門』に近づくのは危険だから、門番がいないからといってそっちを攻めるのはないでしょう。やっぱり、イスガルド国王陛下の危機なのよ」

「門は危険? 私は門番が危険だと聞いてますが」

「もちろん彼らも危険よ。ただ、奴らが住んでいる場所は空気すら人間にとっては毒なの。門が閉じていても、そこから漏れる毒がこちら側を汚染してる。その近くで番をする門番は、奴らに肉体を作り替えられているからそこで生きていけるの」

「呪いというやつですね」

 イリアスは頷いた。「じゃあ、普通の人間が門に近づけば死ぬ?」

「そういうこと。だから死の山って呼ばれてるのよ」

 ジーンはそこで言葉を切り、少しだけ沈黙した。そして、こう続けた。

「まあ、それは今の時代の話。以前は、その毒を浄化できる存在がいたの。門番たちと一緒に暮らして、小さな村をその山に作っていた」

「浄化?」

「そう。奴ら――ガラムと呼ばれる魔物と、人間の間にできた種族のことよ」


 何だか話がどんどん大きくなってきている。僕は置いてきぼりを食らった気分だったが、その分、気楽だった。

 ただ、この話がどの方向に向かうのか解らず、黙って聞いているだけ。

「馬鹿馬鹿しい」

 ふと、イリアスは小さく嘲笑した。「邪神は恐ろしく巨大で、人間とは似ても似つかぬ姿をしていると聞きます。それが、人間と子供を作る?」

「普通なら有り得ないわよね」

 ジーンも苦笑した。「何百年も昔、初めて奴ら――ガラムがこの世界に召喚された時、奴らはこの世界を滅ぼそうとしたというわ。ありとあらゆる場所を飛び回り、破壊し尽くした。でも、その時は奴らも知らなかった。我々人間にとって奴らの世界の大気が毒であるように、奴らにとってもこちらの大気は毒。やがて、ガラムの一人が力尽きて門まで帰れなくなった。ガラムの中でも一番強く、一番遠くまで破壊し尽くし、そして死にそうになった。そこで、一人の少女がそれを見つける」

「ロマンチックな話だ」

 イリアスの口調は冷ややかだった。「それで恋にでも落ちましたか。短絡的だ」

「まあ、聞きなさいよ」

 ジーンは唇を歪めるように笑う。「ガラムの力は、物質の構成を全く別のものに変えること。死にかけていたガラムは、自分の身体をこちらの世界で生きていけるよう、作り替えた。ただ、我々魔術師でもそうであるように、何かの構成を変えるというのはとても大きなエネルギーが必要となる。それこそ、命を削るくらいにね。ガラムもそうで、己の肉体を人間に似せて作り替えたことで、ほとんどの力を失った。自分の世界に戻れたとしても、もう一度肉体を作り直す力はない。こちらで生きていくしかなくなったわけね」

「……」

 イリアスは目を細め、沈黙している。ジーンはだんだん説明することが楽しくなってきたようで、その笑顔が明るくなった。

「恋愛感情があったのかは解らないけど、やがてガラムと人間の間に子供ができた。その頃には奴らと人間は停戦していて、ガラムは一つの提案……いえ、命令を出した。ガラムと人間の子供を守り、生きていくこと。門を開けた三人の魔術師は肉体を魔物に作り替えられ、門と子供を守る。それが続き、子供が安全に暮らしている間は、奴らは我々を襲わない。そういうことになった」

「……それで?」

「そこからは一応平和よ。子供たちは普通に結婚して、子孫を増やしていった。子供たちの肉体は人間であったけれど、あちら側から漏れる毒を中和する力があったみたいね。その頃は死の山ではなく、安全な村だったみたいだけど……」

 そこでジーンの笑顔が消えた。「あなたの父親が子供たちを殺した。魔術師がたくさんいれば、ガラムの力を手に入れて、世界を制圧できると思ったみたいでね。しかし失敗したのよ。何て身勝手な話かしら! その結果が」

 ――奴らの怒りを買った。

 そういうことか。

「そして、その怒りを」

 イリアスは挑むかのような強い視線でジーンを見つめる。「この国の王が自分の妻を差し出すことで、収めたということですね」

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