序ノ章ノ『五』
昔、今はもう死んでしまったお母さんが僕に教えてくれた。僕の双子の妹は病気なのだと。
お母さんと同じ病気なんだよ、って言っていた。病名は覚えていない。でも、どんな症状になるのかは聞いた。大きくなるにつれて、記憶がどんどんなくなっていくらしい。そして最後は死。生きられても25歳くらい。お母さんが死んだのは24の時。僕らはまだ4歳だった。でも、僕はそのときのお母さんの言葉が強く心に残りすぎて、今でも、言われたときのことを鮮明に覚えている。
「鈴。早く早く。もう朝ごはんの時間だよ。」
『うるさいなぁ。鈴はちゃんと言われなくてもわかってる。』
「わかってるなら急がないと。みんな待ってるよ。僕達のこと。』
『本当うるさいな。いけばいいんでしょ。』
みんなが待つ大部屋へ行くともう朝食が用意されて食べるばかりとなっていた。
『鈴、英、遅いよー。』
『早く早く。そろそろみんな怒り出しちゃうよ?』
『せんせー。鈴たちもきたし、食べようよー。』
僕達より、年下の子供達が口々に声を掛ける。今朝は相当遅れてしまったようだ。
『いただきまーす!!!』
子供達の元気な声ともに、朝食を食べ始めた。朝はいつもこんな感じだった。
みんながうるさくて、でも居心地がすごくよかった。
僕と鈴蘭はお母さんが亡くなった4歳のとき、この『さくら孤児園』に来た。
当時はお母さんがいなくなってしまったことが悲しすぎて泣いてばかりだった。
でも、みんなのおかげでその傷も癒すことができた。
ただ、鈴蘭の病気については僕以外誰も知らない。まだ、鈴蘭には症状は出ていない。
でも、いつ出てき始めてもおかしくはないと思う。もし、出ても僕にはどうすればいいかわからない。
それから数日がたって、僕は園長先生に呼ばれた。園長室に入ると、先生の向かい側には知らない女の人が座っていた。
『こんにちは。』
「こ、こんにちは・・・。」
「英君とりあえずここに座りなさい。」
僕は言われたとおり園長先生の隣へ座った。
『あなたが英君なのよね?』
「あ、はい。英は僕ですけど・・・?」
『じゃあ、あなたは妹さんが病気ってことも知ってるのよね?』
「!なんで・・・・それを。」
『あなたたちのね、亡くなったお母さんに頼まれたの。あの子を助けて欲しいって。私の二の舞にはならないで欲しいって。』
「そう・・・・だったんですか。」
「英君、妹って鈴蘭ちゃんよね?病気ってどういうこと?」
そうだ、これは僕以外知らないんだ。園長先生が知っているはずがない。
「実は鈴蘭は病気にかかっているんです。症状は成長にするにつれ、記憶がなくなって最後は死ぬ。
そういう病気なんです。」
「そんな・・・・。治る方法はないの?」
『今のところ治療法はありません。』
「そんな・・・・。」
『そのことで今日はお話があってきたんです。英君。妹さんと一緒に政府へ来ない?今、政府の研究所ではその病気について研究をしていて、もしかしたら治療法がみつかるかもしれないの。』
「本当ですか!?それなら今すぐにでも行きたいです。」
『でもね、まだ研究中だから、確実に見つかるとは言えない。それに、開発した薬をためす人材も必要なの。』
「薬を試すって・・・まさか、それを鈴蘭にやれっていうんですか・・・・?それじゃあ実験台じゃあないですか!嫌です。あの子は実験になんか使わせません。」
『でも、誰かが試さなければ薬はできない。でなければ、あの子は死ぬだけよ?だったら政府へ来た方がいいと私は思うけど?』
「誰かが・・・。」
『それに治療以外にももう一つ頼みがあってきたの。あなたたちは能力者よね?』
「そんなことまで知ってるんですか。」
『当然よ。で、その力を政府に貸してほしい。』
「政府に・・・。」
『そう、あなたたちの力があれば、救える命がいくつもあるの。お願い。薬のためと、人助けのために、政府へきてくれないかしら?』
「政府へ行けば、鈴蘭は助かる可能性があるんですよね?」
『行かないよりかは確立は高くなるわ。』
「・・・・わかりました。鈴蘭のためです。政府へ行きます。」
僕は、今回のことと病気のことをすべて鈴蘭に話した。かなりショックを受けていたようだったけど、全てを受け入れてくれた。
それから数日。僕達は何年か過ごした『さくら孤児園』に別れを告げ政府へと向かった。