―chapter5 いよいよ戦闘開幕―
舞台は、不景気で人の入らなくなって潰れた遊園地。普段は閉鎖されて人っ子一人いないが今日は違う。そこには、戦闘コスチュームに身を包んだ俺とシニードリン、俺たちの敵――アーマーズらの姿があった。
アーマーズは、鎧の色に合わせてコードネームが、リーダーのレッド、グリーン、ブラック、イエローとなっている。
「よく来たねぇ。アーマーズ。怖気づいて今日は来ないのかと思ったよ」
すっかり女幹部モードに入ったシニードリン。完全に役に入り込んでいる。
「何言っているんだよ。いつも負けているくせして」
毒を吐くのは緑色の鎧をしたグリーン。
「い、今までは本気出して戦っちゃダメだっただけなんだから」
すぐ、本名の白谷銀子としての素が出てしまうシニードリン。安い挑発に乗るなよ。
負けてばっかりだった彼女の名誉のために言うと、確かに大総統からは、普段は敵に本当の力を悟られないよう幹部連中は、力を押さえ怪人を利用し本当の力を隠して戦ってきた。
「ふん。どうせ戦ってみれば分かるさ」
「こらっ、むやみに相手を煽るなグリーン」
「分かったよ、リーダー」
レッドはリーダーらしく、まともだった。
「ところでなんなんだい? 端っこのピンクは新入りかい?」
アーマーズは全部で四人。ところが今回はピンク色の鎧をまとった五人目がいた。
「そうさ! 俺たちの新しい仲間だ!」
「お初にお目にかかります。私は新人のピンクといいます」
「ピンクは初出撃で経験も浅いから、今回は前線には出てこないないけど、俺たち一番の注目株さ」
レッドは新人を誇らしく紹介した。
「ボク思うんだけどさ、シニードリン。相手をするのはそこの戦闘員と君だけかい? さすがに四対二は、正義の味方的に両親が痛むんだけど」
いつも寄って集って四対一で怪人をボコるお前たちが言うな、と言いたいくなる質問をイエローがふる。
「いつも、四人がかりで倒怪人を倒しているお前たちがそれを言うのかい?」
あ、シニードリンが、自分が思っていたのと同じ質問を返した。
「質問を質問で返すのかい? まあいいけど。だって僕たちいつも、その前に三十人がかりで戦闘員に襲われていたしさ」
「それはもっともだ」
イエローに、聞けば納得できる返答を貰い、俺はポンと手をうった。
「ここは、フェアに二対二で戦うというのはどうだろうか?」
レッドが嬉しい提案を持ちかけてくれる。正直、俺は四対二はいくらなんでもきつ過ぎると思っていたんだ。
「そんなのもちろん断わ――モガモゲモゴッ!」
「しますします! ぜひお願いしますレッドさん」
シニードリンがせっかくのチャンスを不意にしそうだったので、慌てて口を押えて俺はOKを出した。
「そこの戦闘員、話が分かるな。一人は俺が出よう。あと一人は……ブラックお前はどうだ?」
「―――――――」
「そうか、今日は遠慮しとくのか。思えば、お前とシニードリンじゃ、やや相性が悪いか」
え? ブラックってなんかしゃべったの? 黙っていたようにしか見えないんですけど!?
