―chapter10 いつもの後日談―
それからしばらく経って。
俺はJWAで買ったお土産をルカや銀子に配っていた。本当は明日ぐらいにでも配ろうと思っていたのだけど、銀子やルカ、それと捺香が家の遊びに来たので早めに渡すことにした。
本音は直接出向いて渡したかった所なのだが、
父さんと母さんにはペアのキャラクタープリントの入ったコップを帰った当日にペアで渡していたのだが、喜んでくれていた。
捺香のからのお土産は先に渡し終わっている。俺の父さんと母さんはチョコレート菓子を、ルカは金を入れるとくっついている人形の動き出す貯金箱。銀子にはあの変身ベルト。
貰ったみんな、喜んでいた。
「これはお前にだ。ホラよ」
「僕にだと? 裏があって企んでいるんじゃないだろうな」
ルカは振ってみたり、光にすかして見たりと、中身を訝しんでいる。
「そんなもんねえよ。いいからとりあえず開けて見ろって」
「本当だろうな」
ルカへお土産の包みを手渡し、開封を促した。躊躇はしたものの、結局は包みを開いてくれた。
中身なんてチッポケなものだ。針金を折り曲げたようなのしか入っていない。
「髪留め。使うかどうかは勝手にどうぞ」
飾り部分にあしらわれたデフォルメされたトカゲ型怪人は、怪人というよりどこかのゆるきゃらみたいだ。
「可愛い……」
「気に入ってくれた?」
「気持ちはありがたく貰っておくよ」
素直じゃないなー。
「ルカちゃん。似合うかどうか今から試に着けてみてよ」
「捺香が言うんじゃしかたないな……待ってて、これを着けるから」
素直だなー。
「どうかな、似合ってる? 捺香」
「似合ってる似合ってる。俺が見立てたと通り、前髪を留めてもう少しオデコを晒したらより可愛いくなった。やはり俺の目に狂いはなかった!」
「ボクは捺香に聞いていんであってお前じゃない。あと褒めるなら褒めるで髪留めが似合っているかを聞いてくよ。まあでも……可愛いって言ってくれたのはありがとう」
「言うまでもなく似合っていて可愛い、チョー可愛い」
「……ありがと」
俺が褒め殺しにすると、はめてくれる相手がどうであれ嬉しいのには変わりないらしく、顔を真っ赤にしてテレッテレになるルカ。
憂いやつ、憂いやつよのう〜。
互いに仕事上は敵同士だが、こうして喜んでくれるのはこっちだって嬉しい。
しかし、時々考えることがある、俺の本当の正体を知らない捺香が遊びによく行くのが心配してついてくるのは分かる。二人の仲が親友なのも疑いようがない。
けれども、どうしても腑に落ちないことがある。親友の事を思うのなら俺の事を通報するなり、捺香に事を教えて遠ざけた方が良いに決まっている。
ルカは公私混同しないなどと言ってはいるが、世界を狙う悪の組織の一員を放置することになるのだ、そんなレベルでこの物事を一緒にするのは倫理的じゃないはずだ。
親友の好きな人が悪の戦闘員とバレたらショックを受けるかもしれないからそれを避けたい?
近い線だが、黙っておく方が良くないし、遠ざけるのが普通だろう。だがそれなら、今頃とっくに実行されていてもおかしくないはずだ。
なら、俺を泳がせて、組織の大きな尻尾を掴もうとしている?
初対面の時点から組織のボス直々に呼ばれたり、且つ幹部の一人に好かれている俺の立場は、下っ端の戦闘員なのは置いといても重要人物にされてもおかしくはない。
これが近い線かな。とりあえず警戒心はいつでも持っておいて対処できるようにしておこう。
警戒はするが……それはともかくとして、可愛い女の子を愛でるのとは別のことだ。
「可愛い。スレンダーにキュッと引き締った体が可愛い。金髪と和服、和と洋の折衷が可愛い。もとからショートカットでも見やすかったけど髪留めでよりハッキリと見えるようになった金髪の下にかくれていたオデコや眉それら全ての顔のパーツを含めてが可愛い。何より今こうして照れて恥じらうその真っ赤になった表情がなにより可愛い」
「……イヤン」
思いの丈を吐きだし褒めて褒めて褒めちぎると、茹でダコのようになったルカがそこにいた。
「いいよ〜。いいよ〜……はっ!?」
褒めるボキャブラリーが足りなくなりだした頃、背中へと突き刺さる二つの視線にようやく気が付く。
一人をいつまでも褒めすぎた。視線が痛い。細い針いくつもの針でチクチクとやられているみたいだ。
「アクジさん。えっと、その私とかどうですか」
振り返ると慌てた様子で右手首を顎につけてうっふんと言ってみたりと、みょうちくりんなポーズを取り出す捺香。
何がどうなんだ?
