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挑発

「……無理だと思いますけど」

 僕は小さく言った。

 よく解らないけど、魔術師になるには幼い頃からの訓練が必要とか聞いたことがある。十六歳の自分がこれから魔術師になろうとしても、絶対に無理じゃないだろうか。

「なぜそう思うの?」

 ジーンが微笑む。

 僕が口を開く前に彼は続けた。

「私だって、可能性がないなら言わないわ。でも、あなたには『何か』があるんだと思う。だって、私の魔術を跳ね返したんだもの」

「跳ね返した?」

 僕が首を傾げると、彼はひらひらと手のひらを振った。

「痛かったでしょ?」

 ……ああ、そういえば触られた時、凄い痛みが――。

「その謎も解きたいしね」

「うーん」

 僕はそれでも首を横に振る。「でも、やっぱりダメです。父に怒られます。僕には与えられた仕事があるんだし」

「あらあ」

 ジーンの片眉が意地悪そうに跳ね上がる。「あなた、ファザコン?」

「はあ?」

 予想外のことを言われて僕は固まる。

「正直、可愛い女の子がファザコンなら微笑ましいわよー。でも、もう図体でかい男が『お父さんお父さん』言ってるのってどうかしら」

「そんなんじゃないです」

 ムカムカきて唇を噛むと、魔術師は鼻で笑って椅子から立ち上がった。

「まあ、やる気ないなら無理強いしないし。冒険心がない男の子ってつまらないわね。ファザコンかあ……お父さんがいないと何もできない子なのかしらねー」

「違います!」

「できないじゃない」

「できます!」


 そして、いつの間にか僕は彼に弟子入りしたことになっていた。いいように踊らされている。

 僕はその日、帰宅した後で思った。

 僕という存在は魔術師である彼にとって『チョロい』のだろうなあ、と。


「なーんかさあ」

 今、僕と魔術師の前にはクリスティアナ様がいる。「納得いかないわよねー」

 次の日から僕は、庭師としての仕事が終わってから、空が暗くなるまでの短かな時間を魔術師の部屋で過ごしていた。

 楽しくないと言えば嘘だ。何だかんだ言ったとしても、魔術師ジーンとの時間は興味深いものだった。

 魔術の訓練といっても、最初はこれが訓練? と首を傾げるようなものだったけど、初めてやること、初めて聞くことは面白く感じるものだ。

「納得って、何がですか?」

 僕は椅子の上で足をぶらぶらさせているクリスティアナ様に問いかける。すると、彼女が小さく唸る。

「何で、あなたがこの変態と一緒にいる時間のほうが私といるより長いのかしら」

「……」

 何だろう。

 何を言っているのか。

「あなたはわたしと一緒にいるべきなんだと思うわ」

「はい?」

 僕の声が高くなる。

「わたしのこと嫌い?」

「いや、あの、えと」

 何て言葉を返すか必死で考えていると、僕の後ろから不機嫌そうな魔術師の声が飛んできた。

「はいはい、無駄話は禁止、集中集中!」

「いや、あの」

 僕は手のひらの中にある小さな石を握りしめたままの姿で、王女様と魔術師の顔を見つめ直す。

「とにかく、少年、石は熱く感じる?」

 ジーンはやがて投げやりな口調で僕に話しかける。

「いえ、感じないです」

 ジーン曰わく、この世界にあるあらゆるものには力が宿っているのだそうだ。生きているのだそうだ。

 動物や植物だけでなく、石や土や空気のようなものでさえ、何らかの力を持っている。

 魔術師はそういったものから力を借り、さらにその力を分解、再構成させ、全く違うものに変化させるのだという。

 全く解らない。

 ジーンは僕に石を持たせ、何か力を感じないかと言ったが、それは冷たいままの石でしかない。力を感じると、熱が伝わると言うんだけど……。


「じゃあ、わたしも弟子入りする」

 突然、クリスティアナ様がとんでもないことを口にした。

「あなた様が?」

 ふと、ジーンが不思議そうに彼女を見つめ、やがて近くの棚にたくさん乗っていた何の変哲もない石を取って差し出した。

「面白い、やってみましょう」

 ジーンがそう言っている間、クリスティアナ様は渡された石を見つめ、ぎゅっと握りしめた。そして、顔を上げて僕を見やる。

「まずは、お互い色々知り合うことも重要だと思うの」

「何がですか?」

 僕が戸惑いながら返すと、彼女は明るく笑った。

「例えば、趣味とか好きな食べ物とか。あなたの趣味は?」

 後ろからジーンが叫ぶように言った。

「見合いは後にしなさい!」


 何だかなあ……。

 僕はため息をこぼした。でも、クリスティアナ様が本当に小さな声で呟くのが聞こえた。多分、ジーンには聞こえなかったろう。

「邪魔したほうがいい気がするのよ。多分、本当は……」

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