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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第四話 横断!悪の結社の社員旅行
43/64

―chapter1 最後の五大幹部『大瀑布』剣帝ウルリカ登場〜―2/2

 さて、シニードリンとウルリカの仲の悪さを語る前に、それを円滑に説明を進めるためアトスの誇る大幹部の説明に少々の時間を取らせて貰う。

 大幹部とは大総統を頂点とする組織内ヒラエルキーで、大総統の次に君臨するトップだ。

 現在は『猛火』将軍ブロア、『腐土』不死者ミュルトン、『紫電』死神ニョルズ、『大瀑布』剣帝ウルリカ、『冽氷』シニードリンの計五人が居る。

 彼ら五人をまとめてアトスの五大幹部と呼ぶ。五大幹部と一括りにしているいるものの、大幹部の間には明確な序列がある。先ほど名前を上げた順番がそれ。

 これは組織内のキャリア順ともなっており、上位二人はベテラン枠、下位三人は若手枠と呼んだりしている。実力や幹部としての能力はベテラン枠が大きく若手枠を離していたりする。

 それで、序列を若手枠の三人で争っているのだけれど、一番争うことが多いのがウルリカとシニードリンだ。ちなみに、ニョルズはナルシーだのセクハラだので二人ともから嫌われて相手する対象にすらされない。

 彼女らは同年代で、同期で、水属性と氷属性で属性が被っているなど、もともと対抗心が煽られる要素をもってたのが起因し、幹部職について以来ずっと、何かと競い合う――もとい、張り合い――いや、いがみ合いを続けている。

 その因縁は、鉄骨のようにぶっとい筋金入りの険悪さでもって現在まで続いている。

 現に、大総統への戦況報告を済ませた後、こうして早く医務室のベッドに戻りたいと気絶していた二人を連れて運んでいる間も。

「あなたのせいですわ。あなたのせいで、怒られるはずの無かったわたくしまでが大総統に怒られたのですわ」

 ウルリカがそう言って顔の霜を拭い取った。

「それは、どの口が言っているのかな? それは、こっちのセリフでしょうが! どんな思考回路をしていたらそんあ図々しい事が言えるのよ」

 シニードリンがそう言って顔の水滴を拭い取る。

 俺が二人を引きずりながら通路を歩いている途中で意識を取り戻した二人は、大総統に怒られたばかりだったことも忘れたのか、早速立ち上がって喧嘩の続きを開始。

 二人とも口より先に手を出して、二人の対峙している通路は、片や霜塗れ、片や水浸しとなっている。

 怪我人かつただの戦闘員風情の俺はこの危険な場を一刻も早く去りたいのに、通路の安全装置が働いて分厚くて頑強なセーフーティーシャッターを下ろされて逃げることが出来ない。

 女だろうが大幹部は大幹部、激突なんかされたらたまったものじゃない。……主に俺が。

 二大女幹部の激突しているこの状況は、安全装置の作動に伴って動いた警報装置で知れ渡ってりうハズなのだけど、誰もやってくる気配はない。

 誰も来ないのは、幹部二人を止める実力者がここには居ないこと。そして頼みの綱である大総統が出てこないのは、そう何度も部下の喧嘩を止める為だけに現れることは、組織のトップである立場的にいちいちやってもいられないからだろう。

 二人の勝負の勝敗なんてどうでもいい。でもどうせなら、俺を酷い目に遭わしてくれたウルリカがこっぴどくやられて欲しい……なんてことを俺は思っていない。俺が理不尽を、二人ともにこれから被るであろう事に変わりはないからだ。