「……もしかして、さっきのルカみたいに沢山褒めてもらいたい?」
ムスッとした顔で首を縦に振って頷く捺香。
だったら。
「この黒髪綺麗だね。毎日手入れしないとこんなにキレイなサラサラして高級感のあってシットリ艶が出ないんじゃないの? ロングな所がさらに良い! 落ち着きのある普段の立ち振る舞いや、所作の一つ一つが綺麗で、それが合わさってまさに大和撫子って感じでさ。全体、身なり含めて全部が美しいよ」
「……」
「あて、まだ褒め足りなかった?」
褒めたまでは良かったものの、捺香は依然、顔のムスッとしたものが完全には取れておらず、柔和な表情を取り戻してくれていない。
あれをまだ言っていないからだろうか。
「可愛いよ」
「ありがとうございますアクジさん」
可愛いの一言でようやく破顔して笑みを見せてくれた。
「あ〜くじ。わたしにはどんなお土産を買ってきてくれたのかな〜」
普段の甘え声とは違う声色で、『さあ、わたしにはいったいどんなものをあくじはくれるかな。ルカをあれだけ喜ばせられたのだからきっとわたしのもスゴイに違いない』とお土産のハードルを上げつつ訴えている。
「銀子の分はこれだよ――はい」
俺からお土産の包みを貰うと銀子はビリビリビリっと大きな音をだして包装を破く。
「何かな何かな〜、…………わーい、ストップだ! このついているフィギュアが可愛いな〜! 子々孫々と受け継がれるぐらい大事に使うね」
「そんな大したもんじゃないから普通に扱ってくれ」
気持ちと心意気はありがたく貰っておく。
「それじゃ、……ん!」
期待の表情と眼差しを向ける銀子、お前もか。
まあ、すでに二人に言っておいてコイツに言わないのは不公平か。
「ええと……可愛いよ」
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁっっっふぅぅぅぅぅぅ!」
銀子は拳を高く高くつま先立ちするまで突き上げ、そのままくるくると回転しだす。どうやら体全体をつかって喜びを表現しているようだ。
「はいはい銀子はそろそろ落ち着いて、最後のお土産があるよ。このクッキーとサブレを皆で分けよう」
紅茶をストレートで入れて皆に配る。淹れたての紅茶の臭いが鼻孔をくすぐったところで、そこからさらにオレンジの花で作った特製ジャムをすくったスプーンを添える。
「わー、ロシアンティーですね。確か、ジャムを舐めながら紅茶を楽しむんでしたよね」
「そうそう。あったかいうちに飲んじゃってね」
紅茶の薫り冷めてが失せてしまわないうちに飲むのを促し、その日はお菓子を楽んだ。
そうだった、一つ語っておくのを忘れていた。捺香からのプレゼントの事だ。
皆が家へと帰って行き、俺は自室へと戻る。
よく大事な物をしまう鍵付の引出を開けると、そこから小箱を取り出す。いかにも高級感が漂う光沢のある黒塗りで、錠前で鍵がかかっている。
俺はその小箱の鍵を取り出し鍵を開け箱を開く、すると中から目の眩む眩しさを伴うものが姿を現した。
俺は柔らかい素材でできた手袋を手にはめ、慎重な手つきでそれを取り出した。
「こんな趣味はあるけど、流石に俺でもこれは手に余るよな。とりあえず大事にしようっと」
捺香が俺のプレゼントにとくれたもの、それは……。
十枚限定JWA開園特別記念金貨、純金製でそのお値段、なんと十万円なり。
捺香って何者だ!?
今更ながらに彼女の正体が気になってきた。




