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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第一話 打倒!正義の味方
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―chapter4 決闘前日―

 ここ最近の、目まぐるしい日常と非日常を駆け抜けてとうとう決闘前日がやってきた。

 最近の変化は本当に激しかった。俺はここ数日のことを振り返ってみる。

 部署が移動になるは、正義の味方と戦うことになるわ、山で遭難するわ、幼馴染とその日会った少女に告白されるわ、修羅場るわ、なぜかその修羅場った二人が仲良くなるわ……。

 ――――。

 ほんとーに、いろいろあったなあ。おいっ。

 しかも原因を作ったやつよりもなぜか、俺自身が一番ろくでもない目にあった出来事ばかりだった。

 今日は俺と銀子もといシニードリンは、大総統に呼ばれていた。本来なら幹部連中しか入れない組織の奥にある特別部屋、シニードリンが一緒に入ることで俺にも入ることができた。

「二人ともよく来てくれたな。結構結構」

 俺みたいな下っ端は、普段ならモニター越しにしか見れない大総統が、薄布一枚隔てた距離にいた。

 ただ、それがどうしたって思うのは、俺が不敬者なだけなのだろうか。なんでか初めて会った気がしない。

「君みたいに私のことを思っているやつは、幹部連中にもいるから気にしていないよ」

 サラッと心の中を見透かされたよ!? この人、侮れない。

「ところで、君たちを読んだのは他でもない。前途ある若者に、ちょっとしたプレゼントがあるのだよ」

 パチンッと指が鳴らされると、目の前に黒い錠付の箱に、一本の鍵が添えられていた。

「開けてみてごらん」

 大総統に促されて、箱の錠に供えられていた鍵をいれて回す。カチリと音がして、蓋がゆっくりと開きだした。

「これは……」

 箱に入っていたのは、一組のオープンフィンガーグローブだった。これは少し旧式のものだが、俺たち戦闘員に支給されている普通のものだった。指の部分に保護する役割でプロテクターなんて付いているが、仕掛けなんてイカしたものは残念ながら無い。

「これは私からの物ではないのだが、ある人からの餞別だ。受け取ってくれ」

「ありがたくいただきます」

 このグローブに、何か特別なことでもあるのだろうか。受け取った際に、大総統から「大事にしなさい」と言われる。

「次にシニードリン。これは私からだ」

 また大総統が指を鳴らすと、今度はシニードリンの前にいつも使っている鞭が現れた。

「周囲にだけ温度や天候を操作できる鞭『ウェザーウィップ』。その強化版を、兵装科に頼んで作らせておいた。機能は従来と同じだが、出力が上がっている。遠慮なく使いたまえ」

 シニードリンはその新しい鞭を恭しく受け取った。

「それにしても……。山田アクジ君、だったな。あの二人の息子が、ここまで大きくなったわけか。わたしも歳をとったものだ」

 まじまじと布の向こう側から、俺の顔を眺めつつ(見えているの?)うんうん頷く大総統の漏らした言葉に、俺は疑問符が浮かんだ。

 俺の親父は、アトスの元ナチュラルボーン戦闘員だ。もしかしたら、ミリの確率で大総統は覚えていたのかもしれない。しかし、母さんは普通に民間人だったと記憶している。それなのになぜ大総統が、その母さんも知っている様子なのか? もしかして昔、親父の結婚式に来ていたとか?

「あの二人、まだ話してなかったのか……。まあ、よい。それなら今は話さないでおこう」

 なんかスゲー気になるんですけど。

「すでに相手の組織『JUNAS』には果し状を送りつけた。幹部相手なら、向こうは確実にアーマーズを送ってくるだろう。君たちはこれから十分に休んで、英気を養いたまえ」

 ちなみにJUNASとは説明すると、悪の組織専門の治安維持組織で、その中でも選ばれた四人の精鋭がアーマーズ。アーマーズには特殊装備が許されていて、これを装着することで単身でも怪人と渡り合うことができている。

「これで私からは以上なのだが、最後にいっておこう。奴らは実に二十年近くにも渡って、我らの野望を阻んできた。奴らは強い、そしてまだ強くなり続けている。勝てとは言わない、しかし負けるなよ」

 結局それって、勝てってことなんじゃ。


  *  *  *  *  *


「えー! それじゃあ明日は居ないんですか」

 出会ったあの日以来、俺の家によく来るようになった捺香が残念そうに言う。

 大総統の呼び出しは済んで家に帰った俺たちは、ゆっくりした午後を送っていた。

「ああ、ちょっと大きな用事があってさ」

「そうなんですか。実は私も、明日は同じく用事があってこれないんですよ」

「そうなのか、女の子に警備員は大変だろうけど、頑張れよ」

 俺は捺香の頭に手を置いてグシグシと撫でてやる。すると捺香は気持ちよさそうに、頭を手の平に擦りついてくれる。

「あーくじー。私だって明日は大仕事があるんだからさ、労ってよー」

「分かった分かった。撫でてやるから」

 俺は捺香と同じように、銀子の頭を撫でてやると、やはり同じように頭を手の平に擦りついてくれるのだった。

 こうして両手に花の状態になっていると。

「アクジったら二人のガールフレンド両手にモテモテね」

「「お邪魔しています、義母おかあさま!」」

「うれしいわね~。二人ともお嫁さんに来る?」

「「喜んでご返事を返させていただきます」」

 おいっ、二人!? 何を言っているんだ。あと母さんもノリいいな!?

