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おとなりさんのふしぎなおうち

作者: 古河晴香

おとなりさんのふしぎなおうち


 お兄ちゃんのなおくんと、妹のみわちゃんは、この春、パパとママと一緒にこの夢ヶ丘に引っこしてきました。

 桜の花がきれいな3月末のことです。

 夢ヶ丘は新しく山をけずって作った住宅地で、たくさんあるおうちはどれも新築です。

 なおくんとみわちゃんは、新しくできた夢ヶ丘小学校に通うことになりました。

 なおくんは転校して前の小学校のお友達と別れるのはさみしかったけれど、新しいお友達がたくさんできるのがとても楽しみです。

 みわちゃんはこの4月から小学校に上がります。


 でもこの夢ヶ丘、ちょっと変わったおうちがたくさんあるみたいですよ。


「さあ、ついたよ」「わーい。ここがボクたちの新しいおうちなんだね!」

 車から降りたなおくんたちは、自分たちのすてきな新しいおうちに大はしゃぎです。

「あたしのお部屋もあるんだよね」

「みわちゃんのお部屋もあるよー」

 新しいおうちは、白い壁にオレンジ色の屋根をした二階建てで、可愛いお庭もついています。

 でもちょっと待って。そのおうちのおとなりさんに、とってもふしぎなおうちがありますよ。


「ねえ、パパ、おとなりさんのおうち、でっかいお花の形をしているよ」

 みわちゃんにそう言われて、パパとママは眉をひそめて顔を見合わせました。

「あら、ほんと。とってもふしぎな形のおうちねえ」

「こんな家、見たことないぞ」


 おとなりさんは、とても大きな大きな、お花の形をしていたのです。

 とっても太い茎が地面から生えていて、斜め上に向かって伸びています。

 その茎に、とても大きな葉っぱが何枚かついていて、一番てっぺんには大きな大きなお花がついています。

 お花や葉っぱの下には柱がついていて、倒れないように支えています。


 なおくん、みわちゃん、パパとママは、おとなりさんのおうちの前へ行きました。

「大花 Ohana」という表札がかかっているのは、お花の形をした門柱です。

 地面からくねくねと鉄でできた門柱が葉っぱをつけながら伸びていて、てっぺんのお花のところに表札がついていました。

「おはなさん?」

「おおはなさんじゃない?」

 何にしても、とても変わったおうちです。

「そうだ。引っこしのご挨拶をしよう」

 パパがそう言って、荷物の中からきちんと包装された包みを出しました。

「インターホンはどこだろう?」

 表札の下に、かわいらしいお花のかたちをした小さなボタンがありました。

「これかな?」

 押すと、ピンポーン、と鳴りました。

「はーい」

「おとなりに引っこしてきました、岡野です。ごあいさつに来ました」

「お待ちくださーい」

 そう言うと、しばらくして、茎の部分の一番下の、茎と同じ緑色をした上がアーチ型をしたかわいいドアが開いて、小柄な奥さんが出てきました。

「こんにちは、おおはなです。」

「こんにちは。となりに引っこしてきました、岡野です」

 ママもなおくんもみわちゃんも、みんなでこんにちは、とごあいさつをしました。

 大花さんの奥さんは、目がくりくりとしていて、茶色がかった髪はふわふわとして二つに結んでありました。その結び目にもお花がついていて、奥さんはお花がらのエプロンで手をふきふきしながら言いました。

