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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第四話 横断!悪の結社の社員旅行
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―chapter2 旅のしおりと企みと―

『シニードリン、それとウルリカ。君たち二人とその部下達には、一足早く旅行を楽しんでもらおうと思う。特に、幹部である君達二人は、旅行先でキチンと親睦を深めて帰ってくるように』


 ウルリカによって文字通り全て流し去ってしまった戦線を立て直すのに、敵味方共に時間がかなり必要になるらしい。JUNASもウチもまた戦線復帰した時の為に力を蓄えている。そこで、その力を蓄えるついでに仲の悪い女幹部二人に多少の協調性持ってもらうべく、大総統が予定を前倒しにして、少し早い慰安旅行を決定した。

「……胃が痛い」

 旅のしおりを眺めつつ、俺は自室で独りストレスでキリキリと痛む胃の上を押さえる。気持ちの上では盛大にドバっと血の池をつくる吐血をしているくらい心が追い詰められている。これも、大総統に女幹部二人の面倒を任されてしまったからだ。今日だけの事ならず何度も巻き込まれてハッキリと自覚している。圧倒的な脅威の前には、人一人の小さい声なんて届かないだってことを。

「思えばあの二人の折り合いの悪さといったら初めっからだもんな」

 二人の間にある因縁の始まりは、俺や銀子、そしてウルリカがアトスに入る少し前の研修期間まで遡る。その頃、俺は戦闘員としてのプログラムを、銀子とウルリカは大幹部としてのプログラムを別々に受けていて、当時二人の間に、どの様な悶着が繰り広げられたのかは知らない。ただ事実として確実に分かることは、当時二人が使用していた研修施設は、半分は氷漬けに、もう半分は跡形もなく崩れ去って、今尚も立ち入り禁止で封鎖されているということだ。なんでも、研修初日から施設をその状態にしたらしい。

 そんな二人の旅行先の面倒を見ないとならない上、喧嘩が起りそうなら止めるようにと大総統から命令が下った。どうあがいてもジ・エンドになる無茶を押しつけられたとしか思えない。

 大体、あの二人が争うのをどうやって止めろと?

 いやいやできる訳がない。戦闘員の強さが猛獣としたら、大幹部の持つ強さは自然災害だ。どんなに強い命でも大自然の持つ脅威には、身体を張ろうと抗うすべなどなく、ただ過ぎ去るのを待って耐えるしかない。大総統のように宇宙災害レベルの強さを持っているのなら話は別なのだろうけど、俺にそんな力はない。

 旅行期間は絶対に二人が衝突するのを避けねば。起きてからではどうしようもない。それを心がけないとな。

 旅行内容を頭にある程度覚えさせておくべく、旅のしおりを開く。

 表紙がPP加工を施された無駄にお高目の装丁の表紙を、捲ると一ページ目には大総統が直筆でこう綴っていた。


 ※ 特に仲の悪いシニドーリンとウルリカへ。

『旅先で思い切りストレスを発散させてください。さあ、日ごろの溜まった怨み辛み嫉み全てをぶつけて潰し合え! by 大総統』


 仲の悪い二人の親睦を深める目的の旅行で、どうして名指しで衝突を煽ってんのこの人は!?

 いけない。あの人は、絶対に二人の争いを止めさせようなんて思っていない。むしろ面白がってさえいる。

 それともあれなのか? あの二人を一度派手に衝突させて、思う存分二人の鬱憤を晴らさせる根端か。

 近隣が酷い迷惑被害を被ること確実な幹部クラスの衝突を、余所でやらせるなんて流石は大総統。俺たち悪の親玉なだけある。

 けどしかし、それって慰安旅行じゃない。俺には、この旅行が慰安と真逆に位置していものにしか思えない。

 旅のしおりを開いただけなのに、のっ0けから頭痛がしてきた。次いで、胃のキリキリとした痛さがさらに酷くなった気がする。

 大丈夫なのか俺、旅行は始まってないぞ。まだ旅のしおりを開いただけだぞ。しかも、本当の地獄はもっと後に控えているかもしれないんだぞ。

 意を決し、次のページ読もうとしおりのページ端へと指をかけるが、俺はこの先を読むのが恐くなって指を止めた。

 そうなってやがて俺は、しおりの続きを読むのを止めた。

 ひょっとして、ひょとしなくても今回の旅行って、ろくでもないのじゃなかろうか。

 旅行の「りょ」すらまだ始まってすらもいないのに、すでに激戦の続く戦線に駆り出されていく兵士の心境だ。

「あー。これ以上のネガティブは止めだ俺!」

 独りきりの部屋で俺の声だけが響く。

 何時までもこんなマイナス思考でいても進歩も生産性もない、まずはどうやったら生き延びれるか考えないと。

 旅行の日程は、もう間近だ。


  *  *  *  *  *


「旅行と称して、あの場所に二人を送り込むとは。いやはや、閣下も人が悪い」

「さあ、なんのことやら」

「とぼけた振りをしなくても結構ですよ。あの場所がどのような所か分かっていますし、そこから閣下の狙いも見えてきます」

「さあ、それはどうどうだろう? 君が一人で分かった気になっているだけかもしれないよ」

「あくまでサプライズという訳ですか。私にも、当人たちにも」

「まあ、そういうことだ。しかしそれでもあえて答えるのなら、仕込みは昨日に済ませたとだけ答えておこう」

「昨日といえば、最近JUNASに掴まって収容されていたある人物が脱走したそうですね。

 ご存知ですか? 現場になった超硬度の収容所の檻は、まるでスプーン曲げのようにグネグネに捻じ曲がっていたとか」

「ミュルトン君。私がそれを知っているかどうか。果たしてそれは、君の想像におまかせするよ」

「ともあれ、この旅行が慰安どころか、それとは真逆になるのは確かですね」

「ああ、それは保障する」

 はたしてアクジくんの旅の行く末とは?


 また次回。

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