「凍れ必殺、フリージングマテリアル!」

 シニードリンは初撃から全てを凍りつかせる氷結物質を召喚。ウルリカを最初から全力で仕留めにかかっている。

「戦いが始まって間もない内から必殺技で片を付けようだなんて、そんな野暮なことは三流の考え方ですわよ」

「私の必殺技が!?」

「水技、氷瀑ノ幕。あなたの技を破る為専用の技ですわよ。光栄に思いなさい」

 ウルリカは呼び出した極太の水柱が氷結物質を飲み込んで凍り付き、シニードリンの必殺技はそのまま、ウルリカに届く前に止まってしまった。

「今度はわたくしの番。あなたがやってくれました攻撃分もまとめて、お返ししてあげますわ――必殺、弩流氷刃槍どりゅうひょうじんそう

 ウルリカが今度はお返しとばかりに、先ほどのシニードリンの必殺技を受け止めて凍った水柱を、背負っていた大剣に豪快に砕き、続けざまにその鋭い氷の破片を纏った水流がシニードリンを目掛けて一直線に襲いかかる。

「その攻撃なら、私にも読めたわ。こんなものは――はい」

 シニードリンは、自分目掛けて襲ってきた水流を難なく凍らせて攻撃が自分に届くのを阻止した。

 これで、二人の実力が同格な理由がお分かり頂けただろうか。

 一般的に水と氷では、凍らされてしまう水の方が相性が悪そうに思えるが、逆に氷もまた水自身が凍ることによってその攻撃を防むことができるので相性が悪い。

 どちらも攻撃が届かずに決定打が与えられないのだ。互いが負けもしないし勝ちもしない。

「お互い今のままじゃ、出し抜こうなんて無理そうね。けど、今度があった時こそは覚悟しておきなさいよ」

「それは、わたくしのセリフですわ。精々、わたくしに首をとられても大丈夫なように綺麗に洗ってまっていなさいな」

 お互いの自分の攻撃が通じないことを悟って、ようやく矛を収めるもの二人の敵視に変化は無い。むしろ、高まっている。

 毎回がこのようなものだから、幾ら憎くてウサ晴らしに戦い合ってもいつも不完全燃焼に終わって次へと持越される。

 結果、こうして二人の険悪の循環スパイラルが出来上がっていく訳だ。

 なんとか事態はひと段落してくれた。二人の戦えの巻き添えで被害を俺が被ることは辛うじてなかったので安心した。

 後は、背中を向けているにも関わらず発生し続けている二人のピリピリとしたこの嫌な空気を、シャッターが開くまで耐え抜くことが出来れば……。

 そんな俺の考えは甘かった。

 「「――と、一度喧嘩しなくなったと見せかけて!」」

 互いの属性を使った攻撃が通じないのなら物理攻撃で。背を向けていたかと思えば途端に身を翻して振り向きながら、シニードリンは鞭を振るい、ウルリカは大剣を薙いで攻撃を放つ。

 「げふぅ!?」

 鞭と大剣、二人の不意打ちを狙って碌に目視しようもとせずにヒットを狙った攻撃はお互いの標的を見事に外れ、俺を挟み込んで相討ちとなる。

 攻撃を出すときは、当てる相手がちゃんと見える状態で行ないましょう。

 ただの戦闘員でしかない俺は、二人からの攻撃を同時に耐えられる体力は持ち合わせていない俺は、為す術なく巻き込まれた。

 その後シャッターが開き、女幹部同士の苛烈な戦いの渦中が続く中から救助された俺は、ここ数年でも稀にみるボロ雑巾のような状態になっていたという。


「それで、どうして私が怒った後で、君達は早々から揉め事を起こしているんだ?」

 騒動から暫く経った後、騒動の元凶であるシニードリンとウルリカは、大総統再び大総統の前へと連れて来られていた。ちなみに俺は、二人の争いを見ていた第三者ということで一緒に連れて来られていた。

