序ノ章ノ『一』
序ノ章ノ『一』
___男がいた。いるのは妓楼。男の目的はただ一つ。
妓楼の最上階。最も位の高い遊女がいる部屋『柊』だった。
部屋の戸を開けると艶やかな着物に身を包まれた遊女が振り向き呟く。
「・・・おや。今宵の客は政府の役人さんかい。」
『私は貴女と遊ぶために来た訳ではない。』
「・・だろうな。政府の役人がこんなところで遊んでいると知られたらどうなることか。で、一体どんな用で来たんだい?」
『物分りが早くて助かる。単刀直入に言う。貴女は〔能力者〕の筈だ。その力を政府に貸してほしい。』
「・・・・・ふっ、ふはは。随分と懐かしい事を言う。確かに妾は〔能力者〕だった。しかし、この妓楼に来た時に力の使い方など忘れたわ。」
『忘れた?その[戒め]によるものではなくか?』
そう言って男は遊女の首元を見る。そこには決して自らでははずすことはできない[輪]がついていた。
「それもあるし、妾自身も忘れた。」
『では、その[戒め]を解けば能力を使える可能性はあるということか?』
「さしずめそういったところだ。」
『それともう一つ。この妓楼から出たいか?』
「・・・・ああ。妾は自由が欲しい。童の頃のように自由が。」
『政府に協力すればここから出ることもできるし、自由にもなれる。どうだ?」
「・・まあ、いいだろう。」
『交渉成立だ。』
男が言った直後だった。[輪]が突如はずれたのだ。
『これで貴女は自由であり、我々政府の駒だ。』
そして間もなく男と遊女は妓楼を出たのだった。