 自分の息子が、堂々と二股している現場を見て「あらあら、うふふ」と微笑み、あまつさえ余裕の態度でふるまえるあたり、流石はウチの家系だと思う母さん。

「母さん何だい? 下が妙に黄色い声で溢れているんだが」

「「義父おとうさままで!」」

 二人して、本当にドサクサまぎれに何を狙っているんだよ。

「アクジ。二人の美人なガールフレンド両手にモテモテだな!」

「「いや~、美人だなんて」」

 自分の息子が、堂々と二股している現場を見て、サムズアップでニヤニヤしている親父。反応が母さんと同じ。

 ウチの母さんと親父は、近年稀に見るおしどり夫婦と専らの評判だ。だから、ツーカーで意思の疎通が図れてしまうため、息の合ったコンビプレーをやってのける。

「「それで、どっちが本妻なの?」」

 たとえばこんな風に。

 面白そうだという理由で、無遠慮に爆弾を投下する父母。

 俺は二人の頭の上に置いた手の指先が、急速に冷えていくのを感じる。つか、比喩なんかじゃなくて、片っぽは本当に物理的に冷い。

 ゆっくりと、ゆっくりと。それこそ十度首を上に向けるのに、三十秒をかける程に。本当にゆっくりと首が上がっていく。二人して、ホラー映画仕込みの役者さんもびっくりな演技だった。

 怖い! 怖い! 怖い! 

 俺は反書的に目を逸らす。二人の首が完全にこちらを見たとき、どんなホラービデオでも敵わない生の恐怖があった。どちらを選ぼうが、血の惨劇が待っている。そんな感じだ。

「どっちが本妻とかじゃなくて、俺にとってはどっちもだからさ。どちら均等に愛せなくて中途半端なら、俺がもっと甲斐性を持てばいいだけだからさ?」

 自分でも苦しいと思うが、それでも思ったことをありのままに伝えた。

 二人の反応は如何に?

 俺は、恐る恐る二人へ目を戻すと、さっきまでの明るい表情に戻った二人が帰っていた。よかったー。頭の上に置いた指もすっかり温まる。

「「で、初孫はいつなんだい?」」

「もう、どっかいってくれよぉ!」

 回避した途端に、すぐさま先ほどとは違う方向性の爆弾を投下してくるこの両親は、あの何でも見透かしているような大総統とは違う意味で侮れないことを改めて思い知った。


  *  *  *  *  *


「お邪魔しましたー」

 日も暮れ、たっぷり遊んだ捺香は家へと帰って行く。

 送った玄関から捺香の姿が見えなくなるまで見送った後の事だった。

「アクジ、ちょっと来て。お父さんと大事な話があるから。銀子ちゃんはゴメンネ。一緒に居たいのは分かるけど少しだけだから。ね?」

「それなら……分かりました」

「ありがと」

 というわけで、俺は親父と母さんに呼び出された。

 場所はリビングにあるダイニングル。上座に親父と母さん、下座は俺が配する形だ。なに、この家族会議は?

「アクジ。大総統から貰ったものがあるだろ。それを出してくれないか?」

 親父に頼まれたので、貰ったグローブを卓上において見せる。

「うん。サイズの微調整だけで、あの時のままだな」

「それ、親父のなのか?」

「ああ、そうだよ。これは、お父さんとお母さんの思い出の品なんだ」

 どんな思い出かは知らないが、この品は親父と母さんにとっては、思い出深い代物なようだ。

「まっ、願掛け見たいなもんだ。大事にとって置けよ」

「そうそう、明日はちゃんとそれ、つけなさいよ」

 先に親父と母さんが席を立ち、家族会議は終了した。

 え? それだけ?

 特に発破をかけるわけでもなく、グローブの思い出を語るわけでもなく、そのまま終わってしまった。

 今日は、やけに気になる話を聞かされる日だと思いつつ終了し、決闘の当日を迎えたのだった。 

 やっとここまで来ました。chapter4です。

 次はいよいよお待ちかね。バトル回です。

 読むのは好きですが、正直描写に自信がないのでそこが心配です。

 おそらく次は、また前後編構成だと思うのでそこはご容赦ください。

 ではでは、ここまでで。

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