序ノ章ノ『二』
私は妹とともに呆然と立ち尽くしていた。
家が、神社が、村が、全てが無くなっていた。
事は数日前。私は母に隣村までの使いを妹とともに頼まれた。隣村といっても山2つ位は超えなくてはならない。もうすぐ村で行われる[祈願祭]にために、隣村の「大巫女様」を呼んで連れてきて欲しいというのが使いの内容だった。
「お母さん、行ってきます。」
『行ってらっしゃい。気をつけてね。』
これが母と交わした最後の言葉となった。
3日ほど前の夜。ようやく隣村についた。ご高齢の大巫女様は移動にも時間がかかるため、帰ってくるのには行くときよりも時間がかかった。山を越え村が見えてきたところで、私は異変に気づく。なぜか焦げ臭いのだ。間もなく煙まで見えてきた。まさかと思い村まで走った。私の嫌な予感はあたってしまった。
村は無くなっていたのだ。もう全てが燃え尽きた後だった。
「・・・嘘。嘘でしょ?・・どうして、どうして村が無くなってるの!?」
突如妹が叫びをあげた。私も同じ気持ちだった。誰がこんな事を・・・・。その時だった。
『・・・・・娘よ。』
大巫女が声を上げた。そして、言葉を続けた。
『これは、放火などではない。神によるものだ。この村の神はこの村を見捨てたのだ。その証拠に神を祀る神社をみよ。一番燃えた跡があるだろう?』
私は言葉が出なかった。ただ、目からは大粒の涙が溢れてきた。
「なぜ・・・なぜ、神様は・・私・・達の村を・・見捨てたのでしょうか?」
嗚咽交じりに出てきた言葉だった。
『神とは非常に気分屋でもある。きっと供物が足りんかったとか、そんな理由じゃろう。・・・それに、
わたしがこの村の未来を見る限りでは、この村の未来は良くない。だから、神様もわかっていてこの村を諦めたのだ。』
「じゃあ、・・・なんで、私達二人は生きてるのでしょうか?」
やっぱり私の涙は止まらない。
『お主ら二人が生き残ったのは、生きる義務があるという事じゃろう。神様が救ってくれた命大切にするがよい。』
「・・私達だけ生き残っても嬉しくないよぉ・・・お父さん、お母さん、桜ちゃん、葉月ぃ・・・。」
妹が両親と友達の名を呼んでいた。
でも、・・でも・・神様は私達を助けてくれた。だから、私達はみんなにできる最後のことをしよう。
そう思った。
「弥生。」
私は妹の名前を呼んだ。
「お姉ちゃん?何?」
「あのね、神様は私達は生きる必要があるから、助けてくれたんだよ?だから私達は生きよう?二人で頑張ろう?」
「・・・うん。弥生ね、お父さんもお母さんもいなくて悲しいけど、頑張る。」
「えらいえらい。弥生はいい子だね。」
そして私は大巫女様に声をかける。
「大巫女様。頼みがあります。」
『・・・・なんだね。娘よ。』
「祈願祭はできなくなってしまいましたが、せめて村の人の供養をして下さい。お願いします。」
『・・よかろう。では、村人の遺体を集めてくるがいい。』
「はい。じゃあ、弥生。つらいかもしれないけど、みんなの遺体を探そう。それで、みんなをお墓にいれてあげよう。」
「・・・・・・うん。」
しばらく村の中を探してほぼ全員の遺体を集めた。中には損傷が激しいものから、ほぼ焼けていないものまでさまざまだった。
「じゃあ、大巫女様。お願いします。」
『うむ。』
大巫女様が神に祈りを捧げながら、遺体を骨になるまで焼いた。そして、焼いたあと、全員の骨を大きなつぼに入れて埋めた。
「大巫女様。ありがとうございました。」
『・・若き二人の娘よ。これから苦しいかも知れぬが頑張っていきるのだぞ。』
「・・・・はい。」
そして大巫女様は付き人とともに村へ帰っていった。大巫女様が見えなくなった直後だった。
「大変でしたわね。村人全員が亡くなって。」
「!誰ですか!?」
私が振り向くと一人の『女』が立っていた。三十前半といったとこだろうか。
「・・・あなたは・・一体誰なんですか?」
「私は日本国政府の者よ。今日はね、あなた達を引き取りに来たの。」
「どういうことですか。」
「私達はね、もともと、あなた達を政府に呼び込むつもりだった。それで、今日来てみれば村は燃えていた。びっくりしたわ。でも私達にとっては都合がいい。これで、絶対来るから。」
「何を・・・。」
「だって、あなた達これからどうするつもりなの?住むところもない。家族もいない。食べ物だってお金だって服だってない。そんなんで、これから先生活できると思ってるの?」
「・・!それは・・・!」
「でも、安心して。私達政府の元へくれば、あなた達二人の生活は絶対保障してあげる。」
この女は一体何を考えているのか。まったくわからない。でも、言われた言葉は真実だ。行く宛てもない。迷った末に私は口を開いた。
「わかりました。私達二人は政府の元へ行きましょう。」
とりあえず行ってそのうち逃げ出そう。苦しくても二人でならきっと生きていける。
「えらい子ね。じゃあ行きましょうか。」
私達は着の身着のまま村を出た。