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ノンヒーロー/アンヒロイン  作者: Iso Rock
第四話 横断!悪の結社の社員旅行
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―chapter0 負けられない戦いがそこにあった―

「俺、この戦いが終わったら……」

 炎と噴煙が漂う戦場で、誰かが不吉な死亡フラグを立てていた。誰だ、こんな時に!

 いつもならここは多くの人や車の行き交う市街地。しかし、今ここで人や車の代わりに行き交うのは多くの光線や銃弾ときどき爆撃、そして敵味方を問わず流れる悲鳴。

 現在俺たちが相手にしているのは、JUNAS特別機動部隊――名称カリバーズ。彼らの役回りを簡単に言えば正義の味方の戦闘員といった所だろうか。

 奴らは強化人間である俺達に対抗する為に、大量の銃火器を手にしている。その火力たるや、ハッキリ言ってアーマーズ五人の戦力を凌ぐほどであり、場合によってはアーマーズ以上に手強い。

 そんな部隊と激突しているのだから戦地の被害が尋常じゃない。一番戦闘が激しい最前線は既に市街で戦っていたハズなのに、建物は完全に崩れて更地に、舗装は捲れて地面の土が見えている。アスファルトやコンクリートといったものは影も形も消え失せて、地面はさながら荒野のように荒地が広がっている。

 本来制服が目的である以上土地を傷つけることは控えたいのだけど、そうであってもこの戦線を退くことは出来ない理由がある。

 俺達が戦線を退かない理由それは……。

 それは、全てはバカンスのためだ!

 この仕事が終わるとき、アトスの社内行事に慰安旅行が待っている。それを皆は、糧として過酷な戦場へと挑んでいる。

 そこまでして行きたがる慰安旅行、大総統が毎年発案して決めるのだけどそれがとにかく豪華なんだ。

 例えば去年は、豪華客船で行く一週間三ヵ国巡りの旅だった。巡った国は主に南方でトロピカルなフルーツやとてもよく澄んだ青い海を堪能した。

 この旅、慰安だけが目的ではなく、そういった土地を回って征服へのモチベーションを上げる思惑がある。征服の野望に一歩近づけば、それら全てを手にする日が近づくからだ。

 今年はどんな旅行になるのかは大総統の意向で完全に伏せられているものの、誰もが今年はどんな楽しい旅行になるのか期待している。

「うおおおお、これが終わればバカンスなんだ、バカンスゥゥゥゥオオオオオ!!!」

 負傷により救護班に運ばれ簡易手当を受けた戦闘員がまた一人、突貫しようと敵陣の真っ只中へと捨て身覚悟で突っ込む。

 ――あっ、バズーカが炸裂して吹っ飛ばされた。

 普段と逆パターンで。カリバーズの隊員はアトスの戦闘員よりも圧倒的に多い。負傷兵は軽傷のうちに素早く引き下がり元気な兵士が絶えずこの戦場へと送り込まれ戦線を維持する。

 火力と物量を兼ね備えたこいつらを相手にするのは、いくら地力で勝るからといってもこちら側が不利だ。

 その相手との物量の差を何とか支えているのは、戦闘員の持つ「しぶとさ」。アトスの戦闘員は怪人達より弱い代わりに、高い耐久性と治癒能力を持っている。例え瀕死の重傷を負ったとしても、死んだように眠り続ける超回復モードが発動してそれだけで生還してしまう。

 ただし、幾ら頑丈で体が平気だとしても、痛みなどの苦痛で精神が先に持たなくなるのであまり無茶ができるものではない。

 逆に言えば。精神さえ強健であるなら多少の無茶が効く。今、慰安旅行という目先ニンジンをぶら下げられているこの状況なんて正にそうだ。

 この抗争を端的に表すとするなら「無尽の耐久力 VS 無尽の兵力」といった具合だろうか。

 しかし、無尽なんて言ったものの、流石にいつかは尽きないものなんてない。限界はどちらもいずれ来る。

 現に今、互いに疲弊して尽きようとしているいる、主に体力じゃなくて精神の方が。

 だけど不思議なことに、俺達も相手もお互いに疲れ果てているようにしか見えないのにも関わらず、お互いがお互いに一向に諦めようとはしない。

『おい、お前らいい加減に諦めろよ。なんて言ったって、所詮はただの人間。限界なんだろ?』

『嫌だよ。それを言うのならお前たちだって限界なんじゃないのか? 強化人間とはいれ以上は辛いだろ?』

 戦場に赴いている人間全員が、眼でそう会話をしている。

 旅行という心の支えがある俺達と違って、カリバーズが撤退をしない理由が分からない。向こうさんにも俺達と同じ様に負けられない戦いでもあるのだろうか。

「ん? 曇りが酷くでもなったか?」

 今日は曇りでもともと薄暗くはあったのだけど、フッと辺りがより一段暗くなった。

『撤退だ! 撤退、撤退〜!』

 不思議なことに暗くなった途端に、アレだけ頑なに退こうとしなかったカリバーズの連中が、蜘蛛の子を散らすように慌てて散り散りになってしまうのもいとわないで逃げ出していく。。

 誰もが慌てて戦車や装甲車や物資に供給に使っていたトレーラなど、とにかく乗り物に乗り込んで走って逃げて行く。乗り切れなかった人員は。走り出す乗り物の外部にしがみついてでもその場から一刻も早くここから去ろうとしている。

 敵さんはみんな俺達に畏れをなして目線を向けながら必死に……あれ、その目線はちと上に向けすぎているんじゃない? ん、上?

 カリバーズ隊員の目線は俺達を畏れてのものだと思っていたのだけど、違和感を感じ目線をそこへ向けてみる。すると、空からの光を遮る大量の水が押し寄せていた。

「嘘だろ……。まさか、アイツがここに?」

 こんな事態を引き起こせる人物に、心当たりが組織内に一人いた。これは自然災害なんかじゃなく、人為的に起こしたものだ。

 こんな攻撃して、あの野郎、敵だけじゃなくて味方もろとも巻き込むつもりだ。

「あいつめ、やりやがったな!」

 戦場を襲う巨大な水は、俺達戦闘員のみならず戦場にあるもの全てを飲み込んで行った。

 さっきまで、負けられない戦いが行われていた戦場。水が引いた後には、瓦礫の山と更地しか残されていなかった。

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