 修羅だ。修羅が大総統の背後に見える。

 先ほどまで喧嘩で見せていたシニードリンとウルリカの勝気は何処へ行ったのやら、二人とも御冠の大総統を前にすっかり萎縮してしまっている。

「…………」

「…………」

 二人とも口を開いても言い訳にしかならないことを自覚しているのだろう、どちらも余計なことをしまいと一言も喋ろうとはしない。

 しかし、流石といった所だろうか。

「…………(ぐぬぬぬぬ!)」

「…………(ぐぬぬぬぬ!)」

 怒られている最中だというのに、二人とも大総統へ頭を下げつつもピリピリとした空気を発してぶつけ合い、敵対心を燃やし続けている。

 さすがの大総統もその様子を見て、これには怒る気が失せてしまい呆れた目線を送る――顔なんて見えないけど、大総統の出す溜息や雰囲気からなんとなく察した。

「仕方ない。こうなったら予定を前倒しにするか……おい、君たち!」

 重たい息を吐いた後、大総統は頭を下げたままでいがみ合う二人を大声で呼んだ。

「ぐぬぬぬぬ……え!?」

「ぐぬぬぬぬ……はひ!?」

「はあ、お前たちときたら……」

 呼ばれてもお互いを憎むあまり、遅い反応を返された大総統は頭を抑えながら再び重い溜息を吐いた。心中お察しします。

 被りをふって顔を持ち上げて大総統はシニードリンとウルリカの二人にこう告げた。

「今年度の旅行の件だが、溝を埋めて代わりに親睦をもらう為、お前たち二人は一緒の班として行動を共にしてもらう。せめて表面上だけでも仲良く振る舞うように」

「「ええ〜〜!?」」

「こんなとこにだけ息ピッタリに合うんじゃない」

 息が合っているのかい何のやらと大総統は大きく天を仰ぐ。

「「何でわたし(わたくし)が、こんな奴なんかと一緒にならないといけないの(ですの)! 大体、わたし(わたくし)とあんなのを一緒にされたって困ります。嫌いとかどうとかじゃなくて生理的に無理なんです」」

 ほとんど音ズレしていないんじゃないのかと思うくらい、二人は異口同音だった。よくもまあそこまで。

 嫌という方向性に関して、二人はピッタリと意見が一致している。

「とにかくだ。仲良くまでしろと言うつもりはないが、お前たちのいがみ合いは度を越している。せめて、喧嘩しない程度にはなっておけ。――いいな?」

 大総統が最後の一言に殺気を混ぜて二人に送ると、二人は流石に観念して頭を落とし頷いた。

 とは言え、人に言われた事を素直に聞く様なのが悪の組織をしている訳がない。どうせ旅行先でもきっと揉めるだろうな。

「そうそう、アクジ君。君が旅行先での二人の面倒を見てくれたまえ」

 ――え?

 高見の見物を決め込んでいたつもりが、サラッと飛び火した。嫌だ嫌だ絶対に嫌だ。だって、ものすごく面倒臭い事になるのが目に見えて分かるんだもん。

「ウルリカ君は無理でも、少なくともシニードリン君ならアクジ君の言うことなら聞いてくれるだろう。私はね、もしも何事かがあった時のための、ストッパーになって欲しいと思っているのだよ」

「俺なんかで、あの二人の喧嘩が止まると思いますか?」

「案ずるな。その時は体を張って止めればいい。君は戦闘員だろ? 体は頑丈なハズだ」

「死んでしまいます無理です」

 そりゃね、戦闘員は結構な無茶な仕事が効く仕様になってますけどね。いくらそんな戦闘員でも、あの大幹部二人の戦いに巻き込まれたら、俺の強度は障子紙どころかトイレットペーパーぐらいにしかならないんですけども。

「いやいや、以前にアーマーズのレッドの必殺技を受けてもこうして五体満足でいられているじゃないかね」

 確かにそれはそうだ。それを指摘されるとさすがに否定できる材料が残っていない。

「分かりました。それではあの二人の旅行先の面倒を見ることを引き受けます」

 旅行の話とはいえ、上司の面倒を部下が見るって立場的におかしくないか? そんな疑問が頭をよぎるものの、組織のトップからの命令である以上、もとより断る選択肢がない。

 まあ、いいか。そもそも、幹部の世話を焼くのは銀子で慣れている。そう考えるといつもの事、いつもの事。

 それでも、出てくるのは出てくる。

 これから旅行先で起こるであろう、とりとめのないウルリカとシニードリンの衝突、そしてそれを仲裁する役目。それが否が応でも想像してしまい、今からでも大量の胃薬が欲しくなってきた。

設定が今回大目に出てすみません。


また明日。

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