「それだったら、イエロー。お前がでないか?」
「ええ〜なんで? って思ったけどそれもそうか。グリーンの力の方がもっと相性が悪いし、ピンクは入ったばかりで心配だもんね。それなら、ボクが出るよ」
アーマーズから戦う二人が決まったところで、ようやく臨戦態勢に入ることができる。
俺たちは、隙を窺うためにしばらく睨み合って緊張が高まっていった。
動いてもいないのに、自然と顔には汗が吹き出てそれが身に入る。お互い顔は、仮面に隠されて分からないがおそらく同じだろう。
張りつめた空気を破って先に動いたのは相手側だった。
レッドは俺に拳を放ちながら、イエローは俺に蹴りを放ちながらそれぞれ向かって行く。――って、どっちも俺かよ。
「「各個撃破だ」」
消耗の少ない相手を先に潰しておく。それは、正しい選択だけどもさ!? 結局、複数人にボコられることには変わりない。
「こなくそー」
シニードリンとの特訓の成果が発揮され、俺は咄嗟に、レッドの拳は弾き、イエローの蹴りは足を捕まえて攻撃を捌くことができた。
「ちょっと。私がいること忘れてないかい?」
俺の捕まえているイエロー目掛けて、シリードリンの鞭が飛ぶ。
「よっと」
それをイエロー自身の体を軸に一回転し、避けてしまう。
ついでに、もう片方の自由な足俺を蹴り飛ばして、俺のホールドを解いてしまった。
「気を付けろ! そこの戦闘員は結構やる。相手は一筋縄ではいかない」
「ああ、分かっている。ボクたちも、もう本気を出そう」
「そうだな」
「「リアライズ」」
二人がそう叫ぶと手元が光だして、光が収束したいった後には、先ほどまで素手だった相手は武装していた。
レッドは真っ赤な炎が漂うグローブを、イエローは柄の長い細身のハンマーを手にしていた。
バーンフィスト、プラズマハンマー、それが武装の名前である。
バーンフィストはその炎で殴った相手を焼きつくし、プラズマハンマーは華奢な見かけと裏腹な破壊力と電撃をまき散らす。
どちらもまともに喰らえば、お陀仏ものの威力を秘めている。
「簡単にはどちらも削れない。作戦変更でイエロー。お前は戦闘員を叩け!」
「わかったよ。それっ!」
ものすごい速さで振り下ろされるハンマーから、俺は大目に距離を取った。
振り下ろされたハンマーが地面に当たった時、俺は恐ろしさを改めて知った。
まず、まるで杭落ち機を使ったかのような轟音が耳に届き、続いて目の前が眩しい明滅を繰り返しす。光が収まった後には、直径五メートルはあろうかというクレーターが出来上がっていた。
(ヤバいって、これ当たったら、死ぬどころか、死ぬを超えてしまうって)
脂汗の止まらない俺に残った選択肢は、回避行動しかなかった。
「こらー。ちょろちょろしないでよ。これじゃ、サクッと殺れないしょ」
サクッとやられてたまるか、俺は必死で避けて避けて避けまくった。
でも避けていくうちに次第にハンマーの速度に目が慣れて、余裕がほんの少しだけど生まれてきた。
タイミングは一瞬しか見えない。それはハンマーからの電撃が止んだほんの一瞬の隙。
ここだ。
まだ電撃で眩しい中、俺はあえてイエローへの特攻を試みる。
「そんな!」
視界が晴れた俺の目の前には、ハンマーを振り上げる最中のイエローが狼狽していた。
「もらった!」
俺は全ての持てる力を掛けて左ストレートを繰り出した。充てる場所は右腹部、レバー。
拳がイエローのなよっちく薄い胸板に到達し、その感触が最初に届いたときだった。
――ぷよ。
拳に妙な感触が伝わり慌てて引っ込めてしまう。
相手の胸にほとんど入っていない状態で拳を引っ込めたので、効いてないはずなのだがイエローは胸を強く押さえていた。いや、まさかそんな! だって自分のことボクだっていって、それに胸だってそんなに……。
最初はイエローの反応の意味が分からなかったが、遅れて思考が事態を理解し始め、俺は悟った。
「お、お前、男じゃなくて、おおお、おん――」
「AAAで悪いかーーー!」
言ってもないことでキレたイエローが、ハンマーを放り出し、俺は顎先に強烈なアッパーカットをお見舞いされた。
マズイ。今ので意識が半分持っていかれた。
「アレきついんだよなー。イエローに胸の事は禁句だぜ」「そうですよ。私もよく目の敵にされるんですから。私は普通なのに……」「――――」
呑気な外野はブラックみたいに黙っとけ。
「あーくーじぃぃぃぃぃぃいいい!」
「へべれけっ!」
泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったり。弱っているところに、今度は味方のシニードリンから容赦のない攻撃される。半分残っていた意識から、さらに大部分がもっていかれた俺はもうフラフラだ。
「ドサクサに紛れてなななななに、お女の、むむ胸を揉んでいるだい!」
揉んでねえよ! ただの事故だよ!
「女の敵だなー。……死ねばいいのに」「サイテー」「――――」
勝手な外野二人は、俺に軽蔑を送ってくる。ただ黙っているだけのブラックからも同様の視線が伝わってきた。
「あなた、本当は女なら見境が無いんじゃないのかしらねぇ! この! この! この!」
シニードリンがピンヒールで繰り出すストンピングは、一撃一撃が必殺級の威力を伴って俺を襲う。
たちまちボロ雑巾のようになっていく俺を見たアーマーズは……、
「「「「「うっわぁ!」」」」」
見事なまでのドン引きだった。
というわけでまだ戦闘は続きます。
最後がギャグテイストなのはそもそもこの話は、ジャンル的にはバトルものではなくコメディー寄りの作品のため、そちらを順守した結果でした。
それではまた明日。