「ご丁寧にありがとうございます。うちも小学生の娘と息子がいますよ」

 聞いてみると、なおくんとみわちゃんと同じ、3年生と1年生だそうです。

 なおくんとみわちゃんは大喜びです。

「またおうちに遊びに来てね」

 そう言われて、絶対に遊びに行く! となおくんもみわちゃんも思いました。


 4月になって、入学式の日。なおくんのクラスに、茶色がかったふわふわの髪を二つに結んで、その結び目にお花をつけた、目のくりくりした女の子がいました。

 その子が大花さんちの子だと、なおくんはすぐに分かりました。

「ボク、おとなりに引っこしてきた岡野なおやだよ」

「私は大花さくらだよ。よろしくね」

 二人は土曜日に遊ぶ約束をしました。

 うちに帰ってから、なおくんは妹のみわちゃんに聞いてみると、みわちゃんのクラスに大花しょうぶくんというさくらちゃんの弟がいるそうです。


 楽しみに待っていた土曜日。

 ピンポーン、なおくんがお花の形のインターホンを押すと、「はーい」とかわいいさくらちゃんの声が答えました。

 そして、茎の一番下のところのドアが開いて、さくらちゃんと、弟のしょうぶくんが出てきました。

 さくらちゃんも小柄ですが、しょうぶくんも小柄で、目がくりくりしたかわいい男の子です。

「いらっしゃーい」「おじゃましまーす」


 玄関の中に入ると、そこは緑色の茎の中でした。

 茎の中も緑色をしていて、丸い筒の形の茎が、斜め上へ向かってずっと伸びていて、その真ん中を長い長い階段がついていて、はるか遠くの階段の先にドアがありました。

 なおくんとみわちゃんは玄関でくつをぬぐと、さくらちゃんとしょうぶくんに続いて階段を上がっていきました。


 途中で、階段が枝分かれをして、左に伸びていました。

「こっちが私の部屋だよ」

 さくらちゃんに続いて、そちらの細い階段を上って、上がアーチになった緑のドアを開くと、そこは大きな大きな葉っぱの形をしたお部屋でした。

 細い階段は、葉っぱの軸の部分だったようです。

 そのお部屋は緑のふかふかしたじゅうたんがひいてあって、小さな勉強机とベッドと、テーブルと本棚と洋服たんすがおいてありました。

 一番おどろいたのは、空が見えることです。

 葉っぱの形の床を透明なカプセルがおおっていて、壁も天井もないのです。

「すごーい。ドームみたい。温室みたい」

 みわちゃんは喜んで、部屋の真ん中に走って行って周りを見渡しました。

「でも、外から丸見えじゃないの?」

 なおくんが心配してたずねると、

「光を反射するから、外からは見えないようになっているの。外から見たら、葉っぱの上に空が映っているように見えるよ」

 そう言われてみると、確かに外から見たときは大きな葉っぱの上が部屋になっているなんて気がつきませんでした。


「ボクのお部屋も見て」

そう言うしょうぶくんについて、また茎の階段に戻って、少し上ると今度は右に上る細い階段がありました。

 そこを上って、緑色のドアを開けると、さくらちゃんのお部屋にそっくりな、葉っぱの上のお部屋でした。

「すごーい」

「このベッドで寝ると、夜は星が綺麗だよ。朝はまぶしくて目が覚めるから、朝寝坊できないけどね。でも、どうしても眠いときは布団をかぶっちゃうんだ」

 カーテンがついていなくて、壁も天井も透明なので、普通のお部屋とはいろいろ違ったことがありそうです。


「それじゃあもっと上に行こうか」

 と、さくらちゃんが言いました。

 ついていくと、同じような葉っぱのお部屋がいくつもあって、パパとママのお部屋、お風呂、トイレ、ダイニングキッチン、それぞれが一枚一枚の葉っぱでした。


 そして、階段の一番上のピンクのドアを開くと、

「わあーっ!」

 なおくんとみわちゃんは歓声をあげました。

 そこはお花の形をしたリビングでした。

 大きな大きな丸い形の黄色いじゅうたんが敷かれたリビングは、ピンクの花びらの形をした壁が、まっすぐではなくてまーるく包むような形で上に伸びています。

 その花びらの先から、透明なカプセルになっていて、それが天井の代わりになっていて、葉っぱのお部屋と同じように空が見えます。

「なおくん、みわちゃん、いらっしゃーい」

 リビングにはさくらちゃんとしょうぶくんのパパとママがソファーに座っていて、テーブルの上にはお菓子と紅茶がありました。

 そこでお花の形をしたクッキーや焼き菓子と、お花の香りのする紅茶をいただきました。


 その後で、さくらちゃんが

「滑り台で遊ぼう!」

 と言いました。

「おうちの中に滑り台があるの?」

 なおくんは不思議に思って聞きました。

 さくらちゃんは立ちあがると、茎の階段に続くドアの前にある、床下収納の扉のような、床にある扉を開けました。

 すると、その中は滑り台になっていました。その滑り台の天井は階段の裏側です。

 つまり、このおうちの茎の部分は、真ん中に階段が通っていて、下半分は滑り台になっていたのです。


 さくらちゃんとしょうぶくんに続いて、なおくんとみわちゃんも滑り台の扉から、しゅーっと長い長い滑り台を滑り下りました。

 一番下までくると、階段の一番下の3段分が扉になって開くようになっていて、そこを開けて玄関に出ました。

 面白くて面白くて、なおくんとみわちゃんは何度も何度も滑って遊びました。


「ばいばーい」「また来てねー」

 夕方になって、なおくんとみわちゃんはおうちに帰りました。

 お花のおうちはとっても面白かったです。

 なおくんとみわちゃんは、また遊びに行きたいと思いました。


おわり

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました! とても面白かったので、 これからに期待しています(^ω^)♪
2013/02/07 20:51 退